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うさちゃんとリルとトェルとももちゃんのしあわせ暮らし
ウェザ
しおりを挟む僕の拒絶に、こぼれそうになった紅いひかりを避けるように、くるりと宙返りする少年の水の髪が、魔界の瘴気に流れる。
水のひかりが、ちらちら揺れて、少年の指先からこぼれ落ちた。
拍手しそうになった僕は、あわてて止まる。
おとーたに内緒で来た、あやしい精霊──!
気をゆるしたら、だめ、ぜったい──!
「きゅ」
心配そうにしてくれる、うさちゃんに、僕は微笑む。
「だいじょうぶ。あぶないかもしれないから、うさちゃんは、ももちゃんのところへ」
──きっと、ももちゃんが、守ってくれる。
「きゅ!」
紅い瞳で心配そうに見あげてくれる、うさちゃんに、僕は胸を叩いた。
「だいじょうぶ、僕、つよいから!」
緑のきみと、緑の精の攻撃を防げた。
あんなにたくさんの精霊たちが月の宮に射かけた矢も、粉砕できた。
魔界の瘴気は、きっと僕に力をくれる。
精霊の力を、奪ってくれる。
「だいじょうぶ!」
「……きゅ」
振り返りながらも、ももちゃんの方へ行ってくれたうさちゃんを背に、僕は水の精霊に向きなおる。
「かえってください!」
ばさりと広がる、僕の闇の翼に、水の精霊は、ちょこっとだけびくっとして、びくっとしたことを隠すように鼻を鳴らした。
「俺は至高五天、水のきみの正式な使いだぞ。
お前のことを報告する任務で来たんだ。
暴力的で精霊に向かって攻撃してくるって言われていいのか。
おまえの義父が、月のきみが、何と言われるかな?」
「……ぐ」
うなった僕は、仕方なく、掲げた手をおろした。
威嚇のための、紅いひかりも消えてゆく。
「話に来たんだ。茶くらい出してくれるんだろ?」
顎で庵を示す水の精に、ぷっくり僕はふくれた。
あやしい精霊に、お茶!
おとーたに、しかられそうだ。
ぷっくりな僕に構わず、庵に近づいた水の精は、僕とうさちゃんがつくった庵を見あげた。
「質素だな。月のきみの子が住まう宮とは思えん」
「僕と、うさちゃんで、つくったの! りっぱ!」
ぷっくりが止まらない僕に、水の精の瞳が、まるくなる。
「おまえが造ったのか! うさぎと?」
こっくりうなずいた僕に、水の精が笑った。
「すごいな、お前!」
びっくりした。
ほめてくれるなんて、ちっとも思わない精霊からほめてもらえると、どきどきする。
「なかに入れてくれないのか。お茶は?」
僕は首をふる。
「おとーた、知らない精霊や、あやしい精霊と魔族は警戒しなさいって。
簡単にお家に入れたらいけませんって、教えてくれた」
「チ」
舌打ちしてる!
あやしい!
「俺は調査に来たお客様なの! もてなすのが筋だろう!」
僕は首をかしげた。
「わいろ?」
「……お前、意外にむつかしい言葉知ってるな」
いやだったのに、リィフェルがお勉強させてくれた。
「……いやいや、おべんきょう……」
しょんぼり、うなだれる僕に、水の精が笑う。
ほがらかな声だった。
やわらかに波打つ水の髪が揺れて、僕の顔をのぞきこむ。
「俺はウェザ、水のきみの使いの水の精だ。お前は?」
「トェル」
水の瞳が、見開かれた。
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