【完結】お義父さんが、だいすきです

うさちゃんとリルとトェルとももちゃんのしあわせ暮らし

おちゃ

「……月のきみの子息リィフェルから、名の一部をもらったのか」

　こわばったウェザの顔が表すのは、驚愕と厭悪だ。

　うなずく僕に、ウェザは水の眉をしかめる。

「精霊界の頂点に君臨する月のきみの子息が、魔族の血の混じった人間風情に名を与えるなど……意味がわかっているのか」

　ぱちりと弾ける水のひかりに、僕は首をふる。

「名を削って与えるということは、己のすべてを懸けて守るということだ。
　命を懸けて護る、誓いになる。
　最愛の子にしか、名は割かれない」

　ほんのすこし背の高いウェザを見あげる。

「……そう、なの……？」

「何も聞いていないのか。……月のきみも、そういう方だな。子息もよく似ているらしい」

　吐息したウェザの言うことがほんとうなら、僕をひろってくれたあの日に、おとうさんは誓ってくれたのだ。


　──命を懸けて、僕を守ると。


　頬が、熱い。

　胸が、熱い。

　さいしょから、おとーたは、僕を、愛してくれていた。


　思うだけで、ふわふわする。

　だいすきで、別れたばかりなのに逢いたくて、とくとく胸が翔てゆく。



「……もしかして、俺、いらないことを言ったか」

　ひきつるウェザに、僕は首をふった。

「うれしい。ありがとう」

　ふうわり、笑う。

　見開いた目をそらしたウェザは、とがった唇で告げる。

「感謝するなら、茶くらい出せ！」

　ふるふる僕は、首をふる。


「知らない精霊は、お家に入れたら、いけないの。
　おとーたに、しかられる」

　ぜったい、だめ！

　ぷうっとふくれる僕に、ウェザの水の瞳が面白いものを見つけたようにひらめいた。


「お前、俺の美貌にも物怖じせずに忌憚なく物を言うな」

「びぼー？」

　首をかしげる僕に、ウェザ胸を張る。


「俺、めちゃくちゃ、かっこいーだろ！」

　ふぁさりと水の髪を掻きあげるウェザに、僕は反対側に首をかしげた。


「ふつー？」

「はァア──！？」

　ご立腹らしいウェザが、ビカビカしてる。


「僕が知ってる精霊、おとーた、あーりゃ、のー。おばあ……おかーた……？　えと、月のきみ、緑のきみ」

　僕のことを見逃してくれ、かくまってくれた精霊門の守護帥に迷惑はかけられない。
　ミーレのことは、言ってはいけないと思った。
　水の精を知っているだなんて、ここにミーレがいると言っているようなものだ。


「……くっ……！」

　僕のあげた精霊たちのお顔を思い浮かべたのだろう、敗北を感じたらしいウェザが膝をついてる。



「……お茶は」

「お家は、だめ」

　ふるふる首をふる僕に、ウェザは吐息する。


「じゃあ、ここでいいから。茶くらい淹れてくれ」

　ちょっと考えた僕は、こっくりうなずいた。


「うさちゃんと、ももちゃんに、いじわるしない？」

「しない！」

　憤慨したみたいに、ばしゃばしゃ水をあふれさせるウェザに、僕はこくりとうなずいた。


「待ってて」

　庵に入ろうとした僕は、うさちゃんを振りかえる。

　手をあげたら、ちいさな角がきらめいた。
　ももちゃんの緑の葉が、きらきら揺れる。

『だいじょうぶ』

　うさちゃんと、ももちゃんが言ってくれても、心配な僕は、庵の扉をあけたまま、お茶を淹れることにした。


　……しかられるかな……？


　心配です。