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おしえてあげゆ
しおりを挟むはじめての、ふかふかお布団で寝ました。
朝のひかりが、まぶたに降ったら、起っきの時間なのに、起きたくない……!
びっくりするくらい、あったかくて、びっくりするくらい、いい匂いがして、もぞもぞしたら、ムニャだった。
「むーちゃん、あったかくて、いーにおぃ」
うっとりして、むーちゃんの胸に顔をうずめて、二度寝しようとする、いけない僕を、あたたかな腕が抱きしめてくれる。
「もうちょっと……」
「あい」
お寝坊しても『飯を作れ!』『洗濯しろ!』『薬草を取りに行け!』叫んで殴る人は、もういない。
うれしいことなのか、さみしいことなのか、僕にはよく分からなかった。
ただ、ムニャの傍にいられるのが、うれしい。
ふかふかのお布団で、くっついて眠れる。
ぽかぽか胸が、あったかい。
「くしゅん!」
でもちょっと、ほこりっぽいのです。
お日さまにあてて、よく干さないと。
「くしゃん!」
僕のくしゃみが移ったみたいに、ムニャも、くしゃみをして、むずむずしてる。
長いまつげが、朝のひかりに、きらきらしてる。
「……んー……」
鼻をこすったムニャが、目をあける。
朝のひかりに星を宿したように、夜の瞳がきらめいた。
「むーちゃん、おあよ」
にこにこしたら、淡い朱の唇が、ぽかんと開く。
「……え……?」
びっくりしたみたいに僕を見つめた瞳が、ゆるやかに焦点を結んでゆく。
「……そうか、僕は、捨てられて……」
ほこりっぽい寝台で起きあがったムニャが、微笑む。
「おはよう、ぽて」
頭をなでなでしてくれる、やさしい指に、とろけて笑った。
「ぼく、あさごはん、つくゆ! ざいりょ、あゆ?」
首をかしげたら、ムニャは眉をさげる。
「……この家と、お金は、すこし、くれたんだけど……」
ムニャが指した小さな袋には、見たこともないほど輝く、不思議な模様の丸いお金が入っていた。
「ぴかぴか!」
「……その、僕は、買い物もしたことがなくて……」
しょんぼり落ちる肩を、なぐさめる。
「僕が、ぉ買い物、してあげゆ!」
瞬いた夜の瞳が、やさしく細くなる。
「頼りにしてるよ、ぽて」
あかぎれの手と、手をつないでくれた。
「ご飯を買うのに、お金は、これで足りるかな?」
ちいさな袋に入った金貨ぜんぶを持って、ほこりまみれのちいさな家を出ようとするムニャを、僕は止める。
「もってくの、いちまぃ!」
「……え?」
「ぴかぴか、おかね、みたこと、なぃの。きっと、とっても、たっかいの!
もってたら、とられて、ころされちゃう!」
ぶるりとムニャの身体がふるえた。
「……わ、わかった。1枚ね。ありがとう、ぽて」
ふるふる僕は首をふる。
「ぉとなな、ぼくが、むーちゃんに、おしえて、あげゆの!」
ムニャへと手をのばしたら、かがんで頭を差しだしてくれる。
なでなでして、ふたりで笑った。
暮らしていた街から、ずいぶん馬車で走ったところで僕は捨てられた。
この町のことは知らないけれど、下町で暮らした知識は、きっと役に立つと思う。
捨てられた子どもを育てる施設は、裕福な国にしかない。わざわざ遠くまで来たのは、捨てたのが周りに知られると、育てろと強制されるのが、うっとうしかったのかもしれない。
家の前に捨てたら、誰かが拾ってくれるか、下働きとして使ってくれると思ったのだろうか。
ムニャが、ひろってくれたから、あの人にはちょっと感謝してしまう。
たったひとりの家族に捨てられたことさえ、逢ったばかりのムニャの傍にいるだけで、遠くなる。
かわいいムニャを、世間を知らないムニャを、僕が守ってあげなくては!
まだちっちゃな3歳だけれど、色々させられたから、ちょこっとできる、おとなな3歳だ。
ムニャを立派に、養ってゆける!
「まかしぇて!」
どんと胸を叩いたら、ムニャが笑ってくれる。
「とっても頼もしいよ。ありがとう、ぽて」
「ぼく、ぼく、やくに、たつ?」
期待の瞳で見あげたら、目をまるくしたムニャの腕が、僕を抱きしめた。
「ぽてが、何にもできなくても。
僕は、ぽてが、たいせつだよ」
ぎゅうぎゅう、僕を抱きしめてくれた。
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