僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ

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あったかい

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 ふたりで、真っ白な泡で、あわあわになったら、涙の香りも遠くなる。

「ほわぁあ……! あったかぃ……!」

 はじめてつかるお風呂は、あったかくって、ふよふよしてる。
 歓声をあげる僕に、ムニャが笑って、浮きあがる肩をやさしく押さえてくれた。

「しっかりつかって、あったまってね」

「あい。むーちゃんも」

 肩を押さえたら、ムニャが笑う。

「数は、知ってる? 100まで数えてみよう」

「あい!」

 ふたりで数えたら、最初は楽しかったのに、だんだん、ぽやんとしてきたよ。

「……ろくじゅ……ふにゃ……」

「のぼせちゃった? たいへん! もうあがろうか」

 ムニャがやさしく抱きあげてくれる。

「……だっこ、して、もらって、ばっかり……ごめんね、むーちゃん」

 ささやいたら、ムニャは首をふった。

「ぽてを抱きあげられる体力があって、ほんとによかった」

 誇らしそうに笑ってくれた。


「お水を飲もうね」

「あい」

 不思議な水色の石にムニャがふれると、白い水差しに水が満ちる。
 ムニャが渡してくれた、冷たいお水を飲んだら、ぽわぽわしていたからだが、ちょっと、しゃっきりした。

 ぬくぬくになった身体を、ふたりで、ふきふきしたら、眠る時間だ。
 寝室には大きな白い寝台が、ひとつ、おかれてあった。

「いっしょに寝よう」

 微笑んでくれたムニャが、布団をめくってくれる。
 白いほこりが、暖炉の明かりを浴びて、ひらひら舞った。

 ちょっと鼻が、むずむずするけれど、もう遅いので、お掃除は明日なのです。


「おふとん、ぶあつぃ! すごぃね、むーちゃん!」

 ぽんぽんして、跳ねる僕に、ムニャが笑ってくれる。

「跳ぶのは、明日ね。
 今日は大変だったから、もう寝なくちゃ」

 やさしく抱っこして、僕を寝台に乗せてくれた。

 はじめて、くるまる、ぶあついお布団!
 あったかい!

 どきどきしていたら、隣のムニャが身じろいだ。


「……僕はもう、いなくなったほうがいいのかなって、思ってたんだ」

 ちいさなムニャの声が、しずかな夜に落ちる。


「真っ暗で、さみしくて、冷たくて。
 生きても、いいことなんて、ひとつもない気がしてた」

 さみしい声でささやいたムニャが、僕の顔をのぞきこむ。


「ぽてを、見つけるまで」

 ちいさなおでこが、僕のおでこに、くっついた。


「つめたくて、ちいさいぽてが、捨てられた僕の前に落ちてた。
 ……ほんとうは、僕みたいな、今にも、いなくなってしまいそうな人じゃなくて、家族がある人が保護するべきなんだと思うけど……」

 ムニャの指が、ふるえる。


「ぽてが、いてくれないと、僕は……」

 噛みしめられた唇も、ふるえてる。


「ぼく、むーちゃんの、そばに、いゆ。ずっと」

 ぎゅう

 ちいさな腕を、めいっぱい伸ばして、抱きしめる。


「むーちゃんが、さみしく、なくなゆ、まで、ずっと」

 ささやいたら、大きな腕がのびてくる。

 ぎゅうう

 あたたかな腕に、抱きしめられる。


「じゃあ僕はずっと、さみしいままでいる」

 つぶやきに、ちいさく笑う。


「さびしく、なくなっても、そばに、いゆ」

 ぎゅうう

 抱きしめたら、泣きだしそうな星の瞳で、うなずいてくれた。


「ぽてには、僕がいる。
 僕には、ぽてがいる。
 もう、ひとりぽっちじゃない」

 抱っこしてくれるムニャの腕のなかで、ふわふわ熱い頬で、うなずいた。


「しぁわせね」

 見開かれた星の瞳が、揺れる。


「……あぁ、そうだね。……これを、しあわせというんだ」

 ムニャの涙が、僕の肩を濡らしてく。


 ちいさな頭を、抱きしめる。

 さみしさを、かなしさを、くるしみを、なにもかもを、くるむように。


「ぼくが、いりゅ」

 おまじないみたいに、むーちゃんの胸に落ちて、むーちゃんを、あたためるといい。


 むーちゃんの、なでなでが、抱っこが、笑顔が、僕をしあわせにしてくれるみたいに。






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