僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ

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おしえてあげゆ




 はじめての、ふかふかお布団で寝ました。
 朝のひかりが、まぶたに降ったら、起っきの時間なのに、起きたくない……!

 びっくりするくらい、あったかくて、びっくりするくらい、いい匂いがして、もぞもぞしたら、ムニャだった。


「むーちゃん、あったかくて、いーにおぃ」

 うっとりして、むーちゃんの胸に顔をうずめて、二度寝しようとする、いけない僕を、あたたかな腕が抱きしめてくれる。

「もうちょっと……」

「あい」

 お寝坊しても『飯を作れ!』『洗濯しろ!』『薬草を取りに行け!』叫んで殴る人は、もういない。

 うれしいことなのか、さみしいことなのか、僕にはよく分からなかった。


 ただ、ムニャの傍にいられるのが、うれしい。

 ふかふかのお布団で、くっついて眠れる。

 ぽかぽか胸が、あったかい。


「くしゅん!」

 でもちょっと、ほこりっぽいのです。
 お日さまにあてて、よく干さないと。

「くしゃん!」

 僕のくしゃみが移ったみたいに、ムニャも、くしゃみをして、むずむずしてる。
 長いまつげが、朝のひかりに、きらきらしてる。

「……んー……」

 鼻をこすったムニャが、目をあける。
 朝のひかりに星を宿したように、夜の瞳がきらめいた。

「むーちゃん、おあよ」

 にこにこしたら、淡い朱の唇が、ぽかんと開く。

「……え……?」

 びっくりしたみたいに僕を見つめた瞳が、ゆるやかに焦点を結んでゆく。

「……そうか、僕は、捨てられて……」

 ほこりっぽい寝台で起きあがったムニャが、微笑む。

「おはよう、ぽて」

 頭をなでなでしてくれる、やさしい指に、とろけて笑った。


「ぼく、あさごはん、つくゆ! ざいりょ、あゆ?」

 首をかしげたら、ムニャは眉をさげる。

「……この家と、お金は、すこし、くれたんだけど……」

 ムニャが指した小さな袋には、見たこともないほど輝く、不思議な模様の丸いお金が入っていた。

「ぴかぴか!」

「……その、僕は、買い物もしたことがなくて……」

 しょんぼり落ちる肩を、なぐさめる。

「僕が、ぉ買い物、してあげゆ!」

 瞬いた夜の瞳が、やさしく細くなる。

「頼りにしてるよ、ぽて」

 あかぎれの手と、手をつないでくれた。
  



「ご飯を買うのに、お金は、これで足りるかな?」

 ちいさな袋に入った金貨ぜんぶを持って、ほこりまみれのちいさな家を出ようとするムニャを、僕は止める。

「もってくの、いちまぃ!」

「……え?」

「ぴかぴか、おかね、みたこと、なぃの。きっと、とっても、たっかいの!
 もってたら、とられて、ころされちゃう!」

 ぶるりとムニャの身体がふるえた。

「……わ、わかった。1枚ね。ありがとう、ぽて」

 ふるふる僕は首をふる。


「ぉとなな、ぼくが、むーちゃんに、おしえて、あげゆの!」

 ムニャへと手をのばしたら、かがんで頭を差しだしてくれる。

 なでなでして、ふたりで笑った。



 暮らしていた街から、ずいぶん馬車で走ったところで僕は捨てられた。
 この町のことは知らないけれど、下町で暮らした知識は、きっと役に立つと思う。

 捨てられた子どもを育てる施設は、裕福な国にしかない。わざわざ遠くまで来たのは、捨てたのが周りに知られると、育てろと強制されるのが、うっとうしかったのかもしれない。
 家の前に捨てたら、誰かが拾ってくれるか、下働きとして使ってくれると思ったのだろうか。

 ムニャが、ひろってくれたから、あの人にはちょっと感謝してしまう。
 たったひとりの家族に捨てられたことさえ、逢ったばかりのムニャの傍にいるだけで、遠くなる。

 かわいいムニャを、世間を知らないムニャを、僕が守ってあげなくては!

 まだちっちゃな3歳だけれど、色々させられたから、ちょこっとできる、おとなな3歳だ。


 ムニャを立派に、養ってゆける!


「まかしぇて!」

 どんと胸を叩いたら、ムニャが笑ってくれる。


「とっても頼もしいよ。ありがとう、ぽて」

「ぼく、ぼく、やくに、たつ?」

 期待の瞳で見あげたら、目をまるくしたムニャの腕が、僕を抱きしめた。


「ぽてが、何にもできなくても。
 僕は、ぽてが、たいせつだよ」

 ぎゅうぎゅう、僕を抱きしめてくれた。






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