最愛の番になる話

屑籠

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「あれ? 咲ちゃんなんで風都と仲良くなってるの?」

 普通に接していただけなのに、啓生は俺と風都の距離感に疑問を持ったらしい。

「え、と、すこし話をしたから」
「そうなんだ。風都の話、楽しかった?」
「いや……自分が無知だって思い知らされた」

 どういうこと? と啓生は首を傾げたが俺は答える気がなかった。
 もちろん、風都も答えないだろう、多分。

「まぁ、仲が悪くて交代するよりマシだよね。風都なら、咲ちゃんに手は出さないだろうし」
「啓生さんは、風都さんについて知ってるの?」
「ん? もちろん。よく知らない人を咲ちゃんにつけるわけ無いじゃん」

 何言ってるの? と当然のように言う啓生に俺は少し首をかしげた。
 
「じゃあ、何で宗治郎さんを選んだの?」
「わぁ、ド直球。きらいじゃないけどね。そうね、そーじろーを選んだのは、その方があってると思ったから、かな? 風都は僕に従うって質じゃなさそうだったし」
「アルファ同士だからわかるかんじなの? それとも、啓生さんだから?」
「僕だからっていうのももちろんあるし、直感っていうのもある。それに、アルファ同士っていうのももちろんかんけいしてるだろうね。まぁ、風都といっしょにいたらどっちが主人だかわからなくなるしね」
 
 あっはっは、と笑うけど、確かにそうかも知れない、と啓生と風都を見て思う。
 ふふっと笑いながら、紅茶を入れ直す風都もそう思っているのだろう。

「それで、僕に会いたいって聞いたけど、何かあった? 風都が気に入らない?」
「啓生様、ひどいですよ。こんなにも心を込めてお仕えしておりますのに」
「いや、ほら、風都だし」
「これだから啓生様にお仕えするのは嫌なんです。本当に、咲也様が主で良かったです」
「あんまり、近づかないでね。僕の咲ちゃんなんだから」
「わかっておりますとも。えぇ、同じアルファですので」

 アルファだから、最近良くその言葉を聞く気がする。
 啓生が、咲ちゃん? と俺の顔を見て手を伸ばしてくる。
 触れた手は、暖かくてほっと息をはく。

「どうしたの? 何か、気にいらなかった?」
「いや、そうじゃなくて。別に、気に入らないとかじゃないから」
「ん? でも、何か気になったんでしょ?」

 ねぇ、どうしたの? と覗き込んでくる啓生に、少し考えたあと、そっと口を開いた。
 ここで押し黙ってても啓生は納得しないから。
 
「……アルファだからとかオメガだからとか、俺には分からない、から」
「あぁ、なるほど。そっか、そうだね」

 俺は、小さい頃からずっとベータで、それ以外を知らないから。
 オメガの普通もアルファの普通も分からない。
 啓生は、その事に納得したらしい。

「んー、価値観の違いかな? 難しいね」
「それは、でも、仕方無いことだと思う。その事に俺が引っかかりを覚えるのだって、どうしても無くせないことだろうし」
「そうだね。咲ちゃんの憂いを無くせないのは悔しいかな」
「俺も、そのうちオメガだからとか思うようになるのかな。そんな実感がなんにもないんだけど」
 
 ふふっ、と啓生が笑う。
 だけど、頬に触れている手にどうにも安心してしまうのは、やはりオメガだからなのか。
 複雑な気持ちになってぎゅっとその手を握りしめたら啓生は驚いた顔をした。

「咲ちゃん……、あぁ! もうなんて可愛いんだろう! もう、この世の生み出した奇跡だよね! 僕の番が咲ちゃんでよかった!」

 あぁ、幸せ! と啓生の周りには華が舞っているようなそんな顔をしている。
 いや、本当にこの人アルファなのか?
 
「け、啓生さんは俺のことをよく可愛いって言うけど、俺って平凡な容姿だと思うんだけど」
「え? 咲ちゃんは可愛いよ? ねぇ、そーじろーも風都もそう思うでしょ?」
「えぇ、咲也様は一般的なオメガの方と比べ男らしさがありますが、それでも可愛らしい方だと思いますよ」

 宗治郎が頷き、そして隣の風都も頷いている。
 俺の感覚が、オカシイだけなのか?
 いや、でも俺よりも可愛いって人はたくさんいるし。
 
「その通りですね。それに、お話した通り、咲也様は私の理想の主ですので、大丈夫です」
「ちょっとまって、最後の可愛いとか平凡とか関係ないよね?」
「まぁまぁ、いいじゃんいいじゃん。咲ちゃんが可愛いことに変わりはないんだからね」
「いや、なんか腑に落ちないんだけど。……まぁ、いいや」

 平凡だと思うんだけどな。それも、この空間にいるのが俺以外アルファだからか。アルファの感覚が本当に分からない。

 それからしばらくして、俺はこの部屋から最初に啓生に抱かれたマンションの一室に引っ越した。
 もちろん、風都も一緒に。広い部屋で、宗治郎も一緒の部屋だった。むしろ、啓生と宗治郎が使っている部屋に転がり込んできたと言ったほうがいいのか。一人ひとりの部屋を決めてもまだ部屋があるってすごいよね。
 引っ越すときに、啓生の祖母たちにお見送りをされた。たち、というのは祖父の兄弟の番の人たちだ。
 啓生の父親世代の番たちは一緒に引っ越しをしていく。またね、と恵は言って初めて見た彼の番の連星といっしょに引っ越していった。連星とは初めて会ったけど、とんでもなく啓生とそっくりだった。これが5年後の姿かとまじまじ観察してしまった。 ”恵~! あぁ、今日も一段と可愛いね! 君がいるだけで世界が明るいよ!”と抱きついて頬ずりして、”連星様、いい加減にしてください”とお付の雪藤に言われている所までひとセットでそっくりだ。
 啓生の母親も父親に連れられて行ったし、この屋敷から大部分の人が居なくなる。
 ちなみに、この父親にして啓生ありと思うぐらい、やはり似ていた。四方の血筋が似るのか、それとも優性遺伝子を引き継いだらこうなるのか、と思うぐらい容姿も性格もそっくりだった。

「なるほど、だから叔父さんと歳が近いのか。うん、僕にも弟か妹ができそうだね」
「へ?」
「あぁ、心配しないで。咲ちゃんの学校の準備もちゃんとしてあるからね」

 何を言っているんだろうと思ったけれど、啓生が約束を忘れていない事に、少し安堵した。

「オメガ科?」
「そう。咲ちゃんが通っていた学校じゃないんだけどね」

 高校の話をしたことはないけど、それを知っているってことは俺のことをある程度調べているのか、と少し納得してしまった。いくら番とは言え、何も知らない不審人物を近くに、それも四方の大事なところに置くことはないだろうと。

「僕が心配だから、そーじろーに頑張って探してもらったんだ。そこなら、護衛として風都も連れていけるしね」
「ありがとう、ございます」
「だけど、心配だから寄り道とかはさせてあげられない」
「別に、大丈夫」

 俺は、どうしてそんな事を心配しているのか、少し不思議に思う。
 多分、この時期に転校していくのだから、友達などもできないだろうし、オメガ科という事は同じクラスの人もあまり自由はないだろうし。
 
「そう? 外では、絶対に風都から離れないでね」
「うん、わかってる」

 真剣な顔をして、啓生が言うから思わず少し引いてしまったけど。
 それでも真剣にお願いされている以上は、ちゃんと答えたいと思った。
 俺の返答に何か不満だったのか、啓生がそのまま眉間にシワを寄せて首を傾げた。
 
「咲ちゃんは、面倒になったりしないの? 僕のこと」
「え、何で?」

 というか、突然何? とこっちが驚いてしまう。
 別に、面倒だなんていつも思ってるしそれがアルファなら仕方がないと思うし。
 今更、面倒だと言ったところで、何も変わらないだろうに。
 
「僕、かなり面倒な性格していると思うんだよね。まぁ、アルファとしては標準的かな? とも思ってるけどさ」
「ん? あ、いや、俺はその……啓生さんが俺のこと大事にしてくれているのわかってるから」

 大事にされている。そう、それは坂牧に居た頃よりもずっと。
 それは、ひとえに啓生に愛されているから。啓生の番だから。
 だから、受けられている愛だとわかっている。俺自身がなにかしたわけではない。けど、それがアルファオメガでは普通なのだろう。俺にはわからないけど。
 
「あら、まぁ! ねぇ、聞いた!? めちゃくちゃ可愛いこと言ってくれるんだけど!! 僕、とても嬉しい!」
「うるさいです、啓生様」
「よかったですね、啓生様。咲也様、お飲み物を新しく致しますね」

 二人は、いつもの事、みたいに啓生の言葉をスルーしてる。
 風都はいつもどおりの笑顔だし、宗治郎は呆れた顔をしてた。
 アルファって同じアルファのこと、余り尊敬してない感じなのかな?
 それとも、この三人だからなのかな?
 
「え、ちょっとスルー? 咲ちゃんがこんなに可愛いのに?」
「咲也様が可愛らしいのは存じております」
「咲ちゃんは僕の番なんだからね」
「わかっております、面倒くさい人ですね」
「相手にしなくていいですよ、風都。それよりも」
「えぇ、もう夜も近いのでココアに致しましょう」

 答える前に会話が進んでいく。
 新しい飲み物が欲しかったのは本当だし、気がついてくれてありがたいんだけど、俺、この人たちに囲まれてこれから大丈夫だろうか?
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