最愛の番になる話

屑籠

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21 啓生

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「しかし咲ちゃんは本当に、坂牧の家族にいい思い出が無いみたい……忌々しい」
「啓生様、本性が出ておいでですよ。……咲也様が寝ていらっしゃってようございましたね」
「咲ちゃんに見せるわけないじゃない? あー、可愛い」

 んふふ、と自分の上に居る咲也を啓生は愛でる。
 寝ている咲也をそのまま撫でていると、寝ていて素直になっているのか、にこにこ笑っていた。
 
「いつも、これくらい笑ってくれればいいのにね」
「そうですね……」
「咲ちゃんはいつも難しい顔をしてるけど、何も考えずに笑えたらいいのに」
「それは、啓生様の腕の見せ所ですね」

 啓生はその言葉に苦笑する。
 それは、四方のアルファにとって永遠の課題だからだ。
 番を笑顔にする、そんな単純で、そして難しい事。
 咲也を愛して、危険から遠ざけるだけじゃ足りない。

「そうだね。はぁ~……試行錯誤してても咲ちゃんが笑ってくれることなんてあまりないんだよね。あと一年も無いのに」

 館の改修が完了するまで、咲也と四六時中一緒に居られるのはその間しかない。
 もちろん、四方の檻に会いに行くことは可能だけれど、この生活とどちらがいいかなんてわかりきってる。
 特に、番を持ったアルファオメガなら。
 
「えぇ、ですので咲也様の悩み事はなるべく解消していただきたいのですが」
「わかってるよー、でも仕方がないじゃない? 僕だって咲ちゃんのためにいろいろ動いてるっていうのにぃ」
「それを、咲也様はまったく感知してませんが」
「もうそろそろ、結果が見え始めてくるけどね」

 蒔いた種はもうすぐ芽を生やすだろう。
 その為に、咲也を連れまわして、そして接触させた。
 当然、雪藤としか情報の無い僕の事を調べ始めただろう。
 それは、直接接触した彼らだけじゃない。
 
「それもそうですね。さて、咲也様がねていらっしゃると、やる気が起きませんね……どうしましょうか?」

 そう言って、風都は咲也の顔を覗き込みながら聞いてくる。
 近い近い、と風都の顔を押して、ふむ、と考えた。

「咲ちゃんが起きないと、どうしようもないよね。今日は咲ちゃんのために開けてた日だしね」
「来週の今頃はそれどころでは無いでしょうし」
「そうですね……片手で食べられる物をお持ちしたので、お召し上がりください」

 発情期が始まる予定だから、そもそも食べ物を食べられるかどうかも怪しいぐらいだ。
 啓生がオメガの発情期に付き合ったことはないし、啓生に使えている宗治郎も同じく。
 そして、風都が通っていた執事の養成学校でもアルファやベータばかりで、オメガに会う事なんてあまりなかった。
 だから、三人が知っているオメガの発情期とは、知識によるものでしかない。

「ありがと、そーじろー」
「食べながら聞いてください。坂牧ですが」
「あぁ、あれの結果が出てきたの?」
「えぇ。それに気が付いているのは、咲也様の父君、尚寿さんと兄君の尚志さんだけですね。それでも、いろいろと動いているのは尚志さんだけのようですが」
「ふぅん……やっぱり、彼は微妙な人だね。何というか……坂牧の家をつぶそうとしてる?」
「そのようですね」

 だよねぇ、とあの格上アルファに対してのやる気の無さにそう感じた。
 アルファの怒りを買って、そして家を潰そうと……なんでだろう?

「あぁ、でも咲ちゃんが尚志を気にしてるんだっけ? 他の兄弟の話は一切聞かないのにね」
「えぇ、むしろほかの兄弟の事を咲也様はどう思っていらっしゃるんでしょうね」
「あんまり好きじゃなさそうだけどね。双子の兄だっていう光也に対しては苦手意識をめちゃくちゃ出してたし」
「あとは姉がお一人いらっしゃったかと。でも、咲也様とかかわりがあるかと言えばそうではなさそうですね」
「……あとは、現当主の爺たちだねぇ。老害はちゃんとお掃除しないとねぇ。お掃除出来てないから、千手はだめなんだけどね」
「アルファ至上主義ですか。それで、ベータ差別主義者たち。何とも、下位のアルファにありがちな腐れ外道ですね」
「仕方がないよ、だってそれが彼らの意義だもの。だから、ちゃあんと上位アルファである僕が潰してあげようと思ってね。ぺったんこに」
 
 身の程を教えてあげるのも、上位者の役目だもの。
 仕方がないよね? 出る杭は打たれるんだから。
 僕の番が、自分たちの一族からでたのは不運なのか、因果応報なのか。
 まぁ、僕が知ったことではないけど。

「それから、一条様より横やりが入っていますね」
「一条様? 一条って、あの律緒? 何でまた……」

 宗治郎が様付けをして呼ぶ相手は、格上しかいない。
 アルファ何て大体そんなものだけど。年功序列何て無くて、ただただ能力だけがアルファの格を決めつける。
 そして、宗治郎は四方の血を引く。そして、一条に宗治郎より強いアルファ何て限られている。
 何せ、彼らは一条で、そして僕たちは四方だから。
 
「それが、一条様と尚志さんが幼馴染のようです」
「幼馴染って、あの御崎 律都って言う? 御崎って、あぁ、なるほど。僕にとっての雪藤と同じか。って言うか偽名?」

 幼馴染、それだけでは気が付けなかった。と言うか、そこまで興味が無かったともいうけど。
 それに、御崎 律都は実在する人物だ。僕が名乗る雪藤 啓生のように雪藤に居ないわけじゃない。
 それでも少し律都と律緒は年が離れていて、律都が幼馴染としては変だなとは思っていたけど。
 
「そのようですね。その一条様より、坂牧尚寿家には手出し無用と」
「一条が、四方に命令するわけ? 気に入らないなぁ」
「坂牧はどうでもよいみたいですが、どうやらあの家族にお気に入りがいるみたいです」

 怪しいのは、同い年だという尚志か。
 長女の事は知らないけど、光也だとしたら趣味が悪すぎる。
 まぁ、運命なら仕方がないけど、一条は運命なんか信じちゃいない。
 運命は自分でつかみ取るもの、そういう家訓があるぐらい。だから、一条は相手の性別何て気にしていない。
 四方と同じく一途ではあるけれど番に対する方向性が正反対なのは否めない。
 
「咲ちゃんの実家にねぇ。まぁ、でも僕の最終的な狙いは坂牧家の現当主たちだし、別にいいけどね。咲ちゃんの前に現れないのであれば」
「そのように、お伝えしておきましょう。尚志さんも、同様でよろしいですか?」
「あぁー、咲ちゃんが懐いてたんだよねぇ。でも、彼はアルファだからあんまり会って欲しくは無いけどね」
「それでも、お止にはならないと。成長しましたね、啓生様も」
「えっと、僕の事なんだと思ってるの? 小さな赤ちゃんとか幼児とかそんな感じに思ってるの?」
「ほぼ、変わりませんね」
 
 僕はいつかこの失礼な使用人たちをクビにできるんだろうか?
 気の置けない親戚だからこそ、自分の番の世話を任せられるのだけれど。
 
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