アルファだけど愛されたい

屑籠

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「すごいね、君のフェロモンは覚醒前と変わらないみたいだ。ただ、番には違うように感じるのかな?」
「まて、それ以上話すな」
「え、あの……」

 次の日、様々な検査のために施設へとやってきた俺たちは別々に検査を受けることになった。
 そしてその結果を持って、紺野はほくほくとした顔をしている。
 俺のフェロモンは、紺野にとって宝のようなものだ。
 隣で、緑は照れたような顔をしているけど。

「このフェロモンを基にして、副作用の少ない抑制剤が少しでも多く世に出回れば、不幸なオメガだって救えるかもしれない」
「オメガ全体を不幸だと決めつけるなよ」
「もちろんオメガだけが不幸だなんて決めつけてないよ。ただ、抑制剤さえあれば普通の生活が送れる子だって沢山いて、その手助けがしたいんだ。それにね、君のフェロモンを使えば、番に捨てられたオメガも救えるかもしれない」

 これには、俺も緑も驚いていた。
 番に捨てられたオメガの末路は悲惨なものだ。
 だが、それを救えるのであれば、研究に協力するのも悪くはない。
 元より、オメガの抑制剤の件だって、酷くなれば命だって救える研究なのだから、協力しないわけはないのだが。
 俺は、オメガの大変さもアルファのプライドも分からないから。

「そんな、そんな薬が本当にできるのでしょうか?」
「できる出来ないじゃなく、私の生涯を通して作らないといけない薬だと思ってるよ」

 未だ、番に捨てられたオメガの喪失感を癒す薬などない。
 けれども、それができたとなれば、それはとてもすごい発見である。

「併設された病院にも、番に捨てられたりした不幸なオメガがたくさんいる。あの子たちを救えるのなら、と私は思うのだよ」
「紺野は……優しいんだな」
「私が優しい?そんなことはないよ。本当に優しいなら、彼らを使って抑制剤の実験などしないはずだもの」
「それでも、優しいと思います。実験、と言いますが彼らだって望んで協力しているのでしょう?」

 そう、春も拾われたオメガの一人として紺野の役に立ちたいと望んで協力していた。
 困ったように笑った紺野はありがとうと笑う。

「さて、今日はこれぐらいにしようか。この後、役場に行くのだろう?」

 あぁ、と俺は頷く。緑との番証明と、婚姻届けを提出しに。
 そうすれば、俺は完全にあの家から独立した戸籍を持つことになる。
 一人で、いや、これからは緑と二人で。

「ならば、この診察結果を持っていくといい。スムーズに事が運ぶだろう」
「ありがとうございます、社長?」
「やだな、冗談でもその呼び方はうれしくないよ」
「……俺はあんたの友達になった覚えはないんだけどな」

 あはは、と紺野は笑う。
 ここに初めて来たときよりも自然で、楽に。
 番を閉じ込めているのとそうではないのでは、精神的にも違うのだろうか?
 ただ、今ならわかる気がする。
 緑と言う番が居る、今なら。
 役場に、紺野からもらった診断書を一緒に提出すれば、おめでとうございます、と微笑まれた。

「これを提出すれば、俺と本当に結婚することになるけど、いいの?」

 婚姻届けを持って、窓口から少し離れた場所で、そっとつぶやく。怖くて、顔は見れなかった。

「もちろんです。俺を、陸さんの家族にしてください」

 そっと、緑が俺の手を包み視界の端で笑った。
 順番が来て、窓口に提出する。
 無事に受理され、俺と緑は家族となった。
 プロポーズ的な事なんて何もなかった、と提出してから思う。
 それが普通だと思っていたから、何も、予定だけ話してここまで来てしまった。
 役場から出て、緑に尋ねる。

「俺、番なんだから、って進めちゃったけど、よかった?そう言えば、プロポーズも何も……」
「平気ですよ。むしろ、俺と結婚してくださってありがとうございます」

 そうやって、奇麗に笑うから、俺は緑を抱きしめた。

「俺がこうして外を出歩けるのも、陸さんが居るからですし。番に見つかったら、家に閉じ込められるとばかり思っていたので、こうして外を出歩けることもうれしいんです」
「……あまり、長い時間は不安だけど、俺は緑の行動を制限したりなんかしないよ」

 そもそも、そんな感覚はない。その辺の感覚はベータに近いのだと思う。
 両親がベータと言う弊害?なのか、それとも……。

「はい。ありがとうございます」
「……帰ろうか」

 はい、と緑は俺の手を引っ張って歩き出した。
 その姿がまぶしくて、俺は眼を細めた……。
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