アルファだけど愛されたい

屑籠

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 それから三日、俺は緑と籠った。
 三日、という日付感覚はなかったが、そろそろいいかな?とやってきた紺野に教えられた。
 本当の発情期ではなかったから、三日で済んだのだった。
 緑はまだベッドの上の住人ではあるが。

「うんうん、フェロモンも収まったようだね」
「おかげさまで……」

 あんまり部屋から離れたくないけれど、今の緑の姿も見せたくない。

「うーん、本当は検査とかいろいろ連れまわしたいんだけど……今は採血だけで我慢しておくよ」

 と、結構の量、血を取られた。
 お陰で少し貧血気味だ。
 紺野たちが満足して帰ると、陸さん、とかすれた声がカーテンの後ろからかけられる。

「起きたのか?」
「うん……あれ?注射の跡?」
「ん?あぁ、さっきまで紺野が来てて……もう帰ってもいいってさ。俺の家に連れて行ってもいいか?」
「はい……もう少し待ってもらいたいんですけど」

 苦笑すると、緑はむせ始めた。
 喉を酷使していたのだ。慌てて俺は水を飲ませる。
 
「わるい……手加減できなかった」
「いいえ。俺も、そうして欲しいと望んだんですから」

 緑の笑顔にはいつも癒される。
 緑が回復するのと同時に俺の方も少し休まないと動けそうにない。
 はぁ、と近くの椅子に座り、天井を見上げた。
 
「早く帰ろうな」
「ふふっ、楽しみです」

 俺にとっては帰るだが、緑は来る、なのかもしれない。
 が、これからは帰ってくることになるのだから、それでいいか、と考えることをやめた。
 はぁ、とため息を吐いてできるだけ早く部屋に帰ることに。
 紺野の会社員である俺が、紺野にこんな態度をとっていていいのか、そういうのも気になりはしたが、それも、いろいろと緑の顔を見ていればどうでもよくなってくる。

「ここが……すごく広いお部屋ですね」
「え?あぁ……紺野……俺の勤めている会社の社長の好意でね。安く借りられているんだ」

 最初は、住むことにも戸惑いはしたけれど……今は、慣れてしまって何とも思わない。
 だが、やはり一般的なアパートなどと比べれば一人暮らしなのに広すぎと思うのは間違いではないらしい。

「緑の部屋も用意しないとな……どこにするか」

 一つの部屋は書斎として使っているし、一つは寝室になっている。
 となれば、と緑の腕を掴んで寝室の隣の部屋へと案内した。

「ここが、緑の私室になるかな。あと一つは今、客間になってるし……寝室は隣の部屋だから、使い勝手もいいだろうしね」
「え、でもそれだったら陸さんが使った方がいいのでは?」

 俺は首を振り、笑う。

「俺の私室なんてないから。あえて言うなら、書斎がそこの通路の一番左側の部屋がそう。仕事の資料とかいろいろ置いてあるから、あんまり入ってほしくはないな」
「わかりました。でも、いいんですか?」
「もちろん。あんまり俺も隠すことなんてないしな……」

 そもそも、俺のプライベートなんてあってないようなものだった。
 俺の部屋にだって、母や兄弟たちは普通に入ってきていたみたいだし。何をしていたのかは知らないが。
 だから、最低限のものにしか執着はしなくなったし、普通に置いてあるものは失っても壊れてもどうでもいいものだと思っている。

「じゃあ、遠慮なく……」

 引っ越し用の手配をするかどうかも相談して、荷物を運ぶ日も俺が暇な日を選んでもらった。
 紺野に連絡をすれば、明日から出勤で大丈夫との話だったので、俺たちはとりあえずの必要なものを買いにと、少しばかり運べるものを運びに、ショッピングと緑の家まで向かうことにした。
 流石に車が必要になると、レンタカーを借りて。車自体は、免許はあるものの、所持はしていない。
 乗る暇もないのに買ったところでと思っていたし、そんな暇もなければそうするならお金を貯めて家をでたいと思っていたから。
 まずは、緑の家によって、緑の部屋で必要なものを運ぶ。
 家の人は、お手伝いさんが居るだけで、他の母親や父親、兄弟など見当たらない。
 不思議に思っていると、緑が少し説明してくれた。

「俺の家は、両親が番で、でも二人とも仕事人間で……父は会社を、母は離れでネットのプログラミングをする仕事をしてます。兄弟も出かけてますから、基本、この本邸に家族はいないんです」

 へらり、と笑う緑がなんだか辛そうで、悲しそうで、俺は思わず抱きしめた。
 早く、ここから出ようと言って緑を急かす。そんな俺に驚いたような顔をしてから、ふっと息を吐きだす緑は、そうですね、と笑った。

「そうですね、早くしないと日が暮れちゃいます」

 お夕飯の準備が、と緑は急ぎだす。
 夕飯の買い出しもしなければならないだろう。
 そんな緑の様子を見ていると、俺まで笑ってしまう。
 二人で協力して、必要なものを集めると、お手伝いさんにお邪魔しましたと頭を下げて車へ戻った。
 本当に帰ってこないし、母親も本邸の様子を気にすることもないようだ。
 なんの障害もなく緑の家を後にして、なんだか拍子抜けだったか?と思いながらショッピングモールへと向かった。
 食器や食材を買いながら、あれこれと家具なども見ていく。
 クローゼットなどは備え付けのものもあるし、直近で必要なものはないだろう。
 ちなみに、男の一人暮らしだとてフライパンなど必要最低限はそろっているので問題はない。
 米ぐらい炊ける。
 そんなくだらない話をしてると、少し緑はふとしたような顔をした。

「俺……俺の家は普通じゃないかもしれないんですが、俺自身は普通の、ごく普通のオメガだと思っています。陸さんが特別なアルファだと聞いて、俺が本当に運命の番でよかったのかって少し不安で」
「……普通で良いんじゃないのか?」

 何が問題なんだ?と俺は少し首を傾げた。
 普通なことに、問題があるのだろうか?

「えっ?」
「俺は確かに珍しい産まれのアルファかもしれないが、たぶん俺だって普通のアルファとそんなに大差ないよ。むしろ、普通で良いんじゃないのか?と俺は思うよ。そんなに特別がいいなら一つだけ、緑にはあるよ」
「一つ?俺に?」
「わからない?……緑は俺の特別な相手だってこと。それじゃダメ?」

 ぶわり、と途端に緑の顔が赤く染まる。
 だ、駄目じゃないです、と顔を隠しながら言うから少しくぐもって聞こえた。かわいい。
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