アルファだけど愛されたい

屑籠

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 行き場のない、抑制されたフェロモンの抑留。それが、アルファの、自分の本来持っているフェロモンだと気が付くのに、そうそう時間はかからなかった。
 本来、アルファであれば、自分の性が決まる時には知るはずのそれを、変にベータであったために今知ることになるなんて。
 子供のころにかからなかった麻疹に、大人になってからかかると酷くなる、というそんな感じだろうか?

「……って、そんな事を考えている場合じゃないか」
「陸さんっ!」

 どうでもいいことを呟いて目が覚めるなんて……。
 そんなことを思いながら、目に入ってきた緑に顔が自然とほころぶ。

「おはよう、りく」
「緑ですよ、陸さん」
「緑?そっか……俺の聞き間違いかぁ。いい名前だね、俺の番さん」

 はい、とにっこり笑い、俺が手を伸ばせば、手を包み笑い、ふわり、と花の香りが広がる。
 どうにもこうにも、官能を刺激する匂いだ。これが、オメガのフェロモン……。

「ねぇ……俺の、番さん?」
「はい?」
「ちょっと、限界かも……」

 えっ?と少し驚いた顔をした彼の腕を引いて、ベッドへと押し倒す。

「ちょちょちょ、待って待って。私たち居るの忘れてない?」
「……紺野?」
「そうそう、私、わたし」

 いるの忘れているというより、いたとしても知らなかったらどうしようもないだろ。
 というか、ほかに医者のような者たちも数名見える。
 ここは……と辺りを見回して、気が付いた。

「ここ、あんたの病院か……なるほどな……?」

 はぁ、と長い溜息を吐いた俺はベッドから降りる。
 見れば、俺の姿は、病院の患者が着るようなあの着物。

「そんで?」

 胡乱な目で紺野たちを見つめると、苦笑されてしまった。

「とりあえず、そのフェロモンの放出をやめてもらってもいいかな?」
「……俺の?」
「そう、君の。多大な攻撃フェロモンは実に興味深いけれど、私以外がすごくおびえてしまっていてね。これ以上近づけない状態だよ」
「放出をやめるって言ってもな……どうするんだか」

 さっぱり制御ができない。少量からあふれ出すフェロモンを幼い時から感じ取り制御するアルファのフェロモンが今、一気に押し寄せているのだ。
 どうすればいいのかなんて、俺にはわからない。
 この状態も、たぶん二、三日たてば、収まると思うが……どうだかな……。
 それよりも、俺の気持ちが大事だというのであれば、それもまた、二、三日経たないことには収まらないだろう。
 そもそも、俺の番がそこにいるのに、理性を持たせるので精一杯なこの状況だ。
 邪魔者としか思えないから本当に落ち着いてから来てほしいな。

「……二、三日後にしてくれ。それから、ここには誰も入れるな」
「陸さん?」
「もう、理性が持ちそうにないんだよ……頼むから、食わせてくれ」

 腹が減ったわけでもなく、飢えている。
 かの、俺の番に。
 そもそも、自分の番に会えば、発情期でもないのに発情するのは当たり前だ。それを教えたのは、紺野のはずなのに。

「わかった。食料だけ、期を見計らって差し入れするよ」

 ハイ撤収、とあきれたような顔をしながら、紺野は去っていった。
 はぁ、と息を吐き、そっと緑を見る。

「あぁ、もう……ムードってもんがないな」
「ふふっ、それでもあなたは求めずにはいられない……」

 そうでしょう?とその濡れ羽色の瞳に見つめられれば、否定もできない。
 俺は、この男が欲しいのだと。
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