アルファだけど愛されたい

屑籠

文字の大きさ
9 / 13

9*閑話*

しおりを挟む
 おっと、と抱き留めれば苦しそうに呻く陸さんの声。
 どうしようか困っていれば、慌てたように彼の知り合いだろう人々が駆け寄ってくる。

「りっくんっ!!」
「天川君!?」

 彼らが、陸さんの知り合いであるのはわかる。
 だから。

「あの……、陸さんは」

 俺が声をかければ、二人の目が俺に向く。ちょっと怖い。
 俺が苦笑いして陸さんの様子を問うと、あぁ、とようやく彼らのほうから君は?と声がかけられた。

「俺は、陸さんの番です。安岡緑(やすおかろく)。彼はりくって俺を呼びましたけど」
「ろっくんか……似てるね。それで……」
「羽化だ……うむ、彼は運んだほうがいいね。私のほうで車を用意しよう。君はどうする?」
「俺は……俺も陸さんと一緒にいます。目が覚めた時、きっと俺がいないと暴れるでしょうから」

 何となく、そんな予感がする。
 陸さんは俺を探して暴れまわるだろう。
 彼と出会ったのは今日が初めて。俺は、去年まで学業に専念していて、年に一度の大きなパーティにしか出ていなかった。
 今年からは、家の人と話し合った結果いろいろなパーティに出席して番を探す予定だったけど……こんなすぐに見つかるとは。
 俺の番を見て思う。アルファなのに自身がなさそうで、頼りなさそうで。
 愛してほしいと、愛されたいと己の全てで叫んでいて。
 俺が、触れてしまったから。愛しいと思ってしまったから。
 だから、俺を離してはくれないだろう。俺も、それでいいとさえ思っている。

「君の、ご家族へはいいのかい?」
「えぇ、構いません。俺の家族は、そういう事にあまり興味はありませんから」

 ふっと、身なりのいいアルファのほうの眉間にしわが寄る。
 あぁ、誤解させてしまったか、と慌てて手を振った。

「えっと、虐待されているとかじゃなくて、えっと……なんて言ったらいいのか……」
「君が、その……不遇を受けているわけではないのならいいんだ」
「えぇ、それはありません。ただ、俺は後継ぎではないので、大丈夫なんです。父と母には虐待もされていなければ、不遇も受けた覚えはありません。まぁ、俺に無関心でもありますが」

 ん?と少し、それはある意味虐待も等しいのか?と考えたが、放任主義、とも言い換えられるし、愛されていなかったわけでもない。
 だから、うーん?と少し首をかしげてしまう。

「まぁ、君がいいならいいんじゃない?それより、のり。早く、りっくんをどうにかしないと」
「あぁ、そうだね。とりあえず、研究棟の一角のほうがいいかな」

 そうして、彼は陸さんを運び入れるために手配を整えてしまう。
 俺ももいっしょに運ばれて、病院のような施設に入った。
 聞けば、紺野さんは有名な製薬会社の代表取締役らしい。
 そして、陸さんはその秘書だと。まぁ、秘書というのは置いておいて保護対象であるとも聞いた。
 特別なアルファらしい。俺の番がそんな特別なアルファなんて考えたことないけど。
 ただ、思う。全身で愛してほしいと嘆いているような人が俺の番なのは、神様の作為的なものを感じてしまうが。
 
 俺は、そこそこの会社の社長子息として生まれた。
 両親は、番で、珍しいのか分からないけど、運命の番でもないのに父は母にほれ込んでいる。
 そして、次に大切なのは会社だ。会社がつぶれてしまえば、母を養えなくなるから。
 兄は、会社を存続させるために必要な存在。
 俺はといえば、必要がなかったが母が望んで生まれた存在。男だったのは残念がられたが、それでもまぁ愛してはもらった。
 女の子が欲しいかったという母には、妹のほうが愛されていたが。
 欲しがればなんでも与えられた。無関心だからこそ、何でも、望まないものまで与えられた。
 だからかもしれない。俺は与えられるものになりたかった。
 運命の番だからか、陸さんを見た瞬間から愛しいと感じる。一緒にいるべきだと思う。
 そして何より、俺が離れたくない。
 去年のパーティも出席してたけど、俺はまだ陸さんを見つけられなかった。
 去年のパーティには出席していたらしいのは、知っている。だからか、とても勿体ないことをしたとしたと思う。
 去年出会えていたら、一年、時間が丸々あったという事なのに。
 俺はベッドの上に寝かされた陸さんの頭をそっとなでる。
 苦しそうにしているが、死ぬわけではないことをなぜかわかる。
 それに、俺を置いて彼は逝ったりしない。だからこそ、分かる。

「早く、目を覚ましてくださいね。陸さん」

 俺は、あなたを愛したいのと同時に、あなたに愛されたいのだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

落ちこぼれβの恋の諦め方

めろめろす
BL
 αやΩへの劣等感により、幼少時からひたすら努力してきたβの男、山口尚幸。  努力の甲斐あって、一流商社に就職し、営業成績トップを走り続けていた。しかし、新入社員であり極上のαである瀬尾時宗に一目惚れしてしまう。  世話役に立候補し、彼をサポートしていたが、徐々に体調の悪さを感じる山口。成績も落ち、瀬尾からは「もうあの人から何も学ぶことはない」と言われる始末。  失恋から仕事も辞めてしまおうとするが引き止められたい結果、新設のデータベース部に異動することに。そこには美しいΩ三目海里がいた。彼は山口を嫌っているようで中々上手くいかなかったが、ある事件をきっかけに随分と懐いてきて…。  しかも、瀬尾も黙っていなくなった山口を探しているようで。見つけられた山口は瀬尾に捕まってしまい。  あれ?俺、βなはずなにのどうしてフェロモン感じるんだ…?  コンプレックスの固まりの男が、αとΩにデロデロに甘やかされて幸せになるお話です。  小説家になろうにも掲載。

クローゼットは宝箱

織緒こん
BL
てんつぶさん主催、オメガの巣作りアンソロジー参加作品です。 初めてのオメガバースです。 前後編8000文字強のSS。  ◇ ◇ ◇  番であるオメガの穣太郎のヒートに合わせて休暇をもぎ取ったアルファの将臣。ほんの少し帰宅が遅れた彼を出迎えたのは、溢れかえるフェロモンの香気とクローゼットに籠城する番だった。狭いクローゼットに隠れるように巣作りする穣太郎を見つけて、出会ってから想いを通じ合わせるまでの数年間を思い出す。  美しく有能で、努力によってアルファと同等の能力を得た穣太郎。正気のときは決して甘えない彼が、ヒート期間中は将臣だけにぐずぐずに溺れる……。  年下わんこアルファ×年上美人オメガ。

βを囲って逃さない

ネコフク
BL
10才の時に偶然出会った優一郎(α)と晶(β)。一目で運命を感じコネを使い囲い込む。大学の推薦が決まったのをきっかけに優一郎は晶にある提案をする。 「αに囲われ逃げられない」「Ωを囲って逃さない」の囲い込みオメガバース第三弾。話が全くリンクしないので前の作品を見なくても大丈夫です。 やっぱりαってヤバいよね、というお話。第一弾、二弾に出てきた颯人がちょこっと出てきます。 独自のオメガバースの設定が出てきますのでそこはご了承くださいください(・∀・) α×β、β→Ω。ピッチング有り。

お世話したいαしか勝たん!

沙耶
BL
神崎斗真はオメガである。総合病院でオメガ科の医師として働くうちに、ヒートが悪化。次のヒートは抑制剤無しで迎えなさいと言われてしまった。 悩んでいるときに相談に乗ってくれたα、立花優翔が、「俺と一緒にヒートを過ごさない?」と言ってくれた…? 優しい彼に乗せられて一緒に過ごすことになったけど、彼はΩをお世話したい系αだった?! ※完結設定にしていますが、番外編を突如として投稿することがございます。ご了承ください。

久しぶりの発情期に大好きな番と一緒にいるΩ

いち
BL
Ωの丞(たすく)は、自分の番であるαの かじとのことが大好き。 いつものように晩御飯を作りながら、かじとを待っていたある日、丞にヒートの症状が…周期をかじとに把握されているため、万全の用意をされるが恥ずかしさから否定的にな。しかし丞の症状は止まらなくなってしまう。Ωがよしよしされる短編です。 ※pixivにも同様の作品を掲載しています

きみはオメガ

モト
BL
隣に住む幼馴染の小次郎君は無表情。何を考えているのか長年ずっと傍にいる僕もよく分からない。 そんな中、僕がベータで小次郎君がアルファだと診断を受ける。診断結果を知った小次郎君は初めて涙を見せるが僕が言った一言で、君は安心した。 執着、幼馴染、オメガバース、アルファとベータ

変異型Ωは鉄壁の貞操

田中 乃那加
BL
 変異型――それは初めての性行為相手によってバースが決まってしまう突然変異種のこと。  男子大学生の金城 奏汰(かなしろ かなた)は変異型。  もしαに抱かれたら【Ω】に、βやΩを抱けば【β】に定着する。  奏汰はαが大嫌い、そして絶対にΩにはなりたくない。夢はもちろん、βの可愛いカノジョをつくり幸せな家庭を築くこと。  だから護身術を身につけ、さらに防犯グッズを持ち歩いていた。  ある日の歓楽街にて、β女性にからんでいたタチの悪い酔っ払いを次から次へとやっつける。  それを見た高校生、名張 龍也(なばり たつや)に一目惚れされることに。    当然突っぱねる奏汰と引かない龍也。  抱かれたくない男は貞操を守りきり、βのカノジョが出来るのか!?                

俺はつがいに憎まれている

Q矢(Q.➽)
BL
最愛のベータの恋人がいながら矢崎 衛というアルファと体の関係を持ってしまったオメガ・三村圭(みむら けい)。 それは、出会った瞬間に互いが運命の相手だと本能で嗅ぎ分け、強烈に惹かれ合ってしまったゆえの事だった。 圭は犯してしまった"一夜の過ち"と恋人への罪悪感に悩むが、彼を傷つける事を恐れ、全てを自分の胸の奥に封印する事にし、二度と矢崎とは会わないと決めた。 しかし、一度出会ってしまった運命の番同士を、天は見逃してはくれなかった。 心ならずも逢瀬を繰り返す内、圭はとうとう運命に陥落してしまう。 しかし、その後に待っていたのは最愛の恋人との別れと、番になった矢崎の 『君と出会いさえしなければ…』 という心無い言葉。 実は矢崎も、圭と出会ってしまった事で、最愛の妻との番を解除せざるを得なかったという傷を抱えていた。 ※この作品は、『運命だとか、番とか、俺には関係ないけれど』という作品の冒頭に登場する、主人公斗真の元恋人・三村 圭sideのショートストーリーです。

処理中です...