アルファだけど愛されたい

屑籠

文字の大きさ
8 / 13

8

しおりを挟む
 それから、仕事についてや、アルファオメガの常識について学んでいたらあっという間に一年という期間は過ぎ去った。
 あの頃と比べ、無知ではなくなったし、番というのもどういう存在かわかる。だが、あの時の匂いには未だに会えていない。
 俺の、運命……。
 
「今年は二人だねぇ」
「そうだな」

 今年も、俺を置いて紺野はゆきをエスコートしながら歩いて行った。
 久しぶりに生で会ったゆきは、本当に幸せそうで何よりだと思う。
 紺野も心なしか、ゆきと共にいたほうが、生き生きして見える。
 ゆきと二人で歩きだせば、方々から挨拶される。ゆきも、オメガとしては有名なほうだったらしい。

「あれ……?」

 そんな中、ふわりとあの時香ってきていた香りが微かに再びしてきた。
 どこだろうか?と探していれば、春も行きたい方向があるらしく、二人で別れる。
 どこだ、どこだと匂いを辿れば、あまり人気のない壁際にたどり着いた。
 この辺りからとぐるり、と辺りを見回すと一人の青年と目が合う。
 まだ年若い、大学生ぐらいの男の子。
 あぁ、と声が漏れる。

「君が……あぁ、運命だ」

 一目見て、分かった。彼がそうだ。
 どくん、と胸が高鳴る。
 彼も、俺を見て目を見開いてそれからふわり、と笑う。

「あなたが、俺の……俺のアルファですね」

 優しそうな青年だ。
 ベータ、と見間違えてしまいそうな。
 だが、それでもわかる。俺の、俺のオメガなのだと。
 そっと、彼に手を伸ばせば、彼はその手をつかんで微笑んでくれる。
 何かの、ドラマのワンシーンのような、そんな場面で。
 花のような甘く香しい香り。抱きしめれば、抱きしめ返してくれる。
 あぁ、幸せだと思う。
 足りないものが埋まっていくような、そんな、感じをなんと例えようか……。

「俺のオメガ……俺に、囚われてくれ……」

 何を言っているのか、自分でも驚く。
 だが、運命を囲いたがるアルファの気持ちを一瞬で理解できてしまった。
 この青年を、まだ名すら知らないのにも関わらず、誰にも見せたくない。自分のものにしてしまいたい。
 誰にも取られないように、誰もこの青年に触れないように。

「いいですよ。その代わり、教えてください。あなたの名前は?」
「俺の、名前は、天川、陸……陸だ」
「陸……そう、陸さん……俺は安岡緑。緑です」

 名前を呼んで、と乞われ、緑の名前を呼ぶ。
 同じ、りく、の音を響かせる。
 正確には、りく、と発音するのはおかしいのかもしれない。
 けれど、そうだ。
 彼は緑であり、りくなのだ。

「りく、りく……」

 感極まる、それがこういうことなのかとただただ思う。
 ぶわっ、と自分のフェロモンが広がるのがわかる。
 そっと、口づければ彼のフェロモンまで吸い込むようで。

「あ、陸さん……?」

 俺の意思とは裏腹に、体は傾いでそのまま緑へと倒れこんでしまった。

「り……」

 ごめん、その言葉は消えていく。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

落ちこぼれβの恋の諦め方

めろめろす
BL
 αやΩへの劣等感により、幼少時からひたすら努力してきたβの男、山口尚幸。  努力の甲斐あって、一流商社に就職し、営業成績トップを走り続けていた。しかし、新入社員であり極上のαである瀬尾時宗に一目惚れしてしまう。  世話役に立候補し、彼をサポートしていたが、徐々に体調の悪さを感じる山口。成績も落ち、瀬尾からは「もうあの人から何も学ぶことはない」と言われる始末。  失恋から仕事も辞めてしまおうとするが引き止められたい結果、新設のデータベース部に異動することに。そこには美しいΩ三目海里がいた。彼は山口を嫌っているようで中々上手くいかなかったが、ある事件をきっかけに随分と懐いてきて…。  しかも、瀬尾も黙っていなくなった山口を探しているようで。見つけられた山口は瀬尾に捕まってしまい。  あれ?俺、βなはずなにのどうしてフェロモン感じるんだ…?  コンプレックスの固まりの男が、αとΩにデロデロに甘やかされて幸せになるお話です。  小説家になろうにも掲載。

クローゼットは宝箱

織緒こん
BL
てんつぶさん主催、オメガの巣作りアンソロジー参加作品です。 初めてのオメガバースです。 前後編8000文字強のSS。  ◇ ◇ ◇  番であるオメガの穣太郎のヒートに合わせて休暇をもぎ取ったアルファの将臣。ほんの少し帰宅が遅れた彼を出迎えたのは、溢れかえるフェロモンの香気とクローゼットに籠城する番だった。狭いクローゼットに隠れるように巣作りする穣太郎を見つけて、出会ってから想いを通じ合わせるまでの数年間を思い出す。  美しく有能で、努力によってアルファと同等の能力を得た穣太郎。正気のときは決して甘えない彼が、ヒート期間中は将臣だけにぐずぐずに溺れる……。  年下わんこアルファ×年上美人オメガ。

βを囲って逃さない

ネコフク
BL
10才の時に偶然出会った優一郎(α)と晶(β)。一目で運命を感じコネを使い囲い込む。大学の推薦が決まったのをきっかけに優一郎は晶にある提案をする。 「αに囲われ逃げられない」「Ωを囲って逃さない」の囲い込みオメガバース第三弾。話が全くリンクしないので前の作品を見なくても大丈夫です。 やっぱりαってヤバいよね、というお話。第一弾、二弾に出てきた颯人がちょこっと出てきます。 独自のオメガバースの設定が出てきますのでそこはご了承くださいください(・∀・) α×β、β→Ω。ピッチング有り。

お世話したいαしか勝たん!

沙耶
BL
神崎斗真はオメガである。総合病院でオメガ科の医師として働くうちに、ヒートが悪化。次のヒートは抑制剤無しで迎えなさいと言われてしまった。 悩んでいるときに相談に乗ってくれたα、立花優翔が、「俺と一緒にヒートを過ごさない?」と言ってくれた…? 優しい彼に乗せられて一緒に過ごすことになったけど、彼はΩをお世話したい系αだった?! ※完結設定にしていますが、番外編を突如として投稿することがございます。ご了承ください。

変異型Ωは鉄壁の貞操

田中 乃那加
BL
 変異型――それは初めての性行為相手によってバースが決まってしまう突然変異種のこと。  男子大学生の金城 奏汰(かなしろ かなた)は変異型。  もしαに抱かれたら【Ω】に、βやΩを抱けば【β】に定着する。  奏汰はαが大嫌い、そして絶対にΩにはなりたくない。夢はもちろん、βの可愛いカノジョをつくり幸せな家庭を築くこと。  だから護身術を身につけ、さらに防犯グッズを持ち歩いていた。  ある日の歓楽街にて、β女性にからんでいたタチの悪い酔っ払いを次から次へとやっつける。  それを見た高校生、名張 龍也(なばり たつや)に一目惚れされることに。    当然突っぱねる奏汰と引かない龍也。  抱かれたくない男は貞操を守りきり、βのカノジョが出来るのか!?                

うそつきΩのとりかえ話譚

沖弉 えぬ
BL
療養を終えた王子が都に帰還するのに合わせて開催される「番候補戦」。王子は国の将来を担うのに相応しいアルファであり番といえば当然オメガであるが、貧乏一家の財政難を救うべく、18歳のトキはアルファでありながらオメガのフリをして王子の「番候補戦」に参加する事を決める。一方王子にはとある秘密があって……。雪の積もった日に出会った紅梅色の髪の青年と都で再会を果たしたトキは、彼の助けもあってオメガたちによる候補戦に身を投じる。 舞台は和風×中華風の国セイシンで織りなす、同い年の青年たちによる旅と恋の話です。

俺はつがいに憎まれている

Q矢(Q.➽)
BL
最愛のベータの恋人がいながら矢崎 衛というアルファと体の関係を持ってしまったオメガ・三村圭(みむら けい)。 それは、出会った瞬間に互いが運命の相手だと本能で嗅ぎ分け、強烈に惹かれ合ってしまったゆえの事だった。 圭は犯してしまった"一夜の過ち"と恋人への罪悪感に悩むが、彼を傷つける事を恐れ、全てを自分の胸の奥に封印する事にし、二度と矢崎とは会わないと決めた。 しかし、一度出会ってしまった運命の番同士を、天は見逃してはくれなかった。 心ならずも逢瀬を繰り返す内、圭はとうとう運命に陥落してしまう。 しかし、その後に待っていたのは最愛の恋人との別れと、番になった矢崎の 『君と出会いさえしなければ…』 という心無い言葉。 実は矢崎も、圭と出会ってしまった事で、最愛の妻との番を解除せざるを得なかったという傷を抱えていた。 ※この作品は、『運命だとか、番とか、俺には関係ないけれど』という作品の冒頭に登場する、主人公斗真の元恋人・三村 圭sideのショートストーリーです。

激重感情の矢印は俺

NANiMO
BL
幼馴染みに好きな人がいると聞いて10年。 まさかその相手が自分だなんて思うはずなく。 ___ 短編BL練習作品

処理中です...