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第18章 あくまで勉強のため
101 来週の約束
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始まってからは、終わるまでほぼ一気に見てしまった。
前座は魔法が苦手な男が、上司の理不尽な命令を筋力でこなしていくが、最後に怒りが爆発して思い切りぶん殴るという内容。
これだけだと、単なる胸くそ悪い話に聞こえてしまう。
しかし途中魔法を使わないで筋力で解決するシーンとか、解決されて悔しそうな上司の様子とか、なかなか面白い。
更に会話や動きがやたらテンポ良く、かつ筋肉男側の動きがなかなかスタイリッシュというか何というか……
最後にぶん殴られた上司が、観客席上を吹っ飛んでいくという臨場感もなかなか。
使用している言葉は、私でもほぼ翻訳なしでわかる程度。
そして笑いたい時は、声を出して笑ってもいい様だ。
もうこの段階だけでも、十分以上に楽しい。
そして本編は、南部へ向かう船が突如恐竜に襲われるという内容。
これは演劇というよりも、体感型アトラクションに近い内容で、音響や幻影の魔法で客席背後から恐竜が襲ってきたりする。
右前の指名席あたりは3人くらい、大型恐竜に食べられた様だ。
幻影とともに持ち上げられて舞台中央に運ばれ、噛みつかれた音とともに全体が暗くなり、次に明るくなった際には舞台上に血が広がっているという形で。
更に客席後方から小型恐竜が出現し、舞台へと襲ってきたりなんてのも。
そういうよく言えばインタラクティブ要素、悪く言えばこけおどし要素だけでなく、ストーリーもそれなりにしっかり描かれている。
船の後方に肉食恐竜をおびき寄せる餌などが仕掛けられていて、誰がこの餌を使用して事態を招いたのか推理する、なんて要素も。
最後に救助船が到着し、犯人が連れて行かれるところまで、何というか休みなく見続ける感じだった。
というか終わって、猛烈に拍手しつつ、呼吸が足りなかった気がして深呼吸しまくったほどだ。
うん、これは面白い。
劇とか舞台というよりは、体験型の何かという感じではあるけれど。
これで2,000円ならば、日本にいた時代なら確実に毎月通っていた気がする。
毎日や毎週出ないのは、小遣いの制限があるから。
『どうだった?』
アキトからそんな伝達魔法が来た。
『面白かったし、何か凄かった。これなら確かに、また見に来たくなるよね。前もこんな感じだったの?』
『前はもう少し演劇らしくて大人しかったかな。『殺人狂の詩』って題で、閉じ込められて1人ずつ殺されていく中、犯人を推理する話だったけれど』
それもなかなか面白そうだ。
『それじゃそろそろ外に出ようか。出口が混雑する前に出た方が楽だ』
見ると客のかなりの部分は、後ろの出口ではなく前の舞台方向へと向かっている。
『わかった』
そう言いつつ、何が起きているかを知識魔法で確認。
『お気に入りの俳優にサインをもらったり、握手して感想を言ったりするための列です。専用のサイン帳があり、幾つか集まったら景品がもらえるなどの特典があったりします』
なるほど、お得意様サービス的なものか。
確かに面白かったけれど、そういうサービスは私にはまだ早い気がする。
だからアキトの後をついて、ホールから外へ。
カウンターにもそこそこ人が並んでいた。
『パンフレットとかグッズとかを売っているけれど、買う?』
『今日はまだいいかな。面白かったけれど、そこまで余裕は無いし』
そう返答したところで、知識魔法が私の疑問を拾って返答を寄越す。
『グッズやパンフレットの販売は公演終了後となります。それまでは開始前はドリンクや軽食のみ販売しています。ペルリアの小型の飲食兼観劇場は、こういった形態が一般的です』
なるほど。
『買物やファンサービスは公演後しか出来ないから、必要無いなら早めに出た方が楽ってことなんだね』
『そういうこと』
外は思い切り明るい。
今までとまるで別世界だと感じたところで思い直す。
こっちが本来の世界で、劇場内が別世界なのだろうけれど。
「さて、今回は演出が派手だったけれどさ、大体こんな感じ。僕もなかなか面白かったと思う。毎回こうやって面白いのに当たるかはわからないし、200Cかかるけれどさ。もし良かったら、2週間に1回くらいでも、情報交換を兼ねて一緒に見に行かない?」
おっと、アキトからお誘いを受けてしまった。
がっついている様に見せないよう、一度断るという選択肢はないでもない。
しかしそうやって失敗するよりは、むしろ積極策で行くべきだろう。
頭の中で、次に言おうとしている言葉の校正と、言った後のシミュレーションを実施。
大丈夫、多分問題ない。
という事で、可愛げない系女子の私に似合わない、肉食系な選択肢をとらせてもらう。
「アキトは来週も見に来るつもり」
「一応。まだ何を見るか決めてないけれど」
よしよし、なら想定その1通りの台詞でいいだろう。
「なら邪魔じゃなければ、一緒に行っていい? こういう場所だから、1人くらい知り合いがいた方が安心だし」
どうだろう。
ちょっとがっつき過ぎただろうか。
私に似合わないお誘いだっただろうか。
アキトが2週間に1回と言ってくれたのだから、素直にそちらに乗っていればよかっただろうか。
何せこういう発言というか誘い方、本来の私の辞書には載っていないのだ。
だから態度にこそ出さないけれど、ひやひやものだったりする訳で……
「ならそこの公演で、次に何を見ようか考えようか。来週分ならもう情報紙に載っているし」
よし、OKだ。
私は表面上は出さないけれど、心の中でガッツポーズ。
「だね。施設だと相談するちょうどいい場所がないし」
いつもの調子を意識して返答しつつ、アキトと先程の公演へと向かう。
前座は魔法が苦手な男が、上司の理不尽な命令を筋力でこなしていくが、最後に怒りが爆発して思い切りぶん殴るという内容。
これだけだと、単なる胸くそ悪い話に聞こえてしまう。
しかし途中魔法を使わないで筋力で解決するシーンとか、解決されて悔しそうな上司の様子とか、なかなか面白い。
更に会話や動きがやたらテンポ良く、かつ筋肉男側の動きがなかなかスタイリッシュというか何というか……
最後にぶん殴られた上司が、観客席上を吹っ飛んでいくという臨場感もなかなか。
使用している言葉は、私でもほぼ翻訳なしでわかる程度。
そして笑いたい時は、声を出して笑ってもいい様だ。
もうこの段階だけでも、十分以上に楽しい。
そして本編は、南部へ向かう船が突如恐竜に襲われるという内容。
これは演劇というよりも、体感型アトラクションに近い内容で、音響や幻影の魔法で客席背後から恐竜が襲ってきたりする。
右前の指名席あたりは3人くらい、大型恐竜に食べられた様だ。
幻影とともに持ち上げられて舞台中央に運ばれ、噛みつかれた音とともに全体が暗くなり、次に明るくなった際には舞台上に血が広がっているという形で。
更に客席後方から小型恐竜が出現し、舞台へと襲ってきたりなんてのも。
そういうよく言えばインタラクティブ要素、悪く言えばこけおどし要素だけでなく、ストーリーもそれなりにしっかり描かれている。
船の後方に肉食恐竜をおびき寄せる餌などが仕掛けられていて、誰がこの餌を使用して事態を招いたのか推理する、なんて要素も。
最後に救助船が到着し、犯人が連れて行かれるところまで、何というか休みなく見続ける感じだった。
というか終わって、猛烈に拍手しつつ、呼吸が足りなかった気がして深呼吸しまくったほどだ。
うん、これは面白い。
劇とか舞台というよりは、体験型の何かという感じではあるけれど。
これで2,000円ならば、日本にいた時代なら確実に毎月通っていた気がする。
毎日や毎週出ないのは、小遣いの制限があるから。
『どうだった?』
アキトからそんな伝達魔法が来た。
『面白かったし、何か凄かった。これなら確かに、また見に来たくなるよね。前もこんな感じだったの?』
『前はもう少し演劇らしくて大人しかったかな。『殺人狂の詩』って題で、閉じ込められて1人ずつ殺されていく中、犯人を推理する話だったけれど』
それもなかなか面白そうだ。
『それじゃそろそろ外に出ようか。出口が混雑する前に出た方が楽だ』
見ると客のかなりの部分は、後ろの出口ではなく前の舞台方向へと向かっている。
『わかった』
そう言いつつ、何が起きているかを知識魔法で確認。
『お気に入りの俳優にサインをもらったり、握手して感想を言ったりするための列です。専用のサイン帳があり、幾つか集まったら景品がもらえるなどの特典があったりします』
なるほど、お得意様サービス的なものか。
確かに面白かったけれど、そういうサービスは私にはまだ早い気がする。
だからアキトの後をついて、ホールから外へ。
カウンターにもそこそこ人が並んでいた。
『パンフレットとかグッズとかを売っているけれど、買う?』
『今日はまだいいかな。面白かったけれど、そこまで余裕は無いし』
そう返答したところで、知識魔法が私の疑問を拾って返答を寄越す。
『グッズやパンフレットの販売は公演終了後となります。それまでは開始前はドリンクや軽食のみ販売しています。ペルリアの小型の飲食兼観劇場は、こういった形態が一般的です』
なるほど。
『買物やファンサービスは公演後しか出来ないから、必要無いなら早めに出た方が楽ってことなんだね』
『そういうこと』
外は思い切り明るい。
今までとまるで別世界だと感じたところで思い直す。
こっちが本来の世界で、劇場内が別世界なのだろうけれど。
「さて、今回は演出が派手だったけれどさ、大体こんな感じ。僕もなかなか面白かったと思う。毎回こうやって面白いのに当たるかはわからないし、200Cかかるけれどさ。もし良かったら、2週間に1回くらいでも、情報交換を兼ねて一緒に見に行かない?」
おっと、アキトからお誘いを受けてしまった。
がっついている様に見せないよう、一度断るという選択肢はないでもない。
しかしそうやって失敗するよりは、むしろ積極策で行くべきだろう。
頭の中で、次に言おうとしている言葉の校正と、言った後のシミュレーションを実施。
大丈夫、多分問題ない。
という事で、可愛げない系女子の私に似合わない、肉食系な選択肢をとらせてもらう。
「アキトは来週も見に来るつもり」
「一応。まだ何を見るか決めてないけれど」
よしよし、なら想定その1通りの台詞でいいだろう。
「なら邪魔じゃなければ、一緒に行っていい? こういう場所だから、1人くらい知り合いがいた方が安心だし」
どうだろう。
ちょっとがっつき過ぎただろうか。
私に似合わないお誘いだっただろうか。
アキトが2週間に1回と言ってくれたのだから、素直にそちらに乗っていればよかっただろうか。
何せこういう発言というか誘い方、本来の私の辞書には載っていないのだ。
だから態度にこそ出さないけれど、ひやひやものだったりする訳で……
「ならそこの公演で、次に何を見ようか考えようか。来週分ならもう情報紙に載っているし」
よし、OKだ。
私は表面上は出さないけれど、心の中でガッツポーズ。
「だね。施設だと相談するちょうどいい場所がないし」
いつもの調子を意識して返答しつつ、アキトと先程の公演へと向かう。
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