100 / 125
第18章 あくまで勉強のため
100 劇場の様子
しおりを挟む
白い塗り壁と赤い絨毯、木製のカウンターテーブルと、茶色い革製の椅子がある、ロビーのような場所。
来るのは初めてだけれど、いかにもという感じだ。
ただカウンターの後ろ側が酒棚になっているのが、ちょっと違和感がある。
そして、そのカウンターに10人ほどの列。
『C席はドリンクがセルフサービスなので、ここで注文して自分で持って行きます。あと3分でドリンク受け取りが始まります』
なら先に、トイレに行っておこう。
劇場とか映画館のお約束というやつだ。
実はある程度魔法を自由に使えると、魔法収納を使ってトイレに行く時間を引き伸ばせる。
でもそれは応急用の手段ということで。
「じゃあトイレに行ってくるから、戻って来たら並ぼうか」
「そうだね」
誰かに列に並んでもらっていたとしても、後入りは厳禁。
概ね店主や主催者等の魔法で、そういった事が出来ないようにしているようだ。
ペルリアでは、割とどこでもそうらしい。
魔法によってマナーが守られていることを喜ぶべきか、魔法の強制力がないとマナーが守れないことを悲しむべきか。
きっと『面倒がなくていい』と軽く考えるのが正解なのだろう。
地球や日本の基準で考えても、もう意味はないのだから。
トイレに行った後、アキトと列の最後に並ぶ。
前に10人ほど並んでいるけれど、受付が始まったのでそう待たずに済みそうだ。
「チアキさんは何にする? 僕はパインサイダーにするけれど」
飲み物は下調べをして、決めておいた。
「冷たい紅茶で」
好みとしてはタクサルドリンクなのだけれど、飲んだ後にしばらく甘さが口に残ってしまう。
それが気になって舞台に集中出来ないとまずいから、さっぱりした無糖のものがいい。
なおアキトのパインサイダーは、知識魔法によると微糖で少し青臭い香りの炭酸飲料。
そしてここでの一番人気は、ライトジーンだのブルージーンだのといった酒類。
ジーンというのは蒸留酒をサイダーで割った飲料一般で、日本の焼酎割りみたいな存在。
ただペルリアでも20歳未満は飲酒禁止だ。
ペルリアの20歳は地球年齢13歳4ヶ月だったりするけれど。
紙コップ入りのドリンクを受け取って、開いた扉から劇場内へ。
内部は長方形で、一段高い舞台、後ろに行くほど高くなっている座席などは日本の劇場と同じ。
ただ私の知っている劇場と比べると、かなり小さい気がする。
多分地球のバスケットコートよりも狭いだろう。
そしてテーブル席であるA,B席とドリンクのみのC席の差が結構ある。
テーブル席は前後にかなりの余裕があるけれど、C席は割とぎっしりという感じだ。
『結構席に格差があるね、これって』
周囲が静かなので、伝達魔法で感想を言ってみる。
『テーブル席は椅子に座った後、食事を運んでくるから、係員が動き回れる様にしているんだろう。それにC席でも日本の映画館くらいのスペースはあると思う。椅子も良さそうだし』
なるほど。
言われてみればその通りだ。
『確かにそうかも。椅子も座り心地よさそうだし』
『日本の小劇団の公演だと、酷い場所だとパイプ椅子もどきだったりしたからさ。もちろんしっかりした小ホールもあるけれど』
日本時代はそういった劇や劇団というのは、あまりメジャーな趣味ではなかったと思う。
少なくとも私には縁が無かった。
ただアキトはどうやら、そういったところへ行った経験があるようだ。
『日本時代はよく見に行ったの?』
『大学時代の友達に小劇団系の演劇が好きな奴がいてさ。付き合いで5回見に行ったな。案外面白いんだけれど、しょっちゅう見に行くには小遣いが辛い。1回で3日分の食費が飛んでいくから』
アキトは少なくとも大学生以上だったということか。
しかし3日分の食費というと……
1日2,000円だとしても6,000円になる。
『そんなに高いの』
『あ、言い方が悪かった。当時の食費は1日600円から1,000円くらいだったんだ。親に無理言って東京で下宿したから、あまり金がなくてさ』
それはそれで疑問がある。
『1日600円って、まさか一食しか食べないとか?』
『朝は100円以下で売っている食パン8枚切りを冷凍したものを2枚解凍。昼は学食でごはんと味噌汁と納豆で250円。夜は安い野菜や肉を入れて適当に味付けしたスパゲティってところ。だいたいこれで600円。あと演劇のチケットは一番安い席で大体1,800円だったな』
うーん、なかなか極限な生活だと思う。
『バイトとかしなかったの?』
『授業や研究が忙しくてそんな余裕無い。バイトで稼げるって、よっぽど授業が少ないかサボっているんだと思うな。それでも2年頃までは何とか出来たけれど、3年でゼミが始まるともう無理。学校からアパートに帰るのも夜になるくらいだしさ』
私の見聞きしていた大学生活とは随分と違う様だ。
なんて思いながらあれこれ話をしていると、段々人が増えてきた。
前のB席や私の隣にも、人が座り始める。
『そろそろ前座が始まると思う』
また知らない言葉が出てきた。
知識魔法で確認。
『ペルリアの場合、演劇でも公演でも本来の演者が出る前に、新人や前座専門の演者が前座を演じることが一般的です。舞台の幕が下りている前で、セットなしの照明と音楽だけで、おおよそ5分程度の演目を実施します』
そういうものなのか。
『日本でも前座ってあった?』
『落語とかではあるらしいけれどさ。演劇では聞いたことがない』
なるほど、ペルリアか、あるいは惑星オーフの様式というところか。
周囲の照明が一気に明るさを落とし、辛うじて歩けるかなという程度の暗さになる。
舞台右袖からそこそこ若い男性が1人出てきた。
何がはじまるのだろう。
知識魔法の発動を意識して抑えつつ、舞台に集中する。
来るのは初めてだけれど、いかにもという感じだ。
ただカウンターの後ろ側が酒棚になっているのが、ちょっと違和感がある。
そして、そのカウンターに10人ほどの列。
『C席はドリンクがセルフサービスなので、ここで注文して自分で持って行きます。あと3分でドリンク受け取りが始まります』
なら先に、トイレに行っておこう。
劇場とか映画館のお約束というやつだ。
実はある程度魔法を自由に使えると、魔法収納を使ってトイレに行く時間を引き伸ばせる。
でもそれは応急用の手段ということで。
「じゃあトイレに行ってくるから、戻って来たら並ぼうか」
「そうだね」
誰かに列に並んでもらっていたとしても、後入りは厳禁。
概ね店主や主催者等の魔法で、そういった事が出来ないようにしているようだ。
ペルリアでは、割とどこでもそうらしい。
魔法によってマナーが守られていることを喜ぶべきか、魔法の強制力がないとマナーが守れないことを悲しむべきか。
きっと『面倒がなくていい』と軽く考えるのが正解なのだろう。
地球や日本の基準で考えても、もう意味はないのだから。
トイレに行った後、アキトと列の最後に並ぶ。
前に10人ほど並んでいるけれど、受付が始まったのでそう待たずに済みそうだ。
「チアキさんは何にする? 僕はパインサイダーにするけれど」
飲み物は下調べをして、決めておいた。
「冷たい紅茶で」
好みとしてはタクサルドリンクなのだけれど、飲んだ後にしばらく甘さが口に残ってしまう。
それが気になって舞台に集中出来ないとまずいから、さっぱりした無糖のものがいい。
なおアキトのパインサイダーは、知識魔法によると微糖で少し青臭い香りの炭酸飲料。
そしてここでの一番人気は、ライトジーンだのブルージーンだのといった酒類。
ジーンというのは蒸留酒をサイダーで割った飲料一般で、日本の焼酎割りみたいな存在。
ただペルリアでも20歳未満は飲酒禁止だ。
ペルリアの20歳は地球年齢13歳4ヶ月だったりするけれど。
紙コップ入りのドリンクを受け取って、開いた扉から劇場内へ。
内部は長方形で、一段高い舞台、後ろに行くほど高くなっている座席などは日本の劇場と同じ。
ただ私の知っている劇場と比べると、かなり小さい気がする。
多分地球のバスケットコートよりも狭いだろう。
そしてテーブル席であるA,B席とドリンクのみのC席の差が結構ある。
テーブル席は前後にかなりの余裕があるけれど、C席は割とぎっしりという感じだ。
『結構席に格差があるね、これって』
周囲が静かなので、伝達魔法で感想を言ってみる。
『テーブル席は椅子に座った後、食事を運んでくるから、係員が動き回れる様にしているんだろう。それにC席でも日本の映画館くらいのスペースはあると思う。椅子も良さそうだし』
なるほど。
言われてみればその通りだ。
『確かにそうかも。椅子も座り心地よさそうだし』
『日本の小劇団の公演だと、酷い場所だとパイプ椅子もどきだったりしたからさ。もちろんしっかりした小ホールもあるけれど』
日本時代はそういった劇や劇団というのは、あまりメジャーな趣味ではなかったと思う。
少なくとも私には縁が無かった。
ただアキトはどうやら、そういったところへ行った経験があるようだ。
『日本時代はよく見に行ったの?』
『大学時代の友達に小劇団系の演劇が好きな奴がいてさ。付き合いで5回見に行ったな。案外面白いんだけれど、しょっちゅう見に行くには小遣いが辛い。1回で3日分の食費が飛んでいくから』
アキトは少なくとも大学生以上だったということか。
しかし3日分の食費というと……
1日2,000円だとしても6,000円になる。
『そんなに高いの』
『あ、言い方が悪かった。当時の食費は1日600円から1,000円くらいだったんだ。親に無理言って東京で下宿したから、あまり金がなくてさ』
それはそれで疑問がある。
『1日600円って、まさか一食しか食べないとか?』
『朝は100円以下で売っている食パン8枚切りを冷凍したものを2枚解凍。昼は学食でごはんと味噌汁と納豆で250円。夜は安い野菜や肉を入れて適当に味付けしたスパゲティってところ。だいたいこれで600円。あと演劇のチケットは一番安い席で大体1,800円だったな』
うーん、なかなか極限な生活だと思う。
『バイトとかしなかったの?』
『授業や研究が忙しくてそんな余裕無い。バイトで稼げるって、よっぽど授業が少ないかサボっているんだと思うな。それでも2年頃までは何とか出来たけれど、3年でゼミが始まるともう無理。学校からアパートに帰るのも夜になるくらいだしさ』
私の見聞きしていた大学生活とは随分と違う様だ。
なんて思いながらあれこれ話をしていると、段々人が増えてきた。
前のB席や私の隣にも、人が座り始める。
『そろそろ前座が始まると思う』
また知らない言葉が出てきた。
知識魔法で確認。
『ペルリアの場合、演劇でも公演でも本来の演者が出る前に、新人や前座専門の演者が前座を演じることが一般的です。舞台の幕が下りている前で、セットなしの照明と音楽だけで、おおよそ5分程度の演目を実施します』
そういうものなのか。
『日本でも前座ってあった?』
『落語とかではあるらしいけれどさ。演劇では聞いたことがない』
なるほど、ペルリアか、あるいは惑星オーフの様式というところか。
周囲の照明が一気に明るさを落とし、辛うじて歩けるかなという程度の暗さになる。
舞台右袖からそこそこ若い男性が1人出てきた。
何がはじまるのだろう。
知識魔法の発動を意識して抑えつつ、舞台に集中する。
64
あなたにおすすめの小説
力は弱くて魔法も使えないけど強化なら出来る。~俺を散々こき使ってきたパーティの人間に復讐しながら美少女ハーレムを作って魔王をぶっ倒します
枯井戸
ファンタジー
──大勇者時代。
誰も彼もが勇者になり、打倒魔王を掲げ、一攫千金を夢見る時代。
そんな時代に、〝真の勇者の息子〟として生を授かった男がいた。
名はユウト。
人々は勇者の血筋に生まれたユウトに、類稀な魔力の才をもって生まれたユウトに、救世を誓願した。ユウトもまた、これを果たさんと、自身も勇者になる事を信じてやまなかった。
そんなある日、ユウトの元へ、ひとりの中性的な顔立ちで、笑顔が爽やかな好青年が訪ねてきた。
「俺のパーティに入って、世界を救う勇者になってくれないか?」
そう言った男の名は〝ユウキ〟
この大勇者時代にすい星のごとく現れた、〝その剣技に比肩する者なし〟と称されるほどの凄腕の冒険者である。
「そんな男を味方につけられるなんて、なんて心強いんだ」と、ユウトはこれを快諾。
しかし、いままで大した戦闘経験を積んでこなかったユウトはどう戦ってよいかわからず、ユウキに助言を求めた。
「戦い方? ……そうだな。なら、エンチャンターになってくれ。よし、それがいい。ユウトおまえはエンチャンターになるべきだ」
ユウトは、多少はその意見に疑問を抱きつつも、ユウキに勧められるがまま、ただひたすらに付与魔法(エンチャント)を勉強し、やがて勇者の血筋だという事も幸いして、史上最強のエンチャンターと呼ばれるまでに成長した。
ところが、そればかりに注力した結果、他がおろそかになってしまい、ユウトは『剣もダメ』『付与魔法以外の魔法もダメ』『体力もない』という三重苦を背負ってしまった。それでもエンチャンターを続けたのは、ユウキの「勇者になってくれ」という言葉が心の奥底にあったから。
──だが、これこそがユウキの〝真の〟狙いだったのだ。
この物語は主人公であるユウトが、持ち前の要領の良さと、唯一の武器である付与魔法を駆使して、愉快な仲間たちを強化しながら成り上がる、サクセスストーリーである。
【完結】能力が無くても聖女ですか?
天冨 七緒
恋愛
孤児院で育ったケイトリーン。
十二歳になった時特殊な能力が開花し、体調を崩していた王妃を治療する事に…
無事に王妃を完治させ、聖女と呼ばれるようになっていたが王妃の治癒と引き換えに能力を使い果たしてしまった。能力を失ったにも関わらず国王はケイトリーンを王子の婚約者に決定した。
周囲は国王の命令だと我慢する日々。
だが国王が崩御したことで、王子は周囲の「能力の無くなった聖女との婚約を今すぐにでも解消すべき」と押され婚約を解消に…
行く宛もないが婚約解消されたのでケイトリーンは王宮を去る事に…門を抜け歩いて城を後にすると突然足元に魔方陣が現れ光に包まれる…
「おぉー聖女様ぁ」
眩い光が落ち着くと歓声と共に周囲に沢山の人に迎えられていた。ケイトリーンは見知らぬ国の聖女として召喚されてしまっていた…
タイトル変更しました
召喚されましたが聖女様ではありません…私は聖女様の世話係です
充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~
中畑 道
ファンタジー
「充実した人生を送ってください。私が創造した剣と魔法の世界で」
唯一の肉親だった妹の葬儀を終えた帰り道、不慮の事故で命を落とした世良登希雄は異世界の創造神に召喚される。弟子である第一女神の願いを叶えるために。
人類未開の地、魔獣の大森林最奥地で異世界の常識や習慣、魔法やスキル、身の守り方や戦い方を学んだトキオ セラは、女神から遣わされた御供のコタローと街へ向かう。
目的は一つ。充実した人生を送ること。
【完結】平民聖女の愛と夢
ここ
ファンタジー
ソフィは小さな村で暮らしていた。特技は治癒魔法。ところが、村人のマークの命を救えなかったことにより、村全体から、無視されるようになった。食料もない、お金もない、ソフィは仕方なく旅立った。冒険の旅に。
転生魔法伝記〜魔法を極めたいと思いますが、それを邪魔する者は排除しておきます〜
凛 伊緒
ファンタジー
不運な事故により、23歳で亡くなってしまった会社員の八笠 美明。
目覚めると見知らぬ人達が美明を取り囲んでいて…
(まさか……転生…?!)
魔法や剣が存在する異世界へと転生してしまっていた美明。
魔法が使える事にわくわくしながらも、王女としての義務もあり──
王女として生まれ変わった美明―リアラ・フィールアが、前世の知識を活かして活躍する『転生ファンタジー』──
~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる