月が出ない空の下で ~異世界移住準備施設・寮暮らし~

於田縫紀

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第18章 あくまで勉強のため

99 本日のお出かけ

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 4月8日第1曜日。
 今日はそこそこ、やることが多い。
 アキトと演劇を見に行く約束をしているし、明日の女子会に向けた買い出しもしなければならないから。

 演劇は12時開始で、待ち合わせ時間は11時20分。
 待ち合わせ時間が早いのは、席を選ぶためだ。
 30分前に行けばそれなりの席は確保出来るそうだから。
 待ち合わせ場所はこの前アキトと話をした公園で、劇場はそこから歩いて5分かからない。

 朝食を食べ、言語Ⅳと魔法Ⅳを1単位時間コマずつ進めた後、出る準備を開始。

 まずはムダ毛処理魔法で顔の産毛や眉を整えた後。
 様式4の服を着用。
 髪型セット魔法で整えた後、偵察魔法で全体を最終確認。

 実は昨晩、髪をカットした。
 私は髪が多いので、放っておくともさっとしてしまう。
 なので昨夜、前後左右上からの視界を確認しながら、髪を魔法ですいてカットするという魔法を作って、髪を整えたのだ。

 少しは頭が小さく、髪がすっきり見えるようになっている気がする。
 元が私だから、ほとんど変わっていない気もするけれど。

 タブレットで時間を確認。
 10時45分、思ったより時間がかかってしまった様だ。
 公設市場でお金をおろして、着替えて、買い物をすると時間はぎりぎりだ。
 若干慌て気味に、私は部屋を出る。

 ◇◇◇

 公設市場でお金をおろして、2階のトイレで着替えて、1階でささっと買い物して時計を確認。
 11時10分、ちょっと早いかもしれないけれど、遅れるよりまし。
 だから公設市場の東出口から出て、道を渡って公園へ。

 待ち合わせ場所のベンチを見る。
 なるほど、そう来たか。

 見慣れた姿と少しだけ違う男子が、情報紙を読んでいる。
 違うのは髪の色が金髪で、肌の色が白いところ。
 ただ背格好がそのままだし、服も前回見たのと同じだ。

 これはきっと、施設の連中にバレない様にだろう。
 なら私も、髪の色くらいは変えてきた方が良かったかな。

 いや、アキト以外の目は無いし、今からでもいいだろう。
 金髪はわざとらしすぎるし、私には多分似合わない。
 歩きながら変装魔法で髪色を栗色、肌をもう少し白い色へと変えて。
 アキトまであと10歩のところで声をかける。
 
「ごめんなさい。待った?」

「いや、まだ時間前。来週は何を見ようか、情報紙で確認しようと思って早めに来たんだ。でもせっかく来たんだし、劇場に行こうか。早い方がいい席を取れるから」

「そうだね」

 立ち上がったアキトと並んで、旧市街ナルノウア ウルポの商店街の方へ向かう。
 当たり前だけれど、手は繋がない。
 これはデートではないし、意識していると思われるのも何だし。

「場所は前に行ったっけ」

「商店街入って左側2軒目、ヒリナ観劇でいいんだよね」

 念入りに下調べはしてきた。
 ただあまりそれを表に出すのはまずいだろう。
 よく知らないから、アキトに案内を頼んだ。
 今日はそういう言い訳だから。
 
「そうそう。知識魔法で調べると業種がキャバレーって翻訳されて驚くけれどさ。ここでのキャバレーって舞台がある飲食店のことらしい。
 ところで今回の劇場は席が3種類あるけれど、どれにする?
 A席がいちばんいい場所でそこそこいい食事が付いて700Cカルクフ、B席がまあまあいい席で簡単な食事がついて400Cカルクフ、C席がB席の後ろと左右端でドリンクのみ200Cカルクフ
 あまりお金を使いたくないから、C席にするつもりだったけれど」

「流石に今の小遣いだとC席だよね。C席でも舞台は見えるんでしょ」

「問題ない。それにより近くで見たければ、偵察魔法を使って見てもいいしさ。声や音響は魔法で館内どこでも聞こえる様にしてあるし」
 
 なるほど、なら安い席のハンデはあまりないというわけか。
 魔法が使えると、こういった感覚が日本時代と違う。
 こういった部分は、知識魔法でただ調べるだけだとわかりにくい。
 やっぱり一度行って、経験して気づくのだろう。

「ならC席で。そこまで余裕があるわけじゃないし」

「席は真ん中でいい? 端の方が舞台に近くて臨場感があるけれど、観客いじりに遭う可能性が高いらしいから」

 観客いじりも知識魔法で出てこなかったな。
 そう思いつつ、アキトに返答。

「最初だから無難な方で」

「わかった。中央に近い場所でできるだけ前の席を頼むから、200カルクフ出す準備をしておいて。チケットは1人ずつ、お金と引き換えで渡すことになっている様だから」

 これは知識魔法で予習済みだから大丈夫。
 
 近いので話しながらでも、目的地の劇場まではすぐ。
 窓口に2人並んでいる。
 人数が少ないのは時間が早いせいか、もともとこんなものなのか。

 なお前の人の注文を聞くと、2人ともC席で右端側のできるだけ前を希望している模様。
 これって、何かあるのだろうか。

『舞台から一番指名されやすい場所です。演劇好きの間では、俗に指名席エレクトファと呼ばれ、この席に座っている観客は、指名されたり連れられたりして舞台に上げられることが多く、またそれを期待しているとされています』

 知識魔法も観客いじりのことは知っていた様だ。
 なら私が調べたときに観客いじりが出てこなかったのは、質問の仕方のせいなのだろう。

 私達の番になった。

「C席、中央側でできるだけ前、2人並んで取れる場所で」

「わかりました。現在の空き状況はこんな感じです、チェックがついた場所以外なら大丈夫ですけれど、どちらにしますか」

 受付の人が座席表を出して、ペンで指す。
 今のところC席、それも指名席とその近辺、その反対側の端の前の方しか埋まっていない様だ。
 つまり中央、B席のすぐ後ろ側はまだ空席。

「C1108とC1109でお願いします」

 前から11列目かと思って、座席表を確認。
 A席2列、B席4列の後ろの7列目だった。
 ほぼ真ん中だし、ここなら舞台全体を見やすいし、悪くない席だろう。

「わかりました。それでは1人200カルクフになります」

 アキトと私、それぞれ200カルクフと引き換えにチケットを受け取って、中へと入る。
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