月が出ない空の下で ~異世界移住準備施設・寮暮らし~

於田縫紀

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第3章 新しい特別科目

21 魔素について

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 糖分補給で頭が少し復活した。
 なので再度、魔法Ⅱの説明文を読み進める。

『魔法を効率よく使うには魔素ナーナの性質を知ることが重要です。
 魔素ナーナは単一種類ですが、環境に応じて幾つかの発現形態をとります。今回は基本である5つの発現形態について学びます。この発現形態ごとの機能を意識すれば、魔法の威力と操作性がぐんと上がります。更にはこの機能を理解して意識すれば、新たな独自魔法を作り上げることも難しくありません』

 今度は魔素ナーナの種類や機能に対する説明が入るようだ。

『エネルギー操作、貯蔵物質、伝達、次元操作というのは、それぞれの魔素ナーナと貴方の親和性を表しています』

 魔力測定の評定にあったこの言葉の意味も、きっとこれでわかるのだろう。
 そう思いつつ先を読み進める。

『① エネルギー操作型
  通常生活する空間から見て虚数解となる空間にエネルギーを貯蔵し、任意に出し入れする発現形態です。生物外に存在する魔素ナーナの6割はこの形態をとっています。
  エネルギーの出し入れによって加熱や冷却が可能である事は勿論、出し入れするエネルギーの移送制御により加速や減速、方位転換等運動方面にも活用可能な形態です』

 エネルギーと簡単に書いているが、この説明では熱エネルギー、運動エネルギー双方を同様に操作というか、出し入れ出来る様だ。
 でも位置エネルギーは流石に無理だろうな。
 そう思ったところで、知識魔法が起動した。

『重力が存在するところでは、位置エネルギーを使用する事も可能です。位置エネルギーをエネルギーとして収納する事を意識した場合、より重力のかかる方向へ低速で移動し、移動した位置と元の位置の位置エネルギーの差分から、移動に必要としたエネルギーを引いた分を収納することになります。こうして貯蔵したエネルギーは、熱や速度など、他の形態のエネルギーとして使用可能です』

 今の回答で疑問が生じた。
 自分の魔法で使用出来るのは、自分でそうやって貯蔵したエネルギーの量だけなのだろうか?

『そんなことはありません。魔力の範囲内なら自由に魔法を使用する事が可能です』

 なら魔力とは一体何だろう。

『魔力Ⅱの学習の中で説明があります』

 つまり今は気にするなという事か。
 そう判断して、私は先の説明を読むべく、画面をタップする。

『② 物質貯蔵型
  虚数空間にエネルギーではなく、特定物質を貯蔵する発現形態です。貯蔵するものは人体を構成する元素全般にわたります。この発現形態と①のエネルギー操作型形態を使用する事により、人間が生物的に生存する為に必要なほとんどの物質を生成する事が可能です。
  また水などよく使用する物質については、元素では無く実物としても貯蔵しています。なお貯蔵は①のエネルギー操作型と同様、別空間を使用します』

 出水魔法はこのタイプの魔素ナーナを利用しているのだろう。
 現物というか物質がある分、エネルギー操作型よりわかりやすい。

『③ 情報伝達・解析型
  魔法で火を起こす場合、この工程が『燃焼物を取り寄せる』→『酸素と高熱で反応させる』事であると理解し命じる事が出来る術者は多くありません。このように術者の命令を実際の工程に変換する為に必要なのがこの発現形態となります。
  このタイプは次のような動作を行います。
  ⅰ 術者による魔法起動命令を受信する
  ⅱ 多次元空間通信により受信した魔法起動命令を、魔素ナーナの機能で実現する方法を考えて、組み立てる
  ⅲ ⅱで組み立てた方法を実現するため、必要な魔素ナーナを周囲から集める
  ⅳ 集めた魔素ナーナを操作して、魔法を発動する』

 今までの魔素ナーナとは毛色が違う種類だ。
 思考や命令組み立て、他の魔素ナーナの操作。つまりは魔素ナーナの司令塔的な役割のようだ。

 ただそこまでの機能が、細菌程度の筈の魔素ナーナに実現可能なのだろうか。

『この機能は単一の魔素ナーナだけではなく、数億レベル以上の魔素ナーナが互いに接続し機能することによって実現しています。微細機能の集積という面では、脳やコンピューターをイメージするとわかりやすかもしれません』

 あと機能から類推したのだけれど、知識魔法もこの魔素ナーナによるものなのだろうか。

『その通りです。知識魔法は主に情報伝達・解析型の魔素ナーナによって実現されています。これらの魔素ナーナが相互に情報を伝達することにより、惑星オーフ内であれば何処であっても共通の知識・情報を引き出すことが可能です』

 情報伝達・解析型については、だいたい理解した。
 そうやって情報を蓄積したり、判断して伝達したり、色々と超技術だとは感じるけれど、それは他の魔素ナーナについても同様だろう。
 では次の魔素ナーナの説明といこう。

『④ 高次元操作型
  認識可能な3次元及び時間次元の他、コンパクト化された膜状空間等の全てにおいて転置及び移動を行う特殊発現型です。作動にはこの魔素ナーナの他、エネルギー操作型を必要とします。
  収納魔法に使用するという程度におぼえておけばいいでしょう』

 怪しい。
『収納魔法に使用するという程度におぼえておけばいい』の部分が、特に。
 説明もわかりにくいし、意識して使用させないように書いてある気がする。
 なお知識魔法は、私の疑問に反応しない。これもまた怪しい。

 ただ今のところ、怪しむ以上の事は私には出来ない。
 正しいのはきっと『怪しいと思いつつ、今は触れずに先へと進む』ことだろう。
 私達を地球から惑星オーフに連れてきたのも、きっとこの魔素ナーナか、同等の技術だろう。
 そう思ってもやっぱり知識魔法は発動しないし。

『⑤ 人体共生型
   人間の脳に寄生して魔法を発動させるほか、身体各部に寄生して身体能力の向上に寄与する、体内細菌等の代役をする等の働きがあります。
   惑星オーフにて生存するには不可欠な発現型ですが、特に意識する必要はありません』

 特に意識しなくていいのか。
 意識すると身体能力が上がるとかはないのだろうか。

『この発現型については、特にありません。身体機能の一部と化しており、自動的に動作するようになっています。ですので適正等も表示されません』
 
 なるほど。納得はしないがスタンスは理解した。

『主な魔素ナーナの発現形態は、以上です。魔力測定を受けた場合は、どの魔素ナーナと自分が親和性が高いかを、確認してみましょう。
 ただし魔法の使用経験によって、それぞれの魔素ナーナとの親和性は変化します。一般には魔法でよく使用した魔素ナーナの親和性が上がりやすいようです』

 タブレット画面に別窓で、私の魔力測定結果が表示される。

『魔力検査 2月11日 魔力レベル:4(1,837kg)  
 エネルギー操作:106
 貯蔵:105
 伝達:110
 次元操作:90』

 知識魔法を使いまくっているから伝達が高く、風呂や洗濯でそこそこ使っているからエネルギー操作と貯蔵も高め。
『収納魔法に使用するという程度におぼえておけばいいでしょう』の次元操作は低めだ。

 今度から意識して、収納魔法を使用することにしよう。
 さしあたっては机にある筆記用具や紙、ノート等から。
 でもそれでは大した量というか、重さにはならない。
 棚に仕舞ってある服等を全部収納しても、1,837kgにはほど遠い。

 せめてベッドや机くらい収納しないと、鍛える域に達しない気がする。
 それも1回2回ではなく、出し入れを繰り返す位はやらないと。
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