月が出ない空の下で ~異世界移住準備施設・寮暮らし~

於田縫紀

文字の大きさ
20 / 125
第3章 新しい特別科目

20 ファンタジーから遠い魔法

しおりを挟む
『『魔法Ⅱ』では魔法の原理と、応用的な魔法について学習します』

『魔法Ⅱ』の1コマ目は、そんな説明から始まった。
 ただし次の段落がとんでもない。

『以降の学習を効果的に進める為、貴方がより納得いく考え方を選んで下さい。なお選ばなかった側の解説についても読むことは可能ですし、学習途中で選択を変える事も可能です。
 1 魔法とは神や悪魔等、超自然的な力あるものが関与する力である
 2 神や悪魔、超自然的な力等を考慮しなくとも、魔法は実現可能である』

 これって、まるで相反する考え方ではないのだろうか。
 どちらの説明でも同じように、学習内容を満たすことが可能なのだろうか。

 ただ単純に『神がいるか、いないか』『神を信じるか、信じないか』でないところは、割と上手いなと感じる。
『神を信仰していなくとも神の実在や関与は認める』なんて立場や、『神の実在を確信して信仰していても、魔法は科学で解明可能だ』なんて立場であっても、ちゃんと選べる選択肢で。

 もちろん私が選ぶのは2だ。
 1の説明に興味がないでもないけれど、それも読むことは可能らしいから問題ない。
 2をタップすると、画面が切り替わった。
 
『それでは『神や悪魔、超自然的な力等を考慮しなくとも、魔法は実現可能である』という立場で、かつ現在の地球における知識を用いて、以降の説明を行います』

 ふと私は思う。
 私を惑星オーフに連れてきたり若返らせた存在こそ、ある意味神的な存在と言えるような気がすると。
 いわゆる『神』というより、高度に発達した科学文明の産物という感じではあるけれど。
 
『魔法とは、過酷な自然環境を生き抜くために神が与えてくれた大いなる力である。科学技術及び科学的知識が広まっていない時代や場所から惑星オーフに移住した人々、及び惑星オーフで生まれた人々の大部分は今でもそう信じています。
 彼らの知識では世界における全てのものは火、土、水、風、空の五行で成り立っているとされています。魔法も同様にこの5属性から体系づけられています』

 まずは反対の立場からの説明が始まった。
 ここからどう展開するのだろうと思いつつ、私は先へと目を走らせる。

『しかし地球における21世紀の科学知識を持つ皆さんが知っている通り、実際には物質は原子、更に微細化すると素粒子、更に微細化すると多次元の膜です。五行思想というものは、人間が証拠も無しに考え出したものにすぎません。
 魔法は不明かつ検証不可能な力ではなく、科学技術において作り出された現象です。発達した科学技術を持たない人間社会であってもそれなりの生活水準を得る為に導入された、ヘリオ・ヘス・テルタ型開発の根幹をなす技術のひとつです』

 このヘリオ何とかって、前にも聞いた気がする。
 確かここへ来てすぐ、タブレットで言及されていたものだ。
 あの時はあれこれ他に驚く事や考える事があったから、スルーしてしまった。
 これは一体、何なのだろう。

『地球を開発したヘリオ・セス・ベータ型開発から派生した、サブプログラムです』

 知識魔法はそれだけ語った後、沈黙する。
 ならヘリオ・セス・ベータ型開発とは何だ。何の目的で何をどのように開発したんだ。
 そう疑問を思い浮かべても返答はない。

 何もわからない。でも名前と、知識魔法が返答しなかったという事については覚えておこう。
 そう思って、そして画面を先へと進める。

『この魔法という技術は、人工細菌型マイクロマシンを媒介に使用しています。このマイクロマシンは通称『魔素《ナーナ》』と呼ばれ、環境によって発現する場所を変える特殊な長い遺伝子を持っています。また我々が認識可能な空間からは虚数解となる空間に、様々なものを貯蔵する事が可能です』

 正体不明の開発から、科学技術を飛び越えSFにまで話が跳んだ。
 それでも言っている意味は、一応ではあるが理解出来る。

魔素ナーナは人間の脳に感染し、人間に魔素ナーナに対して命令を発信する機能を提供する形で共生します。なお惑星オーフに居住する人々は移住者を含め、感染済みです。
 脳から魔素ナーナに対し命令を発信する事により、魔法を使用する事が可能となります』

 人工細菌型マイクロマシンによって、魔法を実現させている。
 ここまでの説明を要約すれば、こんな感じだろうか。
 不明概念とか超科学的な分とか、知識魔法が回答してくれないような事とかは別として。

 うん、ちょっと疲れた。
 少し頭にエネルギーを補給しよう。
 収納からパンプディングを取り出す。

 さて、改良したパンプディングの味はどうだろう。
 ちょっと苦めのカラメル、その分甘さ控えめのプリン卵液がどうなっているか。
 まさか甘さ控えめ過ぎて、味気ない茶碗蒸しみたいになってはいないよな。
 過去のプリン製造失敗例を思い出しつつ収納から出して、朝・昼食用の木箱から取り出したスプーンを手に取る。

 やっぱり味を確かめるのなら、一番美味しい部分からだろう。
 そしてパンプディングの一番美味しい部分は、表面のパンがカリカリになった部分とプリン化した部分の境目。
 もちろん異論は認めるけれど。容器の下部分、カラメルとくっついているところとか。

 スプーンですくって口に運ぶ。
 うん、やっぱり美味しい。訳がわからない説明で疲れた頭を癒やしてくれる。 
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

力は弱くて魔法も使えないけど強化なら出来る。~俺を散々こき使ってきたパーティの人間に復讐しながら美少女ハーレムを作って魔王をぶっ倒します

枯井戸
ファンタジー
 ──大勇者時代。  誰も彼もが勇者になり、打倒魔王を掲げ、一攫千金を夢見る時代。  そんな時代に、〝真の勇者の息子〟として生を授かった男がいた。  名はユウト。  人々は勇者の血筋に生まれたユウトに、類稀な魔力の才をもって生まれたユウトに、救世を誓願した。ユウトもまた、これを果たさんと、自身も勇者になる事を信じてやまなかった。  そんなある日、ユウトの元へ、ひとりの中性的な顔立ちで、笑顔が爽やかな好青年が訪ねてきた。 「俺のパーティに入って、世界を救う勇者になってくれないか?」  そう言った男の名は〝ユウキ〟  この大勇者時代にすい星のごとく現れた、〝その剣技に比肩する者なし〟と称されるほどの凄腕の冒険者である。 「そんな男を味方につけられるなんて、なんて心強いんだ」と、ユウトはこれを快諾。  しかし、いままで大した戦闘経験を積んでこなかったユウトはどう戦ってよいかわからず、ユウキに助言を求めた。 「戦い方? ……そうだな。なら、エンチャンターになってくれ。よし、それがいい。ユウトおまえはエンチャンターになるべきだ」  ユウトは、多少はその意見に疑問を抱きつつも、ユウキに勧められるがまま、ただひたすらに付与魔法(エンチャント)を勉強し、やがて勇者の血筋だという事も幸いして、史上最強のエンチャンターと呼ばれるまでに成長した。  ところが、そればかりに注力した結果、他がおろそかになってしまい、ユウトは『剣もダメ』『付与魔法以外の魔法もダメ』『体力もない』という三重苦を背負ってしまった。それでもエンチャンターを続けたのは、ユウキの「勇者になってくれ」という言葉が心の奥底にあったから。  ──だが、これこそがユウキの〝真の〟狙いだったのだ。    この物語は主人公であるユウトが、持ち前の要領の良さと、唯一の武器である付与魔法を駆使して、愉快な仲間たちを強化しながら成り上がる、サクセスストーリーである。

【完結】能力が無くても聖女ですか?

天冨 七緒
恋愛
孤児院で育ったケイトリーン。 十二歳になった時特殊な能力が開花し、体調を崩していた王妃を治療する事に… 無事に王妃を完治させ、聖女と呼ばれるようになっていたが王妃の治癒と引き換えに能力を使い果たしてしまった。能力を失ったにも関わらず国王はケイトリーンを王子の婚約者に決定した。 周囲は国王の命令だと我慢する日々。 だが国王が崩御したことで、王子は周囲の「能力の無くなった聖女との婚約を今すぐにでも解消すべき」と押され婚約を解消に… 行く宛もないが婚約解消されたのでケイトリーンは王宮を去る事に…門を抜け歩いて城を後にすると突然足元に魔方陣が現れ光に包まれる… 「おぉー聖女様ぁ」 眩い光が落ち着くと歓声と共に周囲に沢山の人に迎えられていた。ケイトリーンは見知らぬ国の聖女として召喚されてしまっていた… タイトル変更しました 召喚されましたが聖女様ではありません…私は聖女様の世話係です

充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~

中畑 道
ファンタジー
「充実した人生を送ってください。私が創造した剣と魔法の世界で」 唯一の肉親だった妹の葬儀を終えた帰り道、不慮の事故で命を落とした世良登希雄は異世界の創造神に召喚される。弟子である第一女神の願いを叶えるために。 人類未開の地、魔獣の大森林最奥地で異世界の常識や習慣、魔法やスキル、身の守り方や戦い方を学んだトキオ セラは、女神から遣わされた御供のコタローと街へ向かう。 目的は一つ。充実した人生を送ること。

(改定版)婚約破棄はいいですよ?ただ…貴方達に言いたいことがある方々がおられるみたいなので、それをしっかり聞いて下さいね?

水江 蓮
ファンタジー
「ここまでの悪事を働いたアリア・ウィンター公爵令嬢との婚約を破棄し、国外追放とする!!」 ここは裁判所。 今日は沢山の傍聴人が来てくださってます。 さて、罪状について私は全く関係しておりませんが折角なのでしっかり話し合いしましょう? 私はここに裁かれる為に来た訳ではないのです。 本当に裁かれるべき人達? 試してお待ちください…。

【完結】平民聖女の愛と夢

ここ
ファンタジー
ソフィは小さな村で暮らしていた。特技は治癒魔法。ところが、村人のマークの命を救えなかったことにより、村全体から、無視されるようになった。食料もない、お金もない、ソフィは仕方なく旅立った。冒険の旅に。

政略結婚の意味、理解してますか。

章槻雅希
ファンタジー
エスタファドル伯爵家の令嬢マグノリアは王命でオルガサン侯爵家嫡男ペルデルと結婚する。ダメな貴族の見本のようなオルガサン侯爵家立て直しが表向きの理由である。しかし、命を下した国王の狙いはオルガサン家の取り潰しだった。 マグノリアは仄かな恋心を封印し、政略結婚をする。裏のある結婚生活に楽しみを見出しながら。 全21話完結・予約投稿済み。 『小説家になろう』(以下、敬称略)・『アルファポリス』・『pixiv』・自サイトに重複投稿。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

【完結】すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ

一終一(にのまえしゅういち)
ファンタジー
俺こと“有塚しろ”が転移した先は巨大モンスターのうろつく異世界だった。それだけならエサになって終わりだったが、なぜか身に付けていた魔法“ワンオペ”によりポンコツ鎧兵を何体も召喚して命からがら生き延びていた。 百体まで増えた鎧兵を使って騎士団を結成し、モンスター狩りが安定してきた頃、大樹の上に人間の住むマルクト王国を発見する。女王に入国を許されたのだが何を血迷ったか“聖騎士団”の称号を与えられて、いきなり国の重職に就くことになってしまった。 平和に暮らしたい俺は騎士団が実は自分一人だということを隠し、国民の信頼を得るため一人百役で鎧兵を演じていく。 そして事あるごとに俺は心の中で呟くんだ。 『すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ』ってね。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

処理中です...