月が出ない空の下で ~異世界移住準備施設・寮暮らし~

於田縫紀

文字の大きさ
19 / 125
第3章 新しい特別科目

19 魔力測定

しおりを挟む
 外出の翌日の2月11日第5曜日の午前中。
 魔法の科目を24コマ終わらせたところで、こんな表示が出た。

『これで日常で使用する一般的な魔法は、ひととおり使えるようになりました。魔法の訓練量も『魔法Ⅰ』終了基準を満たしています。
 あとは魔力測定を実施すれば、『魔法Ⅰ』科目は履修完了です』

 いままでに無かった、魔力測定なる言葉が出てきた。
 でもどうせ、すぐ説明があるだろう。そう思って読み進める。

『各魔法科目の終了基準を満たした時点で、魔力測定を1回受ける事になっています。朝食配給後から夕食配給までの間でしたら、いつでも測定可能です。詳細は学習相談室で相談して下さい』

 結局『魔法Ⅰ』の内容は最後まで簡単だった。
 要は基本的な魔法の名称と効果を覚えて訓練するだけだ。

 しかも24コマかけても、覚える魔法は20種類しかない。
 熱操作魔法だけでも温度調整上の注意や対象指定方法の訓練で、2コマ分使う位ゆっくりだ。
 名称と効果だけ覚えて、いきなり風呂沸かしが出来た私としては、正直まだるっこしい。

 強いて言えば訓練量がある程度必要、という事が苦労しそうな点だろうか。
 ただこれも、朝晩風呂を沸かした上で毎日洗濯をすると、それだけで3コマ分くらいの訓練量として計上される。
 
 洗濯は専用の布袋に入れて寮1階に朝食までに出しておけば、夕食配給までの間にやってもらえる。
 でも私は、朝風呂に入るようになった三日目からは、魔法の訓練を兼ねて自分で洗っている。

 なお洗濯方法は、だいたいこんな感じだ。
  ① 浴槽に洗濯物を入れ
  ② 洗剤を入れ、水を洗濯物が充分に浸るくらいに出し
  ③ 熱操作魔法で水温を30℃にして、水流魔法で水と洗濯物を攪拌しまくった後
  ④ 風呂の栓を抜いて一度排水し、また水を入れてお湯にして攪拌してすすぎ
  ⑤ 排水した後、圧縮魔法で脱水し
  ⑥ しわを伸ばしつつ乾燥魔法で仕上げる
という方法を使っている。

 水温が30℃なのは、衣服の布地が麻っぽい布地で、あまり高温だと縮みそうに感じたからだ。

『布にした段階で、縮み止めとしてお湯で洗浄しているので、問題ありません』

 知識魔法はそう言ったけれど、日本時代の私の経験から、安全策をとらせてもらった。
 あの麻のジャケット、気に入っていたのになあ……

 いや、麻のジャケットは今は関係ない。今は魔力測定だった。
 時間は9時27分。
 頼めば出来るのなら、さっさとやってしまおう。
 
 部屋から出る時のお約束、基準2の上着を羽織って、髪をさっと櫛ですいて整えてから、部屋を出る。

 ◇◇◇

 魔力の測定は非常に簡単だった。
 相談室へ行って、ナラハ指導員にその旨話したら、体力診断に使う握力計みたいな物を渡された。
 やることは自分の身体に身体強化をかけ、左手で握力計もどきを握るだけ。

 全力で握って力を込めろとかはなく、本当にただ握るだけだ。
 ちなみに私の弱々な握力だと、左で20kg行かない。
 あれは若返る前の身体だったから、今は違うかもしれないけれど。

 なお結果は、その場では出ない。

「魔力測定の結果とその説明については、評定表に記録されます。今から登録しますので、10分くらいしてから確認してください」

 なので部屋に戻って、1科目進めてから見る事にする。
 取りあえず短時間で確実に出来るのは、数学だろう。
 まだ今の段階では、小学校レベルの難易度だから。

 ◇◇◇

 分数と小数の四則演算なんて課題をちゃっちゃと終了し、時計を確認。
 現在は10時31分。
 思ったより小数の計算で時間を食ったなと思いつつ、評定画面を出す。

『ペルリア共和国・生活実習』と『魔法Ⅰ』が完了となっていて、どちらも評価はA。
 この評価はAからEまであって、A~Cが合格、Dが不合格、Eが失格らしい。
 なお評価を上げるための再履修は認められている。
 今のところA評価だけだから、問題はないけれど。

 そして『魔力検査 2月11日 魔力レベル:4 詳細』という記載があった。
 この詳細のところをタップすれば、きっと説明が出てくるのだろう。
 もちろん私はタップする。

 予想通り画面が変わった。
『魔力検査 2月11日 魔力レベル:4(1,837kg)  
 エネルギー操作:106
 貯蔵:105
 伝達:110
 次元操作:90』

 これが結果のようだけれど、当然これだけでは何を意味しているかわからない。
 なのでその下に続く解説を読む。

『魔力レベルの評価は1~10で、数値が大きいほど優れています。惑星オーフ住民の平均は5程度で、ペルリア共和国の義務教育学校9年生の2月のデータでは平均4.2程度です。同年齢の平均と比べればやや低いですが、学習を始めたばかりという事を考慮すればそう悪い値ではありません』

 つまり『まだまだ頑張りましょう』という事か。

『またレベルの横に書いてある値は、収納魔法を使用した場合の予想最大容量を示しています。惑星オーフ住民の平均は2,200kg程度で、ペルリア共和国の義務教育学校9年生の2月のデータでは平均1,931kg程度です』

 魔力の目安がkgというのは意外だった。
 でも案外、実用的な目安なのかもしれない。

『そしてエネルギー操作、貯蔵物質、伝達、次元操作というのは、それぞれの魔素ナーナと貴方の親和性を表しています。100が平均で、効率がいいほど数値が高くなります。それぞれの魔素ナーナがどのような機能を持ち、どのような魔法と関わっているかは、魔法Ⅱで確認して下さい』

 魔素ナーナという言葉は、初めて出てきた。
 いよいよ魔法の原理というか実現方法に踏み込む事になるのだろうか。

 まだ10時35分。時間は充分にある。
 私はタブレットを操作して科目選択画面に戻り、新たに出現した『魔法Ⅱ』を選択した。
 
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

力は弱くて魔法も使えないけど強化なら出来る。~俺を散々こき使ってきたパーティの人間に復讐しながら美少女ハーレムを作って魔王をぶっ倒します

枯井戸
ファンタジー
 ──大勇者時代。  誰も彼もが勇者になり、打倒魔王を掲げ、一攫千金を夢見る時代。  そんな時代に、〝真の勇者の息子〟として生を授かった男がいた。  名はユウト。  人々は勇者の血筋に生まれたユウトに、類稀な魔力の才をもって生まれたユウトに、救世を誓願した。ユウトもまた、これを果たさんと、自身も勇者になる事を信じてやまなかった。  そんなある日、ユウトの元へ、ひとりの中性的な顔立ちで、笑顔が爽やかな好青年が訪ねてきた。 「俺のパーティに入って、世界を救う勇者になってくれないか?」  そう言った男の名は〝ユウキ〟  この大勇者時代にすい星のごとく現れた、〝その剣技に比肩する者なし〟と称されるほどの凄腕の冒険者である。 「そんな男を味方につけられるなんて、なんて心強いんだ」と、ユウトはこれを快諾。  しかし、いままで大した戦闘経験を積んでこなかったユウトはどう戦ってよいかわからず、ユウキに助言を求めた。 「戦い方? ……そうだな。なら、エンチャンターになってくれ。よし、それがいい。ユウトおまえはエンチャンターになるべきだ」  ユウトは、多少はその意見に疑問を抱きつつも、ユウキに勧められるがまま、ただひたすらに付与魔法(エンチャント)を勉強し、やがて勇者の血筋だという事も幸いして、史上最強のエンチャンターと呼ばれるまでに成長した。  ところが、そればかりに注力した結果、他がおろそかになってしまい、ユウトは『剣もダメ』『付与魔法以外の魔法もダメ』『体力もない』という三重苦を背負ってしまった。それでもエンチャンターを続けたのは、ユウキの「勇者になってくれ」という言葉が心の奥底にあったから。  ──だが、これこそがユウキの〝真の〟狙いだったのだ。    この物語は主人公であるユウトが、持ち前の要領の良さと、唯一の武器である付与魔法を駆使して、愉快な仲間たちを強化しながら成り上がる、サクセスストーリーである。

充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~

中畑 道
ファンタジー
「充実した人生を送ってください。私が創造した剣と魔法の世界で」 唯一の肉親だった妹の葬儀を終えた帰り道、不慮の事故で命を落とした世良登希雄は異世界の創造神に召喚される。弟子である第一女神の願いを叶えるために。 人類未開の地、魔獣の大森林最奥地で異世界の常識や習慣、魔法やスキル、身の守り方や戦い方を学んだトキオ セラは、女神から遣わされた御供のコタローと街へ向かう。 目的は一つ。充実した人生を送ること。

【完結】能力が無くても聖女ですか?

天冨 七緒
恋愛
孤児院で育ったケイトリーン。 十二歳になった時特殊な能力が開花し、体調を崩していた王妃を治療する事に… 無事に王妃を完治させ、聖女と呼ばれるようになっていたが王妃の治癒と引き換えに能力を使い果たしてしまった。能力を失ったにも関わらず国王はケイトリーンを王子の婚約者に決定した。 周囲は国王の命令だと我慢する日々。 だが国王が崩御したことで、王子は周囲の「能力の無くなった聖女との婚約を今すぐにでも解消すべき」と押され婚約を解消に… 行く宛もないが婚約解消されたのでケイトリーンは王宮を去る事に…門を抜け歩いて城を後にすると突然足元に魔方陣が現れ光に包まれる… 「おぉー聖女様ぁ」 眩い光が落ち着くと歓声と共に周囲に沢山の人に迎えられていた。ケイトリーンは見知らぬ国の聖女として召喚されてしまっていた… タイトル変更しました 召喚されましたが聖女様ではありません…私は聖女様の世話係です

(改定版)婚約破棄はいいですよ?ただ…貴方達に言いたいことがある方々がおられるみたいなので、それをしっかり聞いて下さいね?

水江 蓮
ファンタジー
「ここまでの悪事を働いたアリア・ウィンター公爵令嬢との婚約を破棄し、国外追放とする!!」 ここは裁判所。 今日は沢山の傍聴人が来てくださってます。 さて、罪状について私は全く関係しておりませんが折角なのでしっかり話し合いしましょう? 私はここに裁かれる為に来た訳ではないのです。 本当に裁かれるべき人達? 試してお待ちください…。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【完結】平民聖女の愛と夢

ここ
ファンタジー
ソフィは小さな村で暮らしていた。特技は治癒魔法。ところが、村人のマークの命を救えなかったことにより、村全体から、無視されるようになった。食料もない、お金もない、ソフィは仕方なく旅立った。冒険の旅に。

【完結】すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ

一終一(にのまえしゅういち)
ファンタジー
俺こと“有塚しろ”が転移した先は巨大モンスターのうろつく異世界だった。それだけならエサになって終わりだったが、なぜか身に付けていた魔法“ワンオペ”によりポンコツ鎧兵を何体も召喚して命からがら生き延びていた。 百体まで増えた鎧兵を使って騎士団を結成し、モンスター狩りが安定してきた頃、大樹の上に人間の住むマルクト王国を発見する。女王に入国を許されたのだが何を血迷ったか“聖騎士団”の称号を与えられて、いきなり国の重職に就くことになってしまった。 平和に暮らしたい俺は騎士団が実は自分一人だということを隠し、国民の信頼を得るため一人百役で鎧兵を演じていく。 そして事あるごとに俺は心の中で呟くんだ。 『すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ』ってね。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

処理中です...