機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

文字の大きさ
86 / 202
第18章 まもりたいもの

86 サマードレスと蕎麦饅頭

しおりを挟む
 そして2日後の午後4時、学生会室。
 俺も香緒里ちゃんも、半分死んだような状態で机に突っ伏している。

 あの後。目覚めた俺を待っていたのは、長い長い事情聴取だった。
 魔力切れから目覚めたふらふら状態のまま、約半日の警察と自衛隊による事情聴取を受けたのだ。

 香緒里ちゃんは意識があった分、俺よりもっと長かったらしい。
 詩織ちゃんは治療と検査と事情聴取等々で、まだ戻ってきていない。

 マンションで倒れ込むように眠った翌日、奈津希さんが現在までわかっている状況を教えてくれた。
 ○ 詩織ちゃんの両親とされていた人間は既に行方をくらました。
   親類縁者等に当たったが、該当人物とはかなり前に縁が切れていて追えず。
   別人による名義背乗りの可能性も高い。
 ○ 北之島に展開していた敵の船は1隻逃走、大型の1隻含む3隻は拿捕。
   また放棄された小型船5隻は回収済。
 ○ 20余名を拿捕、国際法に基づき自衛隊に捕虜として抑留され取調中。
   但し某国は自国の軍事行動と認めていない事から今後の取扱いは不明。
 こんな感じで処理されているそうだ。

 詩織ちゃん本人は微妙な立場。
 しかし未成年であり本人に犯意が無いことから、それほど悪いことにはならないだろうとの事だ。
 あくまで予想で、心配を解消できるものでもないけれど。

「あっ、間もなく……」

 ジェニーがそう言いかけて、ふと口を閉じる。
 何だろう。

 ドンドン。
 微妙に暴力的な音でノック音がした。

「はいれす」

 ジェニーが扉を開ける。
 どかどか、という感じの重量感はあるが品位はあまりない足音。

「なんだ。長津田も薊野妹も元気ないじゃないか」

 この品のない、眠りに突き刺さるような声を、俺は知っている。

「田奈先生、疲れているんですからもう少し静かにお願いします」

「私だって疲れているんだ。昨日今日とあちこち回って、根回しだの手続きだのしてきたからな」

 ドン、と机の上に置かれたのは蕎麦饅頭と書かれた箱。

「何で蕎麦饅頭なんですか。東京土産なのに」

「引っ越し披露だからだ。引っ越しと言えば蕎麦だが、甘いものの方がいいだろう」

 何故田奈先生がここへ来たのか、それと引っ越しがどう関係するのか。
 俺には全く理解できない。
 というか、何かわかっていそうなのはジェニーだけのようだ。
 他は皆? という感じの顔をしている。

「という事でいいだろう。入ってきなさい」

 入ってきたのは、水色の涼しげなサマードレスを着た、詩織ちゃん。
 えっ?

「今度マンションの隣の部屋に引っ越します田奈詩織と申します。よろしくお願い致します」

 え、詩織ちゃんの名字は旗台だった筈。
 それが田奈姓で引っ越しって……
 それらが俺の中で『両親とされていた人間は既に行方不明』という情報と結びつくのに、ちょっとだけ時間がかかった。

「という訳だ。あとは本人に聞くんだな」

 田奈先生はそう言ってそのまま回れ右をして、忙しげに立ち去ろうとする。

「田奈先生」

 とっさに俺は呼び止めた。

「何だ」

「ありがとうございます」

 俺は立ち上がって礼をする。
 見ると、俺以外の全員が同じように礼をしていた。

「私は私のしたいようにしているだけだ。礼を言われる筋合いは無い」

 先生はそう言い残して振り返らず部屋を去り、扉が閉まる。

 ◇◇◇

 30分後、いつもの露天風呂。
 それぞれの湯に浸かりながら、詩織ちゃんの話を聞いている。

「私は特に大変な事は無かったですよ。警察と自衛隊に簡単に調書を取られて、あと裁判所で事情を色々聞かれて。ただ移動が色々せわしなかっただけなのです。でも飯は何処へ行っても美味いのを食べたですよ。親父、食通っすね」

「でも田奈先生相手で大丈夫だった? 話題も合わないだろうよね、きっと」

 由香里姉の言葉に、詩織ちゃんはにまーっと笑う。

「なかなか楽しい親父っすよ。昨日飯食べて服買った後、時間があったから秋葉原の親父馴染みの店に連れて行って貰ったです。電子基板もモーターもパーツ類色々も見れて楽しかったのです。家族になったお祝いで3Dプリンタのいいのも注文したですよ。来週には着く予定です。来たら使わせてあげてもいいです」

 なんだかな。心配を通り越して別の心配が。
 何かもう色々駄目というか、手遅れな気がする。
 完全に田奈先生に馴染んでいる模様だ。

 趣味があうだけにとんでもない事になりそうだ。
 田奈夫人はこれから苦労しないだろうか。

「それじゃあ今日は8時半から家族で夕食会なんで、先にあがるのです」

 詩織ちゃんはそう言うと立ち上がり、タオルを纏うと同時に姿を消した。
 既に田奈邸とこことの間は自由に行き来できるようだ。

「田奈先生のところって、家族構成どうでした」

「先生と奥さんと、魔技大の院生の娘さんが1人だったかな」

 俺は風遊美さんの質問に答える。

「それなら女の子が1人増えても問題は無さそうですね」

「それが詩織ちゃんというのが心配だけどな。田奈先生とオタク同士気が合いすぎて家族争議がおこるかもしれない」

「それでも上手くやっていくだろ。詩織なら」

 樽風呂から顔だけ出している奈津希さんがそう言って、そして俺の方を見る。

「修のベッドに夜中出てくるのも今後無くなると思うぞ。どうだ寂しいか」

「何でそう思うんです」

「修のベッドにちょくちょく出現した理由は、多分ベッドマットが気に入ったのとは違う理由だろうと思うからさ。この学校へ来て修に親切にしてもらった事が嬉しくて、甘えていたんだろうな。家にいたのは親というより上司兼監視者だったらしいし」

「まあ取り敢えず、お互い安眠できるのはいいことですね」

「全くだ」

 俺の本音としては、詩織ちゃんが田奈先生預かりになった事で安堵しているし喜んでもいる。
 田奈先生やつは子供っぽい所もあるし見かけもダメダメ。
 しかし人間としては信頼できるし性格も悪くない。

 某国が取り返しに来ても返り討ちにするくらいの実力もあるし、今の詩織ちゃんの状況ではほぼ理想的な養親だろう。
 経済力も全く問題ない。

「もしベッドが寂しいようなら、僕が代わりに添い寝をしてやろうか」

「確かに奈津希さんの寝相は詩織ちゃんと互角ですが、大きい分邪魔です」

「大丈夫。寝る前にベッドの上でアツーい運動をして疲れさせてくれればいい。お互いスッキリして……」

 奈津希さんの台詞が急に止まる。
 どうしたのかと見ると、奈津希さんが樽風呂ごと氷漬けにされていた。
 大丈夫かと思ったが、5秒位で氷を溶かして復活する。
 流石最強のオールラウンダー。

「由香里さん、僕じゃなければ死ぬ処です!」

「私の予約物件に手を出す方が悪いのよ」

「夜這いと寝取りは日本の文化!」

「なら実力でかかってらっしゃ……」

 由香里姉と奈津希さんが同時にぐったりと倒れる。

「お風呂は静かに楽しむものでしょう」

 風遊美さんはそう言うと、よいしょと身体を起こし、由香里姉を浴槽から引っ張り上げ始めた。

「そうですね」

 こちらは香緒里ちゃん。
 奈津希さんは樽風呂から引っ張り出せないので、代わりに姿勢を整えて樽風呂内の水を排水させている。

 今のは風遊美さんと香緒里ちゃん、どっちが仕掛けたのだろうか。あるいは両方かな?
 まあいいか、そんな些細な事は。

 俺はあられもない姿で作業中の2人から目をそらす。
 取り敢えず今は、ぬるめのお湯を平和かつ静かに楽しむことにしよう。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

盾乃あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

才能は流星魔法

神無月 紅
ファンタジー
東北の田舎に住んでいる遠藤井尾は、事故によって気が付けばどこまでも広がる空間の中にいた。 そこには巨大な水晶があり、その水晶に触れると井尾の持つ流星魔法の才能が目覚めることになる。 流星魔法の才能が目覚めると、井尾は即座に異世界に転移させられてしまう。 ただし、そこは街中ではなく誰も人のいない山の中。 井尾はそこで生き延びるべく奮闘する。 山から降りるため、まずはゴブリンから逃げ回りながら人の住む街や道を探すべく頂上付近まで到達したとき、そこで見たのは地上を移動するゴブリンの軍勢。 井尾はそんなゴブリンの軍勢に向かって流星魔法を使うのだった。 二日に一度、18時に更新します。 カクヨムにも同時投稿しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

処理中です...