機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

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第23章 記念旅行は彼方此方に

115 修学旅行の恒例行事?

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「それでは温泉に行くれす!」

 ジェニーが力強く宣言した。

「俺とルイスは後で行くよ。ここのメインは混浴だし」

 ルイス君が横でコクコクと頷く。
 さっきの女子高専生集団着替えのショックから、まだ逃れきれていないようだ。

「何を今更」

「そうなのです」

 奈津季さんと詩織ちゃんからの反論、そして。

「混浴だからこそ一緒にお願いします。他の男性が入っていたらちょっと怖いじゃないですか」

 香緒里ちゃんにそう言われると、ちょっと断りきれない。
 という訳で女性陣に連行される形で温泉へ。

 脱衣所は男女別れていたので一安心。
 内湯で身体を洗って露天風呂の方へ。

 谷あいの川を堰き止めたという造りの、いい感じの露天風呂だ。
 幸か不幸か、人影はない。

 この上流にも滝壺というか池くらいの大きさのいい感じの露天風呂があるが、そこも無人のようだ。
 ただそっちは多人数だと厳しそうなので、手前広い方の露天風呂に陣取った。

 3月、外はまだ冬で空気も冷たいが、その分温かいお湯が気持ちいい。
 南国の特区ではこの感じは味わえないな。

 まもなくタオルを羽織った一行が、ぞろぞろと賑やかにやって来た。

「お、修とルイスだけか」

「貸し切り状態ですね」

「ならば遠慮はいらないのです」

 飛び込む餓鬼1名。
 思い切りお湯が跳ねて顔に浴びる。

「残念ながら泳ぐには少し浅いですよ」

「明日の宿は温泉プールがあるから、そこまで我慢しなさい」

「お母ちゃーん、親父に怒られたです」

 詩織ちゃんが香緒里ちゃんにそう言って甘える素振りを見せる。

「だれが親父だ、そんなに年離れてないだろ」

「言うことが最近親父臭いのです。親父虫そっくりなのです」

 何か酷い事を言われている。
 誰のせいだよと言おうとしたが、まあいいか。
 取り敢えずこの温泉は気持ちいい。

「上の露天風呂もチャレンジしたいです」

「あ、私も」

「私も行くです」

 1年女子2人とジェニーが上流へと向かっていった。
 なおここの露天風呂は、混浴用に女性用巻タオルがある。
 いちいち目をそらさなくてもいいので大変に助かる。

「凄くいい感じの宿ですけれど、ここは修君が知っている宿なのですか」

 風遊美さんにそう聞かれたので、ネタばらし。

「実は香緒里ちゃんの親父に聞いたんですよ。一番詳しそうなんで」

「修兄はうちの両親と仲がいいですから。私や由香里姉はそうでもないですけれど」

 その原因も俺は知っているけれど、あえてその件は今日は触れない。

「本当は他にもいい温泉があるけれど、山奥過ぎて4月中旬にならないと客を受け入れないそうなんです。ただ施設や食事等も含めるとここが一番お勧めだって言っていました」

「それなら食事も楽しみですね」

「何なら夏休みにでももうひとつの方の宿、皆で行ってみますか。全体として古いし山奥で行きにくいけれど、温泉だけは何種類もあってここより自然に近い感じがするって」

「いいですね。是非行ってみたいです」

 まだ寒い時期だし平日のせいか、他に客の気配が無い。
 まったりと時間が過ぎていく。

 ◇◇◇

 食事もなかなか良かった。
 何品あったのだろう。20品は軽く超えていたけれど。

 魚だけでも焼き鮎や刺身3点やアマダイや……
 あと和牛しゃぶしゃぶも美味しかった。
 最後デザートの杏仁豆腐まで食べるとお腹いっぱい。
 満足して部屋に戻る。

 風遊美さんと奈津季さんと香緒里ちゃんはもう一度風呂へ。
 今度は女性専用の露天に行ってみるそうだ。

「文献だとそろそろ枕投げの時間れす」

 ジェニーがおもむろにそんな事をほざいた。
 何の文献だ、それは。

「今は修学旅行じゃないし、他にもお客さんがいるだろ。煩いし迷惑だから駄目」

「でも3階には他に泊まっているお客さんはいないようれすよ」

 魔女によるレーダーは誤魔化せない。

「それに枕投げなんて文化、俺も実際には知らないぞ」

「それは私達が知っているのれす。ねえソフィー」

「ええ、任せて下さい」

 何故俺が知らないで、ジェニーとソフィーが知っているのだろう。
 というのはともかくとして、なし崩し的に枕投げ大会の準備がはじまってしまった。
 布団を押し入れから出し、あるだけ敷き詰めた後。
 ソフィーちゃんとジェニーからルール説明が始まる。

「今回は人数が少ないのでSimpleなエuleで行きます。1チーム2人。この真中の選から手前が自分の陣地で、そこから出られません。枕を双方投げあって、当たるとアウトです」

「枕は掛布団で防ぐことが来るれす。たら掛布団は組になっている敷布団より外に持ってるとアウトれす。アウトになると陣地から外へるのれす。2人ともアウトになると負けれす」

 そんなルールがあるのか。
 俺は始めて知った。

「では最初は日本人チーム対北アメリカ連合なのれす。ルイスは強そうなので最初は審判れす。審判は『開始』の宣告と『アウト』の宣告をするのれす。例えば私がアウトなら、『ジェニー、アウト』と宣告するのれす」

「アウトの条件は掛け布団で防御できずに枕に当たる、それか掛け布団を持って組になった敷布団から出るでいいのか」

 ルイス君のの確認にジェニーは頷く。

「その通りです。敷布団外の判定は足で、足がちょっと出ただけでもアウトです。持っている枕に枕が当たるのはセーフなのれす」

「わかった」

「ではスタートなのです。最初は双方脚を向けて掛け布団をかけて寝ている姿勢からスタートなのれす」

 色々ルールが細かい。

「では、開始」

 飛び起きて掛け布団を左手に掴んで、防護体勢を取りながら枕を右手で掴む。
 飛んできた枕を掛け布団で落として隙を伺う。
 なかなか動けない。お互い同じ姿勢で睨み合う。

 ならば。
 俺は枕をもうひとつ手元に寄せ、そして弓なりの機動で手前のジェニーを狙う。
 とっさに布団でジェニーが防御する隙に、思い切りよく枕を投げようとする、だが。

「修先輩アウト」

 無情にもソフィーちゃんの枕が手元に当たってしまった。
 しかし俺の動きは無駄ではなかったようで、

「ソフィー、アウト」

 詩織ちゃんがしっかりやり返してくれた。
 そして残った2人の持久戦。
 お互い手元の枕はあと1個。
 そして……

「何をやっているんですか!」

 香緒里ちゃんの一喝が響いた。
 風呂から帰ってきた3人組が帰ってきてしまったのだ。

「階段のあたりから、騒いでいるのが聞こえました」

 風遊美さんが言うからには、その通りなのだろう。

「どうせジェニーあたりが提案して、修が悪ノリしたんだろ」

 奈津季さんがずばり、状況を言い当てる。

「取り敢えず上級生2人は罰が必要ですね」

 香緒里ちゃん、口調とは裏腹に目が笑っている。
 あ、これ絶対下らない事を思いついたな。
 そう悟るが、そう指摘出来る権利が今の俺にはない。

「それでは被疑者2名、それぞれそこの敷布団の上にうつ伏せで横になって下さい」

 嫌な予感がするが、今の状態では逆らえない。
 俺とジェニーはそれぞれ布団の上にうつ伏せになる。

「ではソフィーとルイスは、それぞれ敷布団を持ってきて2人に被せて下さい」

 あ、何をされるかわかってしまった。

「これってまさか、布団蒸しれすか」

 俺だけでなく、ジェニーも気づいたようだ。

「正解です。それでは最後に掛け布団で全体を包んで、上から乗っかる!」

 視界が真っ暗になり、そしてドスンドスンと上から何かが乗ってきた。
 重い、容赦ない。

 でも布団蒸しの恐怖はそこではない。
 布団内に密閉されて息苦しくなる。

 間違いなく暑苦しくなってきている。
 この暑苦しさと息苦しさが、多分布団蒸しの恐怖だ。
 結構きつい。

 隣でバタバタしている気配がする。
 多分ジェニーがギブアップの意思表示をしているんだろう。
 ジェニーは暑さに弱いから。

 しかし敵には補助魔法科医療専攻ふゆみさんがいる。
 本当にやばくなる寸前には助けてくれるだろうが、逆に言うとまだ大丈夫という判断も出来るという訳で……

 上で明らかにドン、と誰かに飛び乗られた気配。
 この軽さは詩織ちゃんだろう。

 それにしてもそろそろ暑くなってきた。
 布団の隙間を開けようとしても身体が動かない。

 うー、そろそろヤバイぞ。
 助けてくれないかな……早く……

 
 3分程で俺達は無事開放された。
 でもジェニーの顔は既に赤くなっている。
 浴衣もはだけていてかなりエロくて、俺は思わず視線を外した。

「本当はあと布団巻きも考えたんですけどね」

 既に香緒里ちゃんの表情は隠しきれない笑顔。
 一番悪ノリしているのは香緒里ちゃんじゃないだろうか。

「布団巻き、って何です」

 不思議そうな顔の風遊美さん。

「敷布団で人をぐるぐる巻きにして、最後に外側を浴衣の帯で縛るれす。隠れキリシタンの処刑からヒントを得たという古式豊かな修学旅行の伝統行事れす」

 またまたジェニーが間違った日本観満載の解説をする。

「いつもはベッドだからこういった事は出来ないな」

「畳と布団のカルチャーならではですね」

 こうやって怪しい文化は伝染していくのだろう。

「修、明日の宿はベッドだっけ」

「独立したコテージで、全員シングルベッドの予定です」

「ならここでしか出来ないか、修、ちょっとこっち来い」

 凄く嫌な予感がする。
 きっと接近してはいけない。

「念のため用件を聞いていいですか」

「日本古来の伝統の運動、四十八手の実演などを」

「それは結構ですから」

 まだ夜は始まったばかりだ。
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