私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一

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第3部 笑顔の裏に隠された真実

4-8キャンプ場で行われる肉の王女と野菜の女帝の戦い

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 一日の仕事が終わったあと。私は、ナギサちゃんとフィニーちゃんの三人で〈北地区〉にある〈グリーン・ガーデン〉に来ていた。ここは、新しく出来たばかりの、キャンプ場だ。

 実は、この町にキャンプ場があるとは、全く知らなかった。だって、観光名所や娯楽施設が沢山あるから、キャンプなんてする人は、いないと思ってたので。

 しかし、実際に来てみたら、多くの人たちで賑わっていた。キャンプサイトには、沢山のテントが立っており、調理スペースでは、みんなバーベキューで、ワイワイ盛り上がっている。

 つい最近までは、普通の牧場だったらしい。その牧場を、改装して作ったのが、このキャンプ場だ。

 ここのオーナーさんが、リリーシャさんの知り合いで、オープン記念の優待券を、送ってくれた。優待券は、三人まで使うことができる。なので『ナギサちゃんたちを、誘って行ってきたら』と、譲ってくれたのだ。

 なお、優待券は、キャンプ場の入場券と、バーベキュー機材の利用券を兼ねていた。食材は持ち込みになるが、入場と機材を借りるだけでも、数千ベル掛かるので、とてもありがたい。

 しかも、肉・野菜・魚介類などの食材は、リリーシャさんが『差し入れ』だと言って、全て用意してくれた。

 リリーシャさんも、私が『ノア・マラソン』に出るために、気を遣ってくれたのだと思う。ここのところ、色んな人に、差し入れをして貰ってばかりだ。

 人の優しを感じると共に、自分ばかり助けてもらって、何だか申しわけない気分がする。いずれ、何らかの形で、ちゃんとお返ししないとね……。

 私たちは、受付で『魔力登録』をして、入場手続きを済ませる。そのあと、指定のエリアに移動した。 

「えーっと、Cの12番は――。あっ、アレみたいだね」

 空中モニターに『C12』の、区画番号が表示されている。モニターに軽く触れると、パッと灯りがついて、設備がライトアップされた。しかも、照明がかなり明るく、屋外なのに、周りがくっきりと見える。

 受付で『魔力登録』した人じゃないと、触れても稼働しない。置いてある調理器具も、登録者だけが、使えるようになっている。自然の中のキャンプ場なのに、かなりハイテクだよね。

 敷地内には、タープテントが立っており、バーベキュー用のクッキング・プレートに、食事用のテーブルとイス。さらに、テントの中には、横になることができる、リクライニング・チェアーまで置いてあった。

「私、キャンプ場は初めてだけど。ずいぶんと、設備が整っているのね」
 ナギサちゃんは、珍しそうに設備を眺めていた。

「ここ、最新のキャンプ場。普通は、ここまで、そろってない」
 フィニーちゃんは、ボソッと呟く。

「だよねー。向こうの世界のキャンプ場も、もっと自然な感じで、何もなかったよ。照明なんかも、ついてなかったし」
「なるほど……そういうものなの」

 やっぱ、ナギサちゃんって、こういうアウトドア系は、やったこと無いんだろうなぁ。いかにも、お嬢様な感じだし。その点、フィニーちゃんは、意外にも、アウトドアには詳しかった。昔はよく、キャンプをやってたんだって。

 とりあえずは、持ってきた袋をテーブルに置き、食材を広げて行く。リリーシャさんに貰った食材だけでも、十分だったけど、二人も色々と持ってきてくれた。

 ナギサちゃんは、いつも通りに、ヘルシーな、サラダやカットフルーツ。フィニーちゃんは、各種お肉に、豚串や鳥串、ホルモンなんかもある。さらに、取り出した大きなプラスチック・ケースには、たっぷりと、白いご飯が入っていた。

「フィニーちゃん、ご飯まで持ってきたの?」
「肉に、ご飯はつきもの」
「それはそうだけど、量が多過ぎない――?」 

 軽く五、六人分はありそうな、超大容量だ。加えて、持って来たお肉も多く、十人以上が集まって、パーティーができるぐらいの量がある。

「大丈夫。肉があれば、いくらでも食べられる」 

 フィニーちゃんは、やや興奮気味に答えた。過去の食べっぷりを見る限りでは、一人でも、ここにある食材を、全て食べ切ってしまいそうだ……。

「相変わらず、バランスが悪いわね、フィニーツァの持って来るものは。肉と炭水化物しか、ないじゃない」 

 確かに、完全に肉三昧。フィニーちゃんの場合、常に高カロリーなものしか、持ってこないんだよね。

「人間は、肉と炭水化物があれば、生きられる」
「って、そんな訳ないでしょ! 少しは健康を考えて、野菜も食べなさいよ」

 ナギサちゃんのツッコミに、あからさまに、嫌そうな顔をするフィニーちゃん。そういえば、フィニーちゃんが野菜を食べてるの、あまり見たことないかも。

「とりあえず、始めよう。リリーシャさんの、折角のご厚意だし。思いっ切り、楽しまなきゃね」
「それも、そうね――。今度、リリーシャさんに、お礼に伺わないと」

「別に、そこまでしなくても、いいと思うけど」
「ダメよ、礼節はとても大事なのだから。特に、目上の人にはね」

 こういう真面目なところは、いかにも、ナギサちゃんらしい。フィニーちゃんは、特に気にした様子もなく、手際よく油をひいて、クッキング・プレートを起動していた。

 さらに、食材のパッケージを開けて、焼く準備に入っている。食べる時に限っては、別人のように、機敏になるんだよね。しかも、凄く真剣な目をしている。

 ほどなくして、プレートの上一杯に、食材が並べられた。ボリュームたっぷりの、お肉と魚介類。見るからに、新鮮そうだ。リリーシャさん、かなりいい食材を、用意してくれたんだと思う。

 フィニーちゃんが持ってきたお肉も、とっても美味しそうだ。食べ物にはうるさいので、きっと吟味したお肉を、持って来たのだろう。

「ちょっと、フィニーツァ。何で野菜を、焼かないのよ?」
「野菜は、ナギサが、全部たべていい」
「何を馬鹿なことを、言ってるの。フィニーツアも、野菜を食べるのよ」

 ナギサちゃんは、トングを手に取ると、肉をどけながら、野菜をどんどん置いて行った。茶色かったプレートに、緑や黄色のいろどりが加わって行く。

「あぁー! 私の肉の王国が……」
「肉一に対して、野菜は二よ。野菜を食べないと、肉は食べさせないからね」

 いつもの事だけど、完全に母親と娘の、やり取りである。

 そういえば、私も昔は、似たようなことを、よく言われてたなぁ。肉とご飯ばかり食べてて、よく母親に怒られてた。野菜は嫌いじゃないけど、どうしても後回しに、なっちゃうんだよね。お腹空いてる時は、ガッツリしたものが食べたいし。

 もちろん、今はちゃんと、好き嫌いなく何でも食べている。というか、好き嫌いしてる、余裕がないんだよね――。

 しばらくすると、ジューッと音を立てながら、食材の香が漂って来た。魚介類の磯の香、肉の油の香、野菜の爽やかな香。どれも、飛び切り美味しそうだ。

 食材をひっくり返し、両面を焼くと、いい感じの食べごろになって来た。ここのクッキング・プレートは、会社のよりも、火力があるようだ。思ったより、早く焼けている。

「もう、大丈夫そうだね……って、フィニーちゃん早っ!」 
 すでに肉を皿にのせ、むしゃむしゃと食べ始めていた。 
  
「ちょっと、フィニーツァ。野菜も食べなさい」
「私、肉食系だから、野菜いらない」
「ふざけたこと、言ってるんじゃないわよ!」

 ナギサちゃんが、フィニーちゃんの皿に、どんどん野菜を盛って行く。例のごとく、二人の言い争いが、始まった。

 私は、フィニーちゃんが持ってきた、大きなボトルの『特製ダレ』を手に取る。お皿に入れると、ほんのり、甘い香りがして、凄くおいしそうだ。やっぱり、肉を食べる時は、タレが命だよね。

 タレの準備できると、まずは野菜をとる。私は、鍋や鉄板焼きの時は、一口目は、野菜から行く派なんだよね。野菜を食べたあとのお肉って、一段と美味しくなる気がするので。

「んー、玉ねぎも、ジャガイモも、凄くおいしー。このカボチャも、甘くて、ほくほくしてる。やっぱり、ノア産の野菜はおいしいね。特性ダレも、凄く合ってるよ」 

 この特製ダレは、メイリオさんのお手製らしい。流石『ハーブマスター』と言われるだけあって、タレにも、色んなハーブが入っている。香がよく、とてもサッパリした味だ。

「風歌は、むしろ肉を食べなさい。肉を食べないと、体力が付かないでしょ」
 ナギサちゃんは、焼けた肉を次々と、私の皿に取ってくれた。

「ありがとう。もちろん、お肉も、ちゃんと食べるよ」

 ナギサちゃんは、食材をプレートに追加して焼きながら、私とフィニーちゃんの皿を、常に確認し、次々と肉や野菜を、皿に盛ってくれる。いつの間にか、ナギサちゃんが、完全に仕切っており、鍋奉行ならぬ、鉄板奉行になっていた。

「ナギサちゃんも、焼いてばかりいないで、どんどん食べて。焼くの代わろうか?」

 ずっと焼いているナギサちゃんに、声を掛ける。とても、ありがたくは有るんだけど、ナギサちゃんにも、楽しんでもらいたい。

「ちゃんと、いただくわよ。でも、焼くのは私がやるから、風歌は食べることに、専念しなさい。そもそも、このバーベキューだって、風歌のために、リリーシャさんが、用意してくれたのでしょ?」

「やっぱ、そう思う?」

『偶然、優待券をもらった』って、言ってたけど。実際には、色々と、手を回してくれたのではないだろうか?

「リリーシャさんが『気遣いの達人』と言われているのは、風歌が一番よく、知っているでしょ? 一番、近くで見ているのだから」

 リリーシャさんは、現役シルフィードの中でも、屈指の『気遣いの達人』と言われている。実際、私なんか、足元にも及ばないぐらい、気遣いが細かいもんね。

「だよねー。でも、お世話になってばかりで、私なにも恩返しができてないんだ。そう考えると、嬉しい反面、気が重いんだよね……」

「何を言っているの? 新人の間は、ずっと先輩や会社に、お世話になりっぱなしなのが、普通なのよ。売り上げに、全く貢献できないのだから。でも、だからこそ、必死に努力して、一人前になることを、目指しているのでしょ?」 

 ナギサちゃんは、さも当たり前そうに語る。

「それは、もちろん。でも『ノア・マラソン』は、自分の限界を知るための、個人的な挑戦だったから。周りの人たちに、こんなに色々、気を遣ってもらうとは、思わなくて」

「生活すら、ままならない私が、周りに迷惑を掛けてまで、やるべきじゃなかったのかなぁー、なんて。今さらだけど――」

 私って、思いつくと、すぐに行動しちゃうからね。『何とかなるから、大丈夫』なんて考えて。実際、何とかなってるんだけど、周りの応援や協力のお蔭だ。今回だって、みんなに、お世話になりっぱなしだもん。

「風歌は、雑な性格のくせに、変に細かいことを、気にするわね」 
「んがっ……」

 いや、雑なのは事実なんだけど。そうも直球で言われると、大雑把な私でも、ちょっとは傷つくんですけど――。

「フィニーツァを、見てごらんなさい。先輩には敬意を払わない、仕事も適当、色々とやりたい放題。あんなのでも、シルフィードが、務まっているのよ」
「流石にそれは、言いすぎでは……」

 ナギサちゃん、言い方――。

 しかし、フィニーちゃんは、全く気にした様子もない。でも、フィニーちゃんは、実際に、物凄く自由だよね。勤務時間中に、平気で昼寝するぐらいだし。それに、食事の時以外、真剣になっているのを、見たことがない。

「あそこまで、図々しくなれとは、言わないけど。ちゃんと、やる事やっているなら、胸を張りなさい。一人前になれば、いくらでも、恩返しは出来るのだから」
「私も、やる事やってる。最近は、あまりサボってない」

 モシャモシャと、食べていたフィニーちゃんが、ポツリとつぶやく。

「って、それが当り前でしょ! また、仕事をサボっているの?」
「大丈夫。見つからないよう、気を付けてる」
「そういう問題じゃないでしょ。少しは、シルフィードの自覚を、持ちなさいよ!」

 この二人が、完全に一致することは、永遠にないと思う。でも、ナギサちゃんは、だいぶ丸くなったし。フィニーちゃんも、前よりは、真面目になった気がする。

 お互いに、いい影響を、与え合っているのかも。足して二で割るぐらいが、ちょうどいいんだけどねぇ。

 焼いては食べてを、繰り返すこと、約一時間半。あれだけ沢山あった食材も、ほぼ全部、食べつくした。主にフィニーちゃんが……。私は、お腹をさすりながら、リクライニング・チェアーに向かおうとすると、

「風歌に、渡すものがあるわ」

 ナギサちゃんが、そっと長方形の包みを、差し出してくる。キレイに包装され、可愛らしいリボンも付いていた。

「開けていい?」
「いいわよ――」 
 ナギサちゃんは、小さな声で答える。

 私は、慎重にテープを外しながら、包装紙を開けると、青い箱が入っていた。いかにも、高級そうな感じがする。ふたを開けてみると、中には『リストバンド』が入っていた。鮮やかな赤色で、白い翼のマークがついている。

「うわぁ、素敵なリストバンド。でも、何で? 私、誕生日とかじゃないけど」
「別に、走る時に、使うかと思っただけよ。いらなければ、捨ててもいいわ」
 ナギサちゃんは、プイッと横を向いた。

「そんな、捨てるだなんて、とんでもない。大事に使わせてもらうね」
 凄くお洒落だし、白い翼のマークが〈ホワイト・ウイング〉所属の私には、ピッタリだ。 

「私は、これ」
 フィニーちゃんが、紙袋をどさっと、テーブルの上に置いた。

「ん、これって……」 

 紙袋をのぞき込むと、クッキータイプの栄養食品『カロリー・マックス』の箱。あと、アルミチューブに入った栄養ゼリー『マナ・チャージ』が入っていた。どちらも、名前からして、滅茶苦茶、栄養価が高そうだ。

「うわー、すっごく元気が出そう」
「当日の朝、食べるといい。きっと、元気になる」
「ありがとう。走る前に、食べさせてもらうね」

 朝は、いつもパンと水だけだから、物凄く助かる。

 でも、こんなに楽しくて、美味しいものが食べられて、素敵なプレゼントまでもらって。本当に、いいんだろうか?

「ちょっと、風歌どうしたのよ――?」
「風歌、おなか痛い?」

 私は、いつの間にか、目から熱いものが流れ落ちていた。

「えっ?! いや、これは、ちょっと感動し過ぎて。心の汗だよ、心の汗」

 他の人と違って、辛い環境にいると思ってたけど、それは大変な勘違いだった。だって、こんなにも、沢山の人から支えられ、優しくして貰ってるのに。これ以上、何を求めるというの? 私って、超幸せ者じゃん。

 私もいつか、誰かを支えられる人間になりたい。誰よりも、人の力になれる、優しいシルフィードになりなたい。

 心の底から、そう思わずにはいられなかった……。


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次回――
『無理・無茶・無謀は若者の特権だよね』

 恐るることなかれ若者よ、進めばそこが道となる
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