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第3部 笑顔の裏に隠された真実
4-8キャンプ場で行われる肉の王女と野菜の女帝の戦い
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一日の仕事が終わったあと。私は、ナギサちゃんとフィニーちゃんの三人で〈北地区〉にある〈グリーン・ガーデン〉に来ていた。ここは、新しく出来たばかりの、キャンプ場だ。
実は、この町にキャンプ場があるとは、全く知らなかった。だって、観光名所や娯楽施設が沢山あるから、キャンプなんてする人は、いないと思ってたので。
しかし、実際に来てみたら、多くの人たちで賑わっていた。キャンプサイトには、沢山のテントが立っており、調理スペースでは、みんなバーベキューで、ワイワイ盛り上がっている。
つい最近までは、普通の牧場だったらしい。その牧場を、改装して作ったのが、このキャンプ場だ。
ここのオーナーさんが、リリーシャさんの知り合いで、オープン記念の優待券を、送ってくれた。優待券は、三人まで使うことができる。なので『ナギサちゃんたちを、誘って行ってきたら』と、譲ってくれたのだ。
なお、優待券は、キャンプ場の入場券と、バーベキュー機材の利用券を兼ねていた。食材は持ち込みになるが、入場と機材を借りるだけでも、数千ベル掛かるので、とてもありがたい。
しかも、肉・野菜・魚介類などの食材は、リリーシャさんが『差し入れ』だと言って、全て用意してくれた。
リリーシャさんも、私が『ノア・マラソン』に出るために、気を遣ってくれたのだと思う。ここのところ、色んな人に、差し入れをして貰ってばかりだ。
人の優しを感じると共に、自分ばかり助けてもらって、何だか申しわけない気分がする。いずれ、何らかの形で、ちゃんとお返ししないとね……。
私たちは、受付で『魔力登録』をして、入場手続きを済ませる。そのあと、指定のエリアに移動した。
「えーっと、Cの12番は――。あっ、アレみたいだね」
空中モニターに『C12』の、区画番号が表示されている。モニターに軽く触れると、パッと灯りがついて、設備がライトアップされた。しかも、照明がかなり明るく、屋外なのに、周りがくっきりと見える。
受付で『魔力登録』した人じゃないと、触れても稼働しない。置いてある調理器具も、登録者だけが、使えるようになっている。自然の中のキャンプ場なのに、かなりハイテクだよね。
敷地内には、タープテントが立っており、バーベキュー用のクッキング・プレートに、食事用のテーブルとイス。さらに、テントの中には、横になることができる、リクライニング・チェアーまで置いてあった。
「私、キャンプ場は初めてだけど。ずいぶんと、設備が整っているのね」
ナギサちゃんは、珍しそうに設備を眺めていた。
「ここ、最新のキャンプ場。普通は、ここまで、そろってない」
フィニーちゃんは、ボソッと呟く。
「だよねー。向こうの世界のキャンプ場も、もっと自然な感じで、何もなかったよ。照明なんかも、ついてなかったし」
「なるほど……そういうものなの」
やっぱ、ナギサちゃんって、こういうアウトドア系は、やったこと無いんだろうなぁ。いかにも、お嬢様な感じだし。その点、フィニーちゃんは、意外にも、アウトドアには詳しかった。昔はよく、キャンプをやってたんだって。
とりあえずは、持ってきた袋をテーブルに置き、食材を広げて行く。リリーシャさんに貰った食材だけでも、十分だったけど、二人も色々と持ってきてくれた。
ナギサちゃんは、いつも通りに、ヘルシーな、サラダやカットフルーツ。フィニーちゃんは、各種お肉に、豚串や鳥串、ホルモンなんかもある。さらに、取り出した大きなプラスチック・ケースには、たっぷりと、白いご飯が入っていた。
「フィニーちゃん、ご飯まで持ってきたの?」
「肉に、ご飯はつきもの」
「それはそうだけど、量が多過ぎない――?」
軽く五、六人分はありそうな、超大容量だ。加えて、持って来たお肉も多く、十人以上が集まって、パーティーができるぐらいの量がある。
「大丈夫。肉があれば、いくらでも食べられる」
フィニーちゃんは、やや興奮気味に答えた。過去の食べっぷりを見る限りでは、一人でも、ここにある食材を、全て食べ切ってしまいそうだ……。
「相変わらず、バランスが悪いわね、フィニーツァの持って来るものは。肉と炭水化物しか、ないじゃない」
確かに、完全に肉三昧。フィニーちゃんの場合、常に高カロリーなものしか、持ってこないんだよね。
「人間は、肉と炭水化物があれば、生きられる」
「って、そんな訳ないでしょ! 少しは健康を考えて、野菜も食べなさいよ」
ナギサちゃんのツッコミに、あからさまに、嫌そうな顔をするフィニーちゃん。そういえば、フィニーちゃんが野菜を食べてるの、あまり見たことないかも。
「とりあえず、始めよう。リリーシャさんの、折角のご厚意だし。思いっ切り、楽しまなきゃね」
「それも、そうね――。今度、リリーシャさんに、お礼に伺わないと」
「別に、そこまでしなくても、いいと思うけど」
「ダメよ、礼節はとても大事なのだから。特に、目上の人にはね」
こういう真面目なところは、いかにも、ナギサちゃんらしい。フィニーちゃんは、特に気にした様子もなく、手際よく油をひいて、クッキング・プレートを起動していた。
さらに、食材のパッケージを開けて、焼く準備に入っている。食べる時に限っては、別人のように、機敏になるんだよね。しかも、凄く真剣な目をしている。
ほどなくして、プレートの上一杯に、食材が並べられた。ボリュームたっぷりの、お肉と魚介類。見るからに、新鮮そうだ。リリーシャさん、かなりいい食材を、用意してくれたんだと思う。
フィニーちゃんが持ってきたお肉も、とっても美味しそうだ。食べ物にはうるさいので、きっと吟味したお肉を、持って来たのだろう。
「ちょっと、フィニーツァ。何で野菜を、焼かないのよ?」
「野菜は、ナギサが、全部たべていい」
「何を馬鹿なことを、言ってるの。フィニーツアも、野菜を食べるのよ」
ナギサちゃんは、トングを手に取ると、肉をどけながら、野菜をどんどん置いて行った。茶色かったプレートに、緑や黄色のいろどりが加わって行く。
「あぁー! 私の肉の王国が……」
「肉一に対して、野菜は二よ。野菜を食べないと、肉は食べさせないからね」
いつもの事だけど、完全に母親と娘の、やり取りである。
そういえば、私も昔は、似たようなことを、よく言われてたなぁ。肉とご飯ばかり食べてて、よく母親に怒られてた。野菜は嫌いじゃないけど、どうしても後回しに、なっちゃうんだよね。お腹空いてる時は、ガッツリしたものが食べたいし。
もちろん、今はちゃんと、好き嫌いなく何でも食べている。というか、好き嫌いしてる、余裕がないんだよね――。
しばらくすると、ジューッと音を立てながら、食材の香が漂って来た。魚介類の磯の香、肉の油の香、野菜の爽やかな香。どれも、飛び切り美味しそうだ。
食材をひっくり返し、両面を焼くと、いい感じの食べごろになって来た。ここのクッキング・プレートは、会社のよりも、火力があるようだ。思ったより、早く焼けている。
「もう、大丈夫そうだね……って、フィニーちゃん早っ!」
すでに肉を皿にのせ、むしゃむしゃと食べ始めていた。
「ちょっと、フィニーツァ。野菜も食べなさい」
「私、肉食系だから、野菜いらない」
「ふざけたこと、言ってるんじゃないわよ!」
ナギサちゃんが、フィニーちゃんの皿に、どんどん野菜を盛って行く。例のごとく、二人の言い争いが、始まった。
私は、フィニーちゃんが持ってきた、大きなボトルの『特製ダレ』を手に取る。お皿に入れると、ほんのり、甘い香りがして、凄くおいしそうだ。やっぱり、肉を食べる時は、タレが命だよね。
タレの準備できると、まずは野菜をとる。私は、鍋や鉄板焼きの時は、一口目は、野菜から行く派なんだよね。野菜を食べたあとのお肉って、一段と美味しくなる気がするので。
「んー、玉ねぎも、ジャガイモも、凄くおいしー。このカボチャも、甘くて、ほくほくしてる。やっぱり、ノア産の野菜はおいしいね。特性ダレも、凄く合ってるよ」
この特製ダレは、メイリオさんのお手製らしい。流石『ハーブマスター』と言われるだけあって、タレにも、色んなハーブが入っている。香がよく、とてもサッパリした味だ。
「風歌は、むしろ肉を食べなさい。肉を食べないと、体力が付かないでしょ」
ナギサちゃんは、焼けた肉を次々と、私の皿に取ってくれた。
「ありがとう。もちろん、お肉も、ちゃんと食べるよ」
ナギサちゃんは、食材をプレートに追加して焼きながら、私とフィニーちゃんの皿を、常に確認し、次々と肉や野菜を、皿に盛ってくれる。いつの間にか、ナギサちゃんが、完全に仕切っており、鍋奉行ならぬ、鉄板奉行になっていた。
「ナギサちゃんも、焼いてばかりいないで、どんどん食べて。焼くの代わろうか?」
ずっと焼いているナギサちゃんに、声を掛ける。とても、ありがたくは有るんだけど、ナギサちゃんにも、楽しんでもらいたい。
「ちゃんと、いただくわよ。でも、焼くのは私がやるから、風歌は食べることに、専念しなさい。そもそも、このバーベキューだって、風歌のために、リリーシャさんが、用意してくれたのでしょ?」
「やっぱ、そう思う?」
『偶然、優待券をもらった』って、言ってたけど。実際には、色々と、手を回してくれたのではないだろうか?
「リリーシャさんが『気遣いの達人』と言われているのは、風歌が一番よく、知っているでしょ? 一番、近くで見ているのだから」
リリーシャさんは、現役シルフィードの中でも、屈指の『気遣いの達人』と言われている。実際、私なんか、足元にも及ばないぐらい、気遣いが細かいもんね。
「だよねー。でも、お世話になってばかりで、私なにも恩返しができてないんだ。そう考えると、嬉しい反面、気が重いんだよね……」
「何を言っているの? 新人の間は、ずっと先輩や会社に、お世話になりっぱなしなのが、普通なのよ。売り上げに、全く貢献できないのだから。でも、だからこそ、必死に努力して、一人前になることを、目指しているのでしょ?」
ナギサちゃんは、さも当たり前そうに語る。
「それは、もちろん。でも『ノア・マラソン』は、自分の限界を知るための、個人的な挑戦だったから。周りの人たちに、こんなに色々、気を遣ってもらうとは、思わなくて」
「生活すら、ままならない私が、周りに迷惑を掛けてまで、やるべきじゃなかったのかなぁー、なんて。今さらだけど――」
私って、思いつくと、すぐに行動しちゃうからね。『何とかなるから、大丈夫』なんて考えて。実際、何とかなってるんだけど、周りの応援や協力のお蔭だ。今回だって、みんなに、お世話になりっぱなしだもん。
「風歌は、雑な性格のくせに、変に細かいことを、気にするわね」
「んがっ……」
いや、雑なのは事実なんだけど。そうも直球で言われると、大雑把な私でも、ちょっとは傷つくんですけど――。
「フィニーツァを、見てごらんなさい。先輩には敬意を払わない、仕事も適当、色々とやりたい放題。あんなのでも、シルフィードが、務まっているのよ」
「流石にそれは、言いすぎでは……」
ナギサちゃん、言い方――。
しかし、フィニーちゃんは、全く気にした様子もない。でも、フィニーちゃんは、実際に、物凄く自由だよね。勤務時間中に、平気で昼寝するぐらいだし。それに、食事の時以外、真剣になっているのを、見たことがない。
「あそこまで、図々しくなれとは、言わないけど。ちゃんと、やる事やっているなら、胸を張りなさい。一人前になれば、いくらでも、恩返しは出来るのだから」
「私も、やる事やってる。最近は、あまりサボってない」
モシャモシャと、食べていたフィニーちゃんが、ポツリとつぶやく。
「って、それが当り前でしょ! また、仕事をサボっているの?」
「大丈夫。見つからないよう、気を付けてる」
「そういう問題じゃないでしょ。少しは、シルフィードの自覚を、持ちなさいよ!」
この二人が、完全に一致することは、永遠にないと思う。でも、ナギサちゃんは、だいぶ丸くなったし。フィニーちゃんも、前よりは、真面目になった気がする。
お互いに、いい影響を、与え合っているのかも。足して二で割るぐらいが、ちょうどいいんだけどねぇ。
焼いては食べてを、繰り返すこと、約一時間半。あれだけ沢山あった食材も、ほぼ全部、食べつくした。主にフィニーちゃんが……。私は、お腹をさすりながら、リクライニング・チェアーに向かおうとすると、
「風歌に、渡すものがあるわ」
ナギサちゃんが、そっと長方形の包みを、差し出してくる。キレイに包装され、可愛らしいリボンも付いていた。
「開けていい?」
「いいわよ――」
ナギサちゃんは、小さな声で答える。
私は、慎重にテープを外しながら、包装紙を開けると、青い箱が入っていた。いかにも、高級そうな感じがする。ふたを開けてみると、中には『リストバンド』が入っていた。鮮やかな赤色で、白い翼のマークがついている。
「うわぁ、素敵なリストバンド。でも、何で? 私、誕生日とかじゃないけど」
「別に、走る時に、使うかと思っただけよ。いらなければ、捨ててもいいわ」
ナギサちゃんは、プイッと横を向いた。
「そんな、捨てるだなんて、とんでもない。大事に使わせてもらうね」
凄くお洒落だし、白い翼のマークが〈ホワイト・ウイング〉所属の私には、ピッタリだ。
「私は、これ」
フィニーちゃんが、紙袋をどさっと、テーブルの上に置いた。
「ん、これって……」
紙袋をのぞき込むと、クッキータイプの栄養食品『カロリー・マックス』の箱。あと、アルミチューブに入った栄養ゼリー『マナ・チャージ』が入っていた。どちらも、名前からして、滅茶苦茶、栄養価が高そうだ。
「うわー、すっごく元気が出そう」
「当日の朝、食べるといい。きっと、元気になる」
「ありがとう。走る前に、食べさせてもらうね」
朝は、いつもパンと水だけだから、物凄く助かる。
でも、こんなに楽しくて、美味しいものが食べられて、素敵なプレゼントまでもらって。本当に、いいんだろうか?
「ちょっと、風歌どうしたのよ――?」
「風歌、おなか痛い?」
私は、いつの間にか、目から熱いものが流れ落ちていた。
「えっ?! いや、これは、ちょっと感動し過ぎて。心の汗だよ、心の汗」
他の人と違って、辛い環境にいると思ってたけど、それは大変な勘違いだった。だって、こんなにも、沢山の人から支えられ、優しくして貰ってるのに。これ以上、何を求めるというの? 私って、超幸せ者じゃん。
私もいつか、誰かを支えられる人間になりたい。誰よりも、人の力になれる、優しいシルフィードになりなたい。
心の底から、そう思わずにはいられなかった……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『無理・無茶・無謀は若者の特権だよね』
恐るることなかれ若者よ、進めばそこが道となる
実は、この町にキャンプ場があるとは、全く知らなかった。だって、観光名所や娯楽施設が沢山あるから、キャンプなんてする人は、いないと思ってたので。
しかし、実際に来てみたら、多くの人たちで賑わっていた。キャンプサイトには、沢山のテントが立っており、調理スペースでは、みんなバーベキューで、ワイワイ盛り上がっている。
つい最近までは、普通の牧場だったらしい。その牧場を、改装して作ったのが、このキャンプ場だ。
ここのオーナーさんが、リリーシャさんの知り合いで、オープン記念の優待券を、送ってくれた。優待券は、三人まで使うことができる。なので『ナギサちゃんたちを、誘って行ってきたら』と、譲ってくれたのだ。
なお、優待券は、キャンプ場の入場券と、バーベキュー機材の利用券を兼ねていた。食材は持ち込みになるが、入場と機材を借りるだけでも、数千ベル掛かるので、とてもありがたい。
しかも、肉・野菜・魚介類などの食材は、リリーシャさんが『差し入れ』だと言って、全て用意してくれた。
リリーシャさんも、私が『ノア・マラソン』に出るために、気を遣ってくれたのだと思う。ここのところ、色んな人に、差し入れをして貰ってばかりだ。
人の優しを感じると共に、自分ばかり助けてもらって、何だか申しわけない気分がする。いずれ、何らかの形で、ちゃんとお返ししないとね……。
私たちは、受付で『魔力登録』をして、入場手続きを済ませる。そのあと、指定のエリアに移動した。
「えーっと、Cの12番は――。あっ、アレみたいだね」
空中モニターに『C12』の、区画番号が表示されている。モニターに軽く触れると、パッと灯りがついて、設備がライトアップされた。しかも、照明がかなり明るく、屋外なのに、周りがくっきりと見える。
受付で『魔力登録』した人じゃないと、触れても稼働しない。置いてある調理器具も、登録者だけが、使えるようになっている。自然の中のキャンプ場なのに、かなりハイテクだよね。
敷地内には、タープテントが立っており、バーベキュー用のクッキング・プレートに、食事用のテーブルとイス。さらに、テントの中には、横になることができる、リクライニング・チェアーまで置いてあった。
「私、キャンプ場は初めてだけど。ずいぶんと、設備が整っているのね」
ナギサちゃんは、珍しそうに設備を眺めていた。
「ここ、最新のキャンプ場。普通は、ここまで、そろってない」
フィニーちゃんは、ボソッと呟く。
「だよねー。向こうの世界のキャンプ場も、もっと自然な感じで、何もなかったよ。照明なんかも、ついてなかったし」
「なるほど……そういうものなの」
やっぱ、ナギサちゃんって、こういうアウトドア系は、やったこと無いんだろうなぁ。いかにも、お嬢様な感じだし。その点、フィニーちゃんは、意外にも、アウトドアには詳しかった。昔はよく、キャンプをやってたんだって。
とりあえずは、持ってきた袋をテーブルに置き、食材を広げて行く。リリーシャさんに貰った食材だけでも、十分だったけど、二人も色々と持ってきてくれた。
ナギサちゃんは、いつも通りに、ヘルシーな、サラダやカットフルーツ。フィニーちゃんは、各種お肉に、豚串や鳥串、ホルモンなんかもある。さらに、取り出した大きなプラスチック・ケースには、たっぷりと、白いご飯が入っていた。
「フィニーちゃん、ご飯まで持ってきたの?」
「肉に、ご飯はつきもの」
「それはそうだけど、量が多過ぎない――?」
軽く五、六人分はありそうな、超大容量だ。加えて、持って来たお肉も多く、十人以上が集まって、パーティーができるぐらいの量がある。
「大丈夫。肉があれば、いくらでも食べられる」
フィニーちゃんは、やや興奮気味に答えた。過去の食べっぷりを見る限りでは、一人でも、ここにある食材を、全て食べ切ってしまいそうだ……。
「相変わらず、バランスが悪いわね、フィニーツァの持って来るものは。肉と炭水化物しか、ないじゃない」
確かに、完全に肉三昧。フィニーちゃんの場合、常に高カロリーなものしか、持ってこないんだよね。
「人間は、肉と炭水化物があれば、生きられる」
「って、そんな訳ないでしょ! 少しは健康を考えて、野菜も食べなさいよ」
ナギサちゃんのツッコミに、あからさまに、嫌そうな顔をするフィニーちゃん。そういえば、フィニーちゃんが野菜を食べてるの、あまり見たことないかも。
「とりあえず、始めよう。リリーシャさんの、折角のご厚意だし。思いっ切り、楽しまなきゃね」
「それも、そうね――。今度、リリーシャさんに、お礼に伺わないと」
「別に、そこまでしなくても、いいと思うけど」
「ダメよ、礼節はとても大事なのだから。特に、目上の人にはね」
こういう真面目なところは、いかにも、ナギサちゃんらしい。フィニーちゃんは、特に気にした様子もなく、手際よく油をひいて、クッキング・プレートを起動していた。
さらに、食材のパッケージを開けて、焼く準備に入っている。食べる時に限っては、別人のように、機敏になるんだよね。しかも、凄く真剣な目をしている。
ほどなくして、プレートの上一杯に、食材が並べられた。ボリュームたっぷりの、お肉と魚介類。見るからに、新鮮そうだ。リリーシャさん、かなりいい食材を、用意してくれたんだと思う。
フィニーちゃんが持ってきたお肉も、とっても美味しそうだ。食べ物にはうるさいので、きっと吟味したお肉を、持って来たのだろう。
「ちょっと、フィニーツァ。何で野菜を、焼かないのよ?」
「野菜は、ナギサが、全部たべていい」
「何を馬鹿なことを、言ってるの。フィニーツアも、野菜を食べるのよ」
ナギサちゃんは、トングを手に取ると、肉をどけながら、野菜をどんどん置いて行った。茶色かったプレートに、緑や黄色のいろどりが加わって行く。
「あぁー! 私の肉の王国が……」
「肉一に対して、野菜は二よ。野菜を食べないと、肉は食べさせないからね」
いつもの事だけど、完全に母親と娘の、やり取りである。
そういえば、私も昔は、似たようなことを、よく言われてたなぁ。肉とご飯ばかり食べてて、よく母親に怒られてた。野菜は嫌いじゃないけど、どうしても後回しに、なっちゃうんだよね。お腹空いてる時は、ガッツリしたものが食べたいし。
もちろん、今はちゃんと、好き嫌いなく何でも食べている。というか、好き嫌いしてる、余裕がないんだよね――。
しばらくすると、ジューッと音を立てながら、食材の香が漂って来た。魚介類の磯の香、肉の油の香、野菜の爽やかな香。どれも、飛び切り美味しそうだ。
食材をひっくり返し、両面を焼くと、いい感じの食べごろになって来た。ここのクッキング・プレートは、会社のよりも、火力があるようだ。思ったより、早く焼けている。
「もう、大丈夫そうだね……って、フィニーちゃん早っ!」
すでに肉を皿にのせ、むしゃむしゃと食べ始めていた。
「ちょっと、フィニーツァ。野菜も食べなさい」
「私、肉食系だから、野菜いらない」
「ふざけたこと、言ってるんじゃないわよ!」
ナギサちゃんが、フィニーちゃんの皿に、どんどん野菜を盛って行く。例のごとく、二人の言い争いが、始まった。
私は、フィニーちゃんが持ってきた、大きなボトルの『特製ダレ』を手に取る。お皿に入れると、ほんのり、甘い香りがして、凄くおいしそうだ。やっぱり、肉を食べる時は、タレが命だよね。
タレの準備できると、まずは野菜をとる。私は、鍋や鉄板焼きの時は、一口目は、野菜から行く派なんだよね。野菜を食べたあとのお肉って、一段と美味しくなる気がするので。
「んー、玉ねぎも、ジャガイモも、凄くおいしー。このカボチャも、甘くて、ほくほくしてる。やっぱり、ノア産の野菜はおいしいね。特性ダレも、凄く合ってるよ」
この特製ダレは、メイリオさんのお手製らしい。流石『ハーブマスター』と言われるだけあって、タレにも、色んなハーブが入っている。香がよく、とてもサッパリした味だ。
「風歌は、むしろ肉を食べなさい。肉を食べないと、体力が付かないでしょ」
ナギサちゃんは、焼けた肉を次々と、私の皿に取ってくれた。
「ありがとう。もちろん、お肉も、ちゃんと食べるよ」
ナギサちゃんは、食材をプレートに追加して焼きながら、私とフィニーちゃんの皿を、常に確認し、次々と肉や野菜を、皿に盛ってくれる。いつの間にか、ナギサちゃんが、完全に仕切っており、鍋奉行ならぬ、鉄板奉行になっていた。
「ナギサちゃんも、焼いてばかりいないで、どんどん食べて。焼くの代わろうか?」
ずっと焼いているナギサちゃんに、声を掛ける。とても、ありがたくは有るんだけど、ナギサちゃんにも、楽しんでもらいたい。
「ちゃんと、いただくわよ。でも、焼くのは私がやるから、風歌は食べることに、専念しなさい。そもそも、このバーベキューだって、風歌のために、リリーシャさんが、用意してくれたのでしょ?」
「やっぱ、そう思う?」
『偶然、優待券をもらった』って、言ってたけど。実際には、色々と、手を回してくれたのではないだろうか?
「リリーシャさんが『気遣いの達人』と言われているのは、風歌が一番よく、知っているでしょ? 一番、近くで見ているのだから」
リリーシャさんは、現役シルフィードの中でも、屈指の『気遣いの達人』と言われている。実際、私なんか、足元にも及ばないぐらい、気遣いが細かいもんね。
「だよねー。でも、お世話になってばかりで、私なにも恩返しができてないんだ。そう考えると、嬉しい反面、気が重いんだよね……」
「何を言っているの? 新人の間は、ずっと先輩や会社に、お世話になりっぱなしなのが、普通なのよ。売り上げに、全く貢献できないのだから。でも、だからこそ、必死に努力して、一人前になることを、目指しているのでしょ?」
ナギサちゃんは、さも当たり前そうに語る。
「それは、もちろん。でも『ノア・マラソン』は、自分の限界を知るための、個人的な挑戦だったから。周りの人たちに、こんなに色々、気を遣ってもらうとは、思わなくて」
「生活すら、ままならない私が、周りに迷惑を掛けてまで、やるべきじゃなかったのかなぁー、なんて。今さらだけど――」
私って、思いつくと、すぐに行動しちゃうからね。『何とかなるから、大丈夫』なんて考えて。実際、何とかなってるんだけど、周りの応援や協力のお蔭だ。今回だって、みんなに、お世話になりっぱなしだもん。
「風歌は、雑な性格のくせに、変に細かいことを、気にするわね」
「んがっ……」
いや、雑なのは事実なんだけど。そうも直球で言われると、大雑把な私でも、ちょっとは傷つくんですけど――。
「フィニーツァを、見てごらんなさい。先輩には敬意を払わない、仕事も適当、色々とやりたい放題。あんなのでも、シルフィードが、務まっているのよ」
「流石にそれは、言いすぎでは……」
ナギサちゃん、言い方――。
しかし、フィニーちゃんは、全く気にした様子もない。でも、フィニーちゃんは、実際に、物凄く自由だよね。勤務時間中に、平気で昼寝するぐらいだし。それに、食事の時以外、真剣になっているのを、見たことがない。
「あそこまで、図々しくなれとは、言わないけど。ちゃんと、やる事やっているなら、胸を張りなさい。一人前になれば、いくらでも、恩返しは出来るのだから」
「私も、やる事やってる。最近は、あまりサボってない」
モシャモシャと、食べていたフィニーちゃんが、ポツリとつぶやく。
「って、それが当り前でしょ! また、仕事をサボっているの?」
「大丈夫。見つからないよう、気を付けてる」
「そういう問題じゃないでしょ。少しは、シルフィードの自覚を、持ちなさいよ!」
この二人が、完全に一致することは、永遠にないと思う。でも、ナギサちゃんは、だいぶ丸くなったし。フィニーちゃんも、前よりは、真面目になった気がする。
お互いに、いい影響を、与え合っているのかも。足して二で割るぐらいが、ちょうどいいんだけどねぇ。
焼いては食べてを、繰り返すこと、約一時間半。あれだけ沢山あった食材も、ほぼ全部、食べつくした。主にフィニーちゃんが……。私は、お腹をさすりながら、リクライニング・チェアーに向かおうとすると、
「風歌に、渡すものがあるわ」
ナギサちゃんが、そっと長方形の包みを、差し出してくる。キレイに包装され、可愛らしいリボンも付いていた。
「開けていい?」
「いいわよ――」
ナギサちゃんは、小さな声で答える。
私は、慎重にテープを外しながら、包装紙を開けると、青い箱が入っていた。いかにも、高級そうな感じがする。ふたを開けてみると、中には『リストバンド』が入っていた。鮮やかな赤色で、白い翼のマークがついている。
「うわぁ、素敵なリストバンド。でも、何で? 私、誕生日とかじゃないけど」
「別に、走る時に、使うかと思っただけよ。いらなければ、捨ててもいいわ」
ナギサちゃんは、プイッと横を向いた。
「そんな、捨てるだなんて、とんでもない。大事に使わせてもらうね」
凄くお洒落だし、白い翼のマークが〈ホワイト・ウイング〉所属の私には、ピッタリだ。
「私は、これ」
フィニーちゃんが、紙袋をどさっと、テーブルの上に置いた。
「ん、これって……」
紙袋をのぞき込むと、クッキータイプの栄養食品『カロリー・マックス』の箱。あと、アルミチューブに入った栄養ゼリー『マナ・チャージ』が入っていた。どちらも、名前からして、滅茶苦茶、栄養価が高そうだ。
「うわー、すっごく元気が出そう」
「当日の朝、食べるといい。きっと、元気になる」
「ありがとう。走る前に、食べさせてもらうね」
朝は、いつもパンと水だけだから、物凄く助かる。
でも、こんなに楽しくて、美味しいものが食べられて、素敵なプレゼントまでもらって。本当に、いいんだろうか?
「ちょっと、風歌どうしたのよ――?」
「風歌、おなか痛い?」
私は、いつの間にか、目から熱いものが流れ落ちていた。
「えっ?! いや、これは、ちょっと感動し過ぎて。心の汗だよ、心の汗」
他の人と違って、辛い環境にいると思ってたけど、それは大変な勘違いだった。だって、こんなにも、沢山の人から支えられ、優しくして貰ってるのに。これ以上、何を求めるというの? 私って、超幸せ者じゃん。
私もいつか、誰かを支えられる人間になりたい。誰よりも、人の力になれる、優しいシルフィードになりなたい。
心の底から、そう思わずにはいられなかった……。
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次回――
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恐るることなかれ若者よ、進めばそこが道となる
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キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~
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ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。
木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。
そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。
もう一度言う。
手違いだったのだ。もしくは事故。
出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた!
そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて――
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【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
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過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
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異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
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俺は異世界転生者カドマツ。
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