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第6部 飛び立つ勇気
4-6この世界って広いようで意外と狭いよね
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今日は『シルフィード・フェスタ』の三日目。私は〈南地区〉の上空を飛んでいた。ここは、最も観光客の多い地区だからだ。相変わらず、私に予約は入って来ないので、午前中の仕事が終わったあとは、お客様探しをしなければならなかった。
ただ、あまりにも人が多すぎて、この中からお客様を見つけるのは、物凄く難しい。何となく、地元の人と観光客の、見分けはつくんだけど。案内が必要かどうかまでは、見ただけでは、全く見分けがつかないんだよね。
ちなみに、ベテランになると、見た瞬間に、案内が必要か分かるらしい。けど、私はまだ、その域には達していなかった。『どこに行くのかなぁ?』程度の、簡単な予想しかできない。
今までは、練習飛行をしてたのって、イベントのない、平常時だったし。いざ、本番になると、なかなか上手くは、行かないもんだよねぇ。かと言って、何もしないで、ボーッと過ごす訳にもいかないし。
なので、人の波の中に視線を向け、必死になって観察を続ける。すでに、一時間以上、マン・ウォッチングをしているけど、何一つ成果はなかった。
「うーむ。〈南地区〉は人が多すぎて、上級者向きなのかなぁ?〈西地区〉とか、もう少し、人の少ない場所のほうが、いいのかも……」
人が少ないほうが、当然、見分けはつきやすい。でも、その分、観光客の数は減ってしまうので、悩ましいところだ。
『そろそろ、移動しようかなぁ』と考えていた時、ふと、違和感のある人物が、視界に入って来た。大きな人の流れの中で、右往左往しているのだ。
よく見ると、小さな女の子で、危うく見落とすところだった。視線が泳いでいるので、もしかしたら、迷子かもしれない。
困った人がいたら、手を差し伸べる。これは、シルフィードの基本理念だ。もっとも、ただの理念なので、全ての人が、守っている訳ではない。でも、私の場合は『どんな時でも人助け最優先』が、ポリシーだ。
急いで地上を確認し、エア・ドルフィンが停められるスペースを探す。人混みの中に、僅かなスペースを見つけると、素早く着陸する。これも、見習い時代に散々やった、練習の成果だ。
私は、エア・ドルフィンを降りると、人混みをすり抜けながら、早足で少女の元に向かった。
「どうしたの? 大丈夫?」
私は、不安げな表様を浮かべていた少女の前に、静かにかがみ込むと、笑顔で声をかけた。
「ママが、いないの――」
彼女は、目に涙を浮かべながら答える。どうやら、迷子で間違いないらしい。
「大丈夫。お姉ちゃんが、見つけてあげるからね」
「本当に……?」
「うん。お姉ちゃん、人探しのプロだから。任せておいて」
すると、少女の表情が、パッと明るくなった。
私は、彼女の手を取り、エア・ドルフィンに戻ると、そっと後部座席に乗せた。彼女から、少しだけ状況を聴いたあと、ゆっくり上空に舞い上る。
この人の量だと、地上から見付けるのは、まず無理だ。持ち前の視力を活かして、上空から見付けるしかない。
会話から分かったのは、彼女の名前は、ルナちゃん。年齢は六歳。大陸からイベントを見に来て、おじいちゃんの家に、二日前から泊まっている。今日は、お母さんと二人で見に来たけど、いつの間にか、はぐれてしまった。
よくよく、話を聴いてみると、リリーシャさんの大ファンらしい。将来は、彼女のような、素敵なシルフィードになりたいんだって。先日のパレードの際も〈シルフィード広場〉に行って、リリーシャさんの舞台挨拶を、見に行っていたそうだ。
私が『リリーシャさんと、同じ会社で働いている』と言ったら、物凄く興奮して、色々と質問攻めにされた。興味があるのは〈ホワイト・ウイング〉と、リリーシャさんのことだけ。でも、何だか、悪い気はしない。
色々話している内に、事情は、だいたい分かった。ただ、問題は、どう探すかだよね。これほど、人が多い中から、顔も知らない人を見つけるのは、不可能に近い。そもそも、どこではぐれたかも、全く分からない状態だ。
あと、子供の表現力は、意外とあいまいだ。お母さんの特徴を聴いたけど、今一つピンと来ない。服装も、よく覚えてないみたいだし。
ここは素直に『迷子センター』に預けるのが、確実かもしれない。イベント期間中は、何ヵ所か、迷子センターが設置されている。でも、せっかくの縁だし、同じ人のファンなので、他人事には思えない。
結局、ゆっくり低空飛行しながら、人混みの中から、目視で彼女の母親を探すことにした。視力には、物凄く自信があるので、ルナちゃんから聴いた特徴をもとに、次々と女性の顔を観察して行く。
顔はよく分からないので、大事なのは、目線の動きだ。目線を見れば、大体の思考が読み取れる。これは、お客様を探す時の、基本でもあった。
探し始めてから、二十分ほど。楽しそうに進んで行く人たちの中で、目線が、激しく動いている女性を発見する。普段から、マン・ウォッチングをしているので、瞬時に、周りの人との違いに気が付いた。
「ルナちゃん、あの人は違う?」
「えーっと――。あっ、ママだっ! ママー! ママー!!」
後ろに乗っていたルナちゃんは、地上に向かって、大きな声で叫んだ。地上にいた女性も、その声に反応し、キョロキョロしたあと、上空にいた私たちの姿を発見する。こちらを見つけた瞬間、表情が明るくなり、大きく両手を挙げた。
私は、空きスペースを見つけると、静かに機体を降下させて行った……。
******
私の目の前では、ルナちゃんが、お母さんに、ヒシっと抱き付いている。思った以上に早く見つかって、本当によかった。
正直、この人の中から見つけるのは、かなり難しいと思っていた。でも、二人とも、はぐれた地点から、あまり動いていなかったので、運よく見つけられたのだ。
「本当に、本当に、ありがとうございました」
「いえ、お気になさらずに。これだけ人が多いと、はぐれることも有りますので」
世界中から観光客が来るので、イベントがあった時の、この町の人の数は、尋常じゃなく多くなる。だから、時には、大人だって迷子になることがあるからね。
「あの、もしかして……その社章は〈ホワイト・ウイング〉の方ですか?」
「はい。うちの会社を、ご存じなんですか?」
「今までに、何度か、利用したことがあるんです。『天使の羽』に、観光案内をしていただいて」
「ご利用、ありがとうございます。それで、ルナちゃんが、リリーシャさんのこと、詳しかったんですね」
なるほど、うちの常連さんだったんだ。それにしても、リリーシャさんって凄いよね。こんな小さな子まで、ファンだなんて。
「イベントの最中に、手を煩わせてしまって、申し訳ありませんでした。有名企業の方ですから、さぞ、お忙しいでしょうに」
「いえいえ。私は、全然、忙しくないんです。まだ、一人前に、昇級したてなので、予約も入っていませんし」
「そうなんですか?」
「はい。今も、お客様を探すために、街中を飛び回っていたところで」
私は、苦笑いを浮かべながら答えた。
こんなに、イベントで盛り上がっているのに。お客様がいないなんて、悲し過ぎるよね。でも、新人シルフィードなんて、実際は、こんなものだ。
「あの、それって、予約なしでも大丈夫、ってことですか?」
「リリーシャさんのような、大人気シルフィードは、完全に予約制ですけど。私は、いつも、飛込み営業ですので」
「では、もし、よろしければ、案内をお願いしてもいいですか?」
「えっ?! 私で、いいんですか? まだ、新人ですけど」
その時、スッとルナちゃんが前に進み出て、私の制服の裾をつかんだ。
「私、このお姉ちゃんがいい。リリーシャさんのこと、もっと聴きたい」
その言葉に、ルナちゃんのお母さんと私は、ちょっと、微妙な笑顔を浮かべた。
まぁ、子供ってのは、凄く正直だからね。そりゃ、人気シルフィードのほうが、いいに決まってる。でも〈ホワイト・ウイング〉の常連さんだし。理由はどうあれ、私を選んでくれただけでも、十分に嬉しい。
結局、そんなこんなで、私は、二人を案内することになった。今日、乗って来たのは、後部座席が一つの、ワンシートタイプなので、徒歩で案内する。歩いたほうが、お祭りの雰囲気が楽しめるし。何と言っても、醍醐味は沢山の出店だ。
私は、イベントや町のことを、色々と説明しながら、出店を中心に回って行った。二人とも、私の話を、興味深げに聴いてくれた。特に、ルナちゃんは、キラキラした目で、とても楽しそうに聴いている。
いやー、こんなに真剣に聴いてもらえると、勉強した甲斐があるよねぇ。真面目に勉強してて、本当によかったー。初めて、勉強の大切さが分かったかも。
私たちは、一時間ほど、あちこち歩き回ったあと、カフェに入って、休憩することにした。テラス席に座って、三人でお茶にする。
「やはり、流石は〈ホワイト・ウイング〉の、シルフィードさんですね。とても、素敵な案内でした」
「超楽しかったー!」
お母さんの言葉に反応して、ルナちゃんも、笑顔で答える。
「ありがとうございます。喜んでいただけて、嬉しいです」
リリーシャさんと比較されたり、社名負けしないように、割と必死だった。でも、途中からは、私自身も、素で楽しんでたような気がする。そんな案内で、大丈夫だったんだろうか――?
「そういえば〈東地区〉のおじい様の家に、滞在中なんですよね?」
「はい。祖父は〈東地区商店街〉で、肉屋をやっているんです。子供のころから、よく行っていて。〈ホワイト・ウイング〉も、近かったので」
なるほど、それで〈ホワイト・ウイング〉を、使ってくれていたんだね。うちの会社は〈東地区商店街〉の人たちと、昔から仲がいいし。ん……あそこの商店街の、肉屋って?
「肉屋って、もしかして〈ゴールデン〉ですか?」
「あら、祖父のお店を、ご存知でしたか?」
「私、あの店の常連ですので。――って、えぇーっ?! じゃあ、あなたは、ハリスさんの……」
「私が孫で、この子が、ひ孫なんです」
いやー、全然、気づかなかったよ。お孫さんがいるなんて、一度も聴いたことなかったし。そもそも、ひ孫までいるような年齢にも、見えなかったから。ということは、ハリスさんって、若く見えるけど、結構な歳だよね――?
「似てないから、分かりませんよね?」
「いえ、そんなことは……。でも、広いようで、狭い世界ですね。こんなに沢山の人がいるのに、知り合い繋がりの人に、出会うなんて」
「本当に、その通りですね。〈ホワイト・ウイング〉のシルフィードのうえに、祖父の知り合いだなんて」
「風のお導きかもしれませんね」
二人でくすくすと笑う。
この世界はとても広い。でも、出会う人は、出会うべくして、現れるような気がする。運命は、全く信じない人間だったけど。こちらの世界に来てから、運命はあるんじゃないかと、思い始めてきた。
そういえば、私には『シルフィードの加護がある』って、以前フィニーちゃんのおばあさんに言われたよね。加護には、色んな形があるらしいけど。私の場合は、運命の人に、出会う力なのかもしれない。
だとすれば、今までの素敵な出会いにも、納得が行く。あまりにも、凄い人や、自分の未来を変える人に、出会いまくってるからね。
これからも、人との出会いを大切に生きて行こう。私の人生は、いつだって、素敵な出会いと共にあるのだから……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『イベント最終日にメイド姿で走り回る』
あんたもメイドなら、萌え萌えキュンキュンしろよ!
ただ、あまりにも人が多すぎて、この中からお客様を見つけるのは、物凄く難しい。何となく、地元の人と観光客の、見分けはつくんだけど。案内が必要かどうかまでは、見ただけでは、全く見分けがつかないんだよね。
ちなみに、ベテランになると、見た瞬間に、案内が必要か分かるらしい。けど、私はまだ、その域には達していなかった。『どこに行くのかなぁ?』程度の、簡単な予想しかできない。
今までは、練習飛行をしてたのって、イベントのない、平常時だったし。いざ、本番になると、なかなか上手くは、行かないもんだよねぇ。かと言って、何もしないで、ボーッと過ごす訳にもいかないし。
なので、人の波の中に視線を向け、必死になって観察を続ける。すでに、一時間以上、マン・ウォッチングをしているけど、何一つ成果はなかった。
「うーむ。〈南地区〉は人が多すぎて、上級者向きなのかなぁ?〈西地区〉とか、もう少し、人の少ない場所のほうが、いいのかも……」
人が少ないほうが、当然、見分けはつきやすい。でも、その分、観光客の数は減ってしまうので、悩ましいところだ。
『そろそろ、移動しようかなぁ』と考えていた時、ふと、違和感のある人物が、視界に入って来た。大きな人の流れの中で、右往左往しているのだ。
よく見ると、小さな女の子で、危うく見落とすところだった。視線が泳いでいるので、もしかしたら、迷子かもしれない。
困った人がいたら、手を差し伸べる。これは、シルフィードの基本理念だ。もっとも、ただの理念なので、全ての人が、守っている訳ではない。でも、私の場合は『どんな時でも人助け最優先』が、ポリシーだ。
急いで地上を確認し、エア・ドルフィンが停められるスペースを探す。人混みの中に、僅かなスペースを見つけると、素早く着陸する。これも、見習い時代に散々やった、練習の成果だ。
私は、エア・ドルフィンを降りると、人混みをすり抜けながら、早足で少女の元に向かった。
「どうしたの? 大丈夫?」
私は、不安げな表様を浮かべていた少女の前に、静かにかがみ込むと、笑顔で声をかけた。
「ママが、いないの――」
彼女は、目に涙を浮かべながら答える。どうやら、迷子で間違いないらしい。
「大丈夫。お姉ちゃんが、見つけてあげるからね」
「本当に……?」
「うん。お姉ちゃん、人探しのプロだから。任せておいて」
すると、少女の表情が、パッと明るくなった。
私は、彼女の手を取り、エア・ドルフィンに戻ると、そっと後部座席に乗せた。彼女から、少しだけ状況を聴いたあと、ゆっくり上空に舞い上る。
この人の量だと、地上から見付けるのは、まず無理だ。持ち前の視力を活かして、上空から見付けるしかない。
会話から分かったのは、彼女の名前は、ルナちゃん。年齢は六歳。大陸からイベントを見に来て、おじいちゃんの家に、二日前から泊まっている。今日は、お母さんと二人で見に来たけど、いつの間にか、はぐれてしまった。
よくよく、話を聴いてみると、リリーシャさんの大ファンらしい。将来は、彼女のような、素敵なシルフィードになりたいんだって。先日のパレードの際も〈シルフィード広場〉に行って、リリーシャさんの舞台挨拶を、見に行っていたそうだ。
私が『リリーシャさんと、同じ会社で働いている』と言ったら、物凄く興奮して、色々と質問攻めにされた。興味があるのは〈ホワイト・ウイング〉と、リリーシャさんのことだけ。でも、何だか、悪い気はしない。
色々話している内に、事情は、だいたい分かった。ただ、問題は、どう探すかだよね。これほど、人が多い中から、顔も知らない人を見つけるのは、不可能に近い。そもそも、どこではぐれたかも、全く分からない状態だ。
あと、子供の表現力は、意外とあいまいだ。お母さんの特徴を聴いたけど、今一つピンと来ない。服装も、よく覚えてないみたいだし。
ここは素直に『迷子センター』に預けるのが、確実かもしれない。イベント期間中は、何ヵ所か、迷子センターが設置されている。でも、せっかくの縁だし、同じ人のファンなので、他人事には思えない。
結局、ゆっくり低空飛行しながら、人混みの中から、目視で彼女の母親を探すことにした。視力には、物凄く自信があるので、ルナちゃんから聴いた特徴をもとに、次々と女性の顔を観察して行く。
顔はよく分からないので、大事なのは、目線の動きだ。目線を見れば、大体の思考が読み取れる。これは、お客様を探す時の、基本でもあった。
探し始めてから、二十分ほど。楽しそうに進んで行く人たちの中で、目線が、激しく動いている女性を発見する。普段から、マン・ウォッチングをしているので、瞬時に、周りの人との違いに気が付いた。
「ルナちゃん、あの人は違う?」
「えーっと――。あっ、ママだっ! ママー! ママー!!」
後ろに乗っていたルナちゃんは、地上に向かって、大きな声で叫んだ。地上にいた女性も、その声に反応し、キョロキョロしたあと、上空にいた私たちの姿を発見する。こちらを見つけた瞬間、表情が明るくなり、大きく両手を挙げた。
私は、空きスペースを見つけると、静かに機体を降下させて行った……。
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私の目の前では、ルナちゃんが、お母さんに、ヒシっと抱き付いている。思った以上に早く見つかって、本当によかった。
正直、この人の中から見つけるのは、かなり難しいと思っていた。でも、二人とも、はぐれた地点から、あまり動いていなかったので、運よく見つけられたのだ。
「本当に、本当に、ありがとうございました」
「いえ、お気になさらずに。これだけ人が多いと、はぐれることも有りますので」
世界中から観光客が来るので、イベントがあった時の、この町の人の数は、尋常じゃなく多くなる。だから、時には、大人だって迷子になることがあるからね。
「あの、もしかして……その社章は〈ホワイト・ウイング〉の方ですか?」
「はい。うちの会社を、ご存じなんですか?」
「今までに、何度か、利用したことがあるんです。『天使の羽』に、観光案内をしていただいて」
「ご利用、ありがとうございます。それで、ルナちゃんが、リリーシャさんのこと、詳しかったんですね」
なるほど、うちの常連さんだったんだ。それにしても、リリーシャさんって凄いよね。こんな小さな子まで、ファンだなんて。
「イベントの最中に、手を煩わせてしまって、申し訳ありませんでした。有名企業の方ですから、さぞ、お忙しいでしょうに」
「いえいえ。私は、全然、忙しくないんです。まだ、一人前に、昇級したてなので、予約も入っていませんし」
「そうなんですか?」
「はい。今も、お客様を探すために、街中を飛び回っていたところで」
私は、苦笑いを浮かべながら答えた。
こんなに、イベントで盛り上がっているのに。お客様がいないなんて、悲し過ぎるよね。でも、新人シルフィードなんて、実際は、こんなものだ。
「あの、それって、予約なしでも大丈夫、ってことですか?」
「リリーシャさんのような、大人気シルフィードは、完全に予約制ですけど。私は、いつも、飛込み営業ですので」
「では、もし、よろしければ、案内をお願いしてもいいですか?」
「えっ?! 私で、いいんですか? まだ、新人ですけど」
その時、スッとルナちゃんが前に進み出て、私の制服の裾をつかんだ。
「私、このお姉ちゃんがいい。リリーシャさんのこと、もっと聴きたい」
その言葉に、ルナちゃんのお母さんと私は、ちょっと、微妙な笑顔を浮かべた。
まぁ、子供ってのは、凄く正直だからね。そりゃ、人気シルフィードのほうが、いいに決まってる。でも〈ホワイト・ウイング〉の常連さんだし。理由はどうあれ、私を選んでくれただけでも、十分に嬉しい。
結局、そんなこんなで、私は、二人を案内することになった。今日、乗って来たのは、後部座席が一つの、ワンシートタイプなので、徒歩で案内する。歩いたほうが、お祭りの雰囲気が楽しめるし。何と言っても、醍醐味は沢山の出店だ。
私は、イベントや町のことを、色々と説明しながら、出店を中心に回って行った。二人とも、私の話を、興味深げに聴いてくれた。特に、ルナちゃんは、キラキラした目で、とても楽しそうに聴いている。
いやー、こんなに真剣に聴いてもらえると、勉強した甲斐があるよねぇ。真面目に勉強してて、本当によかったー。初めて、勉強の大切さが分かったかも。
私たちは、一時間ほど、あちこち歩き回ったあと、カフェに入って、休憩することにした。テラス席に座って、三人でお茶にする。
「やはり、流石は〈ホワイト・ウイング〉の、シルフィードさんですね。とても、素敵な案内でした」
「超楽しかったー!」
お母さんの言葉に反応して、ルナちゃんも、笑顔で答える。
「ありがとうございます。喜んでいただけて、嬉しいです」
リリーシャさんと比較されたり、社名負けしないように、割と必死だった。でも、途中からは、私自身も、素で楽しんでたような気がする。そんな案内で、大丈夫だったんだろうか――?
「そういえば〈東地区〉のおじい様の家に、滞在中なんですよね?」
「はい。祖父は〈東地区商店街〉で、肉屋をやっているんです。子供のころから、よく行っていて。〈ホワイト・ウイング〉も、近かったので」
なるほど、それで〈ホワイト・ウイング〉を、使ってくれていたんだね。うちの会社は〈東地区商店街〉の人たちと、昔から仲がいいし。ん……あそこの商店街の、肉屋って?
「肉屋って、もしかして〈ゴールデン〉ですか?」
「あら、祖父のお店を、ご存知でしたか?」
「私、あの店の常連ですので。――って、えぇーっ?! じゃあ、あなたは、ハリスさんの……」
「私が孫で、この子が、ひ孫なんです」
いやー、全然、気づかなかったよ。お孫さんがいるなんて、一度も聴いたことなかったし。そもそも、ひ孫までいるような年齢にも、見えなかったから。ということは、ハリスさんって、若く見えるけど、結構な歳だよね――?
「似てないから、分かりませんよね?」
「いえ、そんなことは……。でも、広いようで、狭い世界ですね。こんなに沢山の人がいるのに、知り合い繋がりの人に、出会うなんて」
「本当に、その通りですね。〈ホワイト・ウイング〉のシルフィードのうえに、祖父の知り合いだなんて」
「風のお導きかもしれませんね」
二人でくすくすと笑う。
この世界はとても広い。でも、出会う人は、出会うべくして、現れるような気がする。運命は、全く信じない人間だったけど。こちらの世界に来てから、運命はあるんじゃないかと、思い始めてきた。
そういえば、私には『シルフィードの加護がある』って、以前フィニーちゃんのおばあさんに言われたよね。加護には、色んな形があるらしいけど。私の場合は、運命の人に、出会う力なのかもしれない。
だとすれば、今までの素敵な出会いにも、納得が行く。あまりにも、凄い人や、自分の未来を変える人に、出会いまくってるからね。
これからも、人との出会いを大切に生きて行こう。私の人生は、いつだって、素敵な出会いと共にあるのだから……。
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