236 / 363
第6部 飛び立つ勇気
4-5パレードの参加で私もついにシルフィードデビュー
しおりを挟む
三月十日。今日から、いよいよ『シルフィード・フェスタ』が始まる。期間は六日間。人気投票やクルージングに、出店など。あと、会社によっては、社内を開放して、演劇や合唱など、様々なイベントを行ったりする。
シルフィードとファンの『交流会』のようなものなので、お客様が喜んでくれることであれば、何でもありだ。一言でいえば、学園祭みたいなノリかな。年々イベントの内容が多様化し、凝ったものになっているんだって。
なお、本日は、イベントの目玉の一つの『シルフィード・パレード』が行われる。『魔法祭』の時は、上位階級だけが、やっていたけど。今日は、全シルフィードが、一堂に会す、超大型イベントだ。
私は今〈西地区第一競技場〉に来ていた。ここは以前、フィニーちゃんが『パン喰い競争』に参加した競技場だ。非常に広いので、競技以外の、大型イベントで使われる場合も多い。
会場内には、所狭しと、物凄い数のシルフィードたちが集まっていた。色んな会社の制服を着た女性たちが、ひしめいている。私も、こんなに沢山のシルフィードを見るのは、初めてだ。
現在、係の人の誘導に従って、順番に整列していた。私は『リトル・ウイッチ』の列に並んでいるが、ここだけでも、百人以上のシルフィードがいる。
会場の端のほうには、派手な装飾をした、大型のゴンドラが、数台とまっていた。そのすぐそばには『シルフィード・クイーン』や『スカイ・プリンセス』たち、上位シルフィードも集合している。中には、リリーシャさんの姿も見えた。
ゴンドラのほうを見て、キャーキャー言っている子たちもいる。私と同じで、昇級したての子たちだ。上位階級の人たちは、一般人だけでなく、シルフィードの間でもアイドル的な存在だ。
ただ、私の場合は、毎日、リリーシャさんと二人で仕事してるし。周りに、大物が多いから、驚きはしない。でも、やっぱり、遠く離れたところから見ても、上位階級の人たちからは、強力なオーラのようなものを感じる。
一通り整列が終わると、ザワザワしていた場内が、急に静かになった。列の前の壇上に、ある人物の姿が見えたからだ。彼女の声が響いた瞬間、一瞬で場内の空気が変わった。静寂が訪れ、ピリッとした緊張感に包まれる。
「皆さん、静粛に。これは、遊びではないのですよ。伝統と格式のある、とても重要な行事であり、我々シルフィードの晴れ舞台です」
壇上で厳かに話しているのは、ナギサちゃんのお母さんの『白金の薔薇』だった。話し方は静かだけど、相変わらず、言葉の迫力が半端ない。たった一言で、場内の数百人を黙らせてしまった。
「特に、昇級したばかりのシルフィードは、初のお披露目になります。あなたたちは、もう、見習いではないのです。誇りと自覚をもって、心して臨みなさい」
彼女に、鋭い視線を向けられた、リトル・ウィッチのシルフィードたちの間に、緊張が走る。
「それでは、ただいまより、パレードを開始します。シルフィード旗、掲揚。行進、始め」
その掛け声とともに、各グループの先頭にいたシルフィードが、旗を掲げた。各階級ごとに一名、旗手がいる。リトル・ウィッチの代表は、何とナギサちゃんだ。三日ほど前に、突然、シルフィード協会から、指名があったらしい。
さっき、ナギサちゃんと話してきたけど、割と落ちついた感じだった。流石は、ナギサちゃん。どんな時でも、堂々しているところは、お母さんと、そっくりだよね。
旗を掲げたナギサちゃんを先頭に、私たちは、ゆっくりと行進を始めた。場内に観客はいないが、ぐるっと一周してから、表に出て行く。これは、行進のタイミングを、上手く合わせるためだ。
一周したあと、外に抜ける長い通路を抜けると、一瞬にして景色が変わった。沿道には、物凄い数の観客が集まっており、声援と拍手で迎えられたからだ。私たち、下級のシルフィードにも、大きな声援が飛んでくる。
なぜなら、私たちは『幸運の使者』だからだ。『パレードを見ると、幸運に恵まれる』『微笑みかけられたり、手を振ってもらったら、さらにご利益がある』なんて言われていた。
なので、私も笑顔で手を振って、観客の人たちに答える。ただ、中には緊張して、ガチガチになって歩いている子もいた。まぁ、初のイベント参加だし。これだけ人がいると、委縮しちゃうよね。
私の場合は、中学時代、何度も競技会に出てたし。『ノア・マラソン』の時の、大観衆で、慣れてしまった。あの時に比べれば、ただ歩くだけなので、はるかに楽だ。
私たちは、ゆっくりと〈中央区〉に向かって行く。終着地点は〈シルフィード広場〉だ。広場に到着後『シルフィード像』の前で、開会のセレモニーが行われる。それが目当てで〈シルフィード広場〉で、待機している人たちも多い。
通りを進んで行くと、小さな子供たちも、結構、沿道に立っていた。私は、子供たちを中心に、笑顔で手を振って行く。子供たちは『こっちに手を振ってくれたー!』と、キャーキャー大喜びしていた。
いやー、何か嬉しいなぁー、誰かを喜ばせられるって。今更だけど、ようやく一人前になった、実感がわいてくるよ。誰かを喜ばすことが出来て、本当の一人前だもんね。昇進できてよかったー。
〈南地区〉に近付くにつれて、沿道の人の数が、どんどん増えて行く。それにしても、物凄い観客の数だ。後方からも、大きな歓声が聞こえてくる。やはり、より上位のシルフィードのほうが、声援が大きかった。
いくら『幸運の使者』とはいえ、階級が上の人のほうが、ご利益ありそうだもんね。シルフィード・クイーンが通る時は、やっぱ、凄いんだろうなぁー。
なんて考え事をしながら歩いていると、少し先のほうに、横断幕が見えてきた。ずいぶんと、熱心なファンがいるものだ。きっと、上位階級の応援だと思う。
だが、横断幕の文字を見て、私は唖然とした。そこには『風歌ちゃん頑張れ!』と、書いてあったかだ。
えぇぇーっ?! 何事ぉぉ……?
「風歌ちゃん、頑張れー!」
「未来のシルフィード・クイーン!」
「いよっ、我らが〈東地区商店街〉の星!」
なんか聞き覚えのある声だと思ったら〈東地区商店街〉の人たちが、ずらりと並んで、手を振っていた。よく見ると、町内会長や、孫のユキさんの姿も見える。相変わらず、ユキさんはマギコンを操作して、撮影を行っていた。
「みなさん、ありがとうございます!! 今年も一年、幸運がありますように!」
私は、笑顔を浮かべながら、大きな声で手を振り返す。
みんなも、大きく手を振りながら、私が通り過ぎるまで、ずっと大きな声援を送ってくれた。
いやー、まさか、応援に来てくれるとは、超ビックリ。にしても、応援のセリフが、どれも大げさすぎる。凄く嬉しくはあるんだけど、周囲の子たちから、物珍し気な視線が飛んできてるし。
まるで、運動会で、家族から声援をもらった時みたいな感じで、ちょっと気恥しい。下位のシルフィードに、名指しで声援を送る人なんていないから、超目立ってるし。
その後も、パレードは、どんどん進んで行き、やがて〈中央区〉に入って行くのだった――。
******
パレード開始から、約一時間後。〈中央区〉の中心にある〈シルフィード広場〉には、超満員の観客が集まっていた。パレード最後尾の『シルフィード・クイーン』たちも集まり、この町の、全てのシルフィードが集結していた。
全員『シルフィード像』の前に整列し、その少し前には、特設ステージが設置してあった。そのステージ上では、上位階級のシルフィードが、一人ずつ、観客に挨拶をしていく。
観客からは、度々拍手や歓声が巻き起こる。流石に、上位階級のシルフィードたちは、人気が半端ない。私たち、一般階級のシルフィードは、ステージの後ろ側から、神妙な面持ちで、その様子を見守っていた。
今回のトップバッターは、以前、買い物に行った時に助けてくれた『守護騎士』のエクステリアさんだ。
お祭りイベントだというのに、相変わらず、黒ずくめの制服で、一人だけ完全に浮いていた。だが、ステージに上がった瞬間、割れんばかりの大歓声が巻き起こった。
小さな声で、淡々と話して挨拶を終えるが、盛大な拍手と、黄色い声が、あちこちから挙がっていた。流石は、シルフィード・クイーン。とんでもない人気だった。
その後は『蒼空の女神』のミルティアさん。『銀色の妖精』のカタリーナさん。『金剛の戦乙女』のミラージュさんの順で続く。どの人も、物凄い人気で、広場中が、大変な熱気で包まれた。
四人の『シルフィード・クイーン』の挨拶が終わると、今度は、五人の『スカイ・プリンセス』が登場する。トップを飾ったのは、『虹色の歌声』のリィズリーさん。彼女は、超大人気の、プロ歌手でもある。
次々と挨拶が進んで行くが、皆、シルフィード・クイーンに負けないぐらいの、大人気だった。広場中に、声援と拍手の波が広がり、どんどん過熱して行くのが分かる。
いよいよ、五人目の『スカイ・プリンセス』が壇上にあがった。今までにも増して、盛大な拍手と歓声があがる。今回の大トリは、リリーシャさんだ。あちこちから、彼女の名前を呼ぶ声が聞こえる。
私も、思いっきり声援を送りたいけど、今回は運営側なので、ここはグッと我慢する。気持ちを抑えて、大人しく挨拶に耳を傾けた。
「本日は、大変お忙しい中、世界中からお集まりいただき、心より感謝いたします。我々シルフィードは、平和と幸運の象徴として、日々邁進しております」
「しかし、これも全ては、皆様の応援があればこそです。これからも、皆さまのお力をお借りできれば、幸いです」
「今回のイベントでは、日ごろの感謝の気持ちを込めて、誠心誠意、お返しができるよう、全力で務めさせていただきます。是非、心行くまで、お楽しみください」
「最後に、私の母も大好きだった言葉を……。世界中の愛すべき全ての人々に、風の祝福を」
挨拶が終わると、一瞬の静けさのあと、嵐のような大歓声が巻き起こった。私も、ステージの後ろから、一生懸命に拍手を送る。
他の人たちに比べると、地味で硬い内容だったけど。何か、グッと心に響いた気がする。ただの社交辞令じゃなくて、本心からそう想っているからこそ、言葉に重みがあるんだと思う。
上位階級の人たちは全員、人気も存在感も個性も、本当に凄い。でも、やっぱり、私が追い掛けるべき背中は、リリーシャさんだと再認識した。彼女の元で働けたのは、人生で最高の幸運だと思う。
まだ、スタートラインに立ったばかりで、皆、はるか彼方の存在だ。でも、私もいつか、あのステージに上がって見せる。この沢山のシルフィードの中で、必ずトップに、登り詰めて見せる。
大歓声の熱気に包まれる中。私は静かに、新しい決意の炎を、胸の奥に灯すのだった……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『この世界って広いようで意外と狭いよね』
世界は美しい。悲しみと涙に満ちてさえ、瞳を開きなさい
シルフィードとファンの『交流会』のようなものなので、お客様が喜んでくれることであれば、何でもありだ。一言でいえば、学園祭みたいなノリかな。年々イベントの内容が多様化し、凝ったものになっているんだって。
なお、本日は、イベントの目玉の一つの『シルフィード・パレード』が行われる。『魔法祭』の時は、上位階級だけが、やっていたけど。今日は、全シルフィードが、一堂に会す、超大型イベントだ。
私は今〈西地区第一競技場〉に来ていた。ここは以前、フィニーちゃんが『パン喰い競争』に参加した競技場だ。非常に広いので、競技以外の、大型イベントで使われる場合も多い。
会場内には、所狭しと、物凄い数のシルフィードたちが集まっていた。色んな会社の制服を着た女性たちが、ひしめいている。私も、こんなに沢山のシルフィードを見るのは、初めてだ。
現在、係の人の誘導に従って、順番に整列していた。私は『リトル・ウイッチ』の列に並んでいるが、ここだけでも、百人以上のシルフィードがいる。
会場の端のほうには、派手な装飾をした、大型のゴンドラが、数台とまっていた。そのすぐそばには『シルフィード・クイーン』や『スカイ・プリンセス』たち、上位シルフィードも集合している。中には、リリーシャさんの姿も見えた。
ゴンドラのほうを見て、キャーキャー言っている子たちもいる。私と同じで、昇級したての子たちだ。上位階級の人たちは、一般人だけでなく、シルフィードの間でもアイドル的な存在だ。
ただ、私の場合は、毎日、リリーシャさんと二人で仕事してるし。周りに、大物が多いから、驚きはしない。でも、やっぱり、遠く離れたところから見ても、上位階級の人たちからは、強力なオーラのようなものを感じる。
一通り整列が終わると、ザワザワしていた場内が、急に静かになった。列の前の壇上に、ある人物の姿が見えたからだ。彼女の声が響いた瞬間、一瞬で場内の空気が変わった。静寂が訪れ、ピリッとした緊張感に包まれる。
「皆さん、静粛に。これは、遊びではないのですよ。伝統と格式のある、とても重要な行事であり、我々シルフィードの晴れ舞台です」
壇上で厳かに話しているのは、ナギサちゃんのお母さんの『白金の薔薇』だった。話し方は静かだけど、相変わらず、言葉の迫力が半端ない。たった一言で、場内の数百人を黙らせてしまった。
「特に、昇級したばかりのシルフィードは、初のお披露目になります。あなたたちは、もう、見習いではないのです。誇りと自覚をもって、心して臨みなさい」
彼女に、鋭い視線を向けられた、リトル・ウィッチのシルフィードたちの間に、緊張が走る。
「それでは、ただいまより、パレードを開始します。シルフィード旗、掲揚。行進、始め」
その掛け声とともに、各グループの先頭にいたシルフィードが、旗を掲げた。各階級ごとに一名、旗手がいる。リトル・ウィッチの代表は、何とナギサちゃんだ。三日ほど前に、突然、シルフィード協会から、指名があったらしい。
さっき、ナギサちゃんと話してきたけど、割と落ちついた感じだった。流石は、ナギサちゃん。どんな時でも、堂々しているところは、お母さんと、そっくりだよね。
旗を掲げたナギサちゃんを先頭に、私たちは、ゆっくりと行進を始めた。場内に観客はいないが、ぐるっと一周してから、表に出て行く。これは、行進のタイミングを、上手く合わせるためだ。
一周したあと、外に抜ける長い通路を抜けると、一瞬にして景色が変わった。沿道には、物凄い数の観客が集まっており、声援と拍手で迎えられたからだ。私たち、下級のシルフィードにも、大きな声援が飛んでくる。
なぜなら、私たちは『幸運の使者』だからだ。『パレードを見ると、幸運に恵まれる』『微笑みかけられたり、手を振ってもらったら、さらにご利益がある』なんて言われていた。
なので、私も笑顔で手を振って、観客の人たちに答える。ただ、中には緊張して、ガチガチになって歩いている子もいた。まぁ、初のイベント参加だし。これだけ人がいると、委縮しちゃうよね。
私の場合は、中学時代、何度も競技会に出てたし。『ノア・マラソン』の時の、大観衆で、慣れてしまった。あの時に比べれば、ただ歩くだけなので、はるかに楽だ。
私たちは、ゆっくりと〈中央区〉に向かって行く。終着地点は〈シルフィード広場〉だ。広場に到着後『シルフィード像』の前で、開会のセレモニーが行われる。それが目当てで〈シルフィード広場〉で、待機している人たちも多い。
通りを進んで行くと、小さな子供たちも、結構、沿道に立っていた。私は、子供たちを中心に、笑顔で手を振って行く。子供たちは『こっちに手を振ってくれたー!』と、キャーキャー大喜びしていた。
いやー、何か嬉しいなぁー、誰かを喜ばせられるって。今更だけど、ようやく一人前になった、実感がわいてくるよ。誰かを喜ばすことが出来て、本当の一人前だもんね。昇進できてよかったー。
〈南地区〉に近付くにつれて、沿道の人の数が、どんどん増えて行く。それにしても、物凄い観客の数だ。後方からも、大きな歓声が聞こえてくる。やはり、より上位のシルフィードのほうが、声援が大きかった。
いくら『幸運の使者』とはいえ、階級が上の人のほうが、ご利益ありそうだもんね。シルフィード・クイーンが通る時は、やっぱ、凄いんだろうなぁー。
なんて考え事をしながら歩いていると、少し先のほうに、横断幕が見えてきた。ずいぶんと、熱心なファンがいるものだ。きっと、上位階級の応援だと思う。
だが、横断幕の文字を見て、私は唖然とした。そこには『風歌ちゃん頑張れ!』と、書いてあったかだ。
えぇぇーっ?! 何事ぉぉ……?
「風歌ちゃん、頑張れー!」
「未来のシルフィード・クイーン!」
「いよっ、我らが〈東地区商店街〉の星!」
なんか聞き覚えのある声だと思ったら〈東地区商店街〉の人たちが、ずらりと並んで、手を振っていた。よく見ると、町内会長や、孫のユキさんの姿も見える。相変わらず、ユキさんはマギコンを操作して、撮影を行っていた。
「みなさん、ありがとうございます!! 今年も一年、幸運がありますように!」
私は、笑顔を浮かべながら、大きな声で手を振り返す。
みんなも、大きく手を振りながら、私が通り過ぎるまで、ずっと大きな声援を送ってくれた。
いやー、まさか、応援に来てくれるとは、超ビックリ。にしても、応援のセリフが、どれも大げさすぎる。凄く嬉しくはあるんだけど、周囲の子たちから、物珍し気な視線が飛んできてるし。
まるで、運動会で、家族から声援をもらった時みたいな感じで、ちょっと気恥しい。下位のシルフィードに、名指しで声援を送る人なんていないから、超目立ってるし。
その後も、パレードは、どんどん進んで行き、やがて〈中央区〉に入って行くのだった――。
******
パレード開始から、約一時間後。〈中央区〉の中心にある〈シルフィード広場〉には、超満員の観客が集まっていた。パレード最後尾の『シルフィード・クイーン』たちも集まり、この町の、全てのシルフィードが集結していた。
全員『シルフィード像』の前に整列し、その少し前には、特設ステージが設置してあった。そのステージ上では、上位階級のシルフィードが、一人ずつ、観客に挨拶をしていく。
観客からは、度々拍手や歓声が巻き起こる。流石に、上位階級のシルフィードたちは、人気が半端ない。私たち、一般階級のシルフィードは、ステージの後ろ側から、神妙な面持ちで、その様子を見守っていた。
今回のトップバッターは、以前、買い物に行った時に助けてくれた『守護騎士』のエクステリアさんだ。
お祭りイベントだというのに、相変わらず、黒ずくめの制服で、一人だけ完全に浮いていた。だが、ステージに上がった瞬間、割れんばかりの大歓声が巻き起こった。
小さな声で、淡々と話して挨拶を終えるが、盛大な拍手と、黄色い声が、あちこちから挙がっていた。流石は、シルフィード・クイーン。とんでもない人気だった。
その後は『蒼空の女神』のミルティアさん。『銀色の妖精』のカタリーナさん。『金剛の戦乙女』のミラージュさんの順で続く。どの人も、物凄い人気で、広場中が、大変な熱気で包まれた。
四人の『シルフィード・クイーン』の挨拶が終わると、今度は、五人の『スカイ・プリンセス』が登場する。トップを飾ったのは、『虹色の歌声』のリィズリーさん。彼女は、超大人気の、プロ歌手でもある。
次々と挨拶が進んで行くが、皆、シルフィード・クイーンに負けないぐらいの、大人気だった。広場中に、声援と拍手の波が広がり、どんどん過熱して行くのが分かる。
いよいよ、五人目の『スカイ・プリンセス』が壇上にあがった。今までにも増して、盛大な拍手と歓声があがる。今回の大トリは、リリーシャさんだ。あちこちから、彼女の名前を呼ぶ声が聞こえる。
私も、思いっきり声援を送りたいけど、今回は運営側なので、ここはグッと我慢する。気持ちを抑えて、大人しく挨拶に耳を傾けた。
「本日は、大変お忙しい中、世界中からお集まりいただき、心より感謝いたします。我々シルフィードは、平和と幸運の象徴として、日々邁進しております」
「しかし、これも全ては、皆様の応援があればこそです。これからも、皆さまのお力をお借りできれば、幸いです」
「今回のイベントでは、日ごろの感謝の気持ちを込めて、誠心誠意、お返しができるよう、全力で務めさせていただきます。是非、心行くまで、お楽しみください」
「最後に、私の母も大好きだった言葉を……。世界中の愛すべき全ての人々に、風の祝福を」
挨拶が終わると、一瞬の静けさのあと、嵐のような大歓声が巻き起こった。私も、ステージの後ろから、一生懸命に拍手を送る。
他の人たちに比べると、地味で硬い内容だったけど。何か、グッと心に響いた気がする。ただの社交辞令じゃなくて、本心からそう想っているからこそ、言葉に重みがあるんだと思う。
上位階級の人たちは全員、人気も存在感も個性も、本当に凄い。でも、やっぱり、私が追い掛けるべき背中は、リリーシャさんだと再認識した。彼女の元で働けたのは、人生で最高の幸運だと思う。
まだ、スタートラインに立ったばかりで、皆、はるか彼方の存在だ。でも、私もいつか、あのステージに上がって見せる。この沢山のシルフィードの中で、必ずトップに、登り詰めて見せる。
大歓声の熱気に包まれる中。私は静かに、新しい決意の炎を、胸の奥に灯すのだった……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『この世界って広いようで意外と狭いよね』
世界は美しい。悲しみと涙に満ちてさえ、瞳を開きなさい
0
あなたにおすすめの小説
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合
鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。
国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。
でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。
これってもしかして【動物スキル?】
笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~
チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!?
魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで!
心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく--
美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる