私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一

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第6部 飛び立つ勇気

4-5パレードの参加で私もついにシルフィードデビュー

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 三月十日。今日から、いよいよ『シルフィード・フェスタ』が始まる。期間は六日間。人気投票やクルージングに、出店など。あと、会社によっては、社内を開放して、演劇や合唱など、様々なイベントを行ったりする。

 シルフィードとファンの『交流会』のようなものなので、お客様が喜んでくれることであれば、何でもありだ。一言でいえば、学園祭みたいなノリかな。年々イベントの内容が多様化し、凝ったものになっているんだって。

 なお、本日は、イベントの目玉の一つの『シルフィード・パレード』が行われる。『魔法祭』の時は、上位階級だけが、やっていたけど。今日は、全シルフィードが、一堂に会す、超大型イベントだ。
 
 私は今〈西地区第一競技場〉に来ていた。ここは以前、フィニーちゃんが『パン喰い競争』に参加した競技場だ。非常に広いので、競技以外の、大型イベントで使われる場合も多い。 
 
 会場内には、所狭しと、物凄い数のシルフィードたちが集まっていた。色んな会社の制服を着た女性たちが、ひしめいている。私も、こんなに沢山のシルフィードを見るのは、初めてだ。

 現在、係の人の誘導に従って、順番に整列していた。私は『リトル・ウイッチ』の列に並んでいるが、ここだけでも、百人以上のシルフィードがいる。

 会場の端のほうには、派手な装飾をした、大型のゴンドラが、数台とまっていた。そのすぐそばには『シルフィード・クイーン』や『スカイ・プリンセス』たち、上位シルフィードも集合している。中には、リリーシャさんの姿も見えた。

 ゴンドラのほうを見て、キャーキャー言っている子たちもいる。私と同じで、昇級したての子たちだ。上位階級の人たちは、一般人だけでなく、シルフィードの間でもアイドル的な存在だ。

 ただ、私の場合は、毎日、リリーシャさんと二人で仕事してるし。周りに、大物が多いから、驚きはしない。でも、やっぱり、遠く離れたところから見ても、上位階級の人たちからは、強力なオーラのようなものを感じる。

 一通り整列が終わると、ザワザワしていた場内が、急に静かになった。列の前の壇上に、ある人物の姿が見えたからだ。彼女の声が響いた瞬間、一瞬で場内の空気が変わった。静寂が訪れ、ピリッとした緊張感に包まれる。

「皆さん、静粛に。これは、遊びではないのですよ。伝統と格式のある、とても重要な行事であり、我々シルフィードの晴れ舞台です」

 壇上で厳かに話しているのは、ナギサちゃんのお母さんの『白金の薔薇』プラチナ・ローズだった。話し方は静かだけど、相変わらず、言葉の迫力が半端ない。たった一言で、場内の数百人を黙らせてしまった。

「特に、昇級したばかりのシルフィードは、初のお披露目になります。あなたたちは、もう、見習いではないのです。誇りと自覚をもって、心して臨みなさい」

 彼女に、鋭い視線を向けられた、リトル・ウィッチのシルフィードたちの間に、緊張が走る。

「それでは、ただいまより、パレードを開始します。シルフィード旗、掲揚。行進、始め」
 
 その掛け声とともに、各グループの先頭にいたシルフィードが、旗を掲げた。各階級ごとに一名、旗手がいる。リトル・ウィッチの代表は、何とナギサちゃんだ。三日ほど前に、突然、シルフィード協会から、指名があったらしい。

 さっき、ナギサちゃんと話してきたけど、割と落ちついた感じだった。流石は、ナギサちゃん。どんな時でも、堂々しているところは、お母さんと、そっくりだよね。 

 旗を掲げたナギサちゃんを先頭に、私たちは、ゆっくりと行進を始めた。場内に観客はいないが、ぐるっと一周してから、表に出て行く。これは、行進のタイミングを、上手く合わせるためだ。

 一周したあと、外に抜ける長い通路を抜けると、一瞬にして景色が変わった。沿道には、物凄い数の観客が集まっており、声援と拍手で迎えられたからだ。私たち、下級のシルフィードにも、大きな声援が飛んでくる。
 
 なぜなら、私たちは『幸運の使者』だからだ。『パレードを見ると、幸運に恵まれる』『微笑みかけられたり、手を振ってもらったら、さらにご利益がある』なんて言われていた。

 なので、私も笑顔で手を振って、観客の人たちに答える。ただ、中には緊張して、ガチガチになって歩いている子もいた。まぁ、初のイベント参加だし。これだけ人がいると、委縮しちゃうよね。

 私の場合は、中学時代、何度も競技会に出てたし。『ノア・マラソン』の時の、大観衆で、慣れてしまった。あの時に比べれば、ただ歩くだけなので、はるかに楽だ。

 私たちは、ゆっくりと〈中央区〉に向かって行く。終着地点は〈シルフィード広場〉だ。広場に到着後『シルフィード像』の前で、開会のセレモニーが行われる。それが目当てで〈シルフィード広場〉で、待機している人たちも多い。

 通りを進んで行くと、小さな子供たちも、結構、沿道に立っていた。私は、子供たちを中心に、笑顔で手を振って行く。子供たちは『こっちに手を振ってくれたー!』と、キャーキャー大喜びしていた。

 いやー、何か嬉しいなぁー、誰かを喜ばせられるって。今更だけど、ようやく一人前になった、実感がわいてくるよ。誰かを喜ばすことが出来て、本当の一人前だもんね。昇進できてよかったー。

〈南地区〉に近付くにつれて、沿道の人の数が、どんどん増えて行く。それにしても、物凄い観客の数だ。後方からも、大きな歓声が聞こえてくる。やはり、より上位のシルフィードのほうが、声援が大きかった。
 
 いくら『幸運の使者』とはいえ、階級が上の人のほうが、ご利益ありそうだもんね。シルフィード・クイーンが通る時は、やっぱ、凄いんだろうなぁー。

 なんて考え事をしながら歩いていると、少し先のほうに、横断幕が見えてきた。ずいぶんと、熱心なファンがいるものだ。きっと、上位階級の応援だと思う。

 だが、横断幕の文字を見て、私は唖然とした。そこには『風歌ちゃん頑張れ!』と、書いてあったかだ。

 えぇぇーっ?! 何事ぉぉ……?

「風歌ちゃん、頑張れー!」
「未来のシルフィード・クイーン!」
「いよっ、我らが〈東地区商店街〉の星!」

 なんか聞き覚えのある声だと思ったら〈東地区商店街〉の人たちが、ずらりと並んで、手を振っていた。よく見ると、町内会長や、孫のユキさんの姿も見える。相変わらず、ユキさんはマギコンを操作して、撮影を行っていた。

「みなさん、ありがとうございます!! 今年も一年、幸運がありますように!」 
 私は、笑顔を浮かべながら、大きな声で手を振り返す。

 みんなも、大きく手を振りながら、私が通り過ぎるまで、ずっと大きな声援を送ってくれた。

 いやー、まさか、応援に来てくれるとは、超ビックリ。にしても、応援のセリフが、どれも大げさすぎる。凄く嬉しくはあるんだけど、周囲の子たちから、物珍し気な視線が飛んできてるし。

 まるで、運動会で、家族から声援をもらった時みたいな感じで、ちょっと気恥しい。下位のシルフィードに、名指しで声援を送る人なんていないから、超目立ってるし。

 その後も、パレードは、どんどん進んで行き、やがて〈中央区〉に入って行くのだった――。


 ******


 パレード開始から、約一時間後。〈中央区〉の中心にある〈シルフィード広場〉には、超満員の観客が集まっていた。パレード最後尾の『シルフィード・クイーン』たちも集まり、この町の、全てのシルフィードが集結していた。

 全員『シルフィード像』の前に整列し、その少し前には、特設ステージが設置してあった。そのステージ上では、上位階級のシルフィードが、一人ずつ、観客に挨拶をしていく。

 観客からは、度々拍手や歓声が巻き起こる。流石に、上位階級のシルフィードたちは、人気が半端ない。私たち、一般階級のシルフィードは、ステージの後ろ側から、神妙な面持ちで、その様子を見守っていた。

 今回のトップバッターは、以前、買い物に行った時に助けてくれた『守護騎士』ガーディアン・ナイトのエクステリアさんだ。

 お祭りイベントだというのに、相変わらず、黒ずくめの制服で、一人だけ完全に浮いていた。だが、ステージに上がった瞬間、割れんばかりの大歓声が巻き起こった。

 小さな声で、淡々と話して挨拶を終えるが、盛大な拍手と、黄色い声が、あちこちから挙がっていた。流石は、シルフィード・クイーン。とんでもない人気だった。

 その後は『蒼空の女神』スカイ・ゴッドネスのミルティアさん。『銀色の妖精』シルバー・フェアリーのカタリーナさん。『金剛の戦乙女』ダイヤモンド・ヴァルキュリアのミラージュさんの順で続く。どの人も、物凄い人気で、広場中が、大変な熱気で包まれた。

 四人の『シルフィード・クイーン』の挨拶が終わると、今度は、五人の『スカイ・プリンセス』が登場する。トップを飾ったのは、『虹色の歌声』レインボー・ボイスのリィズリーさん。彼女は、超大人気の、プロ歌手でもある。

 次々と挨拶が進んで行くが、皆、シルフィード・クイーンに負けないぐらいの、大人気だった。広場中に、声援と拍手の波が広がり、どんどん過熱して行くのが分かる。

 いよいよ、五人目の『スカイ・プリンセス』が壇上にあがった。今までにも増して、盛大な拍手と歓声があがる。今回の大トリは、リリーシャさんだ。あちこちから、彼女の名前を呼ぶ声が聞こえる。

 私も、思いっきり声援を送りたいけど、今回は運営側なので、ここはグッと我慢する。気持ちを抑えて、大人しく挨拶に耳を傾けた。

「本日は、大変お忙しい中、世界中からお集まりいただき、心より感謝いたします。我々シルフィードは、平和と幸運の象徴として、日々邁進しております」

「しかし、これも全ては、皆様の応援があればこそです。これからも、皆さまのお力をお借りできれば、幸いです」

「今回のイベントでは、日ごろの感謝の気持ちを込めて、誠心誠意、お返しができるよう、全力で務めさせていただきます。是非、心行くまで、お楽しみください」

「最後に、私の母も大好きだった言葉を……。世界中の愛すべき全ての人々に、風の祝福を」

 挨拶が終わると、一瞬の静けさのあと、嵐のような大歓声が巻き起こった。私も、ステージの後ろから、一生懸命に拍手を送る。

 他の人たちに比べると、地味で硬い内容だったけど。何か、グッと心に響いた気がする。ただの社交辞令じゃなくて、本心からそう想っているからこそ、言葉に重みがあるんだと思う。

 上位階級の人たちは全員、人気も存在感も個性も、本当に凄い。でも、やっぱり、私が追い掛けるべき背中は、リリーシャさんだと再認識した。彼女の元で働けたのは、人生で最高の幸運だと思う。

 まだ、スタートラインに立ったばかりで、皆、はるか彼方の存在だ。でも、私もいつか、あのステージに上がって見せる。この沢山のシルフィードの中で、必ずトップに、登り詰めて見せる。

 大歓声の熱気に包まれる中。私は静かに、新しい決意の炎を、胸の奥に灯すのだった……。


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次回――
『この世界って広いようで意外と狭いよね』

 世界は美しい。悲しみと涙に満ちてさえ、瞳を開きなさい
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