私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一

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第6部 飛び立つ勇気

4-7イベント最終日にメイド姿で走り回る

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 私は〈北地区〉に来ていた。今日は『シルフィード・フェスタ』の最終日。メインイベントの一つである『シルフィード・クルージング』が行われる。〈北地区〉は漁港だが、景色に不釣り合いの、豪華な大型クルーザーが、何台も泊まっていた。

 クルージングは〈北地区〉からスタートし、運河を下って、各地区を通過。〈南地区〉を抜けたあと、最終的には〈新南区〉を、ぐるりと一周するコースだ。かなり、ゆっくり進んで行くので、長時間のクルージングになる。

 ちなみに、この運河は『グリュンノア創成期』に作られたものだ。昔はまだ、空飛ぶ機体がなかったため、運搬は全て水路で行っていた。特に〈セベリン市場〉の新鮮な魚を運ぶには、重要な役割を果たしていたのだ。

 主に魚を運んでいたので、昔は〈フィッシュ・ロード〉と言われていた。かつては、大量の船で、埋め尽くされていたが、エア・ブルームの登場で、交通事情が一変。今は、遊覧やイベントの時しか、使われていない。

 私が搭乗しているのは、八十人以上、乗ることができる『ブルー・クリスタル号』だ。船上には、今回のホストを務める、メイド服姿のスタッフたちが集まっていた。私たち五人の他に、サポートが九人いる。

 お手伝いは、シルフィードじゃなくてもOKだったので、私は、アディ―さんに、相談してみた。以前、お手伝いに行った、メイドカフェ〈アクアリウム〉の、店長さんだ。 

 メイドについて、物凄く詳しいし。ちょっと、変わった人だけど、物凄く仕切り上手なんだよね。とても、スタッフ想いだし。

 結局、彼の細かな助言に従って、料理や内装、接客など、全て順調に進行して行った。加えて、本番である本日は〈アクアリウム〉の、精鋭メイド五人と、厨房スタッフ三人を、応援によこしてくれた。
 
 もちろん、アディ―さん自身も参加して、手伝ってくれることになっている。指示がとても的確なので、いてくれるだけで、凄く安心だ。

 完成した、船内の内装はかなり凝っていて、料理のメニューも超本格的。まるで、本物の飲食店のようだ。流石は、プロのお仕事。正直、ここまで凄いことになるとは、思っていなかった。

 ちなみに、お客様の数は七十人。少し変わった企画なので、人が集まるか心配してた。でも、事前予約では、受付開始から、一分経たずに埋まってしまう、大盛況だった。

 むしろ、変わった企画だったので、受けたのかもね。こんな、異色のクルージングをやってるの、うちだけだし……。

「はい、はーい。準備も全てできたし、お客様を、お迎えするわよー!」
「はいっ!!」

 アディ―さんの掛け声で、みんな、一斉に動き出した。彼の元で、しっかりと統率が取れている。

 私たちメイドは、急いで船外に出て、並んでいたお客様の元に向かった。全員、階段の前に整列すると、一斉に声を合わせて挨拶する。

「ご主人様、お嬢様。大変お待たせいたしました。ようこそ、ブルークリスタル号へ!」

 私たちが声を掛けると、続々とお客様たちが、階段を上って来た。

「お帰りなさいませ、ご主人様」
「お帰りなさいませ、お嬢様」

 一人一人に挨拶して、温かくお迎えをする。

 やがて、全員が乗り終えると、クルーザーは、ゆっくりと進み始めた。漁港を離れると、少し西に進んで、すぐに運河に入って行った。

 船内は、ブッフェ形式の、立食パーティーになっていた。料理は、自由にとってもらって、飲み物は、メイドが給仕する。私は、せわしなく動きながら、お客様たちに、飲み物を配って行く。

 人数は多いけど、オーダーは飲み物だけなので、メイドカフェの時に比べれば、だいぶ楽だ。今回は、キャラ作りも特にないので、以前よりもやりやすい。

 私は、ジュース乗せたトレーを手に、移動していると、ふと声を掛けられた。

「風ちゃーん」
 振り返ると、そこには、二人組の男性がいた。よく見ると、見覚えのある顔だった。

「あっ、以前〈アクアリウム〉に来てくださった、お客さ……いえ、ご主人様」
 妙に、ノリのいい人だったので、よく覚えている。

「おぉー、覚えていてくれたんだ」
「まさか、また会えるとは、思わなかったよー」
「私も、またお会いできるとは思いませんでした。いつも、ありがとうございます」

「それにしても、クルージングで、メイドカフェ風にするとは、思い切ったね」
「奇抜で、凄くイイよね。この企画って、ツバサさんが考えたの?」

 二人は、物凄く楽しそうだ。よほど、メイドカフェが、好きなんだろう。

「いえ、実は私が発案者で。〈アクアマリン〉の店長さんにも、手伝ってもらって」
「おぉー、マジで?! 風ちゃん、神じゃん!」
「マジ神だね! 何か光るものが有るとは思ってたけど、流石は風ちゃん」 
 
「いやー、ただの、思い付きだったんですけど。皆さんのご協力のお蔭で、何とか形になりました」 
 
 本当に、みんなの協力が大きかった。ナギサちゃんは、滅茶苦茶、手際がいいし。フィニーちゃんは、料理のアイディアを、たくさん出してくれた。

 あと、アディ―さんが加わってからは、流れが劇的に変わった。思い付きのやり方が、急に計画的なやり方に、変わったからだ。流石に、本業でやっている人は、考え方も効率も、まるで違う。

「ところで、今日は、アレないのかな?」
「そうそう。メイドカフェと言えば、アレだよね」
「分かりました、アレですね。ご主人様、少々お待ちください」

 私は、笑顔で答えると、急いで厨房に向かった。

 厨房では、次々と料理が作られていた。プロの人を呼んできただけ合って、実に手際がいい。

「すいません。オムライス、二つお願いします」
「了解。下準備できてるから、直ぐに完成するよ」

 厨房を見ると、大量のケチャップ・ライスが、すでに用意してあった。

 解いた卵を、二つのフライパンに同時いれると、素早くオムレツを作って行く。見事な手際に、見とれていると、あっという間に、オムライスが完成した。

「はい、お待たせ」
「ありがとうございます」

 私は、オムライスの皿とケチャップを、ワゴンに乗せると、早足で船室に向かって行った。

「お待たせしましたー、ご主人様」
「おぉー、来た来た!」
「やっぱ、これだよね!」

「美味しくなる魔法、いりますか?」
「もちろん!」
「是非是非!」

 私は、以前メイドカフェでやった『美味しくなる魔法』を、心を込めてやっていく。二人とも、その様子を、とても嬉しそうに見つめている。

 魔法が掛け終わると同時に、周囲から声が掛かった。

「へぇー、そんなのあるんだ」
「私も、オムライスください」
「自分も、お願いします」
「こっちも、二つ」

「はーい、少々お待ちください。ご主人様、お嬢様」

 実は『隠しメニュー』だったんだけど。オムライスの注文が、大量に飛び交って、私は必死になって、キッチンと客室を往復する。いつの間にか、他のメイドの子たちも、せっせと、オムライスの注文の対応をしていた。

 途中、ナギサちゃんとすれ違った時、鋭い視線で睨まれる。『何よけいなことしてるのよ』とでも、言いたげだった。でも、しょうがないよね、お客様たちが、喜んでくれてるんだから――。

 忙しく走り回っている内に、運河を抜け、いつの間にか、海に出ていた。ゆっくり景色を楽しもうと、思ってたけど。そんな暇は、全くなかった。休む間もなく、船室と厨房を行き来する。

 その間、リリーシャさんと、ツバサさんの周りには、常に人だかりが出来ていた。握手会にサイン会、写真撮影会。二人が目当てで、来ているお客様が、ほとんどだ。なので、二人には、ずっとお客様への、ファン・サービスをやって貰っていた。

 女性客は、主にツバサさんの元に。タキシードを着た執事姿が、妙に似合っていて、凜としてカッコイイ。サービスで、肩を組んで写真を撮ったりすると、女性たちから、キャーキャーと黄色い声が上がっていた。

 リリーシャさんの所には、男性客が多い。リリーシャさんの執事姿には、神々しい美しさがあった。やっぱり、何を着ても、優しさや気品が、あふれ出してるよね。男性客のほうは、大人しい、というか、照れている人が多いようだ。

 個々の対応が終わると、今度は、リリーシャさんとツバサさんの、ペアでの撮影会が始まった。人気シルフィードのツーショットは、非常にレアなので、お客様たちも大喜びだ。

 ツバサさんが、リリーシャさんを正面から抱きしめると、これまた、黄色い声と大歓声が上がった。

 やっぱり、二人とも物凄い人気だ。それに、お客様の喜ぶことを、よく理解している。特に、ツバサさんはノリノリで、常にサービス精神が旺盛だ。リリーシャさんは、笑顔で立っているだけで、みんなに喜ばれている。

 私は、そんな二人を尻目に、終始、船内を走り回っていた。少しでも、お客様に喜んでもらうために、自分にできる仕事に専念する。

 途中、数人のお客様から、声を掛けられた。以前、メイドカフェに来ていたお客様と、ノア・マラソンを見てれた人たちだ。中には、私のファンだと、言ってくれた人もいた。少数とはいえ、私を知ってくれている人がいるのは、滅茶苦茶、嬉しい。

 時折り、お客様と会話をしながら、慌ただしく動き回っている内に、ぐるりと〈新南区〉を一周する。こうして、約三時間のクルージングは、無事に終了したのだった……。


 ******


〈新南区〉にあるマリーナで、お客様たちを、全員でお見送りしたあと。私たちは、船室の片付けと清掃をしていた。私は、ほうきを持って、せっせと床掃除をしている。こういった掃除は、私の得意分野だ。

 さすがに、七十人の接客は大変で、みんな疲れた表情をしていた。無言のまま、黙々と後片付けをしている。フィニーちゃんは、完全にヘロヘロに。ナギサちゃんも、顔に疲労の色が出ている。

 特にナギサちゃんは、やたらと、お客様に声を掛けられていた。『白金の薔薇』プラチナ・ローズの娘というのも有るけど、何と言ってもキレイなので、物凄く目立つ。やっぱ美人って、どの世界でも、得だよねぇ。

 私は、黙々と掃除をしていると、客室から陽気な声が響いてきた。

「はい、はーい。皆さん注目ー! 片付けは、いったん終了。ここからは、私たちが、楽しむ時間よー!」
 
 アディ―さんの声と共に、厨房スタッフたちが、料理の乗った皿を運んできた。テーブル上には、続々と美味しそうな料理が並ベられて行く。先ほどは出てなかった料理もあるので、ちゃんと別に用意してあったようだ。

 疲れ切っていた、スタッフたちの表情が、急に明るくなった。もちろん、フィニーちゃんは、即行で復活する。

「今日は、本当にお疲れ様。あなたち、みんな、とても輝いていたわよ。最高に、グッジョブだったわ! 私のおごりだから、好きなだけ飲んで食べて。心行くまで、楽しんでちょうだい」 
 
 アディ―さんの言葉に、みんなから歓喜の声が上がる。

 手伝ってくれた上に、こんなアフターケアまでしてくれて。本当に、スタッフ想いで気の回る人だ。みんなの士気の高め方も、よく知ってるよね。

「と、その前に。今回の素敵な企画を考えた、風歌ちゃんから、ご挨拶」 
「えっ、私ですか……?!」
「ほらほら、早くしないと、打ち上げが始まらないわよ」

 私は、アディ―さんにせかされて、みんなの前に立つ。

「あの――。今日は、私の発案にお付き合いいただき、本当に、ありがとうございました。皆さんのご協力がなければ、絶対に実現できませんでした。心から感謝しております」

 私は、深々と頭を下げた。

 私が頭を上げると、アディ―さんに、そっとグラスを渡された。彼は、笑顔でコクリと頷く。

「それでは、みなさん。大地の恵みに感謝します。乾杯!!」
「大地の恵みに感謝します。乾杯!!」

 グラスをか掲げると、皆も、それに合わせて乾杯をする。

 私は、グラスをテーブルに置くと、一人一人のスタッフに、挨拶に回って行く。特に、応援に来てくれた人たちには、念入りにお礼を言って回る。一通り、挨拶を済ませたところで、いつもの二人のところに向かった。

 案の定、フィニーちゃんは、特盛のお皿の前で、黙々と食べ続けていた。ナギサちゃんは、グラスを片手に、少々お疲れの様子だった。

「二人とも、お疲れ様。大変だったけど、お客様たちも喜んでくれて、大成功だね」
「最初は、どうなるかと思ったけど。何とか、無事に終わったわね」
「ここの料理、おいしい。みんな、喜んでた」

 二人とも、方向性は違うものの、とりあえずは、成功ということで、認めてくれたようだ。まぁ、この微妙に薄い反応は、いつも通りだけど。

「いやー、さすがに、こんなに沢山のお客様がいると、大変だね」
「大変にしたのは、風歌でしょ? 何で、手間の掛かるメニューなんかを……」

「でも、客様は、喜んでくれたし。結果オーライじゃない?」
「相変わらず、行き当たりばったりね。ちゃんと、事前に言っておきなさいよ」
「あははっ――」

 ナギサちゃんは、相変わらず、全てが計画的だ。でも、こういうイベントは、ノリと勢いが大事だよね。ツバサさんなんか、完全に、アドリブで盛り上げてたし。

「あっ……!」
「どうしたの、フィニーちゃん?」

「私も、オムライス食べる」
「って、そっち――」

 急に声をあげるから、何事かと思った。

「特大のオムライス。ナギサに、魔法かけてもらう」
「やる訳ないでしょ! そんなこと」

「でも、ナギサちゃん。さっきは、普通にやってたじゃん」
「あれは、仕事で仕方なくやってたのよ! 好きでやる訳ないでしょ!」
「あははっ……」

 ナギサちゃんの、照れながらやっている姿が、滅茶苦茶、大好評だった。メイドカフェの時も、ギャップが物凄く受けてたもんね。
 
 そんなこんなで、シルフィード・クルージングは、無事に終了。とても大掛かりで、大変だったけど。貴重な経験と、いい思い出ができた。初のイベント参加としては、大成功だと思う。

 まだまだ、学ぶことも多いし、ファンも少ないけど。いずれは、自分の人気でお客様が呼べるように、精一杯、頑張りまっしょい!


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次回――
『私の一番のファンはいつも元気と勇気を与えてくれる』

 ファンってのは、何点差だろうと奇跡を信じて待ってくれてる 
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