私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一

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第6部 飛び立つ勇気

5-1私の一番のファンはいつも元気と勇気を与えてくれる

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 夜の十時過ぎ。静まり返った、屋根裏部屋で。私は、座布団をしいて、机の前に正座し、空中モニターと、にらめっこしている。毎晩、恒例の『お勉強タイム』だ。学習ファイルを開いて、必死に頭を回転させていた。

 次の昇級試験からは、必要な実地期間が、半年になる。昇級のペースが早くなるので、とてもありがたいことだ。

 しかし、その反面、うかうかしていると、あっという間に、試験日がやって来てしまう。そのため、一時たりとも、気を抜くことはできないのだ。日々の努力が、物凄く重要なのは、今までと変わらない。

 ちなみに、私の部屋が、ほんのちょっとだけ、華やかになった。二月に『リトル・ウィッチ』になってから、お給料が上がったからだ。しかも、一気に、十万ベルも昇給した。

 なので、百ベルで買ってきた、薄っぺらい座布団を、厚みのある物に。また、ダンボールに入れていた服を、カラー・ボックスを買ってきて、入れ替えた。

 あと、机の上には、小さなボトル・フラワーを、置いてみたりとか。大して変わらないけど、以前よりは、少しだけ華やいだ気がする。

 もっとも、どれも、ディスカウトストアで買ってきた、安い物ばかりだけどね。私服も、向こうから持って来た、数着だけだし。

 あと、食事は相変わらず、一食三百ベルの、パンと水だけの生活を続けている。もう、節約生活が身についてしまって、贅沢する気には、なれなかったからだ。

 それに、何かあった時のために、貯蓄しておかないと。また、事故や病気に、ならないとも言い切れないし……。

 パンが食べられて、雨露しのげれば、今は十分かな。私はこの生活に、何だかんだで満足しているし。

 それに、ハングリー精神がとても大事だと思う。もし、ぜいたくな生活をしたら、昔の怠け者の自分に、戻ってしまいそうで怖い。これは、実家に帰った時に、ヒシヒシと感じていたことだ。

 そんなわけで、昇級後も、質素な生活を続けており、ほとんどライフスタイルは変わっていない。まぁ、このギリギリの生活が、ある意味、私らしいと思う。

 コツコツ勉強をしていると、マギコンから、メッセージの着信音が鳴り響く。サッと確認すると、ユメちゃんからだった。それを見た瞬間、思わず頬が緩んだ。この日課も、見習い時代の初期のころから、何も変わっていない。

 私は、急いでELエルを立ち上げ、メッセージを確認する。
『風ちゃん、こんばんわー。元気してる?』 
『こんばんは、ユメちゃん。超元気だよー!』

『もしかして、勉強中だった』
『うん。でも、ちょうど、切りのいいところだったから。平気だよー』

 前回の昇級試験で、傾向や対策が、ある程度わかった。あと、効率のよい勉強のしかたも、だいぶ慣れてきた。なので、毎日コツコツやれば、そんなに焦る必要はない。

『そっか、お疲れー。ところで、シルフェスはどんな感じだった?』
『すっごく、楽しかったよー。パレードにも出たし、クルージングもやったし。初の本番の参加だったけど。何だかんだで、楽しんじゃった』

『へぇー、初めての大舞台で、楽しめるなんて。流石は、風ちゃんだね』
『いやー。まだ、見習いの気持ちが、抜けてないのかもねぇ』

 試験に受かって昇級したあとも、あまり、一人前になった実感がない。仕事の内容が、以前と変わってないからだ。『これで、いいんだろうか?』と、たまに不安になることもある。相変わらず、お客様がいないからね――。

『そんなことないよ。もう、立派なシルフィードなんだから』
『だと、いいんだけどねぇー。あまり、成長した実感がなくて』

『風ちゃんの会社って、後輩がいないんだよね?』
『うん。相変わらず、二人でやってるし。特に新人を入れる予定は、ないみたい』

 アリーシャさんがいたころも、ずっと、親子二人でやっていた。〈ホワイト・ウイング〉は、少人数で運営する、アットホームさが、売りだもんね。あえて、こういう小さな会社を、好んで利用するお客様もいるので。

『それだと、あまり、実感が湧かないかもね。後輩が入って来れば『成長したなー』って、感じると思うんだけど』
『あー、それあるかも。部活の時も、そうだったし』

『でも、いずれ、分かるんじゃないかな? 今年から始めた、新人の子と出会う機会も、これから増えるだろうし』
『そういえば、新人の子が練習飛行してるの、結構、見かけるもんねぇ』

 今となっては懐かしい、新人用のオレンジ色の機体を、最近よく見かける。機体だけじゃなくて、キョロキョロしたり、挙動で分かるんだよね。私も、最初のころは、そんな感じだったし。

『パレードって、どうだった? 最後は、シルフィード広場に集まって、イベントがあるんでしょ?』

『うん。開会宣言の、挨拶だけどね。でも、物凄く盛り上がってたよ。ユメちゃんは、パレード見に行かなかったの?』

『MVで、ちょっと見たぐらいかな。人混みは、超苦手だから』
『あー、そういえば、そうだよねぇ』

 人が多い場所にいくと、すぐに、人に酔ってしまうらしい。『魔法祭』の時も、人が多すぎて、すぐに戻って来ちゃった、って言ってたし。

『誰が、一番よかった?』
『うーん、みんな良かったけど。やっぱり、私は、リリーシャさんかな。リリーシャさんの言葉は、凄く優しさが、伝わって来るんだよね』

『へぇー、流石は「天使の羽」エンジェル・フェザーだね』
『うんうん。言葉を聴いているだけで、何か安心するんだ』

 ちなみに、リリーシャさんは『癒し系シルフィードのツートップ』とも、言われている。もう一人は『癒しの風』ヒーリング・ウインドのメイリオさんだ。

『風ちゃんも、数年後には、開会の挨拶をするんだよね?』
『いずれは、そうなれると、いいんだけどね。まだまだ、ずっと先の話だよ』

『でも、順調に昇級したら、一年後でしょ?』
『まぁ、ストレートに行けばねぇ』

 順調にいけば、半年後には『ホワイト・ウイッチ』に。さらに、半年後には『エア・マスター』だ。でも、それ以降は、協会からの指名なので、どうなるかは、全く分からない。

『なれるよ、風ちゃんなら。何と言っても、ホワイト・ウイング所属だし。二人も、上位階級者が出てるんだから。三人目が出たら、まさに伝説だよね』
『確かに、三人連続だと凄いけど。ハードル、滅茶苦茶、高いなぁー』

 二人の内、一人は、グランド・エンプレス。リリーシャさんは、シルフィード学校を首席で卒業に加え、初の母子の上位階級を達成。よくよく考えて見たら、とんでもないエリートなのだ。

 その点、私は、昔から成績は中の下。しかも、こっちの世界に来たばかりの、異世界人。基本の部分から、色々差があり過ぎるよね。エリートなんて、私には、全く縁のない言葉だし……。

『大丈夫だよ。その高いハードルを、気合で超えちゃうのが、風ちゃんなんだから。ノア・マラソンの時みたいにね』
『でも、あれは、スポーツだからねぇ』

 流石に、昇級は、気合でどうにかならないと思う。結局、決めるのは、協会の理事の人たちだし。私の場合、すでに、目を付けられちゃってるからなぁ――。

『そういえば、クルージングって、どうだったの?』
『滅茶苦茶、大盛況だったよ。私の、思い付きの発言だったから。最初は、ちょっと心配だったんだけどね』

『メイドカフェ風にしたんだよね? 私は、絶対に受けると思ってたけど。シルフィードのメイド姿なんて、超レアだし』
『まぁ、そうだよね。実際、受けてたし。特に、ツバサさんとリリーシャさんが』

 あの二人の人気は、ずば抜けている。一人でも凄いのに、二人が一緒だと、その破壊力が数倍になる。しかも、付き合いが長くて、お互いを熟知しているから、息もピッタリだし。

『風ちゃんは、どうだったの?』
『うーん、何人かには、声を掛けてもらったよ。握手したり、世間話をしたり』
『へぇー、凄いじゃん! もう、ファンが出来てるんだ』

 たまたま、知っていたから、声をかけて貰っただけで。まだ、ファンかどうかまでは、分からない。それでも、一人も、知り合いのいなかった異世界で、知ってくれている人がいるのは、素直に嬉しい。

『と言っても、数人だし。ユメちゃんほど、熱狂的なファンは、いないけどね』
『えっへん。私が世界で一番の、風ちゃんファンだからね!』

『あははっ。いずれ、ファンクラブの会長を、やって貰おうかなぁ』
『任せといて! 会報とか作っちゃうから』

 ユメちゃんなら、本当に、やりそうな気がする。

『あ、そうそう。実はね、クルージングのお客様アンケートの集計が、後日、発表されたんだよね』
『へぇー、そんなのあるんだ。で、どうだったの?』

『そっちに、リンク送ったよー』

 私はマギコンを操作して、協会のイベントのページのリンクを送信した。協会のホームぺージには、年間行事やイベント情報が、たくさん載っている。

『って、すごーい!! 堂々の一位じゃん! 風ちゃん、超おめでとう!!』
『超ありがとう!! まさか、一位になるとは、ビックリだよねぇー』

『うわー、写真も一杯のってるじゃん。みんな、超カワイイ―!』
『それ、お客様が、撮ってくれた写真なんだ。よく撮れてるよね』

 写真好きなお客さんが、提供してくれた写真だ。プロじゃないけど、とても綺麗に撮れてるし。楽しさが、手に取るように伝わって来る。

『人気一位って、何かもらえるの?』
『いや、特にはないよ。「シルフィード・ランキング」と同じで、ただ、順位付けするだけだから。あと、私はメインホストじゃなくて、ただのお手伝いだし』

『って、本当だ。風ちゃんの名前、出てないじゃん。ズルイっ!』
『いやいや。お客様が集まったのは、リリーシャさんやツバサさんの、人気のお蔭だから。それに、みんな喜んでくれてたから、私は大満足だよ』

 なかなか面白い企画だったと思う。アディ―さんの仕切りも、凄く的確だったし。でも、結局、人が集まるかどうかは、メインホストしだいなんだよね。この業界は、どこまで行っても、人気が全てだから。

『うー、納得いかなーい! 早く風ちゃんも、偉くなってよー』
『そうだね。いずれ、メインホストになれたら、ユメちゃんを招待するよ』

『絶対に約束だよ!』
『うん、絶対に約束!』

 まだ、今が精一杯なので、未来のことは、全く分からない。そもそも、お客様一人見つけるだけで、大苦戦しているレベルだから。でも、私が目指す場所は、そのずっと先にある。

 凄い人の背中を見るだけで、満足してちゃダメだ。私も、同じ場所に立たないと。だから、腹をくくって決意しよう。

 いずれ、私の人気だけで、沢山のお客様を呼べるシルフィードになると……。


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次回――
『予想外の所から舞い込んだ仕事の依頼とは……』

 予想しなければ、予想外のものは見出せないだろ
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