私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一

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第8部 分かたれる道

5-6何が正しいかは人それぞれだから難しいよね

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 夕方、自宅にて。私は、リビングの窓の前に立ち、ボーッと外を眺めていた。目の前には、青く大きな海が見える。いつもなら、とても美しく、心が洗われる光景だ。しかし、今日は灰色に見え、テンションは、下がる一方だった。

 私は、フーッと、大きなため息をつくと、ソファーに向かい、端っこに、ちょこんと腰かける。朝からため息ばかりで、何も身に入らない。まぁ、元々普段から、休日の過ごし方は、下手だけど。今日は、特にひどかった。

 それに、普通の休日ならまだしも、今は謹慎中だ。のんびりと、休む気にもなれない。今まで、日々忙殺されていたので、急に暇になると、何をやっていいのか、さっぱり分からなかった。

 ちなみに、先日の火事のあと。助けた少女は、病院で精密検査を受けたが、どこも異常はなく、完全な健康体だった。検査で一日だけ入院したが、次の日には、元気一杯に退院したそうだ。何事もなく、心からホッとした。

 ただ、私は、数々の法律無視や、ルール違反を行ってしまった。『航空法違反』『消防法違反』『シルフィード規定違反』など。その結果、しかるべき、処罰を受けることになった。

『安全飛行講習』一週間。『ライセンスの停止』二週間。『懲罰金』十万ベル。『始末書』の提出など。思っていた以上に、重い処罰だ。しかし、これに関しては、特例として、全て免除になった。

 というのも、行政府のトップである評議会議長が『今回は、人命救助でやむを得ない行為であり、素晴らしい判断と行動であった。違反を問うべき問題ではない』と、声明を出したからだ。

 加えて、スピでは、今回の処罰の件に対し、大変な、反論が巻き起こっていた。どこのサイトや掲示板でも、この話題で、持ちきりだった。

 また、マスコミたちも『今回の件は、消防隊の行動の問題ではないか?』『人助けで罰せられるのは筋違い』『人命よりも法律を優先するのは間違っている』『航空法と消防法の改正が必要なのでは?』と、揃って声をあげていた。

 しかも、この町だけではなく、世界中で論争が巻き起こる、大事件になってしまった。罰を受ける覚悟は、最初からしていたけど。私も、まさか、ここまで大事になるとは、完全に予想外だった。

 結局、法的な罰則は、全て免除になったが、シルフィード協会のほうからは『一週間の営業停止』が、言い渡された。ただ、これは、当然の処分だと思う。こんなに、世間を騒がせてしまったのだから。何らかの、ペナルティは必要だ。

 今回の処分については、十分に納得している。だが、一番の問題は、自分の中での、倫理観についてだ。

 少女を助けた時は、間違いなく『正しいことをした』と、確信していたけど。時間が経って、冷静に考えてみると、本当に正しい行為だったのか、だんだん、自信が持てなくなってきた。

 仮にも、上位階級で、注目される立場だし。法律を破る行為は、軽率だったのではないだろうか……? 私が無理に助けなくても、あとから来た消防隊に、助けられたのでは――? 少女を、危険にさらしただけでは、ないだろうか……?

 次々と、疑問が、頭の中によぎる。結局、今日は、朝からずっと、この事ばかりを考えて、ずっと悶々とし続けていた。しかも、一週間もの営業停止で、何もやることがなかった。

 昔から、仕事一筋でやって来たから、休日の過ごし方が、よく分からない。謹慎中のようなものだから、下手に、外にでも出られないし。こんな生活が、一週間も続くかと思うと、滅茶苦茶、憂鬱ゆううつで、死ぬほど気分が重い。

「はぁー……どうしよう? まだ、初日で、こんなに気疲れするなんて。どうやって、一週間も時間を潰そう――」

 見習い時代なら、気楽に、空の散歩をしたり、街中を探索していたけど。今は、それすらも出来ない。昇進できたのは嬉しいけど、何をやっても目立つので、非常に窮屈な立場だ。

 ソファーで、ボンヤリしていると、チャイムが鳴った。目の前に『ホーム・セキュリティー』の、空中モニターが表示される。画面をタッチすると、そこには、見知った顔が映っていた。

「……はい」
「あぁ――その。突然、来てしまって、悪いのだけれど。今、お邪魔しても、大丈夫かしら?」

「うん、もちろんだよ! 入って、入って」
 私は、画面をタッチして、入口のロックを外す。ホーム・セキュリティーを使えば、遠隔で、ロックを外すことも可能だ。
 
 私は、早足で玄関に向かう。玄関に着くと同時に、静かに扉が開いた。私は、彼女の顔を見て、自然に笑みが漏れる。

「ナギサちゃん、いらっしゃい! フィニーちゃんも、キラリンちゃんも、来てくれたんだ!」
 私は、親友たちの顔を見て、急に元気が出て来た。

「連絡してから、と思ったんだけど。フィニーツァとキラリスが『サプライズのほうがいい』って、言うから……」 
 ナギサちゃんは、少し困った表情で語る。

「サプライズは、基本」
「細かいことは、気にするな。会えたんだから、いいじゃないか」
 フィニーちゃんと、キラリスちゃんは、いつも通り自由な感じだ。

「とにかく、上がって。超暇してたから、ちょうど良かったよー」
 完全に行き詰っていたので、三人の親友は、まさに、救いの神だった。

「フッ、そんなことだろうと思って、トランプとか、色々持って来たぞ」 
「食べ物も、いっぱいある」
「ちょっと、あなたたち。遊びに来たんじゃないのよ!」
「あははっ……」
 
 みんな、いつも通りの反応で、凄くホッとする。こうして、突発的な、女子会が始まるのだった――。


 ******


 全員、リビングのソファーに座り、テーブルには、大量の食べ物が並んでいる。三人とも、色んな物を持ってきてくれた。

 ナギサちゃんは、サンドイッチやサラダなど、ヘルシーなもの。フィニーちゃんのは、ほぼ茶色だけの、大量の肉と揚げ物。キラリスちゃんは、豚まん、餃子、春巻きなど、中華料理が多い。あと、有名店の、ラーメン詰め合わせもあった。

 相変わらずだけど、食べ切れないほどの、物凄い量がある。まぁ、フィニーちゃんがいるから、最終的には、全部なくなりそうだけど……。

 最初は、ジュースで乾杯したあと、世間話をしながら、美味しく夕飯を食べる。いつも一人だから、こうして、誰かと一緒に食べるのは、とても嬉しい。

 ある程度、食事が進むと、フィニーちゃんは、ごろんと、ソファーに横になった。ぐでーっと脱力して、完全に伸びている。

「ちょっと、フィニーツァ、だらしないわよ。よその家に来て、何やってるの?」
「風歌が、自由にくつろいでいいって、言った」

「そういう問題じゃ、ないでしょ? 立場を考えなさいよ。仮にも『スカイ・プリンセス』なんだから」
「今日、仕事、忙しかったから。超疲れた……」

 この二人のやり取りは、昔から、全く変わらない。

「別に、気にしないでいいよ。私たちしか、いないんだし、一人暮らしだから。自分の家のように、のんびり、くつろいでよ」

 私は、細かいことは、気にしないので、全然、構わない。それに、昔、実家にいたころは、毎日、こんな感じだったからね。

「ちょっと、フィニーツァを、甘やかさないでよ。ただでさえ、だらしないんだから。これ以上、酷くなったら、どうするの?」
「見習い時代から、変わらない。だから、これ以上、ひどくはならない」

「って、変わりなさいよ!」
 ナギサちゃんは、相変わらず厳しい。でも、彼女の言葉には、なんて言うか、愛があるんだよね。

「おい、そんなことより、本題はどうした? ただ、遊びに来ただけじゃ、ないんだろ? 私は、楽しめれば、いいけどさ」
 キラリスちゃんが、冷静に突っ込む。
 
 ナギサちゃんは、ゴホンッと咳払いすると、少し遠慮がちに、私に訊ねて来る。

「で――どうなのよ、その後?」
「どうって、何が?」

「だから、大丈夫か、ってことよ? 物理的にも、精神的にも」
「あぁー、そのことね。営業停止、一週間以外は、一切、罰則がなかったし。リリーシャさんも、怒ってなかったし。物理的には、何も問題ないよ」

 もし、法的な罰則があったら、そっちの方でも、かなり、落ち込んでたと思う。なので、罰則免除で、本当に助かった。

 ちなみに、リリーシャさんは、今回の件に関して、かなり、複雑な心境のようだ。『人命を救助したのは、とても、素晴らしい行為だけど。母の件があるから、素直には、褒めて上げられないわ』と、言っていた。

 一歩、間違えれば、私だって、命を落とす可能性があったのだから、当然だ。でも、怒ってはいなかった。褒めたい気持ちと、心配する気持ちが、混ざっている感じだと思う。どちらが正解か、難しいもんね……。

「ただ、ずっと、悩んでるんだ。私の行動が『本当に、正しかったのか?』って。だから、精神的には、ちょっと、まいってるかな。全然、答えが出せなくて――」

 今回の件は、世間的には、極めて好意的だった。ニュースでは『決死の救出劇』『少女の命を救った勇敢なシルフィード』『炎の中に舞い降りた天使』など、全て肯定的に報道されていた。 

 アリーシャさんと、同じ行為をしたので『白き翼ホワイトウイングの再来』『二人目の伝説のシルフィード』なんて、派手な見出しもあった。完全に英雄扱いで、脚色も凄い。でも、それだけに、深く考えさせられる。

「何を悩んでるんだ? 少女の命を救ったんだから、いい事したに、決まってるじゃないか。ちょっと、カッコよすぎて、ムカつくけどな」
「人助け、とても、いいこと。風歌、正しい」

 キラリスちゃんと、フィニーちゃんは、迷いなく答えた。だが、ナギサちゃんは、ちょっと、難しい顔をしていた。

「……確かに、人命救助は大事だけど、ルールはルール。いくつもの法律を破った、違法行為と危険行為よ。しかも、一般階級ならまだしも、上位階級なのだから。当然、褒められた行為じゃないわ」

 ナギサちゃんは、淡々と語る。でも、彼女の言うことは、いつだって正論だ。私も、それについては、散々考えた。

「じゃあナギサは、あの少女を、見捨てたほうが良かった、というのか?」 
「そうは、言ってないでしょ。でも、立場と状況を考えれば、あの場は、救助を待つべきだったと思うわ」

「もし、待ってる間に、少女が命を落としたら、どうするんだよ?」
「でも、あのあと、すぐに救助が来たじゃない。待っても、助かったでしょ?」
「そんなもん、結果論だ。間に合わなかったら、どうするんだよ?」

 キラリスちゃんと、ナギサちゃんは、熱くなって議論を交わす。でも、どちらも一理あるので、私にも分からない。

「おいっ、フィニーはどう思うんだ?」
 キラリスちゃんと、ナギサちゃんの鋭い視線が、ボーッとしていたフィニーちゃんに向いた。

「風歌が、正しい。でも、私なら、助けない」
「えっ――どういうこと、フィニーちゃん?」

「風が強かったし、ドルフィンは不安定。墜落の可能性もあった。私は、あの状況で、無事に助ける自信ない」
「そうなんだよね。私も、本当に、きわどかったし……」

 あの時、一瞬、体勢を崩しかけて、強く吹いた追い風に、体を支えられた。あのあと、急に風がやんだし。また『シルフィードの加護』に、助けられたのだろうか? 何にしても、極めて危険だったのは、間違いない。

「人道的に考えれば、やむを得ない行為だと思うわ。でも、二次災害が起こる危険性があるから、法律で禁止されているのでしょ? 助けに行った風歌まで、命を落としたら、どうするつもりだったのよ?」

「うっ――。それは、考えてませんでした」

 あの時は、必死だったし。『何とかなる』と、思ってた。為せば成る精神は、昔から変わらない。

「特に〈ホワイト・ウイング〉で、働いている風歌なら、それが、誰よりも分かるでしょ? 過去に『白き翼』の、悲しい事件があったのだから」
「……」

 そうだ。『三・二一事件』は、未だに、沢山の人の心に、大きな傷として残っている。もし、助けなければ、アリーシャさんは、生きていた。でも、助けなければ、ユメちゃんは、今いない。あまりにも、難し過ぎる選択だ。

「でも、今回は、風歌が正しい。それに、二人とも無事だったんだから、いちいち、蒸し返さなくたって、いいだろ?」

「分かってるわよ。別に、間違ってるとは、言ってないでしょ。ただ、毎度毎度、無茶するのは、いい加減やめなさいよ。たまには、心配する人間の身にも、なりなさいよね」

「ほほぉー。何だかんだで、ナギサも心配してたのか?」
「ただの、一般論よ! ファンたちや、関係者が、心配するって話だから」

 キラリスちゃんが、薄笑いを浮かべながら言うと、ナギサちゃんは、そっぽを向いてしまった。

 でも、結局、そこなんだよね。こうして、みんなも心配して、様子を見に来てくれたし。リリーシャさんだって、うるさくは、言わなかったけど。滅茶苦茶、心配していたのが、伝わって来た。

「終わったことは、どうでもいい。風歌、たくさん食べて、元気だす」
 フィニーちゃんに、大きな豚まんを渡される。

「そうだね。いつまで、くよくよしてても、しょうがないし。気持ちを、切り替えていくよ」
 いくら考えても、分からないんじゃ。悩んでも、しょうがないよね。

「おう、たくさん食え。そうだ、キッチン借りていいか? ラーメン作るぞ」
「おおっ、ラーメン!」
「ちょっと、あなたたち。まだ、食べるつもり?」
「あははっ」

 こうして、楽しい女子会は、夜遅くまで続くのだった。

 たぶん私は、同じ場面に遭遇したら、何度でも、同じ行動をすると思う。あとで悩みはしたけど、あの行動に悔いはない。みんなには、いつも、心配かけて悪いけど。これからも、自分が正しいと思う行動をしていこう。

 だって、それが私らしい、シルフィードのあり方だから……。


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次回――
『変装って何か悪いことしてるみたいで後ろめたい』

 嘘とは何か。それは変装した真実にすぎない
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