異世界立志伝

小狐丸

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アンデットの騎士と精霊女王

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 何時ものように、朝の日課になっている訓練をを終えて、外で顔を洗っていると、不意に強烈なプレッシャーを感じた。

(ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、無理無理無理、絶対勝てない)

 本能が逃げるように、告げているが、足が震えて動けない。
 先程までのプレッシャーが、嘘のように霧散する。

「えっ?」

 慌てて周囲を探ると、その存在がそこに居た。

 白銀のフルプレートに身を包んだ、二メートルはあると思われる騎士が、巨大なハルバードを手に持ち、俺の前に現れた。
 ただその騎士は、普通ではなかった。いや、人ですらなかった。

「お主の名はなんという?」
「えっ、あ、あの、カイトといいます」

 突然、名前を聞かれて、普通に答えてしまう。

「儂の名は、ドルファレス。お主も気づいておろうが、儂は最早人ではない。所謂アンデットの魔物じゃ」

 ドルファレスが言うには、彼は今から五百年前に滅びた国の騎士団長だったらしい。
 国を護る盾でありながら、護ることが叶わなかった。その無念が原因か、気づいた時にはアンデットの魔物になっていたそうだ。
 俺もなんとなく感じていたが、この地は矢張り特別な土地らしい。
 精霊女王に祝福された、神聖な土地らしい。ドルファレスは、アンデット故にこの地に居るだけで、力を奪われ、やがて消え逝く運命らしい。

「そんな滅びを待つ儂に、天に召される機会が巡って来たのじゃ」
「えっ、どういう事ですか?」

 どういう事だろう。天に召される?成仏するという事か?

「儂には心残りがある。儂の技を受け継ぐ者を育てる事ができなんだ。
 この地では人に出会う可能性もないと、なかば諦めて滅びの時を待つばかりじゃったが、ここにきてお主と出会った。
 どうじゃ、儂の教えを受けてはくれんか」
「あのアンデットの魔物なのに、どうしてそんなに理性的なんですか?魔物でも理性的な魔物が居るんですか?」

 俺は不思議に思った事を聞いてみた。この一年、一角兎ですら俺を見つければ襲い掛かって来た。だから魔物とは、そういう物だと思っていた。

「儂が理性を保っているのは、偶然が重なっての事じゃ。お主の言う通り魔物は人を襲うものじゃ、そこに例外はない。アンデットと相反する神聖なこの地では、普通のアンデットなら理性もなく、既に消滅しておったじゃろう。だが儂の生前の職業である聖騎士のお陰で、神聖なこの地で直ぐに消滅する事なく、理性を取り戻したのじゃよ」

 そんな事もあるのか、でもここに居たら消滅するんじゃないのか?

「ドルファレスさんは、この地に居ると消滅しちゃうんじゃないですか?」
「それは仕方の無い事じゃ。儂がこの地を離れると、破壊衝動に理性を喰われ、ただの魔物になってしまう。
 儂は騎士として最後を迎えたいのじゃ」

 ドルファレスさんは、剣も槍も高レベルだと言う。俺も強い相手と鍛錬すると、ジョブやスキルの成長し易いらしい。
 これはもうこちらからお願いしたい。

「ドルファレスさん、俺を鍛えてくれますか」
「ありがとうカイトよ。お主を儂以上の戦士にしてみせよう」



 こうして俺に、師匠を得ることが出来た。
 期間限定の師弟関係だけど、短い時間を有効に活用し、師匠の技術を受け継いでみせる。


「カイトが選んだ長柄武器は、バルデッィシュだが、選択としては良い選択じゃ。特に、そのバルデッィシュは、斧としてだけではなく槍としての役割も持ち合わせておる。槍術と斧術両方のスキルを、鍛えなければいかんが、それ以上に有効な武器じゃ」
「ありがとうございます」
「それでカイトの育成方針じゃが、先ず長柄武器の鍛錬。次に剣術、体術の鍛錬をしてもらう。身体強化と耐性系の能力も出来れば鍛えたいのぅ」
「魔法はどうします?」
「儂は魔法は教える事が出来ないんじゃ。唯一使えた回復魔法と光魔法は、アンデットになった時点で使えなくなったからのう。
 職業では、戦士から剣士か騎士へ、もう一つは、素早さを鍛える意味でも、盗賊ははずせない。
 悪いが、魔法系のスキルと職業は、時間が空いた時に訓練してくれ」



 そんな訳で、ドルファレス師匠との厳しい鍛錬が始まった。

 自分で鍛錬していた時と違い、バルデッィシュと剣を使った訓練がメインになった。

 来る日も来る日も、模擬戦でボロボロにされては、自作のポーションで回復する。只々それを繰り返す。途中からは、僧侶ジョブで覚えた、回復魔法がポーションの替わりになった。
 すると頑健と言う、身体が頑丈になるスキルを取得出来た。


「グゥワァーッ!」

 ゴロゴロゴロゴロゴロ!!

 ドルファレス師匠のハルバードに、弾き飛ばされ、地面を転がる。

「クッ、……」

 何とか、震える身体を起こす。その時、師匠と俺しか居ない筈のその場に、明らかに魔物でも人でもない気配を感じた。
 ドルファレス師匠は、分かっていたみたいで、慌てていなかった。

「……ふむ、人の前に顕現するとは珍しい」

 ドルファレス師匠が見る方向を見ると、湖から美しい女の人が近付いて来る。
 ただ非常に美しいが、決して人ではなかった。

「……精霊?」
「この地を治める精霊女王様じゃ」

 そう言うと、ドルファレス師匠が片膝をついてこうべを垂れる。



『珍しいですね。理性あるアンデットと稀人ですか。魔物と人の師弟関係とは、悠久を生きる私でも初めて見ます』
「精霊女王様、アンデットの身でこの地を穢す事をお許しください。出来ればあと四年、某を見逃して下され」

 ドルファレス師匠が、頭を下げるので、俺も頭を下げる。

『私はただ面白そうだから見に来ただけよ。私にとって四年位は一瞬よ。
 貴方達が、この地に居る事を許します。
 稀人の少年に関しては、神が招いた存在を、私如きがどうこうする事は出来ませんし』
「神が招いた?」

『そう、貴方は神のがこの世界に招いた存在』

 俺が思わず呟いた言葉を、精霊女王様が肯定する。

「何のために、私はこの世界に連れて来られたのでしょうか?何かを成さねば、いけないのでしょうか?」

 この世界に来た時からの、俺の疑問を聞いてみた。

『神の御心は、私如きでは計り知れません。ですが、貴方に何かを成させる為に招いたのではないと思います。貴方を招いた時点で目的は達している筈ですから、貴方は自由にこの世界を生きて良いのですよ』

 そうか、精霊女王様の言葉を聞いて、気持ちが軽くなるのを感じた。

『久しぶりに楽しい時間を過ごしました。これは私からのプレゼントです』

 精霊女王様がそう言うと、俺の身体が光に包まれた。

「我が弟子に加護を授けて下さり感謝致します」

 ドルファレス師匠が、改めてお礼を言う。

 精霊女王様は、いつの間にか消えていた。



 その後、加護の事をドルファレス師匠に聞くと、精霊女王様の加護は、属性魔法の威力が上がる事と、何よりも貴重な状態異常耐性が付き、あらゆる状態異常(毒・麻痺・呪い・魅了・石化・病気)をほぼ無効化出来る加護らしい。

「凄い加護ですね」
「あゝ、精霊女王様の加護を持つ者は、今現在一人もいないだろうからな。
 しかし、カイトが稀人だったとはな。この地にカイトのような子供がいた訳が、ようやく分かった」
「すいません。隠していたみたいになって」
「なに、小さなことじゃ。精霊女王様も言われていたが、カイトはこの世界で自由に生きて良いんじゃ。
 まぁ、この山を越えた森は、深淵の森と呼ばれる、強力な魔物が跳梁跋扈する、人が足を踏み入れる事の出来ない森じゃ」

 思ったよりも酷い場所に、連れて来られていたみたいだ。

「その森を抜ける実力を、つけなければいけないと、言うことなんですね」
「なに、カイトなら大丈夫じゃ」

 ドルファレス師匠のお墨付きを得て、また激しい鍛錬の日々が続く。

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