【本編完結】オメガの貴公子は黄金の夜明けに微笑む

中屋沙鳥

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8.人気のない王族

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 シャルルの近くにいた者は、その笑顔が蒼褪めていることに気づいたであろう。

 シャルルは、自分が収穫祭の王に選ばれるのだと信じていたのだろう。衝撃を受けているようだが、それを表に出すとは王族失格であり、そういうところが収穫祭の王に選ばれない理由の一つなのだと思いながらフロレルは彼を見ていた。そして目線を舞台へ移す。日頃は収穫祭の王などには興味がないように見えるアントワーヌは笑顔で学生を見渡していて、存外に楽しそうに見える。

「学園のみな様が、収穫祭の王に選んでくださったことに感謝いたします。我がシュクレ王国が収穫に恵まれますようお祈りします」
「では、収穫祭の王にパートナーを選んでいただきましょう。何方を指名されますか?」

 拍手で迎えられ、舞台上で感謝の辞を述べるアントワーヌは美しく、収穫祭の王に相応しい威厳がある。さすが上位アルファであると思わせるものが、アントワーヌには備わっているのだ。学生自治会長からの質問に、にこりと微笑みを浮かべたアントワーヌは暫し沈黙した。

 学生たちは、アントワーヌの次の言葉を待って静かになる。

 アントワーヌには婚約者がいないのだ。シャルルと取り合っているという噂のルネを選ぶのか、それともみなの知らぬ意中の者の名を呼ぶのか。
 静まり返った会場で、アントワーヌは学園のみなを見渡してから、周囲を魅了するようなバリトンでパートナーとして選んだ人の名前を呼んだ。

「収穫祭の王のパートナーには、フロレル・ド・ショコラ、我が義兄を指名いたします」

 会場は大歓声に包まれる。貴族の令息令嬢が大きな声を出すなどと言うことは通常あり得ないが、学園で行われる収穫祭では、子ども時代の名残のようにそういうことが行われる。いわば、慣習のようなものだ。

「やられた……」
「あらまあ、おめでとうございますと申し上げておきますわ」
「フロレル様、諦めが肝心ですことよ」

 アントワーヌから指名されたフロレルは、自分を揶揄うように笑うクロディーヌとルイーズを少し睨んでから笑顔を作り、花道のように学生が開けた場所を通り抜け、舞台に上がった。

「フロレル義兄上、貴方を収穫祭の王のパートナーに迎えることができてうれしゅうございます」

 アントワーヌは濃い青の瞳を煌めかせると、フロレルの右手をとって唇を寄せた。

「アントワーヌ、収穫の王のパートナーに選ばれたことを光栄に思う」

 フロレルが礼を言うと、アントワーヌの目が細められる。満足気に微笑んだアントワーヌは握っているフロレルの手をぐいと引いて、その細い腰を抱きよせる。フロレルは居心地の悪さを感じながらも、ガーデンパーティーの習わしであるのだからと、その状況を受け入れた。

「フロレル・ド・ショコラ、収穫の王のパートナーに選ばれたことをうれしく思います。我がシュクレ王国が収穫に恵まれますようにお祈りいたします」

 アントワーヌの腕の中で挨拶をするフロレルの麗しい声音は、学園のみなを魅了する。
 堂々とした上位アルファと儚げな美貌のオメガ。寄り添う二人はまさに収穫祭の王とパートナーに相応しい。さすがに優秀な兄弟であると皆がその姿に見惚れていた。
 学生自治会長に促されてフロレルとアントワーヌは、舞台上から手を振る。学生たちからは、再び大きな歓声があがった。
 フロレルはこのような形で目立つことに戸惑いながらも、アントワーヌには他の選択肢がなかったのだろうと考える。婚約者のいないショコラ公爵家の継嗣としては、義兄を選んでおくのが無難だ。他の誰を選んでも邪推を招き、それは醜聞につながりかねない。
 それに、収穫祭の王に選ばれなかったシャルルの事後対応もある。フロレル自身は何もする気はないが、アントワーヌは業務のようにそれをこなさなければならないだろう。おそらくその対応の際にもフロレルを選んでおいた方が良い理由がアントワーヌにはあるのだ。

 腰に回されたアントワーヌの手の熱を、密着する体の温かさをフロレルは感じる。アントワーヌとこのように近づくのはいつ以来のことになるのか。

 そのようなことを考えていたフロレルは、自分は何を考えているのかと戸惑いを覚える。

 フロレルは今考えていた全てを切り捨てるために、意識を目の前の学生たちに向け、美しい笑みをその顔に貼り付けた。


「なぜだ……」

 歓声を受けて微笑むフロレルとアントワーヌを見ながら、シャルルは無意識に手を強く握りしめていた。

 なぜ、自分が選ばれなかったのか。
 第一王子である自分が収穫祭の王に選ばれないなどとは、考えられない。
 シャルルは、誰にぶつけたらよいのかわからない強い怒りを抱いた。

 学園の投票は厳正かつ人気投票の意味合いが強いものなので、下位貴族の人気者が王に選ばれることもある。しかし、王族がいながら選ばれなかったというのは珍しいことだ。

「なぜ、なぜ俺が……」

 シャルルには、自分がどうして学園の学生たちに受け入れられていないのだということがわからない。
 婚約者以外のオメガを連れ歩くアルファの王子。ルネは友人であると言っていても、誰にもそれが真実であるかどうかなどわからない。みな、シャルルのことを疑っている。
 そして、ルネを守るためとはいえ、シャルルは学生たちに攻撃的な態度を取っている。そのような王族が、学生の間で人気者になるわけがない。
 シャルルはぎりぎりと奥歯を噛み締める。

 今までに見たことがないような恐ろしい顔をしているシャルルを見て、ルネは思わず後退りをする。ジャックとカミュは、ルネを庇うようにしてシャルルから距離を取らせた。



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