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7.収穫祭の王
しおりを挟むその後、シャルルがルネを連れ歩く風景は、学園内では当たり前のものとなっていった。シャルルはルネの肩を抱いたり腕を引いたりしているのだから、それを見た学生たちが二人が親しいと思うのは当然のことだ。
もっとも、二人だけで行動しているのを見かけることはない。アントワーヌやジャック、カミュの三人の側近たちの誰か、或いは全員が必ず同行しているのだ。学園の中では、実はルネの本命はアントワーヌではないかという噂もある。理由はアントワーヌにだけ婚約者がいないというものだ。そして、ルネはアントワーヌには自分から近づき話しかけることが多い。婚約者のいない二人が仲良くしていても何の問題もない。醜聞を好まない者にすれば、その方が望ましいと思うことだろう。
学生たちは、今のところ自分たちに直接関係ない噂をしているだけだ。それらは、醜聞になるかもしれないし微笑ましい学生時代の思い出になるかもしれない。そのような光景を目の当たりにしているという高揚感をも、学生たちに与える噂だったのだが。
シャルルがルネの肩を抱いて連れ歩いている様子を見たフロレルは、王妃がシャルルに注意を与えていないのだと思った。フロレルのことを、とことん舐めているのかもしれない。
フロレルには不要な叱責を与えるどころか、侮辱するような言動も取っていたにも関わらずだ。
本当に王妃はシャルルには甘い。
フロレルは無駄な精神的苦痛を受けたのだなと思う。それが報われる日は来るのだろうかとも。
王族であっても、学生のうちはある程度の自由が許される。そう、シャルルの自由は学園にいる間だけのことだ。学生の身でなくなれば、否応なく王族としての責任が行動の全てにのしかかってくるのだ。シャルルがそれを理解していれば現時点でも、軽々しい行動はしていないだろうが。
これからどのように物事が展開していくのかと考えて、フロレルはため息を吐いた。
秋の収穫祭が近づき、学園は祭りの前の華やいだ雰囲気に満ちている。
学園では収穫祭の前にガーデンパーティーを催し、そのまま一週間の収穫祭休暇に入る。ガーデンパーティーでは、例年学園の収穫祭の王を選ぶというイベントがある。そして収穫祭の王は、その日の自分のパートナーを指名する。これは人気投票のようなもので、例年人気のある第三学年の男子学生が選ばれ、その婚約者がパートナーに指名されている。そして今年は王族であるシャルルが第三学年に在籍しているため、彼が収穫祭の王に選ばれるというのが予定調和というものだろうと思われていた。
もっとも、シャルルはそれほど人気のある王子ではないため、アントワーヌやジャック、カミュが選ばれるのではないかという声もある。更に、王子の次に位が高い公爵家の直系であり、学生に人気のあるフロレルが、オメガであっても王に選ばれるのではないかという意見もあった。
いずれにしても、収穫祭の王に選ばれるはずもなく、選ばれたいわけでもない学生たちは、ただガーデンパーティーと収穫祭の王選出のイベントを楽しみたいだけなのだ。責任感のない噂は学園に満ちていたのである。
「殿下は、相変わらずあの子爵令息を側においていらっしゃるのですね」
「随分、お気にいられたご様子ですこと」
「彼も可哀想にね……」
「まあ、フロレル様はお優しいですわね」
「確かに可哀想ではありますけれどね」
ガーデンパーティーでクロディーヌとルイーズは、林檎の果実水を口にしながら話をする。その声にはとげがあるものの、冷静さを欠いている様子はない。そして、フロレルの本音を感じる言葉に、二人は笑みを向けた。
三人の視線の先には、ルネに寄り添うように立つシャルルとアントワーヌ、ジャック、そしてカミュがいる。ガーデンパーティーで供されている栗や林檎、干し葡萄などを使ったタルトやパイ、パウンドケーキといった菓子類をうれしげに口に運んでいるルネは大層可愛らしい。側では、シャルルや側近たちがその様子を微笑ましげな顔をして見守っている。
ジャックとカミュはどちらも婚約者との交流を怠ってはいない。そのため、クロディーヌとルイーズは、学園での婚約者の態度をお目こぼししてやっているのだ。
しかし、シャルルはフロレルとの交流を完全に怠っている。卒業後には婚約式が、そしてその一年後には婚姻式が予定されているが、その準備もシャルルは王宮の侍従に任せたきりだ。今のシャルルには、フロレルとの婚姻を真剣に考えることができないのだろうが、それで王家と公爵家の契約がなくなるわけではない。このままいけば二人はやがて婚姻を結ぶことになるのだから、シャルルにはフロレルと真剣に向き合う義務があるのだ。
シャルルがどうしたいのかはっきり言ってくれれば、フロレルも動きやすいのだと思うものの、そういうことを打ち明けられるほどにも二人は仲良くない。
フロレルは、その心の苦さを洗い流すようにグラスに注がれた林檎の果実水を飲み干した。
学園のみなは収穫祭の軽快なダンスを踊り、菓子や果実水に舌鼓を打ちながらガーデンパーティーを楽しんでいたが、いよいよ収穫祭の王を発表する時間になる。
第二学年の学生自治会のメンバーが、あらかじめ学園の学生たちから収穫祭の王を指名する投票を受け付けていた。その結果をこのガーデンパーティーの終わりに発表する。みなは楽し気に自治会長からの発表を待った。
「それでは、発表いたします。今年の収穫祭の王は、アントワーヌ・ド・ショコラ公爵令息です!」
わあっとガーデンパーティーの会場に歓声が上がる。
みなが注目した先には、美しくも腹の読めない笑顔を浮かべながら手を振るアントワーヌがいた。そしてそのすぐ隣には、笑顔を浮かべながらシャルルが立っている。
その笑顔は強張っていて、おおらかで快活といわれる王子のものではなかった。
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