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9.王妃からの叱責
ガーデンパーティーの翌日、シャルルは王妃から呼び出しを受けた。
「母上、お呼びと伺いましたが」
「座りなさい」
王妃の部屋で勧められたソファにシャルルが座ると、侍女が茶を淹れ、静かに控えた。王妃は侍女が自分たちの声が聞こえない位置まで下がると、顎を上げて蔑むように自分の息子を眺めた。
シャルルは、母である王妃からそのような目で見られるのは初めてだ。
自分は大切にされていると思っていた。
シャルルは戸惑いながら、王妃に目を向ける。
「収穫祭の王になれなかったのね」
「はい」
「どうして王子である貴方が収穫祭の王になれないのですか。情けないこと」
「収穫王になれなかったぐらい何なのですか! 投票を操作することなどできないのですから、仕方ないでしょう」
咎めるような王妃の言葉に、シャルルは苛立ちを押さえられずに声を荒げて言い返した。
収穫祭の王に選ばれなくて悔しい思いをしているのは自分であって、王妃ではない。なぜ自分が責められるのかと。
収穫王に選ばれなかった自分を慰めるのが、母親の役目ではないのかと。
「収穫祭の王に選ばれないということは、学生からの人気がないということですよ? 子爵家のオメガなんて連れ歩いているからです。人望がなければ、王など務まりません。立太子したければ態度を改めなさい!」
王妃は容赦なくシャルルを責めた。初めて王妃の怒鳴り声を聞いたシャルルは、かっと頭に血が昇るのを感じた。その後も王妃は説教を続けたが、母が何を言っていたのかをシャルルは全く覚えていない。
そして、そもそも収穫祭の王に選ばれなかったことぐらいで、これほどの叱責を受けるのはおかしいと思っている。そのため、真面目に話を聞く気は全く起きなかったのだ。
生まれて初めて王妃から声を荒げて罵られたのだという気持ちだけが、シャルルの中には残っていた。
王妃はといえば、シャルルがしっかりしないと立太子できないという焦りを抱いていた。アルチュールの方が頭は良いが、シャルルのおおらかな性格の方が民衆から人気を得やすいから王には向いていると国王や周囲の者には話していたのだ。それが、学園の人気投票で決まる収穫祭の王になれなかったという。これは、王妃にとっては思わぬ計算違いだ。シャルルには人気がないということなのだから。
更に国王からは、シャルルが不甲斐ないせいでジョゼフからフロレルとの婚約を白紙にしたいという要望が来ていると聞いている。シャルルとフロレルとの婚約継続が危うくなっているのは、王妃の差別発言も理由の一つであるということには本人は気づいていなかった。
もちろん、フロレルとの婚約だけでなく、国王からはシャルルが頼りなくて立太子させるのが不安であるとの話もあったので、王妃はシャルルに発破をかけないといけないと思って呼び出したのだ。
「それにしても……、ショコラ公爵も、王妃に対して無礼だわ。自分の方が偉いのだと勘違いしているのではないかしら」
自分はラッテ王国の王女であったのだ。そして今はシュクレ王国の王妃であるのだから、たかが公爵ごときが自分に逆らうなどとは無礼ではないか。
王妃は、高位貴族間の駆け引きなどを全く理解していなかった。各家の持つ力についても。
兄であるラッテ国王が後ろ盾になれないというから、ショコラ公爵の家のオメガを王命を出してまで無理矢理に婚約者にしてもらったのだ。そう助言してきた兄の言うとおりにしたことを、王妃は後悔していた。
とにかくフロレルは優秀で、美しくて、小賢しいからいけ好かないのだ。シャルルもそんな理由でフロレルのことを遠ざけているに違いないのに。フロレルがもっとシャルルを立てないといけないのに。
それなのに、国王はフロレルを高く評価している。
国王がそんな風に思っているのは、王妃にとっては不思議で理不尽なことであった。
「でも、アントワーヌがシャルルの側近なのだから、ショコラ公爵家の支持は得られるわよね……」
王妃が呟いたそんな独り言を聞いている者は誰もいなかった。
収穫祭の休暇が終わり、学園は平常授業になる。
シャルルは、相変わらず側近とともにルネを連れ歩いていた。
シャルルの方は明らかにルネに対する好意を示しているが、ルネは自分からは誰かに好意を示すというようなことはしていない。
いくらルネが希少なオメガでも、子爵令息ではシャルルの正式な配偶者になることはできない。愛妾か、もしくはアントワーヌの配偶者を目指しているのだろう。
好意を利用して近づきながらも、友情の仮面をかぶり続けている。なかなかに、うまいやり方だ。
口さがない令息令嬢たちはルネの様子を見て、そう噂をした。
加えてシャルルは、完全にフロレルを無視するようになっていた。第三学年になってからのシャルルは、優秀な婚約者より可愛いルネの方が良いという比較だけでフロレルを避けていた。しかし、王妃からの叱責を受けて意固地になったシャルルは、王家が決めた婚約者を排除しようという気持ちになっていたのだ。もともとフロレルが望み、王家にとっても都合が良いから結ばれた婚約だという王妃の言葉をシャルルは信じていた。フロレルの方が自分を望んでいるのだから、冷たくしても問題はないし、それで自分のことを諦めてくれれば都合が良いとまで考えていたのだ。
一国の王子としては浅薄な判断であるが、もともとシャルルはそういう性格だ。
もっとも、誰もシャルルが王妃からの叱責が原因でフロレルを無視しているとは想像もしていなかったのではある。
フロレルも、シャルルの心のうちなど全く知らなかった。フロレルとシャルルは本当に公務で必要な時しかともに過ごすことはなく、そのような行事は収穫祭以降にはなかった。
だから、本当にシャルルに無視をされていても困ったことはないと、フロレルは思っていた。
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