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ふたりの時間
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ある放課後、セドリックが「たまにはエリシアと2人で出掛けてみたらどうだ?次の休みにでもさ」と提案してきた。
セドリックは最近レオンハルトが明るくなったのを嬉しく思い、もっとエリシアを知るべきだと思っていた。
言われたレオンハルトは「どこで何をすると言うんだ。」と戸惑ったがセドリックの提案で、エリシアを町へ誘うことになった。最初は気が進まずセドリックに声を掛けて欲しいと頼んだが、「お前が直接誘わないと意味がないだろう」と言われ、しぶしぶエリシアに声をかけた。
「次の休み、町へ出掛けないか」
ぎこちない誘いだったが、エリシアは驚いた後にぱっと笑顔になった。
「はい! ぜひ!」
エリシアの返事は躊躇いなく、まっすぐだった。そんな彼女の反応に、レオンハルトは少し肩の力を抜いた。
町へ向かう道中、エリシアは時折、目を輝かせながら周囲を見渡していた。
「賑やかですね。こんなにたくさんのお店が並んでいるなんて……」
「普段、あまり来ないのか?」
「ええ。学園に入ってからは特に」
「そうか」
短いやり取りを交わしながら、二人は市場の通りへ足を踏み入れた。活気に満ちた町並みに、エリシアは興味津々の様子で、時折、立ち止まっては店先を覗き込んだ。
「これ、面白い形ですね……あ、こっちはとても綺麗」
その純粋な反応を見て、レオンハルトはつい「子供みたいだな」と口にした。
「えっ? そ、そうですか?」
「悪い意味じゃない」
慌てたエリシアに、レオンハルトは少し口元を緩めた。普段なら女性との会話は苦手だが、エリシアの反応は自然で、気を張る必要がないと感じ始めていた。
しばらく歩いた後、エリシアがふと足を止めた。
「あ、お花屋さん」
彼女の視線の先には、小さな花屋があった。色とりどりの花が並び、優しい香りが漂っている。
「綺麗ですね」
エリシアはそっと花に手を伸ばし、その鮮やかな色合いを愛おしそうに眺めていた。その横顔はどこか懐かしかった。
幼い頃、泣いていた彼女に手を差し伸べたあの時もこんな風に表情豊かだった。
気づけば、レオンハルトは店主に声をかけ、小さな白い花を手に取っていた。
「これを」
「えっ?」
「あげるよ。持っていくといい」
無造作に差し出された花を、エリシアは驚いたように見つめ、それからそっと受け取った。
「ありがとうございます」
その顔が嬉しそうにほころぶのを見て、レオンハルトは少し目を逸らした。
「別に、大したことじゃない」
そう言いながらも、彼の胸の奥にほんの少し温かいものが灯っていた。
町中を歩きながら、エリシアは何気ない話題を振り、レオンハルトもそれに応じていく。ぎこちなかった会話も、少しずつ自然なものになっていた。
(最初はどうしたらいいかと面倒に思っていたのに……)
ふと、そんな考えが頭をよぎる。義務感で誘ったはずの外出だったが、今は違う。エリシアの笑顔や仕草に触れるたびに、彼女に対する印象が変わっていくのを感じていた。
そして何より——彼女と過ごす時間が、嫌ではないと思っている自分に気づく。
(もう、あの女のようにエリシアは、計算高いとは思っていない……。)
レオンハルトは、エリシアの横顔をちらりと見た。
「また、こうして出掛けてもいいかもしれないな……」
その言葉は、まだ自分の中でもはっきりとした意味を持たなかったが、確かにそう思っていた。
セドリックは最近レオンハルトが明るくなったのを嬉しく思い、もっとエリシアを知るべきだと思っていた。
言われたレオンハルトは「どこで何をすると言うんだ。」と戸惑ったがセドリックの提案で、エリシアを町へ誘うことになった。最初は気が進まずセドリックに声を掛けて欲しいと頼んだが、「お前が直接誘わないと意味がないだろう」と言われ、しぶしぶエリシアに声をかけた。
「次の休み、町へ出掛けないか」
ぎこちない誘いだったが、エリシアは驚いた後にぱっと笑顔になった。
「はい! ぜひ!」
エリシアの返事は躊躇いなく、まっすぐだった。そんな彼女の反応に、レオンハルトは少し肩の力を抜いた。
町へ向かう道中、エリシアは時折、目を輝かせながら周囲を見渡していた。
「賑やかですね。こんなにたくさんのお店が並んでいるなんて……」
「普段、あまり来ないのか?」
「ええ。学園に入ってからは特に」
「そうか」
短いやり取りを交わしながら、二人は市場の通りへ足を踏み入れた。活気に満ちた町並みに、エリシアは興味津々の様子で、時折、立ち止まっては店先を覗き込んだ。
「これ、面白い形ですね……あ、こっちはとても綺麗」
その純粋な反応を見て、レオンハルトはつい「子供みたいだな」と口にした。
「えっ? そ、そうですか?」
「悪い意味じゃない」
慌てたエリシアに、レオンハルトは少し口元を緩めた。普段なら女性との会話は苦手だが、エリシアの反応は自然で、気を張る必要がないと感じ始めていた。
しばらく歩いた後、エリシアがふと足を止めた。
「あ、お花屋さん」
彼女の視線の先には、小さな花屋があった。色とりどりの花が並び、優しい香りが漂っている。
「綺麗ですね」
エリシアはそっと花に手を伸ばし、その鮮やかな色合いを愛おしそうに眺めていた。その横顔はどこか懐かしかった。
幼い頃、泣いていた彼女に手を差し伸べたあの時もこんな風に表情豊かだった。
気づけば、レオンハルトは店主に声をかけ、小さな白い花を手に取っていた。
「これを」
「えっ?」
「あげるよ。持っていくといい」
無造作に差し出された花を、エリシアは驚いたように見つめ、それからそっと受け取った。
「ありがとうございます」
その顔が嬉しそうにほころぶのを見て、レオンハルトは少し目を逸らした。
「別に、大したことじゃない」
そう言いながらも、彼の胸の奥にほんの少し温かいものが灯っていた。
町中を歩きながら、エリシアは何気ない話題を振り、レオンハルトもそれに応じていく。ぎこちなかった会話も、少しずつ自然なものになっていた。
(最初はどうしたらいいかと面倒に思っていたのに……)
ふと、そんな考えが頭をよぎる。義務感で誘ったはずの外出だったが、今は違う。エリシアの笑顔や仕草に触れるたびに、彼女に対する印象が変わっていくのを感じていた。
そして何より——彼女と過ごす時間が、嫌ではないと思っている自分に気づく。
(もう、あの女のようにエリシアは、計算高いとは思っていない……。)
レオンハルトは、エリシアの横顔をちらりと見た。
「また、こうして出掛けてもいいかもしれないな……」
その言葉は、まだ自分の中でもはっきりとした意味を持たなかったが、確かにそう思っていた。
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