【完結】嘘も恋も、甘くて苦い毒だった

綾取

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仮面

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 エリシアとレオンハルトの距離は、静かに、だが確かに縮まっていた。
 ふたりで出掛けて以来、ぎこちなかった会話も、今では自然に笑い合えるようになり、ふと視線が重なるたび、心にふわりと温かな灯がともる。
 素っ気なかった彼の態度にも、どこか柔らかな気配が混じるようになり、エリシアは戸惑いながらも、嬉しそうに微笑んでいた。
 気づけば彼女の世界は、レオンハルトを中心に回り始めていた。
 エリシアは、レオンハルトの事以外、あまり目に入らなくなっていた。

 そんなある日、ユリウスはメリッサから「話があるの」と静かに切り出された。人目のない中庭で口を開いた。
「私、これからもユリウスの隣にいたいんです。」
長く伏せられた睫毛の下で、揺れる瞳。控えめな声音。
 まるで絵に描いたような乙女の告白。
 エリシアと距離を置いているユリウスの心に、その優しさは静かに沁みこんでいった。
「わかった。僕も君と、ちゃんと向き合って行きたい。」
 正式に交際を始めたふたりは、またたく間にお似合いの2人とささやかれ、学園内では一種の理想的なカップルとして扱われ始める。
 メリッサとユリウスの交際は順調そのものに見えた。
 昼食は一緒に取り、登下校では自然と並んで歩く。クラスでも「理想的なお二人」と囁かれるようになっていた。
 メリッサはいつでも完璧だった。微笑み、控えめで、いつでもユリウスを気遣い、隣で少し頬を赤らめてうつむく姿は、誰の目にも美しく映った。
 ユリウスもまた、満たされていた。
メリッサは自分を頼りにしてくれ、控えめな微笑みを浮かべ安らぎをくれる。
エリシアに対する想いはもう仕舞う事が出来た。

 だがある日、ユリウスは中庭近くの小さな東屋に向かって歩いていた。
 ただ、花の香りに誘われた。それだけだった。
が、その奥に、誰かの話し声が聞こえた。
しかもそれは、聞き覚えのある甘やかな声。
「ほんとうに鬱陶しいのよ、あの子」その言葉に思わず足を止め、植え込みの影で身をひそめてしまう。
 そこにいたのは、やはりメリッサだった。
そして、その隣には、使用人と思われる少女。
「お嬢様、あまり大きな声では……」
「いいのよ。ここに誰がいるっていうの?私は学園でずっと完璧に演じきっているのよ。ぬるま湯につかっている連中は疑いもしてないわ。」
 その口調は、いつもの柔らかいメリッサとはまるで別人だった。
「クラスの連中、私が優しい顔をしているからって図にのって。気がきかないくせにいちいち首をつっこんできて鬱陶しい!それに余計な事をして出しゃばってくる。」
 言葉に込められた冷たさに、ユリウスの背筋がぞくりとした。
「でも、ユリウスの前ではちゃんと“いい子”でいないとね。上品で、優しくて、可愛い子。……それが一番、男なんて単純なんだから」
 その瞬間、ユリウスの胸の奥に、冷たい物が走った。
 ユリウスはゆっくりとその場を離れた。足音を忍ばせながら、気づかれないように。
だが頭の中は、メリッサの言葉でいっぱいだった。
「単純だと……?」
今まで見せていた笑顔は、全部計算ずくの演技だったのか?
自分は今まで何を見てきたのか。

その夜、学園の裏庭に佇み悩み、考え込むユリウスに、柔らかく声がかかる。
「ユリウス。」
リリィだった。
 その懐かしい声は、ユリウスの迷いに寄り添うようだった。
「ほんの少しだけ、話せる?お話したいことがあるの」
ユリウスは黙って頷いた。
 自分が選んだ相手は、本当に「信じられる人」だったのか。
リリィの言葉が、その答えを照らしてくれるような気がした。

そして、メリッサの仮面の裏に潜む“本性”が、ゆっくりと暴かれていく。
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