私の優しいお父さん

有箱

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恐ろしい世界と夢の中の世界

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「ユマ、食材が減ってきたから買い物に行ってくるよ」
「えっ、買い物? 大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。今日の夜食べたいものはある?」
「んー、じゃあお父さんの好きなサンドイッチ」
「それで良いの? じゃあそうするね。良い子でお留守番してるんだよ」
「はーい」

 お父さんは、本当に時々買い物に行く。その時だけ、私は一人ぼっちになった。
 扉が閉まり、鍵の音を聞くと寂しくなる。けど、我慢して部屋に戻った。
 
 部屋では、物語が流れている。もう何度も聞いたから、途中からでも空想出来た。

 流れているのは、男の子が冒険に出掛ける話だ。
 最後は素晴らしい景色に出会うが、その道中がかなり波乱万丈だったりする。怖い動物に追いかけられたり、川に落ちたり、道に迷ったり――その他色々と。
 
 この物語を聞く度、お父さんの言葉を思い出す。
 外の世界に興味を持つと、決まって寂しげに言う言葉だ。

「ユマ。外はね、危険がいっぱいあるんだ。だから決して出ては行けないよ。ユマに何かあったら大変だからね」

 その声を聞く度、私は思う。目が見えない私では、物語の子のように素晴らしい景色に会えないだろうと。きっと、その前に死んでしまうだろうと。

 だから、お父さんは私の変わりに外に挑むに違いない。私の命を守るために。



 布団に潜りながら、お父さんに抱きつく。お父さんは長い物語を、一度も休まず読み聞かせてくれた。
 お父さんの声は子守唄のようで、途中で何度も眠りそうになった。けれど耐えた。

「お父さん、お話面白かったよ……大好き」

 いつものように告げながら、ゆっくり夢の世界に入ってゆく。お父さんの優しい声が、消えて行く意識に蓋をした。

「僕もだよ、ユマは僕の全てだ。おやすみ」

 ――私の場合、夢でだけ景色が見える。と言っても、色や形を知らないから、全部私の想像だけど。

 その中では、お父さんとお母さんが仲良く笑い、私は真ん中で二人と手を繋いでいる。
 そうして、物の溢れた道を歩いた。二人に守られながら。

 けれど、夢は決まって不思議な終わり方をした。

 物体が混雑する空間の上、私だけが取り残されてしまうのだ。二人は知らない内に消え、一人ぼっちになってしまう。そんな経過を辿る。

 そして最後の最後、後ろから現れたお父さんが、悲しい顔で『ごめんね』と言う。そこで必ず目が覚めた。
 
 この夢には何か意味がある――私はそう思っている。お父さんの話したがらない、何かが隠されていると。
 ただ、それが何なのかまでは想像も出来ないけど。
 
 けれど夢を見る度、盲目になった理由を、お母さんの行方を、そしてお父さんの"ごめんね"の理由を知りたくなった。
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