裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……

希猫 ゆうみ

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婚約を破棄されて、それが実はブルック伯爵令嬢パトリシアの略奪愛で、傷ついた私は自ら命を断とうとした───という噂は社交界にしっかり浸透しているようだった。

私は正に腫物。
こちらも何もなかった顔で戻って来たわけではないのだから構わない。

噂するならどうぞ。
笑いたいならどうぞ。

今日は久しぶりの舞踏会。煌びやかな大広間に流れる音楽も、これ見よがしに並ぶ豪華な食事も、私の心を充分に弾ませてくれる。

誰のものでもない純潔の令嬢たちが、おばけを見るような目で私を眺めている事すら楽しい。

私はロバートのものではない。
私は、自由になって帰って来た。それが純粋に気持ちいい。

「楽しみましょう、お父様」
「そうですよ、あなた。レーラの再スタートなんですもの、お祝いしましょう」

母は久しぶりに一緒に着飾ったのがよほど嬉しかったらしく、私と腕を絡めて燥いでいる。
父は相変わらずだけれど、今や私の言いなりだった。

「今日どなたかに求婚されたら、私、お父様を一生恨む必要はないかも」

と、父を揶揄ってから広間の中央へ向かう。
私はとにかく豪華な舞踏会が楽しくて、すれ違う人と挨拶しながら美味しそうな料理から料理へと渡り歩いた。

だって、一度終わってしまった人生だもの。
何も恐くない。

そんな令嬢らしくない大胆な振る舞いをしていたのに、次々とダンスに誘われた。私より母が喜んでいる。

「凄いじゃない!あなた大人気よ!」
「勘違いよ、お母様。傷物の私なら気軽に遊べると思って声を掛けるの」
「そんな事ないわ。あなたは他の令嬢より経験を積んで成長した。それが魅力なのよ」
「余計な事を仰らないで、もう少し慎ましくしてくださいな」

母は良く言えば天真爛漫、悪く言えば幼稚。
一度は壊れてしまった親子関係だったけれど、一歩引いてみて見ると、母がまだお嬢様気分なのだとわかって期待しなくなった。

だから今日、母が楽しそうなのも受け入れてしまう。
この人は母親でも他人。私たちは他人同士。だから母が楽しむのを止める権利はない。

「レディ・レーラ。踊って頂けますか?」

声を掛けられて、母と揃って振り返る。
私は母の腕を振り解き、その人の手を取った。

「はい、喜んで」

私が楽しむために来たのよ。
憐れみを買うためじゃない。

今の私に魅力を感じてくれる人と出会うためには、笑顔でいなくちゃ。
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