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40(最終話)
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結婚式から数週間後、ウィンダム城には多くの贈り物が今も届けられている。
その中でには当然、接点のない相手もいるのだけれど、ある一通の手紙が私の胸を熱くさせた。
ボラン伯爵夫妻からの贈り物は陶磁器。
手紙にはミーガンについて綴られていた。
私が送った数年は困らないはずのお金を修道院に寄付し、ミーガンは娘を連れてボラン伯爵家で乳母として働いているという。私の紹介状でこの職を得たミーガンは、とても大らかで働き者なので家の者一同助かっていると、近況が記されていた。特に上の子がミーガンに懐き、手に負えない事がなくなったという。
所謂、国王様の御触れでウィンダム公爵夫妻の結婚を知ったというボラン伯爵夫妻は、遠方であり産後間もないという事情から直接お祝いに出向かない事についてを詫びてもいた。
とんでもない。
これほど嬉しい御報せがあるだろうか。
「……っ」
私が目頭を拭っていると、背後からオーウェンがそっと抱きよせ優しく尋ねてくる。
「どうした?」
「これ見て……ミーガン、立派だわ」
私は文面が見えるように持ち直した。オーウェンが目を走らせる。
「出産祝いを贈る?」
「ええ、もちろんよ。いいでしょう?」
「わかった」
オーウェンが私の手から手紙を取り、机に重なるお祝い状の束のてっぺんに置く。
それから私の体をくるりと回し、大きな掌で頬を挟み、親指でそっと目頭を拭ってくれた。
美しい碧の瞳が私の目を覗き込む。
「ミーガンには何を送りたい?」
心が通じていて更に嬉しくなる。
「何がいいかしら。何か役に立つものがいいわ。彼女の好みを知らないし……ボラン伯領というと気候が……雨や霧の日が多いはずよね。ショールや温かい肌着はどうかしら。ミシェルに相談しないと」
「そうだね」
優しく微笑んでオーウェンが私にキスをした。
複雑に絡み合い一時は悲嘆に暮れたものの、新しい絆が結ばれたのは本当に嬉しいことだった。
更に、愛によって結ばれた結婚は続く。
半年後、ついにミシェルとクリスが結婚式を挙げた。
私たちは愛に包まれ、永く、平和に、幸せに暮らした。
それから数十年を掛けてウィンダム公領は大きく発展することになる。
交易で栄える賑やかなレイヴァンズクロフトの宿場町を中心に、近隣の長閑な集落から充分な距離をとった場所にはぽつぽつと別荘が建ち、穏やかな保養地として愛された。
これは国王陛下の計らいにより、隠された暗い歴史を塗り替える為だと思われる政策がとられたのも関係している。
悲劇から生還し愛を叶えたウィンダム公爵という、ほどよく脚色された内容の歌劇『ウィンダム公』が宮廷作家により作られ大流行したのだ。
ウィンダム公爵夫妻は真実の愛で結ばれた憧れの夫婦として周知された。
今では、ウィンダムの教会で求婚すると真実の愛で結ばれる──と、まことしやかに囁かれている。
本当はレイヴァンズクロフトにある宿屋の一室が求婚の舞台だということは、私とオーウェンだけの特別な秘密。
真実は私たちだけが知っていれば、それでいい。
その中でには当然、接点のない相手もいるのだけれど、ある一通の手紙が私の胸を熱くさせた。
ボラン伯爵夫妻からの贈り物は陶磁器。
手紙にはミーガンについて綴られていた。
私が送った数年は困らないはずのお金を修道院に寄付し、ミーガンは娘を連れてボラン伯爵家で乳母として働いているという。私の紹介状でこの職を得たミーガンは、とても大らかで働き者なので家の者一同助かっていると、近況が記されていた。特に上の子がミーガンに懐き、手に負えない事がなくなったという。
所謂、国王様の御触れでウィンダム公爵夫妻の結婚を知ったというボラン伯爵夫妻は、遠方であり産後間もないという事情から直接お祝いに出向かない事についてを詫びてもいた。
とんでもない。
これほど嬉しい御報せがあるだろうか。
「……っ」
私が目頭を拭っていると、背後からオーウェンがそっと抱きよせ優しく尋ねてくる。
「どうした?」
「これ見て……ミーガン、立派だわ」
私は文面が見えるように持ち直した。オーウェンが目を走らせる。
「出産祝いを贈る?」
「ええ、もちろんよ。いいでしょう?」
「わかった」
オーウェンが私の手から手紙を取り、机に重なるお祝い状の束のてっぺんに置く。
それから私の体をくるりと回し、大きな掌で頬を挟み、親指でそっと目頭を拭ってくれた。
美しい碧の瞳が私の目を覗き込む。
「ミーガンには何を送りたい?」
心が通じていて更に嬉しくなる。
「何がいいかしら。何か役に立つものがいいわ。彼女の好みを知らないし……ボラン伯領というと気候が……雨や霧の日が多いはずよね。ショールや温かい肌着はどうかしら。ミシェルに相談しないと」
「そうだね」
優しく微笑んでオーウェンが私にキスをした。
複雑に絡み合い一時は悲嘆に暮れたものの、新しい絆が結ばれたのは本当に嬉しいことだった。
更に、愛によって結ばれた結婚は続く。
半年後、ついにミシェルとクリスが結婚式を挙げた。
私たちは愛に包まれ、永く、平和に、幸せに暮らした。
それから数十年を掛けてウィンダム公領は大きく発展することになる。
交易で栄える賑やかなレイヴァンズクロフトの宿場町を中心に、近隣の長閑な集落から充分な距離をとった場所にはぽつぽつと別荘が建ち、穏やかな保養地として愛された。
これは国王陛下の計らいにより、隠された暗い歴史を塗り替える為だと思われる政策がとられたのも関係している。
悲劇から生還し愛を叶えたウィンダム公爵という、ほどよく脚色された内容の歌劇『ウィンダム公』が宮廷作家により作られ大流行したのだ。
ウィンダム公爵夫妻は真実の愛で結ばれた憧れの夫婦として周知された。
今では、ウィンダムの教会で求婚すると真実の愛で結ばれる──と、まことしやかに囁かれている。
本当はレイヴァンズクロフトにある宿屋の一室が求婚の舞台だということは、私とオーウェンだけの特別な秘密。
真実は私たちだけが知っていれば、それでいい。
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ご感想ありがとうございます!
お楽しみ頂けてよかったです!
ご感想ありがとうございます!
一気読みでお楽しみ頂けて感激です!
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一気読みのご感想ありがとうございます!
凄く嬉しいです!
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