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3(サディアス)
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「なんと愚かな過ちを……!」
リディを連れて帰った僕に両親は顔色を変えた。
特に母は急速に蒼褪め死人のような顔になった直後、激高し一瞬で顔を赤らめ叫んだ。
「この大馬鹿者!お前は誰を裏切ったか理解しているのですか!?フェルネには王家の血が流れているのですよ!?」
「血筋など関係ありません!僕はリディを愛しているのです!」
「愛など関係ありません!お前は王族に盾突いたのよ!?」
フェルネが王族?
宮殿に出入りしているわけでもないのに?
僕の我慢も限界を迎える。
「そういうフェルネの奢りが愛を曇らせたのです!リディは無垢で愛情深い娘です!義理の娘としてどちらが愛情を注いでくれるか今一度よくお考えください。王族の血が流れているフェルネか、純粋無垢な人間の娘である愛情深いリディか!」
愛によって結ばれた両親であれば、僕の気持ちを理解してくれる。
そう妄信していた僕はあっさりと母に裏切られた。
「そんな小さな問題ではないのです!エヴァンズ伯爵家の運命が掛かっているのですよ!?」
「母上……!」
僕は悟った。
母はフェルネに心酔していた。
僕の婚約者であったフェルネを、いずれ義理の娘になる令嬢として愛情を抱いているのだと信じて疑わなかった。
だが違った。
母は血筋でパートランド伯爵令嬢を歓迎し、息子に縁戚関係を結ばせようと野心を抱いていたのだ。
偽善的で醜悪な心に僕は吐気を催した。
愛情を以て接してきた母という人間は最早、強欲で利己的な一人の伯爵夫人でしかない。つまり嫌悪すべき他人にしか見えない。
「そんなメイドに潰されてたまるものですか!今すぐ捨ててきなさい!そしてパートランド伯爵家に赴き、誠心誠意お詫びして関係を結び直すのです!」
「やめてください母上!リディになんということを……!」
僕の背後で跪いているリディはどんなに恐怖しているだろう。
「リディ?その不躾な身の程知らずのメイドの名はリディというのですか?」
今初めて聞いたわけでもないというのに、わざとらしく母はそんな嫌味を言い罵声に繋げる。
「世界中のリディにお詫びしなさい!お前は歴史にその名を刻まれてしまうのよ!娼婦!泥棒猫!薄汚い盗人としてね!!」
「母上!」
僕は跪き俯いてい震えているリディを抱きしめた。
そして産まれて初めて母を睨む。
「いくら母上であろうと、僕の愛する女性にそのような口を利くのは許せません!即刻、謝罪を要求します!」
「目を覚ましなさい!その小娘はお前を不幸にしようとしているのですよ!?」
「まさか!リディは僕を愛してくれます!僕を幸せにしてくれる唯一の女性です!妻になるべき人はリディ只一人です!」
「いい加減になさい!サディアス!!」
その時だった。
それまで沈黙を貫いていた父が、母の隣で静かに腰を上げた。
「もういい、イライザ」
「あなた……!」
父は母の肩にそっと触れると、その静謐さを讃える目を僕に向けた。
「父上……!」
やっと祝福してもらえる。
そう思ったのに、僕はまた裏切られることになる。
「本気なのか?サディアス」
「もちろんです父上。リディこそ、僕の運命の相手です!」
「嘆かわしい」
「え?」
父は諦めと絶望を混ぜたような淀んだ目つきで僕を見据え、全てを否定するように力強くゆっくりと首を振った。
「一度だけ言おう。サディアス、一時の過ちでは済まんのだ。その娘を忘れ、フェルネと和解しろ」
「父上まで……そんな……!」
僕の腕の中でリディが嗚咽を上げる。
僕の目からも滂沱の涙が溢れて来る。
「嫌です!愛しているんです!!」
「全てを失うことになるぞ、息子よ」
「それは脅しですか?甘く見てもらっては困りますね、父上。もうあなた方の祝福など要りません。僕はリディと真実の愛を貫く!誰にも邪魔はさせない!!」
「あぁ……」
母が眩暈によってその場で崩れ落ちる。
父は僕がリディを抱きしめるのと同じように母を抱きしめて、誰よりも愛しているはずの僕を激情を込めて睨んだ。
その視線に心を引き裂かれる。
この愛は誰にも理解されないのか。
「育て方を間違えたのか、悪魔に囁かれたか……サディアス、お前はエヴァンズ伯爵家に仇をなす者と成った」
「!?」
耳を疑った。
しかし父ははっきりと続けた。
「お前を勘当する」
「父上!」
「そしてリディ。お前を追放する」
「父上!!」
信じられない。
僕をこの世から葬り去ろうというのか。
親子の愛情は何処へいってしまったのか。
「父と呼ぶことは許さん。さあ、お前の妻の為にこの地を去れ!」
「……!」
視線で助けを求めたが、母は目を逸らしじっと何かを耐えている。それは息子を失う哀しみではなく、憤りだと見て取れた。
まさか両親が愛を知らない人種とは。
僕は絶望した。
だがリディという希望を抱いて、新たな人生へと踏み出した。
リディの肩を抱いて立ち去ろうとしたとき、父──無情なエヴァンズ伯爵が僕らを呼び止めた。
「?」
思い直してくれた?
もしそうであったなら僕は喜んで父を許すつもりだった。
しかし父であった無情な男は老いた顔に残忍な憎しみを湛えリディに言い放った。
「罪深き娘よ。今お前は呪われた。生きて飢え乾き、苦痛にのた打ち回り、孤独に咽び泣こうとも涙すら枯れ果て、二度と安らぎは訪れない。死の眠りもお前を癒しはしない。地獄の業火は永遠の叫びを齎すだろう」
リディを連れて帰った僕に両親は顔色を変えた。
特に母は急速に蒼褪め死人のような顔になった直後、激高し一瞬で顔を赤らめ叫んだ。
「この大馬鹿者!お前は誰を裏切ったか理解しているのですか!?フェルネには王家の血が流れているのですよ!?」
「血筋など関係ありません!僕はリディを愛しているのです!」
「愛など関係ありません!お前は王族に盾突いたのよ!?」
フェルネが王族?
宮殿に出入りしているわけでもないのに?
僕の我慢も限界を迎える。
「そういうフェルネの奢りが愛を曇らせたのです!リディは無垢で愛情深い娘です!義理の娘としてどちらが愛情を注いでくれるか今一度よくお考えください。王族の血が流れているフェルネか、純粋無垢な人間の娘である愛情深いリディか!」
愛によって結ばれた両親であれば、僕の気持ちを理解してくれる。
そう妄信していた僕はあっさりと母に裏切られた。
「そんな小さな問題ではないのです!エヴァンズ伯爵家の運命が掛かっているのですよ!?」
「母上……!」
僕は悟った。
母はフェルネに心酔していた。
僕の婚約者であったフェルネを、いずれ義理の娘になる令嬢として愛情を抱いているのだと信じて疑わなかった。
だが違った。
母は血筋でパートランド伯爵令嬢を歓迎し、息子に縁戚関係を結ばせようと野心を抱いていたのだ。
偽善的で醜悪な心に僕は吐気を催した。
愛情を以て接してきた母という人間は最早、強欲で利己的な一人の伯爵夫人でしかない。つまり嫌悪すべき他人にしか見えない。
「そんなメイドに潰されてたまるものですか!今すぐ捨ててきなさい!そしてパートランド伯爵家に赴き、誠心誠意お詫びして関係を結び直すのです!」
「やめてください母上!リディになんということを……!」
僕の背後で跪いているリディはどんなに恐怖しているだろう。
「リディ?その不躾な身の程知らずのメイドの名はリディというのですか?」
今初めて聞いたわけでもないというのに、わざとらしく母はそんな嫌味を言い罵声に繋げる。
「世界中のリディにお詫びしなさい!お前は歴史にその名を刻まれてしまうのよ!娼婦!泥棒猫!薄汚い盗人としてね!!」
「母上!」
僕は跪き俯いてい震えているリディを抱きしめた。
そして産まれて初めて母を睨む。
「いくら母上であろうと、僕の愛する女性にそのような口を利くのは許せません!即刻、謝罪を要求します!」
「目を覚ましなさい!その小娘はお前を不幸にしようとしているのですよ!?」
「まさか!リディは僕を愛してくれます!僕を幸せにしてくれる唯一の女性です!妻になるべき人はリディ只一人です!」
「いい加減になさい!サディアス!!」
その時だった。
それまで沈黙を貫いていた父が、母の隣で静かに腰を上げた。
「もういい、イライザ」
「あなた……!」
父は母の肩にそっと触れると、その静謐さを讃える目を僕に向けた。
「父上……!」
やっと祝福してもらえる。
そう思ったのに、僕はまた裏切られることになる。
「本気なのか?サディアス」
「もちろんです父上。リディこそ、僕の運命の相手です!」
「嘆かわしい」
「え?」
父は諦めと絶望を混ぜたような淀んだ目つきで僕を見据え、全てを否定するように力強くゆっくりと首を振った。
「一度だけ言おう。サディアス、一時の過ちでは済まんのだ。その娘を忘れ、フェルネと和解しろ」
「父上まで……そんな……!」
僕の腕の中でリディが嗚咽を上げる。
僕の目からも滂沱の涙が溢れて来る。
「嫌です!愛しているんです!!」
「全てを失うことになるぞ、息子よ」
「それは脅しですか?甘く見てもらっては困りますね、父上。もうあなた方の祝福など要りません。僕はリディと真実の愛を貫く!誰にも邪魔はさせない!!」
「あぁ……」
母が眩暈によってその場で崩れ落ちる。
父は僕がリディを抱きしめるのと同じように母を抱きしめて、誰よりも愛しているはずの僕を激情を込めて睨んだ。
その視線に心を引き裂かれる。
この愛は誰にも理解されないのか。
「育て方を間違えたのか、悪魔に囁かれたか……サディアス、お前はエヴァンズ伯爵家に仇をなす者と成った」
「!?」
耳を疑った。
しかし父ははっきりと続けた。
「お前を勘当する」
「父上!」
「そしてリディ。お前を追放する」
「父上!!」
信じられない。
僕をこの世から葬り去ろうというのか。
親子の愛情は何処へいってしまったのか。
「父と呼ぶことは許さん。さあ、お前の妻の為にこの地を去れ!」
「……!」
視線で助けを求めたが、母は目を逸らしじっと何かを耐えている。それは息子を失う哀しみではなく、憤りだと見て取れた。
まさか両親が愛を知らない人種とは。
僕は絶望した。
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リディの肩を抱いて立ち去ろうとしたとき、父──無情なエヴァンズ伯爵が僕らを呼び止めた。
「?」
思い直してくれた?
もしそうであったなら僕は喜んで父を許すつもりだった。
しかし父であった無情な男は老いた顔に残忍な憎しみを湛えリディに言い放った。
「罪深き娘よ。今お前は呪われた。生きて飢え乾き、苦痛にのた打ち回り、孤独に咽び泣こうとも涙すら枯れ果て、二度と安らぎは訪れない。死の眠りもお前を癒しはしない。地獄の業火は永遠の叫びを齎すだろう」
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