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6(リディ)
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「君に真実の愛を捧ぐ。リディ。結婚しよう」
貴族の令息に甘く優しく抱きしめられて、私の人生は薔薇色に様変わりした。
どんなにこき使われようと、私はあの方に愛されているのだと思い出すたびに頑張れた。
パートランド伯爵家の使用人になるのは簡単ではない。
農村生まれの私が人生をより善くする為にできることは、必死で働いて、信用を積み重ね、少しずつ主の格を上げていくくらいしかやれることはない。
そして、それができるとも限らない。
でも私は紹介状と信用状を手に入れた。
私はミルクメイドとしても役に立つが、徴税人との賄賂に長けた父の手伝いを幼い頃からやらされていたので計算ができたのだ。
最初の主は王都の錠前屋で、私の能力を買ってくれた。
そして伯爵位では最も権威を持つとされるパートランド伯爵家へ、紹介状と共に送り込んでくれた。
パートランド伯爵夫人は若い私が段階を踏み、いずれはメイド長へと上り詰めるだけの才覚があると認めてくれた。
農村生まれであり家畜の世話もこなせる私はまずミルクメイドとして配属され、野心を隠し、使用人たちと関係を築きながら順調に日々をこなしていた。
ある日、出入りの多い貴族の令息が私を見つけた。
それが主の一人娘、フェルネお嬢様の婚約者だと知ったのは熱く愛しあった後だった。
メイド長へ上り詰める道。
平民から貴族へと成り上がる道。
私はどちらにも魅力を感じたが、サディアス様の洗練された優雅な優しさと甘い愛の囁きに徐々に屈していった。
罪だと理解していた。
罪を犯さず幸せになれるような生まれではなかった。
私が奪い取ったわけじゃない。
エヴァンズ伯爵令息サディアス様が、私を選んだ。
「恐がらなくていい。君は僕が守る。この命を君に捧げると誓うよ」
「ですが……お嬢様は……」
パートランド伯爵家の権威。
王族の血が流れているという揺るぎない権威は、最後の最後まで私を悩ませた。
「君を幸せにしたい。君と生きていきたいんだ。リディ、どうか僕を信じて任せてほしい。きっとうまくいく。君は伯爵夫人になるんだ」
「サディアス様……」
暗がりで抱きしめられ、甘く囁かれながら、蕩けるようなキスをする。
そんなことが繰り返されていくうちに私は確信するようになった。
これが運命だと。
「君に真実の愛を捧ぐ。リディ。結婚しよう」
「はい……!」
サディアス様はフェルネお嬢様との婚約を解消し、私をさらった。
烈しく燃える愛の逃避行の末、私はエヴァンズ伯爵家の門を潜る。
私の未来が、愛と栄光に満ちた輝く未来への扉が、そこにあるはずだった。
しかし待ち受けていたのは予想とは真逆の、地獄への入口だった。
「愛など関係ありません!お前は王族に盾突いたのよ!?」
サディアス様に向けられたエヴァンズ伯爵夫人の言葉は稲妻のように私を貫いた。
私は自分が犯した罪の重さを見誤っていた。貴族とはいえど、一人の伯爵令息の愛で片付くような問題ではないかもしれないと、初めて考えた。
最悪、処刑される。
私は怯え、サディアス様の背中に隠れ、震えて泣いた。
「妻になるべき人はリディ只一人です!」
サディアス様は誓い通り本気で私を守ろうとしてくれる。
只の農民の娘であった、無礼な私を。
でもサディアス様の愛は、権威の前に無残に敗北する。
足元が崩れ落ち地獄の底へと真っ逆さまに落ちていくような恐怖は、私を号泣させた。サディアス様に抱きしめられようと、もう希望はないのだと思わざるを得なかった。
「サディアス、お前はエヴァンズ伯爵家に仇をなす者と成った。お前を勘当する。そしてリディ。お前を追放する」
私は断罪され、放浪者となった。
サディアス様は私を抱きかかえ、真実の愛を貫くために平民としての一歩を踏み出してしまった。
そんな私たちをエヴァンズ伯爵は呼び止めた。
エヴァンズ伯爵は私に呪いの言葉を吐いた。生きていることも許されず、死んで尚、許されることはないと。
「大丈夫だよ、リディ。二人でいれば恐いものはないさ。真実の愛はどんな苦難も乗り越えていける」
サディアス様は貴族らしい美しい笑顔で私を励ますけれど……
追放された私を守る為に放浪する旅の中で、サディアス様の肌は乾き、美しい金髪は艶を失くし無造作に伸びていき、高価な衣服や装飾品は盗賊に奪われた。
確かにあらゆる苦難、険しい道や獣からサディアス様は私を守ってくれた。
でも私は気付いていた。
ミルクメイドの方が何百倍も幸せだったということに。
今私の手を引き、笑顔で抱きしめ、甘く囁き優しいキスを繰り返す元貴族のサディアス様の碧い瞳は、まだ未来を信じ輝いている。
この人は馬鹿なのかもしれない。
ふとそんな考えが浮かんだちょうど翌朝、私たちはある村に辿り着いた。
それは殺人や窃盗、詐欺などの重罪で追放、或いは脱獄し逃げ延びてきた罪人たちによって開拓された無法地帯。
「さあ、ここで僕たちの王国を築こう!」
サディアス様は嬉しそうに笑顔を輝かせ、私を抱きしめキスをする。
「……」
殺してしまいたい。
冷たい憎しみが芽生えても、まだ、サディアス様の腕を振り解けない。
私が縋れるのはこの愚かな元貴族の男しかいないのだから。
罪に穢れた新天地。
暗黒の結婚生活が始まろうとしていた。
貴族の令息に甘く優しく抱きしめられて、私の人生は薔薇色に様変わりした。
どんなにこき使われようと、私はあの方に愛されているのだと思い出すたびに頑張れた。
パートランド伯爵家の使用人になるのは簡単ではない。
農村生まれの私が人生をより善くする為にできることは、必死で働いて、信用を積み重ね、少しずつ主の格を上げていくくらいしかやれることはない。
そして、それができるとも限らない。
でも私は紹介状と信用状を手に入れた。
私はミルクメイドとしても役に立つが、徴税人との賄賂に長けた父の手伝いを幼い頃からやらされていたので計算ができたのだ。
最初の主は王都の錠前屋で、私の能力を買ってくれた。
そして伯爵位では最も権威を持つとされるパートランド伯爵家へ、紹介状と共に送り込んでくれた。
パートランド伯爵夫人は若い私が段階を踏み、いずれはメイド長へと上り詰めるだけの才覚があると認めてくれた。
農村生まれであり家畜の世話もこなせる私はまずミルクメイドとして配属され、野心を隠し、使用人たちと関係を築きながら順調に日々をこなしていた。
ある日、出入りの多い貴族の令息が私を見つけた。
それが主の一人娘、フェルネお嬢様の婚約者だと知ったのは熱く愛しあった後だった。
メイド長へ上り詰める道。
平民から貴族へと成り上がる道。
私はどちらにも魅力を感じたが、サディアス様の洗練された優雅な優しさと甘い愛の囁きに徐々に屈していった。
罪だと理解していた。
罪を犯さず幸せになれるような生まれではなかった。
私が奪い取ったわけじゃない。
エヴァンズ伯爵令息サディアス様が、私を選んだ。
「恐がらなくていい。君は僕が守る。この命を君に捧げると誓うよ」
「ですが……お嬢様は……」
パートランド伯爵家の権威。
王族の血が流れているという揺るぎない権威は、最後の最後まで私を悩ませた。
「君を幸せにしたい。君と生きていきたいんだ。リディ、どうか僕を信じて任せてほしい。きっとうまくいく。君は伯爵夫人になるんだ」
「サディアス様……」
暗がりで抱きしめられ、甘く囁かれながら、蕩けるようなキスをする。
そんなことが繰り返されていくうちに私は確信するようになった。
これが運命だと。
「君に真実の愛を捧ぐ。リディ。結婚しよう」
「はい……!」
サディアス様はフェルネお嬢様との婚約を解消し、私をさらった。
烈しく燃える愛の逃避行の末、私はエヴァンズ伯爵家の門を潜る。
私の未来が、愛と栄光に満ちた輝く未来への扉が、そこにあるはずだった。
しかし待ち受けていたのは予想とは真逆の、地獄への入口だった。
「愛など関係ありません!お前は王族に盾突いたのよ!?」
サディアス様に向けられたエヴァンズ伯爵夫人の言葉は稲妻のように私を貫いた。
私は自分が犯した罪の重さを見誤っていた。貴族とはいえど、一人の伯爵令息の愛で片付くような問題ではないかもしれないと、初めて考えた。
最悪、処刑される。
私は怯え、サディアス様の背中に隠れ、震えて泣いた。
「妻になるべき人はリディ只一人です!」
サディアス様は誓い通り本気で私を守ろうとしてくれる。
只の農民の娘であった、無礼な私を。
でもサディアス様の愛は、権威の前に無残に敗北する。
足元が崩れ落ち地獄の底へと真っ逆さまに落ちていくような恐怖は、私を号泣させた。サディアス様に抱きしめられようと、もう希望はないのだと思わざるを得なかった。
「サディアス、お前はエヴァンズ伯爵家に仇をなす者と成った。お前を勘当する。そしてリディ。お前を追放する」
私は断罪され、放浪者となった。
サディアス様は私を抱きかかえ、真実の愛を貫くために平民としての一歩を踏み出してしまった。
そんな私たちをエヴァンズ伯爵は呼び止めた。
エヴァンズ伯爵は私に呪いの言葉を吐いた。生きていることも許されず、死んで尚、許されることはないと。
「大丈夫だよ、リディ。二人でいれば恐いものはないさ。真実の愛はどんな苦難も乗り越えていける」
サディアス様は貴族らしい美しい笑顔で私を励ますけれど……
追放された私を守る為に放浪する旅の中で、サディアス様の肌は乾き、美しい金髪は艶を失くし無造作に伸びていき、高価な衣服や装飾品は盗賊に奪われた。
確かにあらゆる苦難、険しい道や獣からサディアス様は私を守ってくれた。
でも私は気付いていた。
ミルクメイドの方が何百倍も幸せだったということに。
今私の手を引き、笑顔で抱きしめ、甘く囁き優しいキスを繰り返す元貴族のサディアス様の碧い瞳は、まだ未来を信じ輝いている。
この人は馬鹿なのかもしれない。
ふとそんな考えが浮かんだちょうど翌朝、私たちはある村に辿り着いた。
それは殺人や窃盗、詐欺などの重罪で追放、或いは脱獄し逃げ延びてきた罪人たちによって開拓された無法地帯。
「さあ、ここで僕たちの王国を築こう!」
サディアス様は嬉しそうに笑顔を輝かせ、私を抱きしめキスをする。
「……」
殺してしまいたい。
冷たい憎しみが芽生えても、まだ、サディアス様の腕を振り解けない。
私が縋れるのはこの愚かな元貴族の男しかいないのだから。
罪に穢れた新天地。
暗黒の結婚生活が始まろうとしていた。
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