真実の愛がどうなろうと関係ありません。

希猫 ゆうみ

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46(リディ)

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「全部あんたのせいよ!あんたがいなければ私はワイアットと結婚するはずだったのに!この恥知らず!メイドのくせに貴族の令息に色目使って何様よ!地獄に落ちろ!」

使用人用の一室を宛がわれた私の元へとやってきて、私に罵詈雑言を浴びせながら枕で叩くこの太った女を私は全く知らなかった。
しかし言葉の選択から貴族であることや破談が窺えた。

私は耐えた。
ヒルダに八つ当たりした時に学んだ。私は無実の罪で責められているのではなく、有罪だから責められている。弁えなければ必要以上の地獄を見ると。

メイドなのに貴族の令息に色目を使ったのは事実。
その罰は充分受けた。そう思っていたが甘かったようだ。これが生き永らえた代償なのか。

「やめろ!ママをいじめるな!やめろ!やめろ!」

ジェームズが私を守ろうと太った女に立ち向かう。
あの時、ジェームズは私を見限ったのでも裏切ったのでもなく、私がヒルダを打ったからヒルダを守ろうとしたのだ。優しい子だ。

女は私に辛く当たろうと、小さなジェームズにはその凶暴さを向けはしなかった。ジェームズの父親が誰なのかを弁えているからだろう。

「やめろぉ!!」
「のこのこ帰って来て召使に収まろうなんて図に乗るのもいい加減にしなさいよ!」
「そんなこと伯爵がお許しになりませんよ……っ」

見ず知らずの太った女があまりにも必死で言い募るので、笑って言い返してしまった。火に油を注ぐ結果になるかと思いきや、女は枕を振り回す手を止めて私を見つめた。

「え?知らないの?」

これが私とジャクリーンの出会いだった。


当初は恐ろしい看守かのようだったジャクリーンだが、互いの境遇を理解し始めるとすぐさま態度を軟化させた。私への軽蔑を和らげ、ジェームズを甲斐甲斐しく世話するようになった。

特に、村に火を放ったという一点がジャクリーンの心を動かしたようだ。

「あななたち、私より可哀相だわ」

使用人部屋にジェームズを寝起きさせるのはよくないと言ってくれたのもジャクリーンだった。

季節が廻り、私はジェームズと引き離され朝から晩まで掃除に明け暮れ、本当にメイドとして暮らしている。
ジャクリーンはジェームズの家庭教師のような役割も果たしてくれているらしいが、サディアスはそれが気に入らないらしかった。

サディアスは、私が我を忘れてヒルダを叩いたのを見てまた都合の良い幻想を抱いてしまったらしい。
私はサディアスを愛していて、命懸けで立ち向かったことになっているようだ。

だからサディアスは毎晩のように私の部屋を訪れては関係を迫った。

「愛してるよ、リディ。僕の秘密の可愛い奥さん」
「……」

この男には何を言っても無駄。
私は体を預け、時間が過ぎ去るのを待った。ずっとそうしてきたから慣れていた。
秘密の、という前提が追加されていることから、私を使用人部屋から出す気はないのだとわかっていた。

だけど、その方が気楽だった。
村での生活は楽しいこともあったものの、最悪の幕引きとなって、もう嫌な思い出でしかない。

私はお手付きのメイドでいい。
ベッドがあり、食べ物が用意され、朝から晩まで働いていれば安全なのだ。私はもうこの安全な暮らしを手放したくはなかった。

エヴァンズ伯爵家がどうなろうと、もう私には関係ない。
私は伯爵令息の私生児を産み、子どもを取り上げられて、メイドとしての日々を続けている。

それでいい。

それでいい……。
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