189 / 190
第四章 モンスターバトル編
第186話 乱入者
しおりを挟む
「さて――これで今日は終いかな」
伊達が腕を組み、そう口にすると周囲から残念そうな声が聞こえてきた。
まだ挑戦したい冒険者が多いのか、それとも純粋にこの見世物をもっと楽しみたいのか。おそらくは両方だろう。
だが賞品の魔石がなくなった以上、終わるのは仕方ないのかもしれない。
「ふざけんじゃねぇぞコラ!」
その時、怒号が俺たちの耳を打った。集まっていた人垣を掻き分け、屈強な男が三人現れる。
「こっちは勝てそうなメンツ揃えてわざわざやってきたんだ! それが終いだと? 納得できるか!」
「そう言われてもねぇ。見ての通り、この兄ちゃんたちが成功したから魔石はもう無いのさ」
「そんなの納得できるか! あんな腑抜けたぬいぐるみみたいなモンスター連れてる連中が成功だと? 絶対おかしいだろうが!」
「ワンワン!」
「スピィ!」
「マァ!」
「ゴブゥ!」
「モグゥ!」
現れた男たちの横暴さに、モンスターたちも一斉に声を上げる。
胸を張って抗議するモコたちを見て、俺の中にも怒りが込み上げた。
「みんな俺の大事な仲間で、友だちだ。お前らが何を言おうが、皆の力があったからチャレンジに成功できたんだ。勝手な憶測で馬鹿にするな!」
「あん? なんだと?」
思わず口に出てしまったが、後悔はなかった。男の一人が俺に腕を伸ばす。しかしその手は、中山が素早く掴んで止めた。
「俺の仲間になにするつもりだ? 事と次第によっちゃ黙ってないぞ」
「そうだな。俺だって同じ気持ちだ」
中山の腕から発せられる圧に、熊谷も鋭い視線を加える。一触即発の空気が漂った。
「まったく……見る目のない連中やな」
そこで声を上げたのは神奈だった。チッチッチと人差し指を振りながら割って入る。
「あんさんら、この子らを侮ってるけどな――むしろ“ちんまりさ”が勝ちを呼んだんやで」
「そんなわけあるか!」
怒鳴り散らす大男に、神奈は一歩も引かない。むしろ眼光を鋭くし、真っ直ぐに見上げた。
「うちは根拠もなく適当なことを言う阿呆が一番嫌いや。確かに主催の男は強かった。まさに伊達や。せやけどな、それでも見落とすもんはあるんよ。背が高いぶん小さなモグラの動きまでは把握しきれんかった。しかもモグは土を掘るだけやない。掘り返した土が足場を崩しやすくして、あんさんらが笑って“ぬいぐるみ”呼ばわりしたそのモンスターが、勝機を作ったんや」
言葉に周囲の観客も「なるほど」と頷く声を漏らした。そう、神奈はチャレンジ前に助言してくれていた。攻撃を一発でも当てれば勝ちというルールなら、モグならば勝ち筋を掴める――と。
「やれやれ、耳が痛いね。確かに俺も、そこはちょっと油断したかもな」
伊達も苦笑いを浮かべ、素直に認める。
「ざけんな! 口からでまかせ言いやがって! どうせ仕込みだろう! 卑怯者が!」
「――あん? てめぇら、俺がそんなくだらねぇ真似をすると本気で思ってんのか?」
その瞬間、俺の背筋をぞわりとした感覚が駆け抜けた。
伊達が放つ圧力は尋常ではなく、空気そのものが重くのしかかってくる。観客たちも息を呑み、中山や熊谷も動きを止め、顔をこわばらせていた。
「そこまで言うなら、特別にもう一回受けてやってもいい。だがそのかわり――今度は俺も反撃させてもらうぞ。それでいいな?」
低く響く声。
その言葉だけで、場の温度が数度下がったように感じられた。
「ぐっ……く、くそが! お前ら行くぞ!」
伊達の迫力に気圧されたのか、三人組は舌打ちをしながらもそそくさと退散していく。
次の瞬間、張りつめていた空気が解け、他の見物客が一斉に歓声を上げた。伊達も朗らかに笑って応じ、場は一気に和やかさを取り戻した。
それにしても――今の迫力。
やっぱり伊達は、とんでもない強さの持ち主だった。そう考えると、よくチャレンジを成功できたものだと、胸の奥が熱くなる。
伊達が腕を組み、そう口にすると周囲から残念そうな声が聞こえてきた。
まだ挑戦したい冒険者が多いのか、それとも純粋にこの見世物をもっと楽しみたいのか。おそらくは両方だろう。
だが賞品の魔石がなくなった以上、終わるのは仕方ないのかもしれない。
「ふざけんじゃねぇぞコラ!」
その時、怒号が俺たちの耳を打った。集まっていた人垣を掻き分け、屈強な男が三人現れる。
「こっちは勝てそうなメンツ揃えてわざわざやってきたんだ! それが終いだと? 納得できるか!」
「そう言われてもねぇ。見ての通り、この兄ちゃんたちが成功したから魔石はもう無いのさ」
「そんなの納得できるか! あんな腑抜けたぬいぐるみみたいなモンスター連れてる連中が成功だと? 絶対おかしいだろうが!」
「ワンワン!」
「スピィ!」
「マァ!」
「ゴブゥ!」
「モグゥ!」
現れた男たちの横暴さに、モンスターたちも一斉に声を上げる。
胸を張って抗議するモコたちを見て、俺の中にも怒りが込み上げた。
「みんな俺の大事な仲間で、友だちだ。お前らが何を言おうが、皆の力があったからチャレンジに成功できたんだ。勝手な憶測で馬鹿にするな!」
「あん? なんだと?」
思わず口に出てしまったが、後悔はなかった。男の一人が俺に腕を伸ばす。しかしその手は、中山が素早く掴んで止めた。
「俺の仲間になにするつもりだ? 事と次第によっちゃ黙ってないぞ」
「そうだな。俺だって同じ気持ちだ」
中山の腕から発せられる圧に、熊谷も鋭い視線を加える。一触即発の空気が漂った。
「まったく……見る目のない連中やな」
そこで声を上げたのは神奈だった。チッチッチと人差し指を振りながら割って入る。
「あんさんら、この子らを侮ってるけどな――むしろ“ちんまりさ”が勝ちを呼んだんやで」
「そんなわけあるか!」
怒鳴り散らす大男に、神奈は一歩も引かない。むしろ眼光を鋭くし、真っ直ぐに見上げた。
「うちは根拠もなく適当なことを言う阿呆が一番嫌いや。確かに主催の男は強かった。まさに伊達や。せやけどな、それでも見落とすもんはあるんよ。背が高いぶん小さなモグラの動きまでは把握しきれんかった。しかもモグは土を掘るだけやない。掘り返した土が足場を崩しやすくして、あんさんらが笑って“ぬいぐるみ”呼ばわりしたそのモンスターが、勝機を作ったんや」
言葉に周囲の観客も「なるほど」と頷く声を漏らした。そう、神奈はチャレンジ前に助言してくれていた。攻撃を一発でも当てれば勝ちというルールなら、モグならば勝ち筋を掴める――と。
「やれやれ、耳が痛いね。確かに俺も、そこはちょっと油断したかもな」
伊達も苦笑いを浮かべ、素直に認める。
「ざけんな! 口からでまかせ言いやがって! どうせ仕込みだろう! 卑怯者が!」
「――あん? てめぇら、俺がそんなくだらねぇ真似をすると本気で思ってんのか?」
その瞬間、俺の背筋をぞわりとした感覚が駆け抜けた。
伊達が放つ圧力は尋常ではなく、空気そのものが重くのしかかってくる。観客たちも息を呑み、中山や熊谷も動きを止め、顔をこわばらせていた。
「そこまで言うなら、特別にもう一回受けてやってもいい。だがそのかわり――今度は俺も反撃させてもらうぞ。それでいいな?」
低く響く声。
その言葉だけで、場の温度が数度下がったように感じられた。
「ぐっ……く、くそが! お前ら行くぞ!」
伊達の迫力に気圧されたのか、三人組は舌打ちをしながらもそそくさと退散していく。
次の瞬間、張りつめていた空気が解け、他の見物客が一斉に歓声を上げた。伊達も朗らかに笑って応じ、場は一気に和やかさを取り戻した。
それにしても――今の迫力。
やっぱり伊達は、とんでもない強さの持ち主だった。そう考えると、よくチャレンジを成功できたものだと、胸の奥が熱くなる。
46
あなたにおすすめの小説
おばさん冒険者、職場復帰する
神田柊子
ファンタジー
アリス(43)は『完全防御の魔女』と呼ばれたA級冒険者。
子育て(子どもの修行)のために母子ふたりで旅をしていたけれど、子どもが父親の元で暮らすことになった。
ひとりになったアリスは、拠点にしていた街に五年ぶりに帰ってくる。
さっそくギルドに顔を出すと昔馴染みのギルドマスターから、ギルド職員のリーナを弟子にしてほしいと頼まれる……。
生活力は低め、戦闘力は高めなアリスおばさんの冒険譚。
-----
剣と魔法の西洋風異世界。転移・転生なし。三人称。
一話ごとで一区切りの、連作短編(の予定)。
-----
※小説家になろう様にも掲載中。
『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』
チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。
その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。
「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」
そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!?
のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
転生先の説明書を見るとどうやら俺はモブキャラらしい
夢見望
ファンタジー
レインは、前世で子供を助けるために車の前に飛び出し、そのまま死んでしまう。神様に転生しなくてはならないことを言われ、せめて転生先の世界の事を教えて欲しいと願うが何も説明を受けずに転生されてしまう。転生してから数年後に、神様から手紙が届いておりその中身には1冊の説明書が入っていた。
追放された薬師でしたが、特に気にもしていません
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。
まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。
だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥
たまにやりたくなる短編。
ちょっと連載作品
「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。
ゲームちっくな異世界でゆるふわ箱庭スローライフを満喫します 〜私の作るアイテムはぜーんぶ特別らしいけどなんで?〜
ことりとりとん
ファンタジー
ゲームっぽいシステム満載の異世界に突然呼ばれたので、のんびり生産ライフを送るつもりが……
この世界の文明レベル、低すぎじゃない!?
私はそんなに凄い人じゃないんですけど!
スキルに頼りすぎて上手くいってない世界で、いつの間にか英雄扱いされてますが、気にせず自分のペースで生きようと思います!
巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**
小さなフェンリルと私の冒険時間 〜ぬくもりに包まれた毎日のはじまり〜
ちょこの
ファンタジー
もふもふな相棒「ヴァイス」と一緒に、今日もダンジョン生活♪
高校生の優衣は、ダンジョンに挑むけど、頼れるのはふわふわの相棒だけ。
ゆるふわ魔法あり、ドキドキのバトルあり、モフモフ癒しタイムも満載!
ほんわか&ワクワクな日常と冒険が交差する、新感覚ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる