没落令嬢の子育て記。12世紀ドイツに似た異世界で、拾った子犬がイケメン精霊犬になりまして

ねこまんまる

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15 反抗期チェック

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アカは部屋の中央にあるのそばにすわったまま、火が消えないように、炭を棒で手前へかき寄せていた。
炉で燃えている火の管理は、子どもでも覚える大事な家事だ。

「火を絶やすと寒いし、煙で乾かす食べ物もだめになるからな。だから、俺が火を見ていたんだよ」

ああ……この子は、まだ反抗期じゃなさそう。
私はそう確信しながらも、聞いてみる。

「アカ。一緒に買い物に行かない?」

反抗期なら『めんどくさい』と言われてもおかしくない。

アカは、ほんの一瞬だけ目をぱちぱちさせ――

「ああ。行く」

と、あっさりうなずいた。

あれ? 素直……。
やっぱり、これはまだ反抗期じゃないのかな。

アカは寝癖を手ぐしで整え、羊毛のチュニックに革帯を締めると、意気込みすぎない程度の足取りでついてきた。

 
この村では冬のあいだ、食料や道具は定期市か、巡回する行商人から買うのが普通だ。
今日は、ちょうど週に一度の小さな市が、村はずれの共有地で開かれる日だった。

外はまだ朝靄が残り、雪解け水が凍りついた地面が白く光っていた。
 
アカは私の手を引きながら、村の中心へ歩いていく。
 
村の中央には、石造りの小さな礼拝堂と共同井戸がある。
そのまわりを囲むように、粗い木造の家々が円を描いて建っていた。
市(いち)は村の外れ、放牧地に近い平らな場所に立つ。
頑丈な建物はなく、木で組んだ簡単な枠に布をかけただけの仮設の市だった。

売り手は、近隣の村から来た農民や、修道院に属する小商人たちだ。
常設の店は存在せず、村人は必要なときに必要なだけ物を交換する。

羊毛の外套を着た男が、丸太を削った簡易台に黒パン(※ライ麦パン)を並べていた。
黒パンは湿気で固く、刃物で切らなければ割れないほどカチカチになるけれど、冬には貴重な主食だ。

その隣では、別の農家の娘が、干しリンゴやくるみを布袋に入れて売っている。
12世紀のこの辺境では果物は貴重で、秋に収穫したものを乾燥させて冬まで保たせるのが普通だった。

さらに奥では、修道院の使いらしい青年が、蜂蜜、ラード、粗布、麻縄、灯心草などを並べている。

アカは、物珍しそうにひとつひとつをのぞき込んだ。

「アーデルさん、これ見てみろよ。蜂蜜だってさ。ハイン爺んとこでもらった、あのすっげえ甘いやつだよな?」

「そうね。でもこれは高いから、今日は買えないかな」

「だよなあ……でも、見るだけでも楽しいぜ」

ふだんはぶっきらぼうなアカが、嬉しそうに笑う。
こういう反応を見ると……まだ全然、反抗期じゃない子の顔だなあ。

私は、棚にならべてある白っぽくて細い植物の束を見た。
これは灯心草とうしんそうというイグサ科の植物で、中世ヨーロッパでは貧しい村人や農民が簡易ランプの材料に使っていた。

私は足を止め、店主の青年に問いかけた。

「それは、灯心草ね?」

「ええ。沼地で採れたイグサの芯だよ。
よく乾かしてある。獣脂や油を吸わせりゃ、火は安定するよ」

青年は1本つまみ上げ、指で軽くしならせてみせた。
中は柔らかく、乾いた音も立てない。

「ランプ用にどうぞ。冬は夜が長いからね。これが役に立つ」

そう言って彼は束をほどき、長さをそろえ直す。
灯心草はロウソクよりずっと安く、村では欠かせない品だった。
私は、問いかけてみた。

「いくら?」

「この束で、1フェニヒ銅貨が2枚」

シレジアでは皇帝領と修道院領が入り組んでおり、貨幣流通は不安定だったけど、物々交換(卵・干し肉・皮)のほかに、硬貨も使われていた。

私は小袋から銅貨を取り出し、青年に渡す。
青年は数を確かめ、布で包んでくれた。

「湿らせないようにね。使う分だけ、油に浸すんだ」

教えるようにそう言われ、私はうなずいた。
包みを受け取ろうとしたら、アカが「俺が持つ」と先に受け取る。

「ありがとう」と私が笑うと、照れた様子を見せた。

それから私は市場をあるき、乾燥野菜や、黒パンなどを購入していく。

パンの売り手である農夫は、

「おう、アーデル嬢ちゃんのとこの子か。よく食べるんだろう? 今日は少し多めに入れとくよ」

と言いながら、品物をいれた布袋を手渡してくれた。

アカは荷物をすべて持ちながら、私にむけて遠慮がちに問いかけてくる。

「なあ。俺、また一緒に来てもいいか?」

「もちろん。でも、嫌じゃないの?」

「ぜんぜん。むしろ楽しい」

素直すぎる返事に、私は少しだけ安堵しつつ、アカはまだまだ甘えたい年頃だな……と思いながら手をひかれて帰宅した。
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