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20 鍛治屋
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翌日。
昨日の騒動で四人に心配をかけてしまったのが、胸のどこかでずっと重くひっかかっていた。
せめてものお礼にと、私は汗ふき用の麻布(リネン)を数枚、村の行商人から買い求めることにした。
村の外れ、共同井戸のそばには、月に数度だけ商売に来る行商人が荷車を止めている。
冬の行商は命がけだ。
雪に車輪をとられれば動けなくなり、野盗に遭えば荷ごと財産を失う。
だから彼らは、毛皮の外套を着こみ、荷は最小限、夜明けとともに村を巡ってすぐに次の集落へ向かう。
「おや、アーデル嬢。今日は何をお探しで?」
行商人の男は、霜で白くなったヒゲをこすりながら笑った。
荷車には、修道院の織物技術で作られた麻布、ハチミツ、鉄の留め具、乾燥したハーブの束などが並んでいる。
「汗ふき用の布がほしくて……丈夫なものを、四枚ください」
「なら、この麻布が良いですよ。ライン川流域で作られた上質な麻が使われているんです。
東の修道院で織られた品でしてね。糸がしっかりしてる。汗もよく吸います」
商人は、束の中から黄味がかった麻布を取り出して見せた。
手で触れると、ひやりとしていて、繊維はやや粗いが丈夫そうだ。
亜麻から作るリネンの布は、中世ヨーロッパでは、肌着やタオル代わりの布など生活必需品の定番素材だった。
とくに、亜麻の栽培に適した気候であるライン川では、いいリネンが作られるという。
「これを四枚、お願いします。いくらですか?」
「デナール銀貨二枚でどうです? 雪道を越えて仕入れたばかりでね……まあ、常連のあんたには少し負けときますよ」
「助かります」
私は小袋から銀貨を取りだして渡した。
当時の物価は地域差があるけれど、1デナールは現代で言うと300~400円程度。
1デナールで買えるものは、粗い黒パンが1~2個、ニワトリの卵4~6個、牛乳1瓶(0.5L程度)だ。
商人は器用に指先で銀貨の重さを確かめると、満足げにうなずいた。
「ほんと、あんたは働き者だ。あの四人の坊主どもも運がいいねぇ。親がしっかり者だと、冬は越しやすい」
「ふふ。ありがとうございます」
◇
麻布を抱えて村道を歩くと、冷たい風が頬を刺した。
けれど胸の奥は不思議と温かかった。
四人は今、お金を得るために鍛冶場の手伝いに行っている。
この村には、小規模ながらも鍛冶場がひとつあった。
開拓村とはいえ、鍬や鎌、馬具や農具の修理ができなければ生活が不便になってしまう。
鍛冶場は、冬でも30~40℃はあるから、とても暑い。
炉の火は一度つけると弱めることができず、職人は汗だくで仕事をする。
とくに見習いとして働く四人は、火のそばで道具を運び、炉をあおぎ、重い木炭を運び、汗を流すことが多い。
だからこそ、汗をぬぐう布はきっと彼らへの立派なごほうびになるはず。
指先で麻布の束を抱きしめながら、私はそう思った。
麻布を抱えて鍛冶場へ向かうと、村の外れにあるその建物から、鉄を打つ重い音が規則的に響いてきた。
カン! カン!
その音は、農村にとって安心の音でもあった。
鍬、鋤、鎌、蹄鉄――どれも農村の暮らしに欠かせない。
鍛冶屋が動いているということは、村の一年が回っているということなのだ。
村の鍛冶場は、木材と土壁で作られた簡素な建物で、中央には石を積み上げた鍛冶炉、側には大きなふいご、金床、焼入れ用の水桶などがある。
12世紀の農村にしては、立派な設備だった。
外壁には煤が黒くこびりつき、屋根の隙間からは白い煙がゆるく立ちのぼっている。
中へ入ると、熱気が肌にまとわりついた。
土間の中央には、石組みの鍛冶炉がどっしりと構え、炉床では木炭が橙色に燃えている。
昨日の騒動で四人に心配をかけてしまったのが、胸のどこかでずっと重くひっかかっていた。
せめてものお礼にと、私は汗ふき用の麻布(リネン)を数枚、村の行商人から買い求めることにした。
村の外れ、共同井戸のそばには、月に数度だけ商売に来る行商人が荷車を止めている。
冬の行商は命がけだ。
雪に車輪をとられれば動けなくなり、野盗に遭えば荷ごと財産を失う。
だから彼らは、毛皮の外套を着こみ、荷は最小限、夜明けとともに村を巡ってすぐに次の集落へ向かう。
「おや、アーデル嬢。今日は何をお探しで?」
行商人の男は、霜で白くなったヒゲをこすりながら笑った。
荷車には、修道院の織物技術で作られた麻布、ハチミツ、鉄の留め具、乾燥したハーブの束などが並んでいる。
「汗ふき用の布がほしくて……丈夫なものを、四枚ください」
「なら、この麻布が良いですよ。ライン川流域で作られた上質な麻が使われているんです。
東の修道院で織られた品でしてね。糸がしっかりしてる。汗もよく吸います」
商人は、束の中から黄味がかった麻布を取り出して見せた。
手で触れると、ひやりとしていて、繊維はやや粗いが丈夫そうだ。
亜麻から作るリネンの布は、中世ヨーロッパでは、肌着やタオル代わりの布など生活必需品の定番素材だった。
とくに、亜麻の栽培に適した気候であるライン川では、いいリネンが作られるという。
「これを四枚、お願いします。いくらですか?」
「デナール銀貨二枚でどうです? 雪道を越えて仕入れたばかりでね……まあ、常連のあんたには少し負けときますよ」
「助かります」
私は小袋から銀貨を取りだして渡した。
当時の物価は地域差があるけれど、1デナールは現代で言うと300~400円程度。
1デナールで買えるものは、粗い黒パンが1~2個、ニワトリの卵4~6個、牛乳1瓶(0.5L程度)だ。
商人は器用に指先で銀貨の重さを確かめると、満足げにうなずいた。
「ほんと、あんたは働き者だ。あの四人の坊主どもも運がいいねぇ。親がしっかり者だと、冬は越しやすい」
「ふふ。ありがとうございます」
◇
麻布を抱えて村道を歩くと、冷たい風が頬を刺した。
けれど胸の奥は不思議と温かかった。
四人は今、お金を得るために鍛冶場の手伝いに行っている。
この村には、小規模ながらも鍛冶場がひとつあった。
開拓村とはいえ、鍬や鎌、馬具や農具の修理ができなければ生活が不便になってしまう。
鍛冶場は、冬でも30~40℃はあるから、とても暑い。
炉の火は一度つけると弱めることができず、職人は汗だくで仕事をする。
とくに見習いとして働く四人は、火のそばで道具を運び、炉をあおぎ、重い木炭を運び、汗を流すことが多い。
だからこそ、汗をぬぐう布はきっと彼らへの立派なごほうびになるはず。
指先で麻布の束を抱きしめながら、私はそう思った。
麻布を抱えて鍛冶場へ向かうと、村の外れにあるその建物から、鉄を打つ重い音が規則的に響いてきた。
カン! カン!
その音は、農村にとって安心の音でもあった。
鍬、鋤、鎌、蹄鉄――どれも農村の暮らしに欠かせない。
鍛冶屋が動いているということは、村の一年が回っているということなのだ。
村の鍛冶場は、木材と土壁で作られた簡素な建物で、中央には石を積み上げた鍛冶炉、側には大きなふいご、金床、焼入れ用の水桶などがある。
12世紀の農村にしては、立派な設備だった。
外壁には煤が黒くこびりつき、屋根の隙間からは白い煙がゆるく立ちのぼっている。
中へ入ると、熱気が肌にまとわりついた。
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