没落令嬢の子育て記。12世紀ドイツに似た異世界で、拾った子犬がイケメン精霊犬になりまして

ねこまんまる

文字の大きさ
23 / 26

23 それぞれの武器

しおりを挟む
アカは金床かなとこ(※鉄を打つための台)のそばに立ち、真面目な顔に戻って言う。

「俺の剣ができるのは、十日か二十日だろうな。
焼き入れに焼き戻し、研ぎ、柄の革巻き……まだまだ作業工程は多いんだ。
短縮はできねえからな」

彼の言葉どおり、台に横たわる鉄塊はまだあらく、かすかに煙を吐いている。
 
刀身はすでに長剣ほどの長さを持っているが、幅は厚く、槌跡が幾重にも刻まれていた。
剣というよりは、これから形を成す粗い塊だ。

12世紀の辺境の鍛冶場では、鉄は塊鉄の状態で届くことが多い。
 
村の鍛冶師はそれを鍛錬し、炭素量を調整しながら武具へと仕上げていく。
アカが作っているのはまさにその途中段階で、鍛錬回数を重ねながら余計な不純物を飛ばし、刃物鋼へ近づけている最中だ。

そのとき、コハクが胸を張って宣言した。

「僕はね、魔法銃を作ってるの!」

私は思わず耳をうたがった。

12世紀の、この時代に銃?

ヨーロッパに火薬が伝わるのは13世紀中ごろ。
最初の実戦使用(小型火砲)は14世紀初頭。
携帯式の「手銃」が一般化するのは15世紀のはずだ。

「魔法銃って、なに?」

「筒を使って魔力を飛ばす魔法兵器なんだよ!」

どうやら、実弾を飛ばす火薬兵器そのものではないらしい。

火薬を使わず、魔力で衝撃波を生成する――12世紀の技術では到底ありえないが、魔法という要素がそれを可能にしているのだろう。

アオが、ひかえめに手をあげた。

「僕は弓を作ってる」

弓材には、しなりの良い“イチイ”が最上とされるが、辺境では入手が難しい。
アオが使っているのは、村周辺でよく採れる“ニレ”か“カシ”の若木だ。
 
木の年輪の向きを見極め、ゆっくり乾燥させてから、背に麻ひもを貼り、弦には羊の腱を細く伸ばして使う。
中世ヨーロッパの弓作りとしては、ごく自然な工程だった。

ギンは、静かに杖を抱えていた。

「僕は魔法をきわめるつもりだから、杖を作ってる」

ギンの杖は、アオの弓材とは違い、まっすぐ育った“ハンノキ”で作られている。
湿地を好む木で、加工すると軽くて丈夫だ。
 
杖頭には、小石のように見える透明な“魔石”を嵌めるためのくぼみが彫られていた。

中世の職人が見れば不可思議な工芸品だが、魔法をあつかう者にとっては、魔力を安定させる小型の大切な道具なのだ。

コハク、アカ、アオ、ギン。
彼らはそれぞれが真剣に、そしてほこらしげな表情で、自分の“武器作り”を語っていた。

その姿はどこか職人のようで、そんな彼らを見ていると、私の胸にほっこりとした温かいものが広がる。


 
翌日の、昼のことだった。
 
自宅にひとりでいた私は、水の魔法を使い、生活用の水を出そうとしていた。

まず土間のすみに置いてある大きな木桶きおけに、魔法で出した水を入れていく。
飲み水用の水は、口のせまい陶のつぼへ。
ホコリが入らないよう、上には木の蓋と亜麻布をかけた。

水は、その日の分を必要なだけ家に置く。
食事にはこの水でかゆき、夕方には残りを家畜と洗い物に使うのだ。

それは、いつもの家事のはずだった。

が、制御をあやまった瞬間――
頭の上から、まるで井戸をひっくり返したような冷たい水が降りそそいだ。

「わっ!」
 
冬のシレジアの水は刺すように冷たく、ぬれた布の重さが一気に身体に貼りつく。
焚き火もない室内で濡れたままでは、風邪どころか肺炎にもなりかねない。

着替えがないため、やむなく息子たちのチュニックを借りることにした。

12世紀ヨーロッパの男性用チュニックは構造がゆったりしていて、女性が「ワンピースのように」着ることも十分可能なのだ。
 
シレジア地方を含む当時の中欧世界では、男女ともチュニック型の上衣が基本だったので、違和感はほとんどない。

手にとったのがアカの服だった。
チュニックだ。
古代から中世ヨーロッパまで広く使われていた、ゆったりした長めの上衣(うわぎ)である。

時代や地域で少しずつ形がちがうけど、この地域のチュニックは、Tシャツより長くて、ワンピースみたいにゆったりしている。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界転移したら騎士団長と相思相愛になりました〜私の恋を父と兄が邪魔してくる〜

伽羅
恋愛
愛莉鈴(アリス)は幼馴染の健斗に片想いをしている。 ある朝、通学中の事故で道が塞がれた。 健斗はサボる口実が出来たと言って愛莉鈴を先に行かせる。 事故車で塞がれた道を電柱と塀の隙間から抜けようとすると妙な違和感が…。 気付いたら、まったく別の世界に佇んでいた。 そんな愛莉鈴を救ってくれた騎士団長を徐々に好きになっていくが、彼には想い人がいた。 やがて愛莉鈴には重大な秘密が判明して…。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

【完結】ここって天国?いいえBLの世界に転生しました

三園 七詩
恋愛
麻衣子はBL大好きの腐りかけのオタク、ある日道路を渡っていた綺麗な猫が車に引かれそうになっているのを助けるために命を落とした。 助けたその猫はなんと神様で麻衣子を望む異世界へと転生してくれると言う…チートでも溺愛でも悪役令嬢でも望むままに…しかし麻衣子にはどれもピンと来ない…どうせならBLの世界でじっくりと生でそれを拝みたい… 神様はそんな麻衣子の願いを叶えてBLの世界へと転生させてくれた! しかもその世界は生前、麻衣子が買ったばかりのゲームの世界にそっくりだった! 攻略対象の兄と弟を持ち、王子の婚約者のマリーとして生まれ変わった。 ゲームの世界なら王子と兄、弟やヒロイン(男)がイチャイチャするはずなのになんかおかしい… 知らず知らずのうちに攻略対象達を虜にしていくマリーだがこの世界はBLと疑わないマリーはそんな思いは露知らず… 注)BLとありますが、BL展開はほぼありません。

悪役令嬢だけど、私としては推しが見れたら十分なんですが?

榎夜
恋愛
私は『花の王子様』という乙女ゲームに転生した しかも、悪役令嬢に。 いや、私の推しってさ、隠しキャラなのよね。 だから勝手にイチャついてて欲しいんだけど...... ※題名変えました。なんか話と合ってないよねってずっと思ってて

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。

石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。 ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。 そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。 真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。

強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します

天宮有
恋愛
 私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。  その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。  シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。  その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。  それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。  私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。

ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~

浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。 「これってゲームの強制力?!」 周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。 ※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。

処理中です...