没落令嬢の子育て記。12世紀ドイツに似た異世界で、拾った子犬がイケメン精霊犬になりまして

ねこまんまる

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24 チュニック

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アカのチュニックにそでを通した瞬間、思っていた以上に大きかった。

中世の男性用チュニックは、布地を節約するために直線裁ちょくせんたち(※四角い布をつなぐ方式)で作られている。
肩幅や胸囲が大きい男の子の服は、とくにそでがゆったりしており、私の腕はすっぽりと簡単につつみこまれてしまった。

「……大きい」

思わずつぶやく。

肩の位置が合わず、本来の縫い目より指二本ぶん下がった場所に“肩”があたる。
そのせいで袖が垂れ、手首どころか指先まで隠れてしまった。

すそも、アカが動きやすいように深めのサイドスリットが入っているのに、私が着ると腰のくびれがなく、まるで布がすとんと落ちる“筒”の中に体がおさまったような形になってしまう。

「まあ、いいか」

そでをまくったとき、自分の腕に赤く腫れあがった傷があることに気づいた。
魔法の失敗で床に倒れた際、どこかで擦ったらしい。

「治療しないと……」
 
この時代には、抗生物質も消毒液もない。
けれど、傷を清潔に保たなければ命に関わる。

中世の人々は、衛生概念は薄い。
でも私は、現代の知識で知っている。
血や膿を放置すれば、破傷風や敗血症になる危険があることを。

腕の傷をかばいつつ、棚を探る。

棚にはすすけた瓶、土でできた壺、乾いた草が詰められた布袋が並んでいた。
ひとつを手に取って埃を払うと、甘い草の香りが立つ。
カモミールだ。

その隣に、黒っぽい根を砕いた乾燥薬草――コンフリー。

中世では医薬品がほぼ存在しないため、薬草は生活必需品だった。
ただし、誰でも・何でも簡単に手に入るというわけじゃない。
身近で手に入りやすいものもあれば、薬種商(くすり屋)から買うこともある。

ちょうどそのとき――
戸口が勢いよく開き、四人が雪まみれで帰ってきた。

「「「……え? アーデルさん、なんでアカの服着てんの!?」」」
 
アカ以外の三人が、いっせいに騒ぎだすが。

コハクがほっぺをふくらませ、ギンは信じられないといった表情で、アオは首をかしげている。
アカだけが固まったまま、みるみる耳まで赤くした。

私が「ごめんなさい。魔法に失敗して……服が濡れてしまったから、かりたのよ」と理由を話すと、アカはぶんぶんと首を振った。

「べ、べつにかまわねえ! 洗って返してくれりゃ、それでいいんだよ!」

その瞬間、ギンが「あっ」と声を上げた。

「ちょっと待って、アーデルさん! 腕! それ、ケガしてるじゃないか!」

すると、四人がいっせいに駆け寄る。
アオが歯を食いしばった。

「なんですぐに言わなかったんだ」

「そうだよ、ほっといたら傷はむんだよ!」とコハク。
中世には現代のような細菌説はまだないけれど、ものごとの理解が現代とはちがうというだけ。
『傷は膿むことがある』『膿むのは危険だ』という経験的な知識をはっきり持っていた。

アカまで真剣な顔で、「すぐ治療するぞ!」と私の手首を持つ。

そのとき、アオが手のひら大の重たい壺を出した。

「ちょうどよかったよ。これ、さっき手に入れてきたから!」

蓋を開けると、濃密な甘さと蜜蝋の香りが広がる。

「ハチミツ……!?
こんな高価なもの、どうやって……!」

12世紀のハチミツは、ぜいたく品だ。
民間療法では殺菌作用があり、組織の回復をうながすことが知られ、修道士の薬草書にも記されていた。

アオは、ハチミツの壺をあけながら説明した。

「ぼくら、今日は領主の屋敷で家事の手伝いしたから、そのお礼に養蜂箱のハチミツちょっと分けてもらったんだよ」

砂糖が高価・希少な時代なため、ハチミツは現物報酬に向いていて、銀貨の代わりに提供されることはある。

ギンが、炉に薪をくべて湯を沸かしはじめた。
薬草のカモミールとコンフリーを細かく砕き、木杓子で煮て柔らかい薬粥のようにった。

古い麻布を細く裂き、温めた薬草を薄くのせる。

「はい、アーデルさん。薬ができたから、あったかいうちに傷口に当てるよ」
 
アオは、ハチミツを小さなさじですくって、傷口に薄くぬった。
そのあとで傷薬をつけると、布で巻いてくれる。
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