8 / 13
8
しおりを挟む
王子の離宮は、宮廷の北側にあった。
白い石造りの建物で、薔薇の庭に囲まれている。
赤、白、ピンクの薔薇が咲き誇り、甘い香りが漂っていた。
「ここで療養しろ。すぐに治療の準備をする」
「治療、ですか?」
「疫病だ。貴女の力が必要だ」
アルヴィン王子は、わたしの目をまっすぐ見つめた。
部屋に案内され、わたしは初めて鏡で自分を見た。
銀の縁取りがされた大きな鏡に、見知らぬ女性が映っている。
顔色が良くなっている。
目に、生気が宿っている。頬には血の気が戻り、唇も赤みを帯びていた。
これが、本当のわたし。
翌朝、アルヴィン王子が部屋を訪れた。
扉を三回ノックする音が響き、侍女が扉を開けた。
「準備はいいか」
「はい」
わたしは白い治癒師のローブを身につけた。
新しい服は、まだ糊がきいていた。
王子の護衛に守られ、わたしたちは疫病患者が収容されている施設に向かった。
馬車が石畳の上を走り、車輪の音が規則正しく響く。
大きな建物の中に、何十ものベッドが並んでいる。そこには、苦しむ人々が横たわっていた。咳の音、うめき声、荒い息遣いが、施設全体に満ちている。
「この方々を......」
「貴女にしかできない」
アルヴィン王子の声が、背中を押した。
わたしは最初のベッドに近づいた。白いシーツが汗で湿っている。
若い女性が、激しく咳き込んでいる。痩せた体が、咳のたびに跳ね上がる。
手を伸ばし、額に触れた。灼熱の熱が、手のひらに伝わる。
どうすればいいのか、わからない。でも、体が自然に動いた。
心の中で、願った。
この人を、助けたい。
手のひらが温かくなった。そして、光が溢れた。
金色の光が女性の体を包み、額の熱が引いていく。咳が収まり、呼吸が整う。荒かった息が、穏やかになっていく。
「あ、ありが、とう......」
女性が微笑んだ。乾いた唇が、かすかに動く。
わたしは次のベッドへ、そしてその次へと向かった。一歩、また一歩と、ベッドの間を歩く。
一人、また一人と、患者たちが回復していく。
涙が止まらなかった。頬を伝う涙を拭う暇もなく、次の患者へと向かう。
これだ。これが、わたしが本当にやりたかったこと。
人々を救うこと。
白い石造りの建物で、薔薇の庭に囲まれている。
赤、白、ピンクの薔薇が咲き誇り、甘い香りが漂っていた。
「ここで療養しろ。すぐに治療の準備をする」
「治療、ですか?」
「疫病だ。貴女の力が必要だ」
アルヴィン王子は、わたしの目をまっすぐ見つめた。
部屋に案内され、わたしは初めて鏡で自分を見た。
銀の縁取りがされた大きな鏡に、見知らぬ女性が映っている。
顔色が良くなっている。
目に、生気が宿っている。頬には血の気が戻り、唇も赤みを帯びていた。
これが、本当のわたし。
翌朝、アルヴィン王子が部屋を訪れた。
扉を三回ノックする音が響き、侍女が扉を開けた。
「準備はいいか」
「はい」
わたしは白い治癒師のローブを身につけた。
新しい服は、まだ糊がきいていた。
王子の護衛に守られ、わたしたちは疫病患者が収容されている施設に向かった。
馬車が石畳の上を走り、車輪の音が規則正しく響く。
大きな建物の中に、何十ものベッドが並んでいる。そこには、苦しむ人々が横たわっていた。咳の音、うめき声、荒い息遣いが、施設全体に満ちている。
「この方々を......」
「貴女にしかできない」
アルヴィン王子の声が、背中を押した。
わたしは最初のベッドに近づいた。白いシーツが汗で湿っている。
若い女性が、激しく咳き込んでいる。痩せた体が、咳のたびに跳ね上がる。
手を伸ばし、額に触れた。灼熱の熱が、手のひらに伝わる。
どうすればいいのか、わからない。でも、体が自然に動いた。
心の中で、願った。
この人を、助けたい。
手のひらが温かくなった。そして、光が溢れた。
金色の光が女性の体を包み、額の熱が引いていく。咳が収まり、呼吸が整う。荒かった息が、穏やかになっていく。
「あ、ありが、とう......」
女性が微笑んだ。乾いた唇が、かすかに動く。
わたしは次のベッドへ、そしてその次へと向かった。一歩、また一歩と、ベッドの間を歩く。
一人、また一人と、患者たちが回復していく。
涙が止まらなかった。頬を伝う涙を拭う暇もなく、次の患者へと向かう。
これだ。これが、わたしが本当にやりたかったこと。
人々を救うこと。
30
あなたにおすすめの小説
【完結】姉を追い出して当主になった悪女ですが、何か?
堀多 ボルダ
恋愛
「お姉様、このマクレディ伯爵家は私が後を継ぎます。お姉様は邪魔なので今すぐこの家から出ていってください」
両親の急逝後、伯爵家を切り盛りしていた姉を強引に追い出して妹ダリアは当主となった。しかし、それが原因で社交界からは稀代の悪女として嫌われるようになった。
そんな彼女の元を訪ねたのは、婿に来てほしい男ナンバーワンと噂される、社交界で人気の高い幼馴染だった……。
◆架空の世界にある架空の国が舞台の架空のお話です。
◆カクヨムにも掲載しています。
「お姉さまみたいな地味な人を愛する殿方なんてこの世にいなくってよ!」それが妹の口癖でした、が……
四季
恋愛
「お姉さまみたいな地味な人を愛する殿方なんてこの世にいなくってよ!」
それが妹の口癖でした。
聖女だけど婚約破棄されたので、「ざまぁリスト」片手に隣国へ行きます
もちもちのごはん
恋愛
セレフィア王国の伯爵令嬢クラリスは、王太子との婚約を突然破棄され、社交界の嘲笑の的に。だが彼女は静かに微笑む――「ざまぁリスト、更新完了」。実は聖女の血を引くクラリスは、隣国の第二王子ユリウスに見出され、溺愛と共に新たな人生を歩み始める。
【完結】婚約破棄された令嬢リリアナのお菓子革命
猫燕
恋愛
アルテア王国の貴族令嬢リリアナ・フォン・エルザートは、第二王子カルディスとの婚約を舞踏会で一方的に破棄され、「魔力がない無能」と嘲笑される屈辱を味わう。絶望の中、彼女は幼い頃の思い出を頼りにスイーツ作りに逃避し、「癒しのレモンタルト」を完成させる。不思議なことに、そのタルトは食べた者を癒し、心を軽くする力を持っていた。リリアナは小さな領地で「菓子工房リリー」を開き、「勇気のチョコレートケーキ」や「希望のストロベリームース」を通じて領民を笑顔にしていく。
私から色々と奪う妹。男を見る目がなさすぎて私に素敵な男性を押し付けて私が超絶幸せに。妹は不幸に…。
つちのこうや
恋愛
わがままでなんでも私から奪う妹が嫌だと言って押し付けて、私と政略結婚することになった男性がめちゃくちゃいい人だった。性格の悪い妹とは合わなかったみたいだけど。
聖女様の生き残り術
ありがとうございました。さようなら
恋愛
「お前なんか生まれてこなければ良かった」
母親に罵倒されたショックで、アイオラに前世の記憶が蘇った。
「愛され聖女の物語」という物語の悪役聖女アイオラに生まれて変わったことに気がつく。
アイオラは、物語の中で悪事の限りを尽くし、死刑される寸前にまで追い込まれるが、家族の嘆願によって死刑は免れる。
しかし、ヒロインに執着する黒幕によって殺害されるという役どころだった。
このままだったら確実に殺されてしまう!
幸い。アイオラが聖女になってから、ヒロインが現れるまでには時間があった。
アイオラは、未来のヒロインの功績を奪い生き残るために奮闘する。
【完結】私を無知だと笑った妹は正真正銘のバカでした(姉はため息を吐くだけです)
花波薫歩
恋愛
ブリジットの妹メリザンドは、お金欲しさにペラ新聞に貴族の暴露話を書いている。そのことは家族の誰も知らなかった。もちろんブリジットも。
その記事を読んだブリジットは眉をひそめた。人の小さなミスをあげつらい、鬼の首を取ったかのように偉そうに見下す記事には品性のかけらもなかった。
人を見下して笑うのはそんなに楽しい?
自分がされたらどんな気持ちになる?
ブリジットの幼馴染みで婚約者でもあるクロードは現在辺境伯の地位にある。ふざけて彼を「田舎貴族」と呼んだブリジットの言葉を真に受けて、メリザンドは姉をディスる話を新聞に書く。やがてそれを書いたのがメリザンドだと父にバレてしまい……。
短編。全12回。
間違って舞踏会に一番乗りしてしまったシンデレラ
矢野りと
恋愛
リリミア・ムーアは正真正銘の子爵令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、数年後には大好きだった父も不慮の事故で呆気なくこの世を去ってしまう。
可哀想な彼女は一人残されて……とはならなかった。
父であるムーア子爵は亡くなる一ヶ月前に再婚していたのだ。だから継母と二人の義姉も一緒に残されたのである。
それから先はお決まりのパターンを辿ることになる。
まるでおとぎ話のシンデレラのように…。
気づけばリリミアは『シンデレラ令嬢』と陰で呼ばれるようになっていた。
『いつかきっと幸せになれるわ』と頑張り続ける前向きな彼女。
ちょっとおとぎ話のシンデレラよりもたくましい…。
ある日憧れの王子様を近くで見てみようと王城で開かれる舞踏会にこっそりと参加する。
だが間違って開始時刻よりもだいぶ早くに到着してしまい、王子と護衛騎士の会話を偶然耳にしてしまう。
『そこにいるのは誰だっ!』
『……誰もいませんのでお気になさらずに……』
※この作品には『ある日愛する妻が何も告げずに家を出ていってしまった…』の登場人物が出ています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる