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翌日、宮廷魔術師が独房を訪れた。
白い髭を蓄えた老人で、青いローブを纏っている。
金色の刺繍が、ローブの裾を飾っていた。
「セシリア・ロゼウス殿。失礼する」
老魔術師は杖を掲げ、呪文を唱えた。古代語の響きが、独房に反響する。
光が杖の先端から放たれ、わたしの体を包む。
温かい、不思議な感覚だった。光が体の表面を這い、内側へと沈み込んでいく。
「これは......」
老魔術師の顔が、驚愕に染まった。
白い眉が跳ね上がり、口が開いたままになる。
「殿下! すぐに殿下を!」
老人は鉄格子に駆け寄り、大声で叫んだ。
数分後、アルヴィン王子が駆けつけた。
足音が廊下に響き、複数の近衛騎士を従えて現れる。
「どうした」
「この娘に、強力な封印魔法がかけられております!」
老魔術師は震える手で、わたしを指差した。
「封印、だと?」
「はい。それも、極めて悪質な......魔力を内側から抑え込む、古代の禁術です」
老人は杖を床に突き、深く息を吐いた。
わたしには、何のことか理解できなかった。
「魔力、ですか? でも、わたしには魔法の才能なんて......」
老魔術師は首を横に振った。白い髭が、左右に揺れる。
「いや、貴女には驚異的な治癒魔法の才能がある。しかしそれが、この封印によって完全に抑え込まれていた」
「そんな......」
膝から力が抜けた。壁に背中を預け、なんとか倒れずにすむ。
「封印の媒体は......おそらく、継続的に摂取していた何かだ」
わたしの脳裏に、青い錠剤が浮かんだ。
あの小さな、苦い薬。毎朝、エリザ様が渡してくれた——
「エリザ様の、薬......」
アルヴィン王子とわたしの目が合った。鉄格子越しに、視線が絡み合う。
「封印を解くことはできるか」
王子の声は、静かだが力強かった。
「可能です。ただし、解けた瞬間、この娘の魔力が一気に放出されます」
「構わん。すぐに行え」
「承知しました」
老魔術師が呪文を唱え始めた。
杖から強い光が放たれ、わたしの体に絡みつく。光の糸が、肌を這い、骨を伝い、心臓へと向かう。
痛い、でも、温かい。
何かが、体の中で弾けた。
光が、溢れた。
独房全体が、眩い金色の光に包まれた。
わたしの手から、足から、心臓から、光が湧き出てくる。
石の壁が光を反射し、まるで独房全体が太陽になったようだった。
「これが......わたしの......」
涙が溢れた。光の中で、温かい涙が頬を伝う。
生まれて初めて、自分が本当の自分になった気がした。
体の奥底から、何かが解き放たれる。抑え込まれていた力が、自由になる。
光が収まると、老魔術師が満足げに頷いた。
「封印は解けました。セシリア殿、貴女は古代治癒師の血を引いておられる」
老人は深く一礼した。
「古代治癒師......」
「おそらく、母方の先祖に当たる方がおられたのでしょう。その血統が、貴女に受け継がれた」
アルヴィン王子が近づいてきた。近衛騎士が鉄格子の鍵を開ける。金属の擦れる音が響き、重い扉が開いた。
「エリザは、貴女の血統を知っていた。だから封印した」
「なぜ、そんなことを......」
「嫉妬だ」
王子の声は静かだったが、怒りを含んでいた。拳が、固く握られている。
「自分より優れた才能を、許せなかったのだろう」
わたしは震えた。
三年間。
三年もの間、わたしは偽りの無能さの中に閉じ込められていた。
体が震え、膝が笑う。
「来い」
アルヴィン王子が手を差し伸べた。長く、白い手だった。
「ここは、もう貴女のいる場所ではない」
わたしは、その手を取った。温かかった。
白い髭を蓄えた老人で、青いローブを纏っている。
金色の刺繍が、ローブの裾を飾っていた。
「セシリア・ロゼウス殿。失礼する」
老魔術師は杖を掲げ、呪文を唱えた。古代語の響きが、独房に反響する。
光が杖の先端から放たれ、わたしの体を包む。
温かい、不思議な感覚だった。光が体の表面を這い、内側へと沈み込んでいく。
「これは......」
老魔術師の顔が、驚愕に染まった。
白い眉が跳ね上がり、口が開いたままになる。
「殿下! すぐに殿下を!」
老人は鉄格子に駆け寄り、大声で叫んだ。
数分後、アルヴィン王子が駆けつけた。
足音が廊下に響き、複数の近衛騎士を従えて現れる。
「どうした」
「この娘に、強力な封印魔法がかけられております!」
老魔術師は震える手で、わたしを指差した。
「封印、だと?」
「はい。それも、極めて悪質な......魔力を内側から抑え込む、古代の禁術です」
老人は杖を床に突き、深く息を吐いた。
わたしには、何のことか理解できなかった。
「魔力、ですか? でも、わたしには魔法の才能なんて......」
老魔術師は首を横に振った。白い髭が、左右に揺れる。
「いや、貴女には驚異的な治癒魔法の才能がある。しかしそれが、この封印によって完全に抑え込まれていた」
「そんな......」
膝から力が抜けた。壁に背中を預け、なんとか倒れずにすむ。
「封印の媒体は......おそらく、継続的に摂取していた何かだ」
わたしの脳裏に、青い錠剤が浮かんだ。
あの小さな、苦い薬。毎朝、エリザ様が渡してくれた——
「エリザ様の、薬......」
アルヴィン王子とわたしの目が合った。鉄格子越しに、視線が絡み合う。
「封印を解くことはできるか」
王子の声は、静かだが力強かった。
「可能です。ただし、解けた瞬間、この娘の魔力が一気に放出されます」
「構わん。すぐに行え」
「承知しました」
老魔術師が呪文を唱え始めた。
杖から強い光が放たれ、わたしの体に絡みつく。光の糸が、肌を這い、骨を伝い、心臓へと向かう。
痛い、でも、温かい。
何かが、体の中で弾けた。
光が、溢れた。
独房全体が、眩い金色の光に包まれた。
わたしの手から、足から、心臓から、光が湧き出てくる。
石の壁が光を反射し、まるで独房全体が太陽になったようだった。
「これが......わたしの......」
涙が溢れた。光の中で、温かい涙が頬を伝う。
生まれて初めて、自分が本当の自分になった気がした。
体の奥底から、何かが解き放たれる。抑え込まれていた力が、自由になる。
光が収まると、老魔術師が満足げに頷いた。
「封印は解けました。セシリア殿、貴女は古代治癒師の血を引いておられる」
老人は深く一礼した。
「古代治癒師......」
「おそらく、母方の先祖に当たる方がおられたのでしょう。その血統が、貴女に受け継がれた」
アルヴィン王子が近づいてきた。近衛騎士が鉄格子の鍵を開ける。金属の擦れる音が響き、重い扉が開いた。
「エリザは、貴女の血統を知っていた。だから封印した」
「なぜ、そんなことを......」
「嫉妬だ」
王子の声は静かだったが、怒りを含んでいた。拳が、固く握られている。
「自分より優れた才能を、許せなかったのだろう」
わたしは震えた。
三年間。
三年もの間、わたしは偽りの無能さの中に閉じ込められていた。
体が震え、膝が笑う。
「来い」
アルヴィン王子が手を差し伸べた。長く、白い手だった。
「ここは、もう貴女のいる場所ではない」
わたしは、その手を取った。温かかった。
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