師匠の嫉妬で才能を奪われた薬師見習いの私、牢獄で本物の力を取り戻す

er

文字の大きさ
6 / 13

しおりを挟む
鉄格子の向こうに、人影が現れた。

「起きろ」

低い声に、わたしは顔を上げた。首を動かすと、固まった筋肉が痛んだ。
ランプの明かりの中に、アルヴィン王子が立っていた。
オレンジ色の光が、銀色の髪を照らしている。

「王子、殿下......」

かすれた声しか出なかった。喉が渇いて、舌が口の中に貼りついている。

「立て」

わたしは震える足で立ち上がった。壁に手をついて、なんとか体を支える。
アルヴィン王子は、冷たい青い目でわたしを見つめた。鉄格子越しの視線は、しかし、以前とは何かが違っていた。

「貴女に、いくつか質問する」
「はい」
「疫病患者に投与した薬は、本当に貴女が調合したものか?」
「ええ、処方箋通りに作りました」
「処方箋は誰が書いた?」
「エリザ様です」
「調合の過程で、誰かが手を加えた可能性は?」

わたしは息を呑んだ。考えたこともなかった。でも、調合記録の文字は——

「わかり、ません」
「貴女の家系について、聞かせてほしい」

アルヴィン王子は一歩、鉄格子に近づいた。

「家系、ですか?」
「ロゼウス家の歴史だ」

わたしは記憶を辿った。

「辺境の小さな男爵家です。父は領地を治めておりますが、特に目立った家柄では......」
「母方は」
「母は......早くに亡くなりました。詳しいことは、存じません」

母の顔は、もうぼんやりとしか思い出せない。優しい笑顔と、柔らかい手の感触だけが記憶に残っている。
アルヴィン王子は何かを考え込んでいる様子だった。眉間に皺を寄せ、腕を組む。

「最後に聞く。エリザから渡されていた薬について、教えてほしい」
「体調管理の薬、と聞いておりました」
「それを飲むと、どうなった」
「体が......重くなりました。頭が霞むような」

わたしは自分の両手を見つめた。今は、指先まで感覚が戻っている。
アルヴィン王子の目が、鋭く光った。

「わかった」

王子は踵を返しかけたが、振り返った。黒い軍服の裾が、空気を切る音を立てた。

「明日、魔術師がここに来る。検査に協力しろ」
「はい」
「それと」

わたしを見つめる目に、一瞬だけ、何か別の感情が浮かんだ気がした。氷のような青い瞳が、ほんの少しだけ温度を持ったように見えた。

「......無実なら、必ず証明してやる」

声は低く、短かったが、その言葉に込められた重みが胸に響いた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたら兄のように慕っていた家庭教師に本気で口説かれはじめました

鳥花風星
恋愛
「他に一生涯かけて幸せにしたい人ができた。申し訳ないがローズ、君との婚約を取りやめさせてほしい」 十歳の頃に君のことが気に入ったからと一方的に婚約をせがまれたローズは、学園生活を送っていたとある日その婚約者であるケイロンに突然婚約解消を言い渡される。 悲しみに暮れるローズだったが、幼い頃から魔法の家庭教師をしてくれている兄のような存在のベルギアから猛烈アプローチが始まった!? 「ずっと諦めていたけれど、婚約解消になったならもう遠慮はしないよ。今は俺のことを兄のように思っているかもしれないしケイロンのことで頭がいっぱいかもしれないけれど、そんなこと忘れてしまうくらい君を大切にするし幸せにする」 ローズを一途に思い続けるベルギアの熱い思いが溢れたハッピーエンドな物語。

侯爵令嬢はざまぁ展開より溺愛ルートを選びたい

花月
恋愛
内気なソフィア=ドレスデン侯爵令嬢の婚約者は美貌のナイジェル=エヴァンス公爵閣下だったが、王宮の中庭で美しいセリーヌ嬢を抱きしめているところに遭遇してしまう。 ナイジェル様から婚約破棄を告げられた瞬間、大聖堂の鐘の音と共に身体に異変が――。 あら?目の前にいるのはわたし…?「お前は誰だ!?」叫んだわたしの姿の中身は一体…? ま、まさかのナイジェル様?何故こんな展開になってしまったの?? そして婚約破棄はどうなるの??? ほんの数時間の魔法――一夜だけの入れ替わりに色々詰め込んだ、ちぐはぐラブコメ。

心を病んでいるという嘘をつかれ追放された私、調香の才能で見返したら調香が社交界追放されました

er
恋愛
心を病んだと濡れ衣を着せられ、夫アンドレに離縁されたセリーヌ。愛人と結婚したかった夫の陰謀だったが、誰も信じてくれない。失意の中、亡き母から受け継いだ調香の才能に目覚めた彼女は、東の別邸で香水作りに没頭する。やがて「春風の工房」として王都で評判になり、冷酷な北方公爵マグナスの目に留まる。マグナスの支援で宮廷調香師に推薦された矢先、元夫が妨害工作を仕掛けてきたのだが?

聖女だけど婚約破棄されたので、「ざまぁリスト」片手に隣国へ行きます

もちもちのごはん
恋愛
セレフィア王国の伯爵令嬢クラリスは、王太子との婚約を突然破棄され、社交界の嘲笑の的に。だが彼女は静かに微笑む――「ざまぁリスト、更新完了」。実は聖女の血を引くクラリスは、隣国の第二王子ユリウスに見出され、溺愛と共に新たな人生を歩み始める。

私は彼を愛しておりますので

月山 歩
恋愛
婚約者と行った夜会で、かつての幼馴染と再会する。彼は私を好きだと言うけれど、私は、婚約者と好き合っているつもりだ。でも、そんな二人の間に隙間が生まれてきて…。私達は愛を貫けるだろうか?

捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。

亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。 だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。 婚約破棄をされたアニエル。 だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。 ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。 その相手とはレオニードヴァイオルード。 好青年で素敵な男性だ。 婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。 一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。 元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……

守護神の加護がもらえなかったので追放されたけど、実は寵愛持ちでした。神様が付いて来たけど、私にはどうにも出来ません。どうか皆様お幸せに!

蒼衣翼
恋愛
千璃(センリ)は、古い巫女の家系の娘で、国の守護神と共に生きる運命を言い聞かされて育った。 しかし、本来なら加護を授かるはずの十四の誕生日に、千璃には加護の兆候が現れず、一族から追放されてしまう。 だがそれは、千璃が幼い頃、そうとは知らぬまま、神の寵愛を約束されていたからだった。 国から追放された千璃に、守護神フォスフォラスは求愛し、へスペラスと改名した後に、人化して共に旅立つことに。 一方、守護神の消えた故国は、全ての加護を失い。衰退の一途を辿ることになるのだった。 ※カクヨムさまにも投稿しています

双子の姉に聴覚を奪われました。

浅見
恋愛
『あなたが馬鹿なお人よしで本当によかった!』 双子の王女エリシアは、姉ディアナに騙されて聴覚を失い、塔に幽閉されてしまう。 さらに皇太子との婚約も破棄され、あらたな婚約者には姉が選ばれた――はずなのに。 三年後、エリシアを迎えに現れたのは、他ならぬ皇太子その人だった。

処理中です...