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鉄格子の向こうに、人影が現れた。
「起きろ」
低い声に、わたしは顔を上げた。首を動かすと、固まった筋肉が痛んだ。
ランプの明かりの中に、アルヴィン王子が立っていた。
オレンジ色の光が、銀色の髪を照らしている。
「王子、殿下......」
かすれた声しか出なかった。喉が渇いて、舌が口の中に貼りついている。
「立て」
わたしは震える足で立ち上がった。壁に手をついて、なんとか体を支える。
アルヴィン王子は、冷たい青い目でわたしを見つめた。鉄格子越しの視線は、しかし、以前とは何かが違っていた。
「貴女に、いくつか質問する」
「はい」
「疫病患者に投与した薬は、本当に貴女が調合したものか?」
「ええ、処方箋通りに作りました」
「処方箋は誰が書いた?」
「エリザ様です」
「調合の過程で、誰かが手を加えた可能性は?」
わたしは息を呑んだ。考えたこともなかった。でも、調合記録の文字は——
「わかり、ません」
「貴女の家系について、聞かせてほしい」
アルヴィン王子は一歩、鉄格子に近づいた。
「家系、ですか?」
「ロゼウス家の歴史だ」
わたしは記憶を辿った。
「辺境の小さな男爵家です。父は領地を治めておりますが、特に目立った家柄では......」
「母方は」
「母は......早くに亡くなりました。詳しいことは、存じません」
母の顔は、もうぼんやりとしか思い出せない。優しい笑顔と、柔らかい手の感触だけが記憶に残っている。
アルヴィン王子は何かを考え込んでいる様子だった。眉間に皺を寄せ、腕を組む。
「最後に聞く。エリザから渡されていた薬について、教えてほしい」
「体調管理の薬、と聞いておりました」
「それを飲むと、どうなった」
「体が......重くなりました。頭が霞むような」
わたしは自分の両手を見つめた。今は、指先まで感覚が戻っている。
アルヴィン王子の目が、鋭く光った。
「わかった」
王子は踵を返しかけたが、振り返った。黒い軍服の裾が、空気を切る音を立てた。
「明日、魔術師がここに来る。検査に協力しろ」
「はい」
「それと」
わたしを見つめる目に、一瞬だけ、何か別の感情が浮かんだ気がした。氷のような青い瞳が、ほんの少しだけ温度を持ったように見えた。
「......無実なら、必ず証明してやる」
声は低く、短かったが、その言葉に込められた重みが胸に響いた。
「起きろ」
低い声に、わたしは顔を上げた。首を動かすと、固まった筋肉が痛んだ。
ランプの明かりの中に、アルヴィン王子が立っていた。
オレンジ色の光が、銀色の髪を照らしている。
「王子、殿下......」
かすれた声しか出なかった。喉が渇いて、舌が口の中に貼りついている。
「立て」
わたしは震える足で立ち上がった。壁に手をついて、なんとか体を支える。
アルヴィン王子は、冷たい青い目でわたしを見つめた。鉄格子越しの視線は、しかし、以前とは何かが違っていた。
「貴女に、いくつか質問する」
「はい」
「疫病患者に投与した薬は、本当に貴女が調合したものか?」
「ええ、処方箋通りに作りました」
「処方箋は誰が書いた?」
「エリザ様です」
「調合の過程で、誰かが手を加えた可能性は?」
わたしは息を呑んだ。考えたこともなかった。でも、調合記録の文字は——
「わかり、ません」
「貴女の家系について、聞かせてほしい」
アルヴィン王子は一歩、鉄格子に近づいた。
「家系、ですか?」
「ロゼウス家の歴史だ」
わたしは記憶を辿った。
「辺境の小さな男爵家です。父は領地を治めておりますが、特に目立った家柄では......」
「母方は」
「母は......早くに亡くなりました。詳しいことは、存じません」
母の顔は、もうぼんやりとしか思い出せない。優しい笑顔と、柔らかい手の感触だけが記憶に残っている。
アルヴィン王子は何かを考え込んでいる様子だった。眉間に皺を寄せ、腕を組む。
「最後に聞く。エリザから渡されていた薬について、教えてほしい」
「体調管理の薬、と聞いておりました」
「それを飲むと、どうなった」
「体が......重くなりました。頭が霞むような」
わたしは自分の両手を見つめた。今は、指先まで感覚が戻っている。
アルヴィン王子の目が、鋭く光った。
「わかった」
王子は踵を返しかけたが、振り返った。黒い軍服の裾が、空気を切る音を立てた。
「明日、魔術師がここに来る。検査に協力しろ」
「はい」
「それと」
わたしを見つめる目に、一瞬だけ、何か別の感情が浮かんだ気がした。氷のような青い瞳が、ほんの少しだけ温度を持ったように見えた。
「......無実なら、必ず証明してやる」
声は低く、短かったが、その言葉に込められた重みが胸に響いた。
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