王女殿下の婚礼の朝、三時間かけて花嫁の髪を結ったのは私だった。けれど国王陛下のお褒めの言葉は、義妹のコレットのものになった。その夜、真珠の髪飾りが広間の床に落ちると、継母は留めたのは私だと言い放つ。王宮を追われる前夜、私にしか髪を触らせない八歳の第三王女は、母の形見の象牙の櫛を抱えて言った。「戻ってくるまで返さない」。迎えに来たのは、誰にでも愛想のいい第二王子ラファエル殿下。ピンを一本も使わない結い方で、私は奪われたものを取り返す。全七話。
文字数 10,680
最終更新日 2026.10.14
登録日 2026.10.14
「母上とオデットに、この部屋を使わせる」。伯爵夫人クラリスが持参金で整えた南向きの部屋を、夫は相談もなく姑と義妹に明け渡せと言い渡した。六年間、家政の帳簿も取引先への支払いも、夫の宮廷での役職をつなぐ実家の推薦も、黙って支えてきたのはクラリスだった。窓辺の銀梅花まで捨てられた朝、彼女は静かに支えを引き上げ、離縁を決める。鉢植えを拾ってくれた料理番の少年と、約束に必ず期日をつける宰相補佐の伯爵に見守られて、新しい窓辺へ。元サヤなし。全六話。
文字数 12,389
最終更新日 2026.10.14
登録日 2026.10.13
王妃付きの仕立て係ソレーヌの縫ったドレスは、いつも姉の手柄だった。王妃さまの誕生祝いの夜会で裾が裂けると、姉は大勢の前で言い放つ。「裾の始末だけは妹に任せておりました」。王宮を追われたソレーヌを迎えたのは、軍服しか着ないと噂の寡黙な大公殿下。「君の縫った服なら着る」と夜会服を頼まれ、王妃さまの愛犬は彼女の膝から降りようとしない。誰の目にも見えない三針の隠し縫いが、やがて御前で姉の嘘を暴いていく。全七話。
文字数 12,429
最終更新日 2026.10.13
登録日 2026.10.12
冬の救貧院を三年かけて立て直したのは、伯爵夫人のヘレナだった。けれど王宮の叙勲の席で勲章を胸に着けたのは、夫のジェラルド。夫は報告書から妻の名を消し、出してもいない金貨まで書き足していた。そのうえ妻の名義の基金を自分に移せと迫り、王妃さまに礼状を書いた九つの孤児テアを遠くへやろうとする。ヘレナは静かに支えの手を引き、離縁を告げた。帳尻の合わない数字を見逃さない王立銀行の頭取の公爵と、字を教えた少女とともに、奪われた名前を取り返すまで。全六話。
文字数 12,430
最終更新日 2026.10.12
登録日 2026.10.11
「先月の夜会の段取りは、すべて私が組みました」――式部官補佐のノエミが四年かけて整えてきた灯りと楽の合図は、婚約者マティアスの手柄として報告された。失敗の責めだけを押しつけられ、祖母の形見の銀の鈴まで取り上げられて、婚約も白紙に。王宮を追われた彼女に手を差し伸べたのは、夜会嫌いで笑うのが下手な近衛隊長ギヨーム。そして「ノエミの鈴じゃなきゃ歩かない」と言い張る十歳の第二王子アンリだった。建国の夜会の入場が崩れかけたとき、小さな鈴がもう一度鳴る。全七話。
文字数 12,392
最終更新日 2026.10.11
登録日 2026.10.10
嫁いで七年。誕生日の朝には、いつも白薔薇が一輪届いた。不器用な夫の、年に一度の情だと信じていた。けれど誕生祝いの晩餐で、夫は愛人を「客人」と呼んで私の隣に座らせた。愛人がまとうのは、王妃さまのために織られた絹。そして夫は笑って言った。「花など贈ったことはない」では、七年分の花は誰が置いたのか。王宮への絹の取り次ぎも、その契約の名義も、私のもの。離縁して、全部引き上げます。元サヤはありません。迎えに来るのは、約束の時刻に一分も遅れない王妃さまの甥です。全六話。
文字数 12,446
最終更新日 2026.10.10
登録日 2026.10.09
「ほら、また震えましたわね」――王妃付きの助産師ロザリーは、叔母である助産師長に肘を打たれて湯をこぼし、「手が震える」と言いふらされて王宮を追われた。母の形見の木の筒も取り上げられ、行くあてもない彼女を門の外で待っていたのは、規則にうるさい侍従長のグレイ侯爵と、鞄にもぐりこんだ王妃さまの老猫ブランシュ。一方の王宮では世継ぎのお産が迫り、叔母はある秘密を隠していた――。震えていたのは、誰の手だったのか。全七話。
文字数 12,451
最終更新日 2026.10.09
登録日 2026.10.08
平民の仕立て屋の娘セリアは、貴族令嬢セリーヌの理不尽な要求により、彼女の身代わりとして婚約者リュカと会うことを強いられる。家族を守るため偽りの立場を受け入れたセリアだったが、リュカは本物のセリーヌより今の彼女を気に入り、積極的にアプローチしてくる。身分違いの偽りの恋が動き出す。
文字数 37,215
最終更新日 2026.10.09
登録日 2025.11.14
「春の社交界デビューは、愛人の連れ子を先にする」。夫はそう言い放ち、娘の名を王宮の名簿から消した。母から娘へ伝わる真珠貝の扇まで貸せと言われて、カトリーヌは決めた。娘と、味方してくれるお義母さまを連れて、離縁します。持参金を引き上げれば、伯爵家は立ちゆかない。偽の縁組は、デビューの名簿を預かる式部総裁の前で崩れ、春の大階段には娘の名が三番目に呼ばれて――。数え直しの人生に、姪を育てた侯爵さまの求婚が届く。全六話。
文字数 11,992
最終更新日 2026.10.08
登録日 2026.10.07
王女殿下の熱を三晩で下げた処方は姉の手柄に、発疹の濡れ衣は妹のわたしに。侍医の家の裏方として生きてきたエリーゼは、王宮を追われた夜、王妃陛下の兄君に呼ばれる。剣しか信じない武人公爵は、わたしの手を見て言った。「働いた手は、嘘をつかん」。薬を止めて王女さまを救い、御前の検分では姉と同じ処方を煎じ比べ――手が知らない者は、炉の前でごまかせない。五歳の王女さまの「星のにおい」が、最後の証になる。全七話。
文字数 12,191
最終更新日 2026.10.07
登録日 2026.10.06
結婚六年目の秋、王宮舞踏会。夫婦で踊る開幕の一曲を、夫は愛人と踊った――侯爵家の社交を六年間支えてきたのは、招待状の一枚から王太后さまとの縁まで、すべて妻のアメリアだったのに。ならば、その糸をぜんぶ引き上げて離縁します。招待の返事が来ない。縁談が流れる。王家の狩猟会から外される。音を立てて崩れる侯爵家を横目に、アメリアの前には「開幕の一曲を十二年間踊らない」北の公爵が現れて……。全六話。
文字数 12,056
最終更新日 2026.10.06
登録日 2026.10.05
「その脚を仕上げたのは、リーネです」――戦で脚を失った兵のための義足の披露の日。三年かけて作った脚を婚約者ディルクに自分の手柄として発表され、彼が勝手に削った脚が折れた責任だけを押しつけられた義足職人リーネ。父にも信じてもらえずに工房を追われ、婚約者は義妹のものに。けれど、彼女の脚で歩けるようになった男の子エミルと、片脚を失った王弟レオポルトが迎えに来て……。靴に隠れて誰も見ない五本の足指が、偽りを暴く。全七話。
文字数 12,450
最終更新日 2026.10.05
登録日 2026.10.04
調香師の子爵夫人マティルダは、母から継いだ秘伝の香りで宮廷御用達の看板を支えてきた。だが夫は、その香りを社交界の花ビアンカが調えたものと偽り、マティルダを地味な古女房と蔵に押し込める。ならば、と彼女は動いた。原料の道、二十年の顧客、母の処方。香りを生むものすべてを静かに引き上げ、離縁する。看板だけが残った子爵家に、宮廷御用達の資格はもう戻らない。そして香りで人を見分ける盲目の少女と、香りだけで本物を探し当てた隣国の大公が、彼女の手を取った。人は名に騙されても、鼻は嘘を見抜く。全六話。
文字数 11,750
最終更新日 2026.10.04
登録日 2026.10.03
二年かけて王家の暴れ馬を御した調馬師マリカ。だが御前の晴れ舞台で手柄を奪ったのは、妹のセシルだった。『馬など誰にでも扱える』——そう言い放った妹は、姉を『危険な馬を放った』濡れ衣で厩から追い出す。行き場を失ったマリカに手を差し伸べたのは、彼女の傷だらけの手を見た辺境の騎士団長アルヴィスと、誰にも心を開かない軍馬たちだった。やがて王家が持て余した黒馬が北へ送られてきて――飾り綱を握る妹の前で、黒馬が首を垂れたのは、擦り切れた綱を持つ姉のほうだった。人が見なかったものを、馬はずっと見ていた。全七話。
文字数 11,737
最終更新日 2026.10.03
登録日 2026.10.02
政略結婚して八年、侯爵家の商いを一人で切り盛りしてきたエルナ。けれど夫は、帳簿の数字が読めるだけの若い愛人に采配を譲ると言い、妻を執務室から追い出した。「お前は名前だけあればいい」――わかりました、と彼女は静かに微笑む。ただし引き下がるのではない。手を引くのだ。関を抜ける許しも、品を出す仕入れ先も、道を守る隊商も、すべては侯爵家の名ではなく、彼女が顔で結んだ信用だった。その糸を引けば、家はもう回らない。御者の子と小鳥だけを連れて、彼女は自分の路を歩き出す。路を通すのは品ではない、人だ。全六話。
文字数 12,362
最終更新日 2026.10.02
登録日 2026.10.01
「鳩小屋の鳩が四十羽も消えた。お前が逃がしたのだろう」
奇襲の知らせを運んだ鳩を抱いて司令部へ走ったのは私なのに、勲章をもらったのは通信隊長だった。そのうえ鳩が消えた罪まで着せられ、王国北方軍の伝書鳩係を追われた。ところが街道の宿場で待っていたのは、八年前に鳩小屋で泣いていた男の子。今は国境を守る年下の辺境伯だった。王都の鳩小屋から鳩が一羽ずつ帰らなくなる一方で、国境の塔には白い鳩ソルが群れを連れて帰ってくる。売られた鳩の足輪が、嘘をつかない証人になる。全七話。
文字数 12,281
最終更新日 2026.10.01
登録日 2026.09.30
「今年の氷は、セシールに任せる」
夕食の席で、夫は私の腰から氷の貯蔵庫の鍵を外し、愛人の手にのせた。持参金で建て、実家の湖の氷で五年支えてきた貯蔵庫を、彼女は見学の社交場にするという。扉は開け放たれ、夏まで眠るはずの氷が溶けていく。熱に苦しむ施療院の子どもたちへ届ける澄んだ氷まで持ち出された夜、私は離縁を決めた。湖の氷も職人も、すべて引き上げます。夏至の祝宴で困るのは、あなたです。口の悪い施療院長と白い番犬に見守られ、私は新しい鍵を受け取る。元サヤなし。全六話。
文字数 12,405
最終更新日 2026.09.30
登録日 2026.09.29
「一本の糸を惜しめば、一人の兵が凍えます」
王室織物工房の織り手リネットは、自分の織っていない粗悪な外套を突きつけられ、兵を凍え死なせた罪を着せられて追われた。手元に残ったのは母の遺した小さな見本布と、去年の冬に救った少年兵だけ。
その夜、雪をかぶった軍装の男が宿の扉を叩く。北方軍で補給を預かる総監は、凍死した二十二人の名をすべて覚えていた。
北の砦で織られた布は、兵の凍傷を五分の一に減らす。やがて王都から、冬営装備を王の御前で検分せよという召喚状が届いた。
ざまぁ・溺愛・ハッピーエンド。全七話。
文字数 12,495
最終更新日 2026.09.29
登録日 2026.09.28
亡き母の名を冠した渡し船が、夫の愛人の名に塗り替えられた。伯爵夫人セシリアは声を荒げない。四年のあいだ夫に代わって大橋と河港と渡しを回してきた帳簿を、静かに閉じただけだ。橋も船も渡し賃も、すべて彼女の持参財産。そのことを、夫はまだ知らない。折しも王都から、水夫あがりの河川総督が橋の検分にやってくる。彼が見抜いたのは橋の傷みではなく、橋を支えてきた人のほうで――。離縁を決めた伯爵夫人と、川の男の物語。全六話。
文字数 12,358
最終更新日 2026.09.28
登録日 2026.09.27
王妃さまの形見のドレスを三晚かけて蘇らせたのは私。手柄を持っていったのは女官長さま。そのうえ「卑しい手で形見に触れた」という咎めまで頂いて、私は七年勤めた王宮を追われました。拾ってくださったのは隣国の若き大公さま。二年前、捕虜として洗濯場の水を汲んでいたあの方です。やがて王都から小さな字の手紙が届きます。おかあさまのドレスが、ないてます……。落ちない染みはございません。落としてはいけない染みが、あるだけです。ざまぁ&溺愛ハッピーエンド。元サヤなし。全七話。
文字数 12,283
最終更新日 2026.09.27
登録日 2026.09.26