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第四章
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セシリアが連行され、会場が落ち着きを取り戻した頃。
「リリアーナ」
モーリス卿が私を呼んだ。
「あなたの才能は本物です。王宮調香師として、我々と共に――」
「待て」
突然、レオンが前に出た。
マントを脱ぐと、その胸元には見覚えのない紋章が輝いていた。
銀の月と深紅の薔薇。それは――。
「あれは、まさかシルヴァニア王国の......」
誰かが息を呑んだ。
「俺は第二王子、レオナルド・ヴォン・シルヴァニア」
レオンが――いや、レオナルド王子が、優雅に一礼した。
「リリアーナは、既に私の専属調香師だ」
私は言葉を失った。
レオンが、王子?
「なぜ、隣国の王子がこのような......」
王が訝しげに尋ねた。
「父上――いえ、シルヴァニア国王には内密で動いておりました」
レオナルドは丁寧に、しかし堂々と答えた。
「我が国には、百年続く呪いがあります。『王家の者は、真実の愛を見つけるまで、徐々に感情を失っていく』という」
ざわめきが広がった。
「その呪いを解くには、【魂香創成】の力が必要だと、古文書に記されていました」
レオナルドは私を見た。
「一月前、たまたまこの国を訪れた際、王宮でリリアーナの調合した香水を嗅ぎました」
そうだったのか。王妃様への献上品を――。
「あれは本物でした。紛れもない【魂香創成】の香り」
レオナルドは続けた。
「だが、その直後、彼女が陥れられたと聞いて......私は表立って動けなかった。だから、『便利屋』として裏から手を回したのです」
全てが繋がった。
レオンが私を助けてくれた理由。
裏市場での活動。
私のスキルを最初から知っていたこと。
全ては、呪いを解くため。
「......嘘」
私は呟いた。
「私は、ただの道具だったんですか? 呪いを解くための?」
レオナルドは困ったように笑った。
「最初は、そうだった」
彼は一歩、私に近づいた。
「でも、お前と過ごす時間が増えるたびに、気づいたんだ」
レオナルドは私の手を取った。
「呪いが薄れていくのを。お前と一緒にいると、感情が戻ってくる。笑えるようになる。怒れるようになる」
その深紅の瞳は、真っ直ぐに私を見つめていた。
「それが、『真実の愛』というやつなのかもしれない」
頬が熱くなった。
周囲のざわめきも、もう聞こえない。
「私は......」
何と言えばいいのか、分からなかった。
その時――。
「お待ちください、レオナルド殿下」
新たな声が響いた。
扉が開き、黒いドレスに身を包んだ美しい女性が入ってきた。
銀髪に、レオナルドと同じ深紅の瞳。
「姉上......」
レオナルドの表情が曇った。
「イザベラ・ヴォン・シルヴァニアと申します。」
女性は優雅に一礼した。
「弟が勝手な行動を取り、大変失礼いたしました」
彼女の瞳は、氷のように冷たかった。
「レオナルド、帰国なさい。父上がお怒りです」
「断る」
レオナルドは即答した。
「俺はまだ、やるべきことがある」
「それは、その娘のことかしら?」
イザベラの視線が私に向けられた。
「確かに【魂香創成】の使い手は稀少です。でも、あなたの呪いを解く方法は、他にもあるのよ」
彼女は懐から黒い水晶の瓶を取り出した。
「これは、帝国の調香師が作った特別な香油。これを使えば、呪いは即座に解けます」
「その代償は?」
レオナルドが鋭く問いかけた。
「あなたが私の指示に従うこと」
イザベラは冷たく微笑んだ。
「そして、その娘をシルヴァニアに引き渡すこと」
私の背筋が凍った。
「断る」
レオナルドが剣の柄に手をかけた。
「リリアーナは、誰にも渡さない」
「あら、そう」
イザベラの笑みが深まった。
「なら、力ずくで連れて行くしかないわね」
緊張が走った。
王が立ち上がった。
「お二人とも、ここは我が国の王宮です。武力行使は――」
「ご安心を」
イザベラは手を上げた。
「武力は使いません。代わりに、賭けをしましょう」
「賭け?」
「三日後、調香勝負を行います」
イザベラは振り返った。
扉の外から、黒いマントの人物が現れた。
マントを脱ぐと、灰色の髪に濁った緑の瞳を持つ、痩せた中年男性だった。
「帝国の闇調香師、グレゴール・バルトロメウスです」
グレゴールと呼ばれた男は、不気味に微笑んだ。
彼の指先から漂う香りに、私の【魂香創成】が激しく反応した。
死の香り。
絶望の香り。
そして――母の香り。
「あなた......」
私は震える声で言った。
「母を......知っているんですか?」
グレゴールは舌なめずりをした。
「エレナ・ヴェルディ。素晴らしい調香師でした」
彼は黒い小瓶を取り出した。
「彼女の魂は、今も私の最高傑作の一つとして、ここにあります」
理解した瞬間、怒りで視界が真っ赤になった。
「貴様......!」
レオナルドが私を押さえた。
「落ち着け、リリアーナ」
「でも......!」
「分かっている。だが、今ここで仕掛ければ、全てが台無しになる」
イザベラが拍手をした。
「ではこういうのはどう? 三日後、グレゴール対リリアーナで調香勝負。勝った方が、レオナルドの呪いを解く権利を得る」
「もし、私が勝ったら?」
「レオナルドの呪いはあなたが解く。そして、私は手を引きます」
イザベラは続けた。
「でも、グレゴールが勝ったら――」
彼女の瞳が光った。
「リリアーナはシルヴァニアに来てもらいます。そして、レオナルドは私の選んだ婚約者と結婚すること」
「ふざけるな!」
レオナルドが叫んだ。
「これは王命です」
イザベラは書状を取り出した。そこには、シルヴァニア国王の印が押されていた。
「断れば、王位継承権の剥奪。それでもいい?」
レオナルドは歯噛みした。
私は前に出た。
「分かりました。その勝負、受けます」
「リリアーナ!」
「大丈夫です」
私はグレゴールを睨みつけた。
「母の仇を取る機会でもありますから」
グレゴールが嗤った。
「勇ましいですね。でも、勝ち目はありませんよ」
彼は黒い小瓶を掲げた。
「なぜなら、私はあなたの母親の魂を使えるのですから」
三日後――。
私は、人生最大の戦いに挑むことになった。
「リリアーナ」
モーリス卿が私を呼んだ。
「あなたの才能は本物です。王宮調香師として、我々と共に――」
「待て」
突然、レオンが前に出た。
マントを脱ぐと、その胸元には見覚えのない紋章が輝いていた。
銀の月と深紅の薔薇。それは――。
「あれは、まさかシルヴァニア王国の......」
誰かが息を呑んだ。
「俺は第二王子、レオナルド・ヴォン・シルヴァニア」
レオンが――いや、レオナルド王子が、優雅に一礼した。
「リリアーナは、既に私の専属調香師だ」
私は言葉を失った。
レオンが、王子?
「なぜ、隣国の王子がこのような......」
王が訝しげに尋ねた。
「父上――いえ、シルヴァニア国王には内密で動いておりました」
レオナルドは丁寧に、しかし堂々と答えた。
「我が国には、百年続く呪いがあります。『王家の者は、真実の愛を見つけるまで、徐々に感情を失っていく』という」
ざわめきが広がった。
「その呪いを解くには、【魂香創成】の力が必要だと、古文書に記されていました」
レオナルドは私を見た。
「一月前、たまたまこの国を訪れた際、王宮でリリアーナの調合した香水を嗅ぎました」
そうだったのか。王妃様への献上品を――。
「あれは本物でした。紛れもない【魂香創成】の香り」
レオナルドは続けた。
「だが、その直後、彼女が陥れられたと聞いて......私は表立って動けなかった。だから、『便利屋』として裏から手を回したのです」
全てが繋がった。
レオンが私を助けてくれた理由。
裏市場での活動。
私のスキルを最初から知っていたこと。
全ては、呪いを解くため。
「......嘘」
私は呟いた。
「私は、ただの道具だったんですか? 呪いを解くための?」
レオナルドは困ったように笑った。
「最初は、そうだった」
彼は一歩、私に近づいた。
「でも、お前と過ごす時間が増えるたびに、気づいたんだ」
レオナルドは私の手を取った。
「呪いが薄れていくのを。お前と一緒にいると、感情が戻ってくる。笑えるようになる。怒れるようになる」
その深紅の瞳は、真っ直ぐに私を見つめていた。
「それが、『真実の愛』というやつなのかもしれない」
頬が熱くなった。
周囲のざわめきも、もう聞こえない。
「私は......」
何と言えばいいのか、分からなかった。
その時――。
「お待ちください、レオナルド殿下」
新たな声が響いた。
扉が開き、黒いドレスに身を包んだ美しい女性が入ってきた。
銀髪に、レオナルドと同じ深紅の瞳。
「姉上......」
レオナルドの表情が曇った。
「イザベラ・ヴォン・シルヴァニアと申します。」
女性は優雅に一礼した。
「弟が勝手な行動を取り、大変失礼いたしました」
彼女の瞳は、氷のように冷たかった。
「レオナルド、帰国なさい。父上がお怒りです」
「断る」
レオナルドは即答した。
「俺はまだ、やるべきことがある」
「それは、その娘のことかしら?」
イザベラの視線が私に向けられた。
「確かに【魂香創成】の使い手は稀少です。でも、あなたの呪いを解く方法は、他にもあるのよ」
彼女は懐から黒い水晶の瓶を取り出した。
「これは、帝国の調香師が作った特別な香油。これを使えば、呪いは即座に解けます」
「その代償は?」
レオナルドが鋭く問いかけた。
「あなたが私の指示に従うこと」
イザベラは冷たく微笑んだ。
「そして、その娘をシルヴァニアに引き渡すこと」
私の背筋が凍った。
「断る」
レオナルドが剣の柄に手をかけた。
「リリアーナは、誰にも渡さない」
「あら、そう」
イザベラの笑みが深まった。
「なら、力ずくで連れて行くしかないわね」
緊張が走った。
王が立ち上がった。
「お二人とも、ここは我が国の王宮です。武力行使は――」
「ご安心を」
イザベラは手を上げた。
「武力は使いません。代わりに、賭けをしましょう」
「賭け?」
「三日後、調香勝負を行います」
イザベラは振り返った。
扉の外から、黒いマントの人物が現れた。
マントを脱ぐと、灰色の髪に濁った緑の瞳を持つ、痩せた中年男性だった。
「帝国の闇調香師、グレゴール・バルトロメウスです」
グレゴールと呼ばれた男は、不気味に微笑んだ。
彼の指先から漂う香りに、私の【魂香創成】が激しく反応した。
死の香り。
絶望の香り。
そして――母の香り。
「あなた......」
私は震える声で言った。
「母を......知っているんですか?」
グレゴールは舌なめずりをした。
「エレナ・ヴェルディ。素晴らしい調香師でした」
彼は黒い小瓶を取り出した。
「彼女の魂は、今も私の最高傑作の一つとして、ここにあります」
理解した瞬間、怒りで視界が真っ赤になった。
「貴様......!」
レオナルドが私を押さえた。
「落ち着け、リリアーナ」
「でも......!」
「分かっている。だが、今ここで仕掛ければ、全てが台無しになる」
イザベラが拍手をした。
「ではこういうのはどう? 三日後、グレゴール対リリアーナで調香勝負。勝った方が、レオナルドの呪いを解く権利を得る」
「もし、私が勝ったら?」
「レオナルドの呪いはあなたが解く。そして、私は手を引きます」
イザベラは続けた。
「でも、グレゴールが勝ったら――」
彼女の瞳が光った。
「リリアーナはシルヴァニアに来てもらいます。そして、レオナルドは私の選んだ婚約者と結婚すること」
「ふざけるな!」
レオナルドが叫んだ。
「これは王命です」
イザベラは書状を取り出した。そこには、シルヴァニア国王の印が押されていた。
「断れば、王位継承権の剥奪。それでもいい?」
レオナルドは歯噛みした。
私は前に出た。
「分かりました。その勝負、受けます」
「リリアーナ!」
「大丈夫です」
私はグレゴールを睨みつけた。
「母の仇を取る機会でもありますから」
グレゴールが嗤った。
「勇ましいですね。でも、勝ち目はありませんよ」
彼は黒い小瓶を掲げた。
「なぜなら、私はあなたの母親の魂を使えるのですから」
三日後――。
私は、人生最大の戦いに挑むことになった。
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