15 / 136
拷問して吐かせますよ
しおりを挟む
「貴女はご令嬢方どれかの家の間者なのでしょう。家臣であれば主家に侍女を推薦することも可能と言えば可能よね。ああ、どの家かまでは言わなくていいわ。どのみち罪は変わらないもの。それにしても……雇い主も貴女もこんな杜撰な計画で上手くいくと思っていたの? 奥様が旦那様に話せば貴方達はおしまいじゃない」
まあ、話さなかったから上手くいったようだが。それも二度も。
「私も杜撰な計画だとは思ったのです……。ですがあの頃、旦那様は御当主の座についたばかりでお忙しくされておりまして……。何日も屋敷を不在にされることも多く……奥様も寂しい想いをされておりました。そこにご令嬢方が屋敷を訪れて自分は旦那様の恋人だと告げ……不安だった奥様はそれを信じてしまったのです」
「ああ……確かにあの頃は慣れない当主の仕事に奔走していて、何日も屋敷に帰ってこないなんてザラだった。そうかそれで……前の妻は私が彼女達と不貞を犯していると信じてしまったのか……」
過去を悔やみ項垂れるレイモンド。
幼馴染みの策略とはいえ、自分がもっと妻に寄り添っていればと後悔が押し寄せる。
「まって頂戴。それだけなの? それだけでは奥様の御父君が離婚を申立たりしないでしょう?」
旦那の幼馴染がウザイからという理由だけでは奥方の父親が離婚の申し立てをするとは思えない。むしろ自分の娘に毅然とあしらうよう叱るはずだ。少なくともシスティーナの父はそうだ。さらにそこに失望と侮蔑まで混ぜてくる。
「それは……」
よほど言いにくいことなのか、侍女長は俯いたまま答えようとしない。
その様子に埒が明かないと考えたシスティーナはこう告げた。
「侍女長、答えなさい。今すぐに答えないのなら、拷問して吐かせますよ」
可憐で儚げな容姿からは想像もつかないほどの苛烈な発言。
驚いた侍女長は一瞬システィーナと目が合い、その言葉が本気だと分かるとすぐに口を開いた。
「お嬢様方は……旦那様のお名前で……ドレスや宝飾品を買いました」
「はあっ!? 私の名で? どういうことだ!」
侍女長の話によると、令嬢達は店に行き、レイモンドの名でドレスや宝飾品を買いあさる。そしてそれを、まるで彼が彼女達にプレゼント贈っていると見えるように偽装したらしい。
だがそんなことが可能なのだろうか。
客に『〇〇家に支払いを請求して』と言われ、店側がハイそうですかと素直に聞くだろうか。余程の常連でもない限り無理だし、ましてや今まで明るみに出ていないこともおかしい。
「普通のお店なら無理でしょう。ですが、先代伯爵様からご贔屓にしていた店ならばそれも可能です。何も疑われませんでしたよ。先代様も全く同じことをなさっていたらしいので……」
「父上の贔屓の店だと……? ああ、そうか、そういうことか……」
レイモンドによると、彼の亡くなった父である先代伯爵は大層女好きで愛人が何人もいたそうだ。生前、彼は贔屓の店に愛人を連れ、そこで購入した品の請求書を邸に回すということ日常的に行っていた。
「先代伯爵様がそのようなことを……。貴族としてよくあることですが、あまり褒められたことではありませんわね」
「ああ、全くだ。父のその悪癖のせいで伯爵家は困窮し、母も心労で倒れて儚くなってしまった……。そんな父を軽蔑し、私は絶対に愛人なぞ持たないと決めていた。なのに……」
私は使用人達に父と同類だと思われていたんだな、とレイモンドは寂しそうに呟いた。
「先代様がそうだったから、その子息である旦那様も同様に女好きで愛人を侍らせていると決めつけたのね。奥様までもが」
勝手に決めつけた使用人と奥方が悪いように思えるが、誤解させるような言動をとったレイモンドにも問題がある。
初めから幼馴染み達をきちんと線引きしていればよかったのだ。
邸に入り浸ることを許したりしなければ、彼女達を愛人だと誤解されたりしなかっただろうに。
まあ、話さなかったから上手くいったようだが。それも二度も。
「私も杜撰な計画だとは思ったのです……。ですがあの頃、旦那様は御当主の座についたばかりでお忙しくされておりまして……。何日も屋敷を不在にされることも多く……奥様も寂しい想いをされておりました。そこにご令嬢方が屋敷を訪れて自分は旦那様の恋人だと告げ……不安だった奥様はそれを信じてしまったのです」
「ああ……確かにあの頃は慣れない当主の仕事に奔走していて、何日も屋敷に帰ってこないなんてザラだった。そうかそれで……前の妻は私が彼女達と不貞を犯していると信じてしまったのか……」
過去を悔やみ項垂れるレイモンド。
幼馴染みの策略とはいえ、自分がもっと妻に寄り添っていればと後悔が押し寄せる。
「まって頂戴。それだけなの? それだけでは奥様の御父君が離婚を申立たりしないでしょう?」
旦那の幼馴染がウザイからという理由だけでは奥方の父親が離婚の申し立てをするとは思えない。むしろ自分の娘に毅然とあしらうよう叱るはずだ。少なくともシスティーナの父はそうだ。さらにそこに失望と侮蔑まで混ぜてくる。
「それは……」
よほど言いにくいことなのか、侍女長は俯いたまま答えようとしない。
その様子に埒が明かないと考えたシスティーナはこう告げた。
「侍女長、答えなさい。今すぐに答えないのなら、拷問して吐かせますよ」
可憐で儚げな容姿からは想像もつかないほどの苛烈な発言。
驚いた侍女長は一瞬システィーナと目が合い、その言葉が本気だと分かるとすぐに口を開いた。
「お嬢様方は……旦那様のお名前で……ドレスや宝飾品を買いました」
「はあっ!? 私の名で? どういうことだ!」
侍女長の話によると、令嬢達は店に行き、レイモンドの名でドレスや宝飾品を買いあさる。そしてそれを、まるで彼が彼女達にプレゼント贈っていると見えるように偽装したらしい。
だがそんなことが可能なのだろうか。
客に『〇〇家に支払いを請求して』と言われ、店側がハイそうですかと素直に聞くだろうか。余程の常連でもない限り無理だし、ましてや今まで明るみに出ていないこともおかしい。
「普通のお店なら無理でしょう。ですが、先代伯爵様からご贔屓にしていた店ならばそれも可能です。何も疑われませんでしたよ。先代様も全く同じことをなさっていたらしいので……」
「父上の贔屓の店だと……? ああ、そうか、そういうことか……」
レイモンドによると、彼の亡くなった父である先代伯爵は大層女好きで愛人が何人もいたそうだ。生前、彼は贔屓の店に愛人を連れ、そこで購入した品の請求書を邸に回すということ日常的に行っていた。
「先代伯爵様がそのようなことを……。貴族としてよくあることですが、あまり褒められたことではありませんわね」
「ああ、全くだ。父のその悪癖のせいで伯爵家は困窮し、母も心労で倒れて儚くなってしまった……。そんな父を軽蔑し、私は絶対に愛人なぞ持たないと決めていた。なのに……」
私は使用人達に父と同類だと思われていたんだな、とレイモンドは寂しそうに呟いた。
「先代様がそうだったから、その子息である旦那様も同様に女好きで愛人を侍らせていると決めつけたのね。奥様までもが」
勝手に決めつけた使用人と奥方が悪いように思えるが、誤解させるような言動をとったレイモンドにも問題がある。
初めから幼馴染み達をきちんと線引きしていればよかったのだ。
邸に入り浸ることを許したりしなければ、彼女達を愛人だと誤解されたりしなかっただろうに。
5,287
あなたにおすすめの小説
兄にいらないと言われたので勝手に幸せになります
毒島醜女
恋愛
モラハラ兄に追い出された先で待っていたのは、甘く幸せな生活でした。
侯爵令嬢ライラ・コーデルは、実家が平民出の聖女ミミを養子に迎えてから実の兄デイヴィッドから冷遇されていた。
家でも学園でも、デビュタントでも、兄はいつもミミを最優先する。
友人である王太子たちと一緒にミミを持ち上げてはライラを貶めている始末だ。
「ミミみたいな可愛い妹が欲しかった」
挙句の果てには兄が婚約を破棄した辺境伯家の元へ代わりに嫁がされることになった。
ベミリオン辺境伯の一家はそんなライラを温かく迎えてくれた。
「あなたの笑顔は、どんな宝石や星よりも綺麗に輝いています!」
兄の元婚約者の弟、ヒューゴは不器用ながらも優しい愛情をライラに与え、甘いお菓子で癒してくれた。
ライラは次第に笑顔を取り戻し、ベミリオン家で幸せになっていく。
王都で聖女が起こした騒動も知らずに……
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
戻る場所がなくなったようなので別人として生きます
しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。
子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。
しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。
そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。
見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。
でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。
リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。
私を追い出した結果、飼っていた聖獣は誰にも懐かないようです
天宮有
恋愛
子供の頃、男爵令嬢の私アミリア・ファグトは助けた小犬が聖獣と判明して、飼うことが決まる。
数年後――成長した聖獣は家を守ってくれて、私に一番懐いていた。
そんな私を妬んだ姉ラミダは「聖獣は私が拾って一番懐いている」と吹聴していたようで、姉は侯爵令息ケドスの婚約者になる。
どうやらラミダは聖獣が一番懐いていた私が邪魔なようで、追い出そうと目論んでいたようだ。
家族とゲドスはラミダの嘘を信じて、私を蔑み追い出そうとしていた。
義理姉がかわいそうと言われましても、私には関係の無い事です
渡辺 佐倉
恋愛
マーガレットは政略で伯爵家に嫁いだ。
愛の無い結婚であったがお互いに尊重し合って結婚生活をおくっていければいいと思っていたが、伯爵である夫はことあるごとに、離婚して実家である伯爵家に帰ってきているマーガレットにとっての義姉達を優先ばかりする。
そんな生活に耐えかねたマーガレットは…
結末は見方によって色々系だと思います。
なろうにも同じものを掲載しています。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる