どうして許されると思ったの?

わらびもち

文字の大きさ
28 / 136

弱みでも握られていたのかな

しおりを挟む
「奥様、例の商会から報告書が届きました」

「あら、思ったより早かったわね」

 専属侍女が運んできた紙の束を目にしたシスティーナは感心したような声で呟く。

「それと、贈り物も届いております。今後ともどうぞ御贔屓に、と」

「贈り物? ふうん……中々気が利くようね」

「どういたします? 受け取りますか?」

「そうね。受け取っておくわ」

 事務的に報告書だけを届けるのではなく、こうして贈り物も一緒に届ける辺りは流石商売人だと感心する。その贈り物の意味は『大変申し訳ございませんでした』という謝罪の意味と『これから御贔屓にしてくだされば幸いです』という期待が込められているのだろう。

 こちらが贈り物を受け取らなければ今後の付き合いは断る、という意味合いになる。
 受け取れば今後付き合ってやってもいいという意思表示だ。

(今度、何か購入しようかしらね……)

 御用達にするかどうかは別として、義理で一度くらいはその商会を利用してみるかと考えた。

 渡された報告書をもとに夫の幼馴染達が横領した商品の数々と金額を確認する。
 すると意外にも金額にバラつきがあった。

「アリー嬢とメグ嬢に比べるとパメラ嬢が横領した分は倍以上だわ。……二人はともかくとして、バルタ男爵家は返金できるかしら?」

 システィーナが背後に控えていた専属侍女に報告書の金額部分を見せると、彼女の頬がピクリと動いた。

「これは……かなりの額ですね。他二人の金額もそれなりに高額ですけど、このパメラとかいう幼馴染の金額は伯爵家の年間予算数年分に匹敵します。特に資産家というわけでもない男爵家では難しいかと思われますね……」

 よくもまあこんなに使ったものだと言わんばかりの顔で専属侍女は報告書を眺めた。
 とてもじゃないが一般的な男爵家の令嬢が使う金額ではない。

「ただ単に物が欲しかっただけなのか、それとも奥方に対する嫌がらせか……まあ、両方なのでしょうね」

 これだけの金額、とてもじゃないが伯爵夫人の予算だけでは賄えない。
 前の奥方達がかなりの額を補填していることが伺えた。

「それにしても何故前の奥様達は旦那様に黙って請求された金額を支払っていたのでしょうね? いくら大人しくて従順な妻といえども、流石にこの金額を黙っているのはおかしい気がします。何かでも握られていたのでしょうか……」

「弱み? そうね……確かにそれくらいしないと黙ってこんな大金払わないわよね……」

 なるほど、弱みを握られていたと考えるとしっくりくる。

「仮にそうだとしたら、前の奥方は二人揃って弱みを握られていたということになるわね……」

 誰がどんな弱みを握ったのかは知らないが、“フレン伯爵の妻”という共通点のある二人がこぞって狙われた。ということはつまり、現伯爵夫人である自分の弱みも握ろうとその人物は動くのではないだろうか。

「……奥様、何かを企んでいらっしゃいますか?」

「え? あら、何故そう思うの?」

「いえ……眩いばかりの笑顔をしていらしたものですから……」

 システィーナの顔に浮かぶのは眩い陽光もかくやといわんばかりの輝かしい笑顔。
 侍女は知っていた。こういう顔を浮かべる主人は碌な事を考えていないと。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

兄にいらないと言われたので勝手に幸せになります

毒島醜女
恋愛
モラハラ兄に追い出された先で待っていたのは、甘く幸せな生活でした。 侯爵令嬢ライラ・コーデルは、実家が平民出の聖女ミミを養子に迎えてから実の兄デイヴィッドから冷遇されていた。 家でも学園でも、デビュタントでも、兄はいつもミミを最優先する。 友人である王太子たちと一緒にミミを持ち上げてはライラを貶めている始末だ。 「ミミみたいな可愛い妹が欲しかった」 挙句の果てには兄が婚約を破棄した辺境伯家の元へ代わりに嫁がされることになった。 ベミリオン辺境伯の一家はそんなライラを温かく迎えてくれた。 「あなたの笑顔は、どんな宝石や星よりも綺麗に輝いています!」 兄の元婚約者の弟、ヒューゴは不器用ながらも優しい愛情をライラに与え、甘いお菓子で癒してくれた。 ライラは次第に笑顔を取り戻し、ベミリオン家で幸せになっていく。 王都で聖女が起こした騒動も知らずに……

継子いじめで糾弾されたけれど、義娘本人は離婚したら私についてくると言っています〜出戻り夫人の商売繁盛記〜

野生のイエネコ
恋愛
後妻として男爵家に嫁いだヴィオラは、継子いじめで糾弾され離婚を申し立てられた。 しかし当の義娘であるシャーロットは、親としてどうしようもない父よりも必要な教育を与えたヴィオラの味方。 義娘を連れて実家の商会に出戻ったヴィオラは、貴族での生活を通じて身につけた知恵で新しい服の開発をし、美形の義娘と息子は服飾モデルとして王都に流行の大旋風を引き起こす。 度々襲来してくる元夫の、借金の申込みやヨリを戻そうなどの言葉を躱しながら、事業に成功していくヴィオラ。 そんな中、伯爵家嫡男が、継子いじめの疑惑でヴィオラに近づいてきて? ※小説家になろうで「離婚したので幸せになります!〜出戻り夫人の商売繁盛記〜」として掲載しています。

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます

しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。 子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。 しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。 そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。 見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。 でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。 リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。

私を追い出した結果、飼っていた聖獣は誰にも懐かないようです

天宮有
恋愛
 子供の頃、男爵令嬢の私アミリア・ファグトは助けた小犬が聖獣と判明して、飼うことが決まる。  数年後――成長した聖獣は家を守ってくれて、私に一番懐いていた。  そんな私を妬んだ姉ラミダは「聖獣は私が拾って一番懐いている」と吹聴していたようで、姉は侯爵令息ケドスの婚約者になる。  どうやらラミダは聖獣が一番懐いていた私が邪魔なようで、追い出そうと目論んでいたようだ。  家族とゲドスはラミダの嘘を信じて、私を蔑み追い出そうとしていた。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

処理中です...